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何の躊躇いも、迷いもないはずだった。
僕があの日受け継いだのは、「桜塚護」としての「術」。
…それから、あの人の「眼」。
……でも、たった一つ。
たった一つだけ、あの人から受け継がれないものがあった。
かつてあの人は、
「ヒト」と「モノ」の区別がつかないと言っていた。
人間を殺す事も、手にしているグラスを割る事も、あの人にとっては些細で、何の意味もない事だったのだと。
……僕が、あの人だったら。
あの人と同じだったなら、何も躊躇わなかった。迷う事はなかった。
今、僕の腕の中で、真っ白なワンピースを紅く染め上げて、横わたる君。
君を貫いたのは───この僕だ。
僕の指が君の身体を貫いたその瞬間も、そして今も。
君はいつもと変わらない、優しい笑顔で、ただ、僕を見上げている。
まるでこうなる事を、…僕が君を殺す事を、予知していたかのように。
君は全てを受け入れて、ただ優しく微笑んでいる。
…お願いだよ……。
お願いだから。
君がここにいたという「証」を、僕の心に刻み付けないでくれ。
だから……そんな風に、笑わないでくれ………。
僕は君を手に掛けた「桜塚護」…暗殺者。
それだけが、紛れもない確かな真実。
それ以上のものは…何もなくて良い。
あの人がそうであったように。
僕もまた、これからあの人と同じ道を歩んで行くのだから。
冷たくなり、動かなくなった君の身体を抱きしめ、僕は最後に呟いた。
……もう二度と口にする事もないだろう、たった一人、僕に深く優しい傷跡を残した、愛しい君の名前を。
「………さよなら、京珂」
僕がそう言った瞬間、君の頬に、ポタリと雫が零れ落ちた。
……まるで、
君が泣いているように見えた。
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