そのほかいろいろ
それはあまりにも悲痛な叫びだった。
「助けて! 遊馬!」
「どうしたんだ、Ⅲ!」
突然の友の緊急事態に冷や汗が流れる。
「一体、何が」
「兄様が、V兄様が……! うわぁぁぁあああ!」
ぷつりと通信が切れた。どう考えてもただ事ではない。
幸い、Ⅲの端末の場所を示す信号までは切れていなかった。
遊馬はアストラルと共にそこへ急いだ。
……数分後、異様な光景を目の当たりにするとは知らず。
到着したそこは、小さなラボのようなところだった。
「助けに来たぞⅢ! ……Ⅳ!? それにカイトまで!!」
見知った顔ばかり、しかも誰一人として傷を負っている様子はない。
異様さはその姿だ。
「何で、ふんどし一丁なんだお前ら!」
「遊馬、ふんどし一丁とは何だ、いつ発動する?」
「ふんどし一枚ってことだよ!」
「あの布のことか?」
「そうだよ!!」
1人1人に声をかけてみるが、Ⅲは放心状態、Ⅳはケタケタと笑いだすし、カイトに至ってはハルト……、とうわごとを繰り返していて話にならない。
「来たな、遊馬。君も私の実験に協力してくれるのかな?」
「V! ってお前もかよ!」
声の主はVだった。
「実験とはどういうことだ!?」
アストラルの問いに、
「あっさり答えても仕方ないだろう、答えはデュエルの中で見つけてもらおうか!」
かくして、デュエルは始まったのだった。
☆
「遊馬、来るぞ!」
「ああ!」
Vのフィールドに光の渦が出来る。
「エクシーズ召喚! 現れろ、ナンバーズ214!」
「214だと!?」
有り得ない事態に、流石のアストラルも驚きを隠せない。
「おいどういうことだ!」
「ナンバーズ214など、存在しないはず!」
「驚くのも無理はない、私が作ったのだから」
今ほどカンコーン! という音が似合うタイミングもないだろう。
それはさておき、デュエルは続く。
「正確には、副産物だ。他の実験をしていたら偶然出来上がってしまってな」
「お前一体何者だよ!」
「そんなに有能なら研究機関も引くて数多だぞ!」
「まだ私が動く時ではない!!」
どんなに凄まれようが、2人には1つだけ分かったことがあった。
「遊馬、Vは操られてなどいない! 自らの意思で動いている!」
「判断基準がひどいな! 俺も思ったけど!」
そんな話を聞いているのかいないのか、Vは続ける。
「ナンバーズ214の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、このカードを相手プレーヤーに装備する。またこのカードを装備した状態でこのターンを終了したとき、そのプレーヤーはデュエルに敗北する」
「インチキ効果もいい加減にしろ!」
「そこかよ! 俺ふんどし一丁とかイヤだよ!」
「わかったぞ遊馬! Ⅲたちはそのショックで放心状態なのだ!」
「もう訳わかんねぇよ!」
頭を抱える遊馬をよそに、昔プレーヤーに装備して殴り合うデュエルを見た気がする、とアストラルは記憶を辿ってみた。が、結局何もわからなかった。
「そんなことより遊馬!」
「おう! トラップ発動! 神の宣告!」
神の宣告は、ライフを半分支払いカードの効果を無効にするカードだ。
「なんだと……!? ナンバーズ214のこの効果が無効化された時、効果を発動したプレーヤー自身に装備し、デュエルに敗北する……っ! うわああぁぁぁああ!」
衝撃波と共にふんどし一丁のVは吹っ飛んだ。そしてWINが表示され遊馬の勝利が確定した!
