前編
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いつもと同じように、お母さんのいないたった一人の家に帰ってくる。
でも、今日は少し変化がある。
ポストの中に手を突っ込むと、その指先に何かが当たる感覚。
指先に当たったそれをつかみ、ポストから手を引っこ抜いてまじまじと見つめる。
「本当に届いた………」
ポストの中に入っていたのは、透明なケースに入った白いディスク。
ディスクには「Sonic.exe」と書かれている。
2日前のこと。私はインターネットの掲示板に、ソニックエグゼのディスクを譲ってほしいという旨の書き込みをした。
それから程なくして、ディスクを持っているというアカウントからダイレクトメッセージが届いた。私と同じく日本国内に住んでいるらしく、住所が分かればすぐに届けられるとその人は言った。
少々半信半疑な気持ちもあったが、ディスクが本当にあると分かれば、手段を選んでいる暇なんてなかった。
そして今日。
約束通り、ディスクは私の家に届いた。
今考えてみれば、ゲームが原因で死ぬなんて非科学的な話だ。それでも実際に事件は起きているし、死人も出ている。
藁にもすがる思い、とはこういう事を言うのだろう。私は一縷の望みをかけて、ソニックエグゼをプレイする事を選んだのだ。
「……一か八かだ」
私はイスに腰掛け、机の上に置かれたパソコンを起動する。
…そういえば、ディスクを譲ってくれたあの人って一体……
ふとそれが気にかかり、私は携帯で掲示板を開いた。例のダイレクトメッセージから、相手のアイコンにカーソルを合わせ、決定ボタンを押す。
[ このアカウントは削除されました ]
「……え?」
プロフィールの代わりに表示されたのはそのダイアログボックス。
物騒な代物を取り扱っているのだから、怪しいとは思っていた。
…もし本当に私が死んだ時のために、責任逃れするためだろうか。
少し疑問が残ったが、今はそんな事はとうでもよかった。それよりゲームだ。
私はディスクをセットし、「コンピュータ」のアイコンをクリックする。
開いたタブには、「Sonic.exe」の名のファイルが追加されていた。
──今度こそ、私は死ぬ。
背筋をぴんと伸ばしてイスに座り直し、アイコンをクリックした。
ディスプレイが数秒暗転した後、タイトル画面が大きく映された。
血のように赤い海と空。不気味な背景と、その前に映る「Sonic.exe」のロゴ、そしてそこでポーズをとる青いハリネズミのキャラクター。
…デザインこそポップだが、そのキャラクターは白目の部分が真っ黒になっており、瞳は真っ赤、そして血のような涙…いや、血そのものを流している。
「…分かりやすすぎるわ。いかにも呪いのゲームって感じね。」
コントローラーのボタンを押し、ゲームをスタートする。
ディスプレイは、ステージの画面に切り替わった。
案の定、ステージも先程のタイトル画面のような不気味な風景が広がっていた。
十字キーの右を押すと、「ソニック」も右に歩き出す。道中敵を倒しながら、コイン……いや、リングを拾いながら、ステージを進んでゆく。
桁外れの速さで走るソニックに最初は慣れなかったが、クリアできないほどの難易度ではなかった。
そして次のステージ。ここも最初のステージと同じく、難なくクリアした。
ここまでで、死に直結するような異変は何も起きていない。偽物でも掴まされてしまったのだろうかと、疑念が頭の中をよぎり始める。
そもそも、人が死ぬかもしれない本物の呪いのゲームなんて簡単に手に入るわけがない。
「…結局今日もダメだった」
私は完全に諦めた。やるだけ時間の無駄だ、と…そう思い、私は画面の右上にある赤い✕ボタンにカーソルを合わせようとした。
─────ブツンッ────
──その途端。突然パソコンの電源が落ち、ディスプレイは真っ暗になった。ゲームを閉じようとしただけで、私は何もしていない。処理落ちでもしたのかと思い、私はもう一度パソコンの電源ボタンを押してみる。
…がしかし、パソコンはうんともすんとも言わない。何度ボタンを押しても、パソコンはただ真っ黒な画面と私の顔だけを映し続けている。
──その画面を見つめていた時だった。
私の顔に重なり、画面に何かが映し出される。
その瞬間、画面の奥からただならぬ「何か」が迫り来るような、そんな気がした。
私の目は画面に釘付けにされる。
真っ黒な画面に映ったのは、赤い文字。
表示されたその文を、目でたどって読む。
[ I am god ]
────" 私は神だ。 "
頭の中で、その意味を理解し飲み込んだ、刹那。
「がっ………あ"…………!!!」
画面の中から、真っ黒な腕が飛び出してくる。
腕は私の口の中へ強引に入り込み、喉の奥で何かを探すように手をまさぐっているのが分かった。
ああ。
みんなこうやって死んだんだ。
そして私も、今ここで死ぬんだ。
苦しくないし、少しも痛くない。
やっと、やっと、やっと。
「私」という存在は、消えてなくなる。
この世界から、消し去られる。
私の体の中で腕が何かをつかみ、そのまま口から出ていく。
焦点の合わない両眼で、腕が抜かれたのを見た。
体は硬直して大きく反り、手や足を支える力は抜け、私は床へと倒れ込む。
────これで、全てが終わる。
私は意識を手放した。