はじまり
「ぐす………っすみ、ません………ハンカチ」
カルミアたちを助けた少年は、無言のまま首を横に振った。気にするな、と言いたいのだろう。膝のフシギダネもカルミアを気遣わしげに見上げている。
フシギダネ――クコは、先程この少年が傷薬を使ってくれたから今は元気だが、それでもバトルのダメージが全部消える訳ではない。
しかしパートナーのことを案じ、ボールに戻るようお願いしても蔦でやんわりとそれを押し返される。
(心配、してくれてるんだ)
先程までのカルミアの取り乱し方を見ていたのだから当然といえば当然だが……それでも、カルミアはそのことに嬉しさよりも苦しさを感じる。
(私が悪いんだ。私が、弱いから)
まだまだ旅に出たばかりのカルミアは、道行くトレーナーとの勝負だっていつも接戦だ。それでも、勝てば笑い、負ければ共に反省会をして。少しずつでも強くなってきた、と信じていた。その矢先だった。
「……っ」
またひとつ涙がこぼれてハンカチを濡らす。
悔しかった。悲しかった。腹立たしかった。
負けた自分が、相手の人柄を見抜けなかった自分が、パートナーを奪われそうなのに何もできなかった自分が。
「…………」
自己嫌悪の渦に飲まれ、ただただ泣くしかできないカルミア。それを根気強く支え続ける少年は、ふと人の気配に顔を上げた。
「レッド!やっと見つけた……!!」
茂みをかき分けやってくる二人の人物。
一瞬カルミアの肩が跳ねるも、少年は大丈夫だとその肩を軽く叩く。
「って……その子、誰?」
「お、おま……まさかとは思うが」
カルミアを見やり、驚きに目を見開く少女と、怪訝そうな表情を浮かべる少年。
「…………」
少年――レッドは、小さな声で端的に状況説明をしていく。リーフ、グリーンと呼ばれた二人は慣れた様子で話を聞き、それぞれ肩をなでおろす。
「焦った……一瞬レッドが泣かせたかと思っちまったぜ」
「レッドがそんなことする訳ないでしょ!それより……カルミアちゃん、怪我はない?災難だったわね。よりによってチームを組む前にアイツらに出くわすなんて」
リーフに話を振られ、3人の視線がカルミアへと集まった。
「…………?」
レッドは首を傾げる。
今まで泣いていたカルミアが、どこかぽかんとした表情でこちらを見つめていたからだ。
涙が止まったことはよかったけれど、どうしたのだろうか。
「レッド……まさか、あの」
小声で絞り出された言葉が3人の耳に届く前に、カルミアはきゅっと表情を引き締め、立ち上がる。
「……はい。大丈夫、です。ありがとうございます」
己の拳で涙を拭き取り、礼をする。存外しっかりとしたその動きに、レッドは少しほっとした。
「あの……っ」
「…………!」
大きく口を開け、閉じる。何かに躊躇しながらも、カルミアの目には先程までなかった力強い意思を感じた。
先程とは打って変わり決意に満ちた表情を浮かべる少女から、なぜか目が離せない。
「レッドさん。お願いです……私を、鍛えてください!!」
予想外の申し出に、レッドだけでなくリーフやグリーンの目も丸くなる。
「いきなりこんな事を言って、迷惑だと思います。でも……でも……っお願いします!私、強くなりたい……ううん、ならなきゃいけないんです!もう二度と、パートナーを奪われないように!!だから……お願いします!!私を鍛えてください!!」
両拳を握りしめ、カルミアは先程よりも深く頭を下げた。その場に沈黙が降りる。互いに目を見合わせ、レッドを見やるリーフとグリーン。
当のレッドは。
「…………」
いつもの表情、いつもの沈黙。
それでも、唯一違ったのは。
バトルの時に見せるような、熱い眼差し。
それを認めた瞬間、リーフはくすりと笑い、グリーンは肩を竦めた。
「……!!」
肩をぽんと叩かれ、カルミアは恐る恐る顔を上げる。そんな彼女を出迎えたのは、力強い笑みだった。
「…………わかった」
一言肯定の言葉を紡ぐと、レッドは踵を返す。
落ちたままだったカルミアのバックを拾い、土埃を落とすと差し出してくれる。
「…………いこう」
ただ、ポケモンセンターへ、という意味かもしれない。けれど、カルミアにとってまるでそれはまだ見ぬ高みへと誘う言葉に聞こえて。
「っはい!ありがとう、ございます!!」
力強く応えると、差し出されたバックを手に取ったのだった。
***
あの時。
目の前で、決意を固めるあの少女の表情を見た時から。どうにも、あの子から目が離せなくなってしまった。
それはまだ見ぬ強者への期待か、それとも――。