しかし、ふんどし一丁の仲間たちの姿は変わらない。
「V、お前、なんでこんなこと……」
「悔しかったのだ」
「え?」
「バレンタインに! チョコレートを貰えないことがっ!」
カイトはドロワから、Ⅳはファンからチョコレートを貰うことは目に見えていて、ⅢはⅣから食べきれない分や小鳥や九十九家の人々から貰えるだろうと思った、とVは言った。
「ただの嫉妬かよ」
「せめてもの詫びだ……。うけとれ……」
Vはどこからか何かを取り出し、相変わらずふんどし一丁の彼らに、それを投げつけた。
それは板チョコだった。
彼らは、デュエリストの本能なのか、さっとそれを人差し指と中指で挟んで受け取るのだった。
そして、カイトは言った。
「人は俺を、チョコレートハンターと呼ぶ」
「呼ばねえよ!!」
結局全員、包み紙を破いて板チョコをパキパキと食べ始めるのだった。
遠くから、「兄さぁん」という聞き覚えのある声が聞こえてきたのも丁度その頃だ。
扉が開いて入ってきたのは、ハルトだった。
「兄さん!」
が、入り口で立ち尽くしている。
「ああ、ハルトか。ハルトみっけ」
扉の前にハルトの姿を見るとカイトはにっこりと笑った。
「兄さんその格好……」
「ハルト、元気の出るお菓子だよ、チョコレートだよ」
カイトは自分の歯形がしっかりとついているチョコレートをハルトに差し出した。
「兄さんが、兄さんが……!」
「どうしたハルト? こっちへおいで?」
「い、いやだ、そんな姿でチョコレート食べてる兄さんなんて……! そんな兄さんなんか……!」
その瞬間、カイトの顔はさっきのそれとはうってかわって、険しいいつもの顔になっていた。
「ハルトォォォオオオォォォ!」
逃げ出したハルトの背中を追ってカイトも扉の向こうに消えた。
さっきのカイトの悲鳴で我に返ったらしく、ⅢとⅣは寝るわ、と亜空間でワープしていった。
「観察結果214。ふんどしというのは絆を確認出来るものらしい」
「何がお前をそうさせたんだよ」
「遊馬」
「なんだよ」
「私もつけてみたいぞ!」
「知らねーよ!!」
(おわる)
2014.2.13 初稿?
2022.2.1 加筆修正
S様とH様に捧ぐ
Lemon Ruriboshi.
「助けて! 遊馬!」
「どうしたんだ、Ⅲ!」
突然の友の緊急事態に冷や汗が流れる。
「一体、何が」
「兄様が、V兄様が……! うわぁぁぁあああ!」
ぷつりと通信が切れた。どう考えてもただ事ではない。
幸い、Ⅲの端末の場所を示す信号までは切れていなかった。
遊馬はアストラルと共にそこへ急いだ。
……数分後、異様な光景を目の当たりにするとは知らず。
到着したそこは、小さなラボのようなところだった。
「助けに来たぞⅢ! ……Ⅳ!? それにカイトまで!!」
見知った顔ばかり、しかも誰一人として傷を負っている様子はない。
異様さはその姿だ。
「何で、ふんどし一丁なんだお前ら!」
「遊馬、ふんどし一丁とは何だ、いつ発動する?」
「ふんどし一枚ってことだよ!」
「あの布のことか?」
「そうだよ!!」
1人1人に声をかけてみるが、Ⅲは放心状態、Ⅳはケタケタと笑いだすし、カイトに至ってはハルト……、とうわごとを繰り返していて話にならない。
「来たな、遊馬。君も私の実験に協力してくれるのかな?」
「V! ってお前もかよ!」
声の主はVだった。
「実験とはどういうことだ!?」
アストラルの問いに、
「あっさり答えても仕方ないだろう、答えはデュエルの中で見つけてもらおうか!」
かくして、デュエルは始まったのだった。
☆
「遊馬、来るぞ!」
「ああ!」
Vのフィールドに光の渦が出来る。
「エクシーズ召喚! 現れろ、ナンバーズ214!」
「214だと!?」
有り得ない事態に、流石のアストラルも驚きを隠せない。
「おいどういうことだ!」
「ナンバーズ214など、存在しないはず!」
「驚くのも無理はない、私が作ったのだから」
