ホットケーキまん
『ホットケーキまん』
コンビニに入ると、入店を報せる特徴的な音が鳴る中、キラは隣にいたアスランの服の袖の端を掴むと、くいくいっ…と小さく引っ張る。
「ん…?どうした、キラ?」
軽く首を傾げながら優しい声音でそう告げて…
「アスランっ、アレ!!」
アスランが傍らに視線を落とすと、そこにはきらきら~と目を輝かせているキラの姿があり、キラはアスランの視線を誘導するように、店内前方のレジ付近を指さした。
“一体何だ…?”
キラの視線を辿り、同じ方向へと視線を向けたアスランは、すぐにキラの言いたい事を察すると苦笑い一つ零す。
「アレって…、再販って書いてるホットケーキまん?のことか?」
「そう!!わっ…凄いね!!僕まだ何も言ってないのに…」
「今朝、コンビニアプリ俺に見せながら、美味しそう!!絶対食べたいって言ってただろ?」
「あ…そう言えば、そんな事を言ったような…」
「朝5時に寝てる俺を叩き起こして、『やったー♪再販してくれるって!!僕これ大好きなんだよ~』とか言ってただろ?」
「あはは…ごめんって、だって嬉しくって、ついっ。だから、そんなに根に持たないでよっ」
「別に根に持ってないし、怒ってもない。」
ほんの一瞬、憮然とした表情を浮かべたものの、すぐに優しい笑みを浮かべるとキラの言いたいことを先読みして行動に移す。
アスランはレジの方へと足先を向けると、店員に「ホットケーキまんを一つくれないか」と注文して、それを受け取るとキラの方へと差し出していた。
「わーい♪ありがとっ、アスラン!!………けど、あれ?……アスランは食べないの?」
「最後の一つだったようだし…、キラが食べればいい」
そう言いながら、自分用にブラックのホットコーヒーを注文して、注がれたばかりのカップを受け取るとキラと共にコンビニの外に出ていた。
店外に出ると、びゅーっ…と冷たい風が吹いて二人の頬を撫でていく。
コンビニから徒歩で数分の所に二人が住むマンションがあった。
そこに向かって二人は並んで歩いていく。キラの歩調に合わせるように自然とゆっくりとした歩みになるのはアスラン自身も無意識に。
「急に寒くなったよね…」
「そうだな。……キラ、風邪ひくなよ」
そう言うや否や、自身の首にかかっていたマフラーを取ると、そっとキラの首に巻き付けて。
「わっ、いいよっ。アスランの方こそ風邪ひいちゃうよっ」
キラは慌ててマフラーを解くとアスランの方へと返そうとする。
けれど、アスランはその手を制すると、押し返す。
「俺は大丈夫だ。体を鍛えているからな。」
「そうは言っても…」
と、反論を口に仕掛けた時、タイミング悪く「くしゅんっ」と小さなくしゃみを一つ零したキラに、アスランはマフラーの端に手を伸ばしてぐるぐるっとキラの首に巻き付けて、そっと肩を抱き寄せる。
途端に触れた部分からアスランの熱が伝わってきてぽかぽか…と心まで温かくなっていくのを感じ取っていた。
「ほら、俺の言葉を素直に聞かないからだぞ。大人しく巻いておけ」
「うぅっ…、わかったよ…」
「あと、それ、冷めたら美味しくないだろ?温かいうちに食べた方がよくないか?」
「うん…」
アスランに促されるように手の中に納まっているホットケーキまんに視線を落としながら、キラは小さく頷いていたが、何かを思案している様子でじっ…と見つめた後、パッと何かを思いついた様子で表情を明るくさせると、手にしていたそれをアスランの方へと差し出していた。
「はいっ、アスラン、これ。」
「いいって言っただろ?キラが全部食べたらいいって。」
「うん。だけど、これ、本当に美味しいんだよっ。だからアスランにも味わってほしいなーって。ほら、食べたことないでしょ?もしかしたら君、好きになるかもしれないでしょ?」
「だが…」
「あーもうっ、百聞は一見に如かずっていうでしょ?試しに一口だけでも食べてみてよっ」
そう言うや否や…、キラは満面の笑みでアスランの口元にそれを運んでいた。
“百聞は一見に如かずって、言葉の使い方間違ってないか? それにしても、こんなにもキラが勧めてくるぐらいだ…。凄く気に入っているんだな…。正直甘いモノは苦手だが…ここで食べないとキラ拗ねそうだしな…”
