山本夢
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今日はかなり早く目が覚めた。
朝練があるけれど、それでも余裕で学校に着きそうだ。
晴れ渡る秋空に伸びをする。
「あ、山本! おはよう!」
不意に声をかけられ、正面を見ると、少し遠くにツナがいた。
「おはようツナ! 今朝は早いのな!」
「リボーンに叩き起こされちゃって。山本は朝練?」
ああ、と返し、俺とツナは学校に向かって歩き出した。
「そういえば、ツナって笹川のこと好きなんだよな?」
俺がそう言うとツナは顔を赤くした。
「そ、そうだけど……」
「そっか!」
「というか突然なんでそんなことを!?」
「ん? いや、最近ツナと笹川、前よりもっと仲良さそうに見えるんだ」
「そ、そう? 何かちょっと嬉しいな」
ツナは照れながらもすごく嬉しそうだ。
「そういう山本は? 好きな人とか居ないの?」
「俺? 俺は……」
☆
ユニフォームに着替え、グラウンドに出る。
勿論、俺が1番――
「おはよう、山本君!」
じゃなかった。
「おはようございます、橘先輩!」
朝から元気でよろしい! と橘先輩は少しふざけた様に言った。
橘蒼唯先輩――野球部唯一のマネージャーで、アイドル的存在。
「先輩、今朝は早いっすね」
「そういう山本君こそ、今朝はいつもより早いんじゃない?」
「なんか、早く目が覚めちまって……」
アハハ、と俺は笑った。
そんな俺を見た橘先輩は穏やかに微笑む。
「山本君の笑顔って、あったかいよね。私も明るくなっちゃう」
心臓が、跳ね上がる。
そんな俺は先輩の、この穏やかな笑顔が好きで仕方ない。
何度そう思ったか分からないけれど、改めてそう思った。
どうかした? と声をかけられて、棒立ちのままぼーっと先輩を見ていたことに俺はやっと気が付く。
「秋の大会、期待してるからね!」
「はい! 頑張ります!!」
憧れの、いや、好きな先輩にそう期待されたら、頑張らない理由なんてあるか?
――俺には無いよ。
風が冷たくなってきて、秋の大会が近いのを肌で感じられた。
待ち遠しい。その一言に尽きる。
それは勿論、野球が好きだからでもあるけれど、勝った時に橘先輩の笑顔が見たいから、というのも嘘じゃない。
秋の大会までの日数を指折り数えながら練習に打ち込み、心躍らせた。
☆
満塁、サヨナラチャンス。
俺がホームランを打てば、並中野球部の優勝が決まる。
降ってくる声援や歓声は豪雨のようだ。
そんな中で、俺はホームベースに向かう。
一際、声援が大きくなった気がした。
それなのに、ベンチからの橘先輩の声援だけが耳に入った。
「山本君ー!」
振り返ると、先輩は親指を立てた。
ホームラン決めてね! と言うように。
俺は笑顔と親指で、言葉を返した。
ホームベースに立つ。
静まり返る、野球場。
ヒュッ、というボールが投げられた音。
ビュウッ、という俺がバットを振った音。
カキーン、という金属音。
手ごたえにも、自信があった。
『ホームラン!』
スピーカーが叫ぶ。同時に、歓声がグラウンドに降り注いだ。
仲間と肩を抱き合いながらも、ちらりとベンチの方を見る。橘先輩と真っ先に目が合った。
「お疲れ様! ホームラン、ありがとう!」
笑顔がそう言っていた。
そのシーンは俺の中で何度も浮かび、夜の眠りも妨げた。
☆
秋の大会が過ぎて、昼の時間が増々短くなってきた。
放課後の練習時間が短くなったのが、その証拠だ。
それに加えて、今日は曇りで尚更暗い。
一雨来そうだ。
「やっぱ傘忘れたかな」
着替えて帰る仕度をしながら、傘を探す。
「あれ?」
部活用のスポーツタオルがない。記憶の糸を手繰る。練習の後に行ったのは……。
「野外水道か」
俺は荷物を引っ掴んで、部室を出る。
自分の記憶は正しかった。数十メートル離れた先の野外水道に、タオルが1枚。間違いなく俺のタオルだ。
雨が降りそうなのに傘も無いし、さっさと取ってさっさと帰ろう。
「実はさ、俺」
野外水道に近づいた時、突然声が聞こえて、俺は思わず校舎の陰に身を潜めた。
(藤森先輩?)
少し顔を覗かせると、野球部のユニフォームを着たままの藤森先輩。
そして、橘先輩。
「橘のことが好きだったんだ! だから!」
「付き合って、って?」
少し冷たい風が、耳を掠める。
その風に乗ってきたのか、確かにはっきりと聞こえた。
「……いいよ」
何も、聞こえなくなった。いや、降り始めた雨の音だけがいやに耳についた。
2人がいなくなると、俺は忘れたタオルを引っ掴み、握り締め、家に向かって走り出した。
雨足は強くなる一方で、顔面を痛い程に打ちつける。
頬を伝うものが、雨なのか、涙なのか。
俺にはもう、分からなかった。
(了)
2008.10.9 初稿
2021.2.21 加筆修正
2022.2.22 加筆修正
良く考えたら、雲雀夢も女子先輩。
Lemon Ruriboshi.
