前編
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真っ暗だ。
真っ暗で何もない、闇の中だ。
いや。何かある。
──私の、体だ。
床を踏みしめる、足の感覚。
見えないけど、私の体は確かにあるらしい。
右腕──あ、動いた。
上半身も、下半身も、手足も頭も、全部一つにつながっているのが分かった。
私はさっき、画面から出てきた腕に体の中を探られて。
それから、意識を失って………
(……死んだ?)
本当に死んだのだろうか。
死んだならなぜ感覚が残っている?
なぜ私は意識を保ったままでいる?
(まさか………
死ねなかった?)
「その通り。君は死んでないよ。」
「えっ……誰?」
私しかいないはずの空間に、もう一つの声が響いた。姿は見えないが、私の前の方にその声の主はいるらしい。声の低さからすると──多分、男だ。
……あ、声も出た。
謎の声に返事をして初めて、声が出せる事に気づいた。それから真っ暗な空間にいるんじゃなくて、私が目をつぶっているという事にも。
この体も感覚も、まだ消えずに確かに残っている。私の頭に、ドロドロした嫌な予感がまとわりつくのを感じた。
やっぱり、こうなるのか。
あの時きっと私は、死ねなかったんだ。
本当に死ぬのは今。でもきっと、とびきり痛くて苦しい死に方をする。
事件の犯人は狂った殺人鬼で、ゲームを渡すことを名目に住所を聞き出した。そして誘拐して殺した。きっとそうだ。みんなそうやって死んだんだ。
苦しまずに死にたい。
最後の望みすら叶わないのだから、もはや嫌気さえさしてくる。結局私は永遠に、恵まれないし救われない。それが現実だ。
でもこれこそが、負け組の私にふさわしいエンディングなのかもしれない。そう思ったら、むしろ清々するような気もした。
自分を殺す人の顔くらい見ておこう。
そう思い、私は閉じていたまぶたをゆっくりと開いた。
その瞳が、映したのは。
「………え?
人間…………じゃない……?」
目の前にいた、先ほどの声の主。
そこにいたのは、「ヒトですらない何か」だった。
ゲームの中の「ソニック」によく似た、頭の後ろに生えた暗い藍色のトゲと小さな耳。がっしりした体格と大きな背丈。2m前後はあるように見えた。
その謎の存在はおとぎ話に出てくるような玉座に足を組んで座り、薄く笑みを浮かべ、ギラギラした鋭い眼光を宿した赤い瞳は私の姿をしっかりと捉えていた。
……正直に言うと、かなりおどろおどろしい容姿をしている。私が怪訝な表情を浮かべたのに気づいたのか、その存在はクスクスと歯を見せてどこかサディスティックに笑う。
そして玉座から立ち上がると、私の前まで歩み寄ってきた。近づいてきたその大きな体躯に迫力と重い圧のようなものを覚え、私は思わず一歩後ずさりする。
「ふふ、びっくりした?
そりゃびっくりするよね。
それはそうと…まずは自己紹介からだ。
僕はX。君をこの世界へ連れて来た張本人だよ。
よろしくね、清瀬ユウリ。」
「……なんで私の名前を?」
「当然でしょ?僕はこの世界の神なんだから、支配下に置いた人間の名前を知ることくらい造作もないよ。」
…この世界?神?支配?
その奇天烈で奇々怪々な言動に、私はあっという間に置いてきぼりにされる。
「X」が人間ではない何かだという事は確かに分かった。つまり殺人鬼などではなく、ヒトという存在を超越した何か。ならば彼の言う通り、死後の世界の神か死神か、はたまた悪魔か何かだとでも言うのか。
まあ、どっちでもいいか。死ぬ事さえできれば。ものを見るのも聞くのも面倒になってきた。
「神だか悪魔だか知らないけど、あなたがみんな殺したんでしょう?
……くだらない茶番劇なんかしてないで、殺したきゃさっさと殺せばいいでしょ。」
自暴自棄になり、そう冷たく吐き捨てる。
するとXは、一瞬目を丸くした。
「殺す?
とんでもない。せっかく手に入れたおもちゃを、わざわざ無駄にするわけがないでしょ?
ユウリ。君は今日から、この世界で僕らと暮らすんだ。
──いつまでもいつまでも、永遠にね。」
「………え?」
その口元が、にやりと吊り上がる。
彼の言葉を疑った。
でもなんとなく分かった気がする。
その言葉に、嘘偽りはないのだと。
「永遠……に…………?」