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師走二十五日、快晴。
毎朝、雨戸を開ける度にヒューッと入る風で、お妙は季節を知った。
「今日は一段と……」
寒い、と言う言葉が口の中で溶けるように消えた。
庭に、見覚えの無い焚き火が1つ。
そして、見覚えのある、サンタクロース姿のゴリラ。
「おはようございます、お妙さん! いやー、本当に寒いですねぇ。
あまりにも寒かったんで、焚き火で暖取りながら徹夜で待ってました! お妙さんも入ります? あ! お妙さんの好きなバーゲンダッシュもありますよ!?」
お妙はニコニコと笑みを浮かべながら、焚き火に近寄った。
「あら、あったかそうねぇ……」
瞬間。
焚き火が凍るような寒気がした。
「って、ウチは人気ゲーム発売日のおもちゃ屋かァァァァ!!!」
「ぐほぉあ!」
お妙の足が近藤の頬につま先からめり込んだ。
勢いで倒れた近藤の頭に片足を乗せ、グリグリと踏みつける。
「で? 他人の家の庭で焚き火しながら、何で徹夜なんかしてたんだ偽サンタクロースさんよォ?」
「だってぇ! お妙さん家、煙突無いんだもぉん! 折角プレゼント持ってきたのにぃ!!」
「ふーん、他人の家に勝手に上がるつもりだったのねェ。天下の警察さんが。……ポストにでも入れとけやァァァ!!!」
鈍い音と共に、塀の向こうへと近藤の姿が見えなくなった。
「もう。火事になったらどうしてくれるのよ」
足元を見ると、綺麗に包まれた小さな細長い箱があった。“お妙さんへ”と丁寧な字で書かれた小さなカードが付いている。落としていったのか、それともわざと置いていったのか。
(さっき言ってたプレゼント、かしら?)
そっと開けてみる。
「……綺麗」
一本の簪(かんざし)がそこにあった。
飾りは、桜の花びらを思わせる色合い。
カードを開くと“メリークリスマス”でもなく、ただ、『お妙さん愛用の着物に合う色を選んだつもりです』とだけ書かれていた。
お妙は、全く、と一つ呟くと、しゃがんでその焚き火に当たった。
ふ、と笑みが一つ溢れた。
(了)
2008.12.17 初稿
2013.12.13 加筆修正
2021.2.5 加筆修正
2022.2.2 加筆修正
2008年クリスマスに、桜子様に捧ぐ。
Lemon Ruriboshi.
毎朝、雨戸を開ける度にヒューッと入る風で、お妙は季節を知った。
「今日は一段と……」
寒い、と言う言葉が口の中で溶けるように消えた。
庭に、見覚えの無い焚き火が1つ。
そして、見覚えのある、サンタクロース姿のゴリラ。
「おはようございます、お妙さん! いやー、本当に寒いですねぇ。
あまりにも寒かったんで、焚き火で暖取りながら徹夜で待ってました! お妙さんも入ります? あ! お妙さんの好きなバーゲンダッシュもありますよ!?」
お妙はニコニコと笑みを浮かべながら、焚き火に近寄った。
「あら、あったかそうねぇ……」
瞬間。
焚き火が凍るような寒気がした。
「って、ウチは人気ゲーム発売日のおもちゃ屋かァァァァ!!!」
「ぐほぉあ!」
お妙の足が近藤の頬につま先からめり込んだ。
勢いで倒れた近藤の頭に片足を乗せ、グリグリと踏みつける。
「で? 他人の家の庭で焚き火しながら、何で徹夜なんかしてたんだ偽サンタクロースさんよォ?」
「だってぇ! お妙さん家、煙突無いんだもぉん! 折角プレゼント持ってきたのにぃ!!」
「ふーん、他人の家に勝手に上がるつもりだったのねェ。天下の警察さんが。……ポストにでも入れとけやァァァ!!!」
鈍い音と共に、塀の向こうへと近藤の姿が見えなくなった。
「もう。火事になったらどうしてくれるのよ」
足元を見ると、綺麗に包まれた小さな細長い箱があった。“お妙さんへ”と丁寧な字で書かれた小さなカードが付いている。落としていったのか、それともわざと置いていったのか。
(さっき言ってたプレゼント、かしら?)
そっと開けてみる。
「……綺麗」
一本の簪(かんざし)がそこにあった。
飾りは、桜の花びらを思わせる色合い。
カードを開くと“メリークリスマス”でもなく、ただ、『お妙さん愛用の着物に合う色を選んだつもりです