カルミアたちを助けた少年は、無言のまま首を横に振った。気にするな、と言いたいのだろう。膝のフシギダネもカルミアを気遣わしげに見上げている。
フシギダネ――クコは、先程この少年が傷薬を使ってくれたから今は元気だが、それでもバトルのダメージが全部消える訳ではない。
しかしパートナーのことを案じ、ボールに戻るようお願いしても蔦でやんわりとそれを押し返される。
(心配、してくれてるんだ)
先程までのカルミアの取り乱し方を見ていたのだから当然といえば当然だが……それでも、カルミアはそのことに嬉しさよりも苦しさを感じる。
(私が悪いんだ。私が、弱いから)
まだまだ旅に出たばかりのカルミアは、道行くトレーナーとの勝負だっていつも接戦だ。それでも、勝てば笑い、負ければ共に反省会をして。少しずつでも強くなってきた、と信じていた。その矢先だった。
「……っ」
またひとつ涙がこぼれてハンカチを濡らす。
悔しかった。悲しかった。腹立たしかった。
負けた自分が、相手の人柄を見抜けなかった自分が、パートナーを奪われそうなのに何もできなかった自分が。
「…………」
自己嫌悪の渦に飲まれ、ただただ泣くしかできないカルミア。それを根気強く支え続ける少年は、ふと人の気配に顔を上げた。
「レッド!やっと見つけた……!!」
茂みをかき分けやってくる二人の人物。
一瞬カルミアの肩が跳ねるも、少年は大丈夫だとその肩を軽く叩く。
「って……その子、誰?」
「お、おま……まさかとは思うが」
カルミアを見やり、驚きに目を見開く少女と、怪訝そうな表情を浮かべる少年。
「…………」
少年――レッドは、小さな声で端的に状況説明をしていく。リーフ、グリーンと呼ばれた二人は慣れた様子で話を聞き、それぞれ肩をなでおろす。
「焦った……一瞬レッドが泣かせたかと思っちまったぜ」
「レッドがそんなことする訳ないでしょ!それより……カルミアちゃん、怪我はない?災難だったわね。よりによってチームを組む前にアイツらに出くわすなんて」
リーフに話を振られ、3人の視線がカルミアへと集まった。
「…………?」
レッドは首を傾げる。
今まで泣いていたカルミアが、どこかぽかんとした表情でこちらを見つめていたからだ。
涙が止まったことはよかったけれど、どうしたのだろうか。
「レッド……まさか、あの」
小声で絞り出された言葉が3人の耳に届く前に、カルミアはきゅっと表情を引き締め、立ち上がる。
「……はい。大丈夫、です。ありがとうございます」
己の拳で涙を拭き取り、礼をする。存外しっかりとしたその動きに、レッドは少しほっとした。
「あの……っ」
「…………!」
大きく口を開け、閉じる。何かに躊躇しながらも、カルミアの目には先程までなかった力強い意思を感じた。
先程とは打って変わり決意に満ちた表情を浮かべる少女から、なぜか目が離せない。
「レッドさん。お願いです……私を、鍛えてください!!」
予想外の申し出に、レッドだけでなくリーフやグリーンの目も丸くなる。
「いきなりこんな事を言って、迷惑だと思います。でも……でも……っお願いします!私、強くなりたい……ううん、ならなきゃいけないんです!もう二度と、パートナーを奪われないように!!だから……お願いします!!私を鍛えてください!!」
両拳を握りしめ、カルミアは先程よりも深く頭を下げた。その場に沈黙が降りる。互いに目を見合わせ、レッドを見やるリーフとグリーン。
当のレッドは。
「…………」
いつもの表情、いつもの沈黙。
それでも、唯一違ったのは。
バトルの時に見せるような、熱い眼差し。
それを認めた瞬間、リーフはくすりと笑い、グリーンは肩を竦めた。
「……!!」
肩をぽんと叩かれ、カルミアは恐る恐る顔を上げる。そんな彼女を出迎えたのは、力強い笑みだった。
「…………わかった」
一言肯定の言葉を紡ぐと、レッドは踵を返す。
落ちたままだったカルミアのバックを拾い、土埃を落とすと差し出してくれる。
「…………いこう」
ただ、ポケモンセンターへ、という意味かもしれない。けれど、カルミアにとってまるでそれはまだ見ぬ高みへと誘う言葉に聞こえて。
「っはい!ありがとう、ございます!!」
力強く応えると、差し出されたバックを手に取ったのだった。
***
あの時。
目の前で、決意を固めるあの少女の表情を見た時から。どうにも、あの子から目が離せなくなってしまった。
それはまだ見ぬ強者への期待か、それとも――。
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