後編
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私は立ちすくんでいる。
どこかの部屋の隅に、私はただ立ちすくんでいた。
真っ白な壁。真っ白な天井。
……ここは病室だろう、と思った。
私の目の前には、ベッドが一つ。その上は女性が一人、横たわっていた。
……あまりにも見慣れた、でもどこか懐かしい姿だった。
「……お母さん?」
バタバタとせわしない足音が迫ってくるのが聞こえた。その足音は今私がいる病室の前で止まり、ドアが勢いよく開く。そして、また見慣れた姿の男性が駆け込んできた。
「……お父……さん…」
お父さんは一目散にお母さんのもとへ駆け寄る。
『ミッちゃん!!』
『シュウくん……!ほら見て、私たちの子だよ。
…私たち、ママとパパになったんだよ。』
お母さんは、自分の隣に横たわる赤ん坊を愛おしげに見つめる。お父さんが手を差し出すと、赤ん坊はお父さんの指をぎゅっと強く握った。
ああ。
──あの赤ん坊は、私だ。
『…本当に、かわいいね。きっと将来は美人に違いないよ。そしたらいずれ素敵な結婚相手を連れてきて、俺達の元を離れて……』
『もうシュウくんったら、気が早いんだから。そういう日が来るまで、私たちがこの子にいっぱい愛を注いであげなきゃね。
そうそう、この子の名前なんだけど……"ユウリ"なんてどうかな?』
その光景は、あまりにも温かくて、明るくて。そして優しかった。
こんな時間が、あったんだ。確かに存在していたんだ。
思えば私は、散々な時間しか知らなかった。
4歳の頃。
物心ついた時から、お母さんとお父さんは喧嘩ばかりしていた。飛び交う罵声に、ただ怯えることしかできなかった。
私は不幸な子だった。
7歳の頃。
お父さんが知らない女の人と腕を組んで歩いているのを見た。いわゆる不倫だ。
それから数日後。お父さんは私とお母さんを残して家を出ていった。
私は不幸な子だった。
11歳の頃。
お母さんに殴られ蹴られの毎日だった。
そしてお母さんは私に言った。あんたなんか生まなきゃよかったって。
私はいらない子だった。
……思い出したくなかった。
何も知らないままがよかった。
こんな気持ち、知らないままでいられたら、無駄な期待も希望も抱かずにいられたのに。
──私が、本当に欲しかったものは。
「愛されたかった」