そんな事を逡巡して、観念したようにほんの少し身を屈めて、キラの手からそれをパクッと一口齧る。
途端に咥内に広がったのはふわふわもちもちの優しい生地とメイプルシロップの甘い味……
「やっぱり想像した通り…甘いな。しかし…これはなんというか…不思議な食感だな。中華まんなのか…ホットケーキなのか?」
と、率直な感想を口にして、分類しがたい奇妙なモノ…のように感じながら、ジッとそれに視線を落としていた。
「だから、“ホットケーキまん”なんだってっ。どっちかに分類する必要なんてなくない?要は 美味しいか美味しくないかが問題だけで。――で、どう?美味しい?」
こてん…と小首を傾げながら、けれどどこか期待に満ちた瞳を向けて、アスランの感想を待機するキラ。
ころころと表情を変えるキラの顏を見つめながら、内心“やっぱり可愛いな、キラは”なんてこと思いつつ、感想を口にする。
「甘いな。……だが、悪くない甘さだな。キラが好きだというのもわからなくもない…」
アスランが甘いものが得意でないことを知っていたキラは、その言葉が嬉しくて、満面の笑みを浮かべると「でしょっ!?」と満足気に頷くと、自身も一口齧りつく。
芳醇な甘さが口いっぱいに広がって、上機嫌にニコニコ…としていると……
「だけど、俺的にはこっちのほうがよっぽど甘くておいしいけどな」
ちゅっ…
そう言って、不意打ちのようにキラの唇にそっと口づけを一つ落としていた。
「――っ//// ア…アスランッ///こんな路上で急になにするんだよっ、ばかっ!!///もうあげないっ///」
耳まで真っ赤に染めながら、ぷいっと顔を背けてそう告げると、恥ずかしそうに俯いて、スタスタ…と足早に歩を進めていく。
そんな愛らしい背中を見つめながら、至極当然とばかりに、ぽそり…と呟く。
「だけど、本当の事なんだがな…?」
“キラ以上に甘いものを俺は知らないんだから…”
くすっ…と自嘲染みた笑みを一つ零して、先を行くキラの後を足早に追うアスランがそこにいたとさ。
END
コンビニに入ると、入店を報せる特徴的な音が鳴る中、キラは隣にいたアスランの服の袖の端を掴むと、くいくいっ…と小さく引っ張る。
「ん…?どうした、キラ?」
軽く首を傾げながら優しい声音でそう告げて…
「アスランっ、アレ!!」
アスランが傍らに視線を落とすと、そこにはきらきら~と目を輝かせているキラの姿があり、キラはアスランの視線を誘導するように、店内前方のレジ付近を指さした。
“一体何だ…?”
キラの視線を辿り、同じ方向へと視線を向けたアスランは、すぐにキラの言いたい事を察すると苦笑い一つ零す。
「アレって…、再販って書いてるホットケーキまん?のことか?」
「そう!!わっ…凄いね!!僕まだ何も言ってないのに…」
「今朝、コンビニアプリ俺に見せながら、美味しそう!!絶対食べたいって言ってただろ?」
「あ…そう言えば、そんな事を言ったような…」
「朝5時に寝てる俺を叩き起こして、『やったー♪再販してくれるって!!僕これ大好きなんだよ~』とか言ってただろ?」
「あはは…ごめんって、だって嬉しくって、ついっ。だから、そんなに根に持たないでよっ」
「別に根に持ってないし、怒ってもない。」
ほんの一瞬、憮然とした表情を浮かべたものの、すぐに優しい笑みを浮かべるとキラの言いたいことを先読みして行動に移す。
アスランはレジの方へと足先を向けると、店員に「ホットケーキまんを一つくれないか」と注文して、それを受け取るとキラの方へと差し出していた。
「わーい♪ありがとっ、アスラン!!………けど、あれ?……アスランは食べないの?」
「最後の一つだったようだし…、キラが食べればいい」
そう言いながら、自分用にブラックのホットコーヒーを注文して、注がれたばかりのカップを受け取るとキラと共にコンビニの外に出ていた。
店外に出ると、びゅーっ…と冷たい風が吹いて二人の頬を撫でていく。
コンビニから徒歩で数分の所に二人が住むマンションがあった。
そこに向かって二人は並んで歩いていく。キラの歩調に合わせるように自然とゆっくりとした歩みになるのはアスラン自身も無意識に。
「急に寒くなったよね…」
