カイト夢
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
親父の行方が分からなくなってから数日後にアカデミアの侵攻が本格化した。
それは即ち、俺とハルト、そしてセツナだけで生き残らなければならないことを意味していた。
今は遠くで聞こえる爆発音も、いつ近くで響くことになるか分からない。その焦りは日に日に増していく。
「セツナ、話がある」
レジスタンスのパトロールが終わり、拠点のデュエルスクールに戻ると、俺はある一室に避難しているセツナに声を掛ける。セツナの横で眠るハルトを気遣い、俺たちは場所を変えた。
「どうしたの?」
「お前はハルトを連れて逃げろ。この街を出るんだ」
一瞬にしてセツナの顔色が変わり、泣きそうな目で嫌だ、と叫んだ。
「カイトの傍を離れるなんて、そんなこと出来ないよ!」
「お前たちを守りながら戦い続けるのはもう無理だ。正直、足手まといでしかない」
セツナの目が大きく見開かれ、困惑に揺れる。しかし、こうでも言わないとコイツは諦めない。本心でないことはセツナも分かってくれるはず。俺はそれに甘えた。
「なら、カイトも一緒にここを出よう?」
「それは出来ない。俺はレジスタンスとしての使命を果たさなければならない」
「だったら私もレジスタンスに!」
「お前のデュエルの実力で対抗出来ると?」
「それは……」
「俺の強さが必要とされている以上、レジスタンスを抜けることは出来ない。それに」
俺は自分の掌に目を落とした。既にアカデミアの連中を何人もカードにしている、カード化された者がどうなるかなんて知らずに。
アカデミアの連中がそうしたように、俺もアカデミアの連中を手に掛けたのだ。今でもその断末魔が耳に残っている。
「お前たちが手を汚す必要はない」
汚れるのは俺の手だけでいい。そう呟いて俯いたまま右手をきつく握りしめた。
――ふっ、とその手が温もりを覚える。
「汚れてなんか、ないよ」
俺の冷たい手をセツナが両手で包み込んでいた。視線の先のセツナの目には少し影があって、俺のしてきたことに気付いてしまったのかもしれない。いたたまれなくなって俺は目を伏せる。カイト、とセツナの柔らかい声が再び俺の名を呼んだ。
「カイトの手は、私とハルトを守ってくれた手だよ」
俺が何も言えずにいると、彼女はそのまま続けた。
「もしカイトが自分の手を汚してしまったと思っても、私はカイトの手を握るよ」
俺の手は更に強く包み込まれた。セツナの精一杯の強がりであろうことが察せたが、俺の口から出たのは
「よくそんな恥ずかしいことが言えるな」
だった。セツナは『何かの受け売り』と微笑んだ。きっとこれが俺の照れ隠しだと気付いている。
「必ず迎えに行く」
「うん、待ってるよ、ハルトとあの場所で」
子どもの頃のように小指同士を絡めた。
――数日後、ハルトとセツナの護衛につけたオービタル7、そしてふたりの荷物が、街外れで無残な状態となって発見された。奥歯を噛み締め、氾濫する感情を押し殺す。泣くな、と。
俺は腕に巻いた赤いハンカチ――レジスタンスに属することを意味する――を解いて右の手に巻き直し、その場を後にした。
(了)
2021.12.8 初稿
2022.2.25 加筆修正
本編でレジスタンスを脱退したはずなのに、カイトが手に赤いものを巻いてるのが気になった。
Lemon Ruriboshi.
それは即ち、俺とハルト、そしてセツナだけで生き残らなければならないことを意味していた。
今は遠くで聞こえる爆発音も、いつ近くで響くことになるか分からない。その焦りは日に日に増していく。
「セツナ、話がある」
レジスタンスのパトロールが終わり、拠点のデュエルスクールに戻ると、俺はある一室に避難しているセツナに声を掛ける。セツナの横で眠るハルトを気遣い、俺たちは場所を変えた。
「どうしたの?」
「お前はハルトを連れて逃げろ。この街を出るんだ」
一瞬にしてセツナの顔色が変わり、泣きそうな目で嫌だ、と叫んだ。
「カイトの傍を離れるなんて、そんなこと出来ないよ!」
「お前たちを守りながら戦い続けるのはもう無理だ。正直、足手まといでしかない」
セツナの目が大きく見開かれ、困惑に揺れる。しかし、こうでも言わないとコイツは諦めない。本心でないことはセツナも分かってくれるはず。俺はそれに甘えた。
「なら、カイトも一緒にここを出よう?」
「それは出来ない。俺はレジスタンスとしての使命を果たさなければならない」
「だったら私もレジスタンスに!」
「お前のデュエルの実力で対抗出来ると?」
「それは……」
「俺の強さが必要とされている以上、レジスタンスを抜けることは出来ない。それに」
俺は自分の掌に目を落とした。既にアカデミアの連中を何人もカードにしている、カード化された者がどうなるかなんて知らずに。
アカデミアの連中がそうしたように、俺もアカデミアの連中を手に掛けたのだ。今でもその断末魔が耳に残っている。
「お前たちが手を汚す必要はない」
汚れるのは俺の手だけでいい。そう呟いて俯いたまま右手をきつく握りしめた。
――ふっ、とその手が温もりを覚える。
「汚れてなんか、ないよ」
俺の冷たい手をセツナが両手で包み込んでいた。視線の先のセツナの目には少し影があって、俺のしてきたことに気付いてしまったのかもしれない。いたたまれなくなって俺は目を伏せる。カイト、とセツナの柔らかい声が再び俺の名を呼んだ。
「カイトの手は、私とハルトを守ってくれた手だよ」
俺が何も言えずにいると、彼女はそのまま続けた。
「もしカイトが自分の手を汚してしまったと思っても、私はカイトの手を握るよ」
俺の手は更に強く包み込まれた。セツナの精一杯の強がりであろうことが察せたが、俺の口から出たのは
「よくそんな恥ずかしいことが言えるな」
だった。セツナは『何かの受け売り』と微笑んだ。きっとこれが俺の照れ隠しだと気付いている。
「必ず迎えに行く」
「うん、待ってるよ、ハルトとあの場所で」
子どもの頃のように小指同士を絡めた。
――数日後、ハルトとセツナの護衛につけたオービタル7、そしてふたりの荷物が、街外れで無残な状態となって発見された。奥歯を噛み締め、氾濫する感情を押し殺す。泣くな、と。
俺は腕に巻いた赤いハンカチ――レジスタンスに属することを意味する――を解いて右の手に巻き直し、その場を後にした。
(了)
2021.12.8 初稿
2022.2.25 加筆修正
本編でレジスタンスを脱退したはずなのに、カイトが手に赤いものを巻いてるのが気になった。
Lemon Ruriboshi.