今ほどカンコーン! という音が似合うタイミングもないだろう。
それはさておき、デュエルは続く。
「正確には、副産物だ。他の実験をしていたら偶然出来上がってしまってな」
「お前一体何者だよ!」
「そんなに有能なら研究機関も引くて数多だぞ!」
「まだ私が動く時ではない!!」
どんなに凄まれようが、2人には1つだけ分かったことがあった。
「遊馬、Vは操られてなどいない! 自らの意思で動いている!」
「判断基準がひどいな! 俺も思ったけど!」
そんな話を聞いているのかいないのか、Vは続ける。
「ナンバーズ214の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、このカードを相手プレーヤーに装備する。またこのカードを装備した状態でこのターンを終了したとき、そのプレーヤーはデュエルに敗北する」
「インチキ効果もいい加減にしろ!」
「そこかよ! 俺ふんどし一丁とかイヤだよ!」
「わかったぞ遊馬! Ⅲたちはそのショックで放心状態なのだ!」
「もう訳わかんねぇよ!」
頭を抱える遊馬をよそに、昔プレーヤーに装備して殴り合うデュエルを見た気がする、とアストラルは記憶を辿ってみた。が、結局何もわからなかった。
「そんなことより遊馬!」
「おう! トラップ発動! 神の宣告!」
神の宣告は、ライフを半分支払いカードの効果を無効にするカードだ。
「なんだと……!? ナンバーズ214のこの効果が無効化された時、効果を発動したプレーヤー自身に装備し、デュエルに敗北する……っ! うわああぁぁぁああ!」
衝撃波と共にふんどし一丁のVは吹っ飛んだ。そしてWINが表示され遊馬の勝利が確定した!
しかし、ふんどし一丁の仲間たちの姿は変わらない。
「V、お前、なんでこんなこと……」
「悔しかったのだ」
「え?」
「バレンタインに! チョコレートを貰えないことがっ!」
カイトはドロワから、Ⅳはファンからチョコレートを貰うことは目に見えていて、ⅢはⅣから食べきれない分や小鳥や九十九家の人々から貰えるだろうと思った、とVは言った。
「ただの嫉妬かよ」
「せめてもの詫びだ……。うけとれ……」
Vはどこからか何かを取り出し、相変わらずふんどし一丁の彼らに、それを投げつけた。
それは板チョコだった。
彼らは、デュエリストの本能なのか、さっとそれを人差し指と中指で挟んで受け取るのだった。
そして、カイトは言った。
「人は俺を、チョコレートハンターと呼ぶ」
「呼ばねえよ!!」
結局全員、包み紙を破いて板チョコをパキパキと食べ始めるのだった。
遠くから、「兄さぁん」という聞き覚えのある声が聞こえてきたのも丁度その頃だ。
扉が開いて入ってきたのは、ハルトだった。
「兄さん!」
が、入り口で立ち尽くしている。
「ああ、ハルトか。ハルトみっけ」
扉の前にハルトの姿を見るとカイトはにっこりと笑った。
「兄さんその格好……」
「ハルト、元気の出るお菓子だよ、チョコレートだよ」
カイトは自分の歯形がしっかりとついているチョコレートをハルトに差し出した。
「兄さんが、兄さんが……!」
「どうしたハルト? こっちへおいで?」
「い、いやだ、そんな姿でチョコレート食べてる兄さんなんて……! そんな兄さんなんか……!」
その瞬間、カイトの顔はさっきのそれとはうってかわって、険しいいつもの顔になっていた。
「ハルトォォォオオオォォォ!」
逃げ出したハルトの背中を追ってカイトも扉の向こうに消えた。
さっきのカイトの悲鳴で我に返ったらしく、ⅢとⅣは寝るわ、と亜空間でワープしていった。
「観察結果214。ふんどしというのは絆を確認出来るものらしい」
「何がお前をそうさせたんだよ」
「遊馬」
「なんだよ」
「私もつけてみたいぞ!」
「知らねーよ!!」
(おわる)
2014.2.13 初稿?
2022.2.1 加筆修正
S様とH様に捧ぐ
Lemon Ruriboshi.