Ⅳ・トーマス夢
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「わあぁぁ!」
ハヅキは感嘆の声を漏らし、その幹へと走り出した。
実際、目の前の桜は驚く程に美しく、文字通りに咲き誇っていて、俺は思わず息を呑んだ。
「ね? 良い場所でしょ?」
「ああ」
自分でも、自然と口角が上がったのが分かった。
周りに誰もいないのを良いことに、並んで横になってその桜を見上げる。
聞こえるのは鳥のさえずり、風と葉の擦れる音くらいだ。遠くで楽しげな笑い声もするが、気のせいかもしれない。
微かな甘い匂いは、桜のものだろうか。はっきりとは分からないが、泣きたいときのように鼻先が痛い。
「今年も、みんなでお花見したいね、散っちゃう前に」
「……ああ」
会話が途切れた。彼女は相変わらず嬉しそうに桜を見上げている。
再び訪れる静寂がもどかしい。やたらと胸の奥がざわつくし、何しろ例の鼻の痛みが消えない。
訳もなく溢れてしまった涙をコイツに見られるのだけは御免だ。
上半身を起こして、気を紛らわせてみたのだが。
「Ⅳ」
「何だ?」
「花びら付いてる」
ハヅキも体を起こし、俺の髪に手を伸ばす。
「やっぱりⅣの髪の色、桜によく合って、綺麗」
――思い出した。
施設に入れられてすぐのことだったと思う。
印象ばかりで、何があったのかは覚えていない。だが、悔しくて悲しかったこと、泣いてはいけないと思いつつ太い幹の木の下まで走って、隠れて泣きべそをかいていたこと。それだけは覚えている。
俺は、誰かが後ろに来たことに気づいた。
「なんだよ、こっちくるなよ!」
「あなたのかみのいろ、さくらによくあって、きれい」
ああ、お前だったのか。
この気持ちも、痛みも、お前のせいか。
伸ばされた手を掴んで、引き寄せた。
急な出来事に、ハヅキの目が驚きで見開かれたが知ったこっちゃない。
彼女に、ハヅキに、噛み付くように、キスをした。
長く、足りないものを補うように長く。
ザマアミロ。
お前も、俺がいないと苦しくなるようになってしまえばいい。
途中でしょっぱくなったのは、俺のせいなのか、それとも彼女のせいなのかなんて、もうどうでも良かった。
(了)
2017.4.4 初稿
2017.4.30 加筆修正
2022.2.25 加筆修正
言わずもがな、あの楽曲に影響されてる。
Lemon Ruriboshi.
ハヅキは感嘆の声を漏らし、その幹へと走り出した。
実際、目の前の桜は驚く程に美しく、文字通りに咲き誇っていて、俺は思わず息を呑んだ。
「ね? 良い場所でしょ?」
「ああ」
自分でも、自然と口角が上がったのが分かった。
周りに誰もいないのを良いことに、並んで横になってその桜を見上げる。
聞こえるのは鳥のさえずり、風と葉の擦れる音くらいだ。遠くで楽しげな笑い声もするが、気のせいかもしれない。
微かな甘い匂いは、桜のものだろうか。はっきりとは分からないが、泣きたいときのように鼻先が痛い。
「今年も、みんなでお花見したいね、散っちゃう前に」
「……ああ」
会話が途切れた。彼女は相変わらず嬉しそうに桜を見上げている。
再び訪れる静寂がもどかしい。やたらと胸の奥がざわつくし、何しろ例の鼻の痛みが消えない。
訳もなく溢れてしまった涙をコイツに見られるのだけは御免だ。
上半身を起こして、気を紛らわせてみたのだが。
「Ⅳ」
「何だ?」
「花びら付いてる」
ハヅキも体を起こし、俺の髪に手を伸ばす。
「やっぱりⅣの髪の色、桜によく合って、綺麗」
――思い出した。
施設に入れられてすぐのことだったと思う。
印象ばかりで、何があったのかは覚えていない。だが、悔しくて悲しかったこと、泣いてはいけないと思いつつ太い幹の木の下まで走って、隠れて泣きべそをかいていたこと。それだけは覚えている。
俺は、誰かが後ろに来たことに気づいた。
「なんだよ、こっちくるなよ!」
「あなたのかみのいろ、さくらによくあって、きれい」
ああ、お前だったのか。
この気持ちも、痛みも、お前のせいか。
伸ばされた手を掴んで、引き寄せた。
急な出来事に、ハヅキの目が驚きで見開かれたが知ったこっちゃない。
彼女に、ハヅキに、噛み付くように、キスをした。
長く、足りないものを補うように長く。
ザマアミロ。
お前も、俺がいないと苦しくなるようになってしまえばいい。
途中でしょっぱくなったのは、俺のせいなのか、それとも彼女のせいなのかなんて、もうどうでも良かった。
(了)
2017.4.4 初稿
2017.4.30 加筆修正
2022.2.25 加筆修正
言わずもがな、あの楽曲に影響されてる。
Lemon Ruriboshi.