1千万分の1の奇跡
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「ああもう、またバラバラになってるし…」
ショーウィンドウのガラスを鏡代わりにして、京珂は何度も何度も前髪を直している。
自分の中では適度な前髪の配列だとかまとまり具合だとかが決まっていて、それが少しでも乱れてしまうと気になって仕方ないのだ。
普段ならば少しくらいおかしくてもまあ良いか、と流してしまうところなのだが、今だけはそういう訳にいかなかった。
何故なら今日は京珂にとって、特別な意味のある一日だったから。
* * *
「せっかくのクリスマスだし、二人でどこか出かけようか」
「……えっ?」
それは今から一週間前。
あまりにも唐突で、あまりにも予想外な昴流の一言が全てのきっかけだった。
その瞬間京珂の胸の中に芽生えたのは、戸惑いと驚き。
気づくと京珂は無意識にこんな疑問を昴流に投げかけていた。
「え…? ク、クリスマス…に? い、い…良いの? 一緒に出かけて…良いの??」
「もちろん。…それとも、その日は何か予定入ってた?」
「な…っ! 何もないよ! あ、あるわけないじゃないですか! むしろ毎年クリスマスは暇人過ぎて、暇持て余し過ぎて逆に忙しいです状態だから!」
「……。とりあえず、予定はないって事で良いのかな?」
「も、もちろんですともっ!」
「…そう。なら良かった」
(……ほ、ほんと、に…? …本当、なんだよね…)
そう言って優しげに微笑む昴流を見て、京珂は確信していた。
やはり自分の聞き間違いではなかったのだと。
昴流が自分を誘ってくれたのは、紛れもない現実なのだと。
それを知った途端、先程までの戸惑いや驚きの感情は影を潜め、代わりに喜びと興奮がじわじわと心の中で増幅していく。
──ただ、今は興奮の方が京珂の中で強過ぎるのか、若干言動が怪しくなってしまっているが。
京珂が昴流と知り合って以来、彼の方からこうして誘ってくれたのは初めての事だった。
だから京珂がこれほどに気を動転させ、取り乱してしまうのも無理からぬ事実であった。
──大好きな人が、自分を外出に誘ってくれた。
しかもクリスマスという記念すべき、意味深な節目の日に。
(やっぱり、これって……デート…なのかな?)
そんな嬉しい邪推を胸に秘めながら、あっという間に一週間が過ぎていた。
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