後編
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「もう、ダメだって言ったのに。器を作り直すのもそんなに楽じゃないんだよ?」
また見覚えのあるやりとりが繰り返される。きっと彼が私に飽きるまで、何回も何十回も……あるいは何百回も、何千回も。この光景を繰り返すことになるんだろう。
そっと腕を触り、そしてスカートの下から伸びた足を見てみる。その四肢は相も変わらず、生々しい痕跡など一つも残さずに元の通りの真っ直ぐな形に戻っていた。
「喜びなよユウリ。君は僕のお気に入り。器だって与えられてる。それなのに君は嬉しくないの?」
「…本っ当にあなた、変な人ね」
「ふふっ、そりゃどうも」
「褒めてない」
変と言われてXは余裕の笑みを浮かべる。大きな背丈に筋肉のついた体格、その見てくれは人間でいえば大人の男にあたるだろう。しかしその印象とは裏腹に、笑った時は一気に幼い雰囲気になるような……まるで子供のような、そんな感じがした。
そして。私には気になることがもう一つ。
「……殴らないの?」
「え?」
「私はあなたの言うことを聞かなかった。なのになんで殴らないの?」
Xの丸い目がさらに丸くなる。そしてすぐにいつもの微笑みに戻りこう答えた。
「確かにユウリは僕の言うことを聞かなかったけど……どうしてそれが君を殴る理由になるの?それに"ヘイター"でもない人間に乱暴するなんて、そんなひどい事しても意味ないよ。」
ひどい事はしない。即座に浮かんだどの口が言うんだという言葉は漏らさず、Xの意外な言葉に今度は私が少し目を丸くする。
「僕ね。人間が死ぬのも、人間に乱暴するのも嫌いなんだ。
だって僕は、人間が好きだから。
……人間を、愛してるから。」
「……は?」
愛してる。あいしてる。
Xが何を言っているのか分からなかった。
唐突に耳に飛び込んできたその言葉は、消化される事なく何度も何度も脳内をぐるぐると駆け巡る。
人間をただのおもちゃとしか思っていない彼が、その人間を愛している。どういう風の吹き回しだ。
仮にその言葉が真実だとしたら、人間である私もXに愛されているという事になる。
…否。あり得ない。あり得るはずがないし、そんな事があっていいはずもない。
愛してる、なんて言われた事は一度たりともない。私はそういう環境に生まれ落ちて、そういう運命のもとに人生のダイスを振られたのだ。殴られるのも蹴られるのも愛されないのも、「負け組」の世界に生を受けた時から全て決まりきっていた事。
期待も希望も何もかも捨ててきた。
こんな空っぽでもう何も残っていない私を、一体どこの誰が愛するというのだ。
ましてや人間をモノ同然に見なし、魂を強奪し、殺人まがいの凶行を繰り返して、さらった人間は勝手に自分の奴隷にする。それがXだ。そんな彼が人間を愛しているなど、嘘に決まっている。
私を自分の手の中で思い通りに躍らせるための、嘘に決まっている。
でも、分からなかった。
死んだように動くことをやめた心に、小さな違和感が生まれたのだ。その違和感の正体が何なのか、私には分からなかった。
…そして同時に、分からない方がいいとも思った。
分かる必要も、ないと思った。