New year,Different things
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──プルルル、プルルルル
静寂に包まれたマンションの一室に、突如携帯電話の着信音が鳴り響く。
ここ数日の仕事の疲労からか、昴流はソファにぐったりと項垂れていた。
しかしながら突然沈黙を破られた事については、特に苛立ちや憤りを感じる事はなく、傍らに置いていた携帯電話に手をかけた。
怒るどころかその表情は、どこか緩やかに笑っているようにも見える。
ピッ、という通話ボタンの電子音の後、昴流は応対した。
「…もしもし」
『あ、もしもし? 昴流君? 明けましておめでとう! 今年もよろしくね!』
「…明けましておめでとう。…こちらこそ、よろしく」
『あ、ちょっと京珂! そのタイミング…動かないでよ! せっかくの…が崩れちゃうじゃない!』
『え? あ、ご、ごめん…』
「……?」
電話の向こうからは、良く知った京珂の声と、もう一つあまり聞き慣れない女性の声が切れ切れに聴こえてきた。
考えられる人物は、恐らく京珂と仲の良い大学の友人・和沙だろう。
『…あ! ご、ごめんね昴流君! 今のこっちの話だから、気にしないで!』
「…大丈夫だよ。一緒にいるの、安純さん?」
『うん、そう』
「……そうなんだ」
この時間に一緒にいるという事は前日の大晦日も、そして──年が明けたその瞬間も二人は共にいたという事だろう。
そんな特別な時間を京珂と共有した和沙に対し、昴流は妬みのような敗北感のような、複雑な感情を抱いた。
だが、それもほんの一瞬の事。
今の昴流には大した問題ではなかった。
何故なら自分と京珂は、今これからまさに会おうとしていたのだから。
しかも初詣という、新年初の逢瀬にはおあつらえ向きの名目で。
そんな心の余裕もあってか、至って淡々とした声色で昴流は受話器の向こうの京珂へ尋ねた。
「ところで、電話が来たって事は…良いのかな? 迎えに行っても」
『あ…は、はい! 準備出来ましたので、よろしくお願いいたしますっ!』
『ちょ、電話越しにお辞儀してどーすんのよ』
和沙のクスクスと笑う声を背に、京珂のいつになく畏まった返答が昴流の耳に届いた。
何故かその声にはやや緊張感が漂っており、受話器越しに昴流は首を傾げた。
「…じゃあ、これから迎えに行くよ。待っていて」
『う、うん。気をつけてね』
電話を切るや否や昴流はソファから立ち上がり、京珂を迎えに行くために支度を始めた。
支度と言っても、あれやこれとあまり物を持ちたがらない昴流は出掛ける時の荷物も最小限だ。鞄すら持たない。
携帯電話に財布、自室の鍵、そしてもしもの事があった時のための護符や霊符──いわゆる商売道具を数枚。その程度だ。
もちろん『もしもの事』などないに越した事はないのだが。彼女と会う時は特に。
(…行くか)
昴流はそれらを手早くコートのポケットに入れると自宅を後にし、京珂が待つアパートへと向かった。
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