朝練があるけれど、それでも余裕で学校に着きそうだ。
晴れ渡る秋空に伸びをする。
「あ、山本! おはよう!」
不意に声をかけられ、正面を見ると、少し遠くにツナがいた。
「おはようツナ! 今朝は早いのな!」
「リボーンに叩き起こされちゃって。山本は朝練?」
ああ、と返し、俺とツナは学校に向かって歩き出した。
「そういえば、ツナって笹川のこと好きなんだよな?」
俺がそう言うとツナは顔を赤くした。
「そ、そうだけど……」
「そっか!」
「というか突然なんでそんなことを!?」
「ん? いや、最近ツナと笹川、前よりもっと仲良さそうに見えるんだ」
「そ、そう? 何かちょっと嬉しいな」
ツナは照れながらもすごく嬉しそうだ。
「そういう山本は? 好きな人とか居ないの?」
「俺? 俺は……」
☆
ユニフォームに着替え、グラウンドに出る。
勿論、俺が1番――
「おはよう、山本君!」
じゃなかった。
「おはようございます、橘先輩!」
朝から元気でよろしい! と橘先輩は少しふざけた様に言った。
橘蒼唯先輩――野球部唯一のマネージャーで、アイドル的存在。
「先輩、今朝は早いっすね」
「そういう山本君こそ、今朝はいつもより早いんじゃない?」
「なんか、早く目が覚めちまって……」
アハハ、と俺は笑った。
そんな俺を見た橘先輩は穏やかに微笑む。
「山本君の笑顔って、あったかいよね。私も明るくなっちゃう」
心臓が、跳ね上がる。
そんな俺は先輩の、この穏やかな笑顔が好きで仕方ない。
何度そう思ったか分からないけれど、改めてそう思った。
どうかした? と声をかけられて、棒立ちのままぼーっと先輩を見ていたことに俺はやっと気が付く。
「秋の大会、期待してるからね!」
「はい! 頑張ります!!」
憧れの、いや、好きな先輩にそう期待されたら、頑張らない理由なんてあるか?
――俺には無いよ。
風が冷たくなってきて、秋の大会が近いのを肌で感じられた。
待ち遠しい。その一言に尽きる。
それは勿論、野球が好きだからでもあるけれど、勝った時に橘先輩の笑顔が見たいから、というのも嘘じゃない。
秋の大会までの日数を指折り数えながら練習に打ち込み、心躍らせた。
☆
満塁、サヨナラチャンス。
俺がホームランを打てば、並中野球部の優勝が決まる。
降ってくる声援や歓声は豪雨のようだ。
そんな中で、俺はホームベースに向かう。
一際、声援が大きくなった気がした。
それなのに、ベンチからの橘先輩の声援だけが耳に入った。
「山本君ー!」
振り返ると、先輩は親指を立てた。
ホームラン決めてね! と言うように。
俺は笑顔と親指で、言葉を返した。
ホームベースに立つ。
静まり返る、野球場。
ヒュッ、というボールが投げられた音。
ビュウッ、という俺がバットを振った音。
カキーン、という金属音。
手ごたえにも、自信があった。
『ホームラン!』
スピーカーが叫ぶ。同時に、歓声がグラウンドに降り注いだ。
仲間と肩を抱き合いながらも、ちらりとベンチの方を見る。橘先輩と真っ先に目が合った。
「お疲れ様! ホームラン、ありがとう!」
笑顔がそう言っていた。
そのシーンは俺の中で何度も浮かび、夜の眠りも妨げた。
☆
秋の大会が過ぎて、昼の時間が増々短くなってきた。
放課後の練習時間が短くなったのが、その証拠だ。
それに加えて、今日は曇りで尚更暗い。
一雨来そうだ。
「やっぱ傘忘れたかな」
着替えて帰る仕度をしながら、傘を探す。
「あれ?」
部活用のスポーツタオルがない。記憶の糸を手繰る。練習の後に行ったのは……。
「野外水道か」
俺は荷物を引っ掴んで、部室を出る。
自分の記憶は正しかった。数十メートル離れた先の野外水道に、タオルが1枚。間違いなく俺のタオルだ。
雨が降りそうなのに傘も無いし、さっさと取ってさっさと帰ろう。
「実はさ、俺」
野外水道に近づいた時、突然声が聞こえて、俺は思わず校舎の陰に身を潜めた。
(藤森先輩?)
少し顔を覗かせると、野球部のユニフォームを着たままの藤森先輩。
そして、橘先輩。
「橘のことが好きだったんだ! だから!」
「付き合って、って?」
少し冷たい風が、耳を掠める。
その風に乗ってきたのか、確かにはっきりと聞こえた。
「……いいよ」
何も、聞こえなくなった。いや、降り始めた雨の音だけがいやに耳についた。
2人がいなくなると、俺は忘れたタオルを引っ掴み、握り締め、家に向かって走り出した。
雨足は強くなる一方で、顔面を痛い程に打ちつける。
頬を伝うものが、雨なのか、涙なのか。
俺にはもう、分からなかった。
(了)
2008.10.9 初稿
2021.2.21 加筆修正
2022.2.22 加筆修正
良く考えたら、雲雀夢も女子先輩。
Lemon Ruriboshi.
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