雲雀夢
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とりあえずのケリはついたけれど、過去にはまだ帰れないらしい。
別に咬み殺し甲斐のある獲物に出会えるなら、過去だろうが未来だろうがどうでもいいのだが。
「ここが、この時代の恭さんが作った地下アジトです」
「そう……」
副委員長に未来の僕が作ったというアジトに案内された。
しかし、未来の自分のことなのに理解が出来ない。
ここが未来の世界だなんてことをまだ心の何処かでは疑っているのだろう。
だが、細部まで“和”にこだわって作られたらしい内部は僕好みで、それだけは未来の自分がやったことだと信じられた。
ふと何処からか、懐かしいような歌が聞こえた。歩を進める度にその声は大きくなる。
――子守歌か?
副委員長は、声の聞こえてくるその部屋の前で足を止めた。
「雫月姉さん、失礼します」
子守歌が止む。
「どうぞ」
副委員長の開けた部屋に、1人の女性が静かに座っている。
雫月という名前らしいその和服の彼女はどうやら身ごもっているようだ。
「誰?」
僕とその女性は、目があったまま固まる。
「草壁さん、この子は?」
副委員長は返答を考えているらしく、辺りはしばらく静まり返っていた。
「色々ありまして、恭さんはタイムスリップしてしまい、10年前の恭さんと入れ替わってしまったんです」
彼女は驚いたようだったが、すぐに優しい顔に戻った。
「いつ恭弥様は戻られるの?」
「多分、まもなくです」
「そう……、無事だといいのだけれど……」
「で、君は誰なの?」
僕は待ちきれずに尋ねる。
「恭さん、こちらの女性は、恭さんの奥方です」
奥方?
「10年後の僕と君、結婚してる、ってこと?」
「はい」
ますます10年後の自分がわからない。結婚なんていう群れるようなことをしている自分が信じられない。
言葉を発しない僕に何かを察したのか、副委員長が話し出す。
「姉さんは去年、恭さんに助けられてここに住むことになったんです。10年前の恭さんが彼女を知るはずもありません」
僕は知らなくて当然、という訳か。
「この時代の恭さんは、言葉にしないものの、姉さんを大切に思って」
副委員長の話を聞き終わる前に、僕は彼女の正面に屈んだ。
「ねえ、僕は君にとってどんな人間?」
「……厳格で方です。でも」
「でも?」
「優しい方です」
そう言って、彼女は微笑んだ。
増々興味が湧いた、この胸をくすぐるような何かさえも。
「君、旧姓と名前は?」
「……天風、雫月」
「覚えておくよ、僕のいた世界に戻ったら君を探す」
☆
その後、僕は無事に元の時代に戻れた。
「草壁、まだ手がかりとか無いの?」
「すみません……」
僕は屋上のドアに手をかけた。
「委員長、何処へ?」
「探してくる」
僕の時代に戻った日から天風雫月を探し始めた。
しかし、一向に手がかりは見つからない。
真っ直ぐに僕を信じていた瞳、それはとても忘れ難いものだった。
この時代の彼女が初めて僕を見た時、彼女の瞳にはどんな僕が映るのだろう。
(了)
2009.8.26 初稿
2021.2.22 加筆修正
2022.2.21 加筆修正
雲雀夢主に、様付けで呼ばせたかった
Lemon Ruriboshi.
別に咬み殺し甲斐のある獲物に出会えるなら、過去だろうが未来だろうがどうでもいいのだが。
「ここが、この時代の恭さんが作った地下アジトです」
「そう……」
副委員長に未来の僕が作ったというアジトに案内された。
しかし、未来の自分のことなのに理解が出来ない。
ここが未来の世界だなんてことをまだ心の何処かでは疑っているのだろう。
だが、細部まで“和”にこだわって作られたらしい内部は僕好みで、それだけは未来の自分がやったことだと信じられた。
ふと何処からか、懐かしいような歌が聞こえた。歩を進める度にその声は大きくなる。
――子守歌か?
副委員長は、声の聞こえてくるその部屋の前で足を止めた。
「雫月姉さん、失礼します」
子守歌が止む。
「どうぞ」
副委員長の開けた部屋に、1人の女性が静かに座っている。
雫月という名前らしいその和服の彼女はどうやら身ごもっているようだ。
「誰?」
僕とその女性は、目があったまま固まる。
「草壁さん、この子は?」
副委員長は返答を考えているらしく、辺りはしばらく静まり返っていた。
「色々ありまして、恭さんはタイムスリップしてしまい、10年前の恭さんと入れ替わってしまったんです」
彼女は驚いたようだったが、すぐに優しい顔に戻った。
「いつ恭弥様は戻られるの?」
「多分、まもなくです」
「そう……、無事だといいのだけれど……」
「で、君は誰なの?」
僕は待ちきれずに尋ねる。
「恭さん、こちらの女性は、恭さんの奥方です」
奥方?
「10年後の僕と君、結婚してる、ってこと?」
「はい」
ますます10年後の自分がわからない。結婚なんていう群れるようなことをしている自分が信じられない。
言葉を発しない僕に何かを察したのか、副委員長が話し出す。
「姉さんは去年、恭さんに助けられてここに住むことになったんです。10年前の恭さんが彼女を知るはずもありません」
僕は知らなくて当然、という訳か。
「この時代の恭さんは、言葉にしないものの、姉さんを大切に思って」
副委員長の話を聞き終わる前に、僕は彼女の正面に屈んだ。
「ねえ、僕は君にとってどんな人間?」
「……厳格で方です。でも」
「でも?」
「優しい方です」
そう言って、彼女は微笑んだ。
増々興味が湧いた、この胸をくすぐるような何かさえも。
「君、旧姓と名前は?」
「……天風、雫月」
「覚えておくよ、僕のいた世界に戻ったら君を探す」
☆
その後、僕は無事に元の時代に戻れた。
「草壁、まだ手がかりとか無いの?」
「すみません……」
僕は屋上のドアに手をかけた。
「委員長、何処へ?」
「探してくる」
僕の時代に戻った日から天風雫月を探し始めた。
しかし、一向に手がかりは見つからない。
真っ直ぐに僕を信じていた瞳、それはとても忘れ難いものだった。
この時代の彼女が初めて僕を見た時、彼女の瞳にはどんな僕が映るのだろう。
(了)
2009.8.26 初稿
2021.2.22 加筆修正
2022.2.21 加筆修正
雲雀夢主に、様付けで呼ばせたかった
Lemon Ruriboshi.
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