「そうだな。……キラ、風邪ひくなよ」
そう言うや否や、自身の首にかかっていたマフラーを取ると、そっとキラの首に巻き付けて。
「わっ、いいよっ。アスランの方こそ風邪ひいちゃうよっ」
キラは慌ててマフラーを解くとアスランの方へと返そうとする。
けれど、アスランはその手を制すると、押し返す。
「俺は大丈夫だ。体を鍛えているからな。」
「そうは言っても…」
と、反論を口に仕掛けた時、タイミング悪く「くしゅんっ」と小さなくしゃみを一つ零したキラに、アスランはマフラーの端に手を伸ばしてぐるぐるっとキラの首に巻き付けて、そっと肩を抱き寄せる。
途端に触れた部分からアスランの熱が伝わってきてぽかぽか…と心まで温かくなっていくのを感じ取っていた。
「ほら、俺の言葉を素直に聞かないからだぞ。大人しく巻いておけ」
「うぅっ…、わかったよ…」
「あと、それ、冷めたら美味しくないだろ?温かいうちに食べた方がよくないか?」
「うん…」
アスランに促されるように手の中に納まっているホットケーキまんに視線を落としながら、キラは小さく頷いていたが、何かを思案している様子でじっ…と見つめた後、パッと何かを思いついた様子で表情を明るくさせると、手にしていたそれをアスランの方へと差し出していた。
「はいっ、アスラン、これ。」
「いいって言っただろ?キラが全部食べたらいいって。」
「うん。だけど、これ、本当に美味しいんだよっ。だからアスランにも味わってほしいなーって。ほら、食べたことないでしょ?もしかしたら君、好きになるかもしれないでしょ?」
「だが…」
「あーもうっ、百聞は一見に如かずっていうでしょ?試しに一口だけでも食べてみてよっ」
そう言うや否や…、キラは満面の笑みでアスランの口元にそれを運んでいた。
“百聞は一見に如かずって、言葉の使い方間違ってないか? それにしても、こんなにもキラが勧めてくるぐらいだ…。凄く気に入っているんだな…。正直甘いモノは苦手だが…ここで食べないとキラ拗ねそうだしな…”
そんな事を逡巡して、観念したようにほんの少し身を屈めて、キラの手からそれをパクッと一口齧る。
途端に咥内に広がったのはふわふわもちもちの優しい生地とメイプルシロップの甘い味……
「やっぱり想像した通り…甘いな。しかし…これはなんというか…不思議な食感だな。中華まんなのか…ホットケーキなのか?」
と、率直な感想を口にして、分類しがたい奇妙なモノ…のように感じながら、ジッとそれに視線を落としていた。
「だから、“ホットケーキまん”なんだってっ。どっちかに分類する必要なんてなくない?要は 美味しいか美味しくないかが問題だけで。――で、どう?美味しい?」
こてん…と小首を傾げながら、けれどどこか期待に満ちた瞳を向けて、アスランの感想を待機するキラ。
ころころと表情を変えるキラの顏を見つめながら、内心“やっぱり可愛いな、キラは”なんてこと思いつつ、感想を口にする。
「甘いな。……だが、悪くない甘さだな。キラが好きだというのもわからなくもない…」
アスランが甘いものが得意でないことを知っていたキラは、その言葉が嬉しくて、満面の笑みを浮かべると「でしょっ!?」と満足気に頷くと、自身も一口齧りつく。
芳醇な甘さが口いっぱいに広がって、上機嫌にニコニコ…としていると……
「だけど、俺的にはこっちのほうがよっぽど甘くておいしいけどな」
ちゅっ…
そう言って、不意打ちのようにキラの唇にそっと口づけを一つ落としていた。
「――っ//// ア…アスランッ///こんな路上で急になにするんだよっ、ばかっ!!///もうあげないっ///」
耳まで真っ赤に染めながら、ぷいっと顔を背けてそう告げると、恥ずかしそうに俯いて、スタスタ…と足早に歩を進めていく。
そんな愛らしい背中を見つめながら、至極当然とばかりに、ぽそり…と呟く。
「だけど、本当の事なんだがな…?」
“キラ以上に甘いものを俺は知らないんだから…”
くすっ…と自嘲染みた笑みを一つ零して、先を行くキラの後を足早に追うアスランがそこにいたとさ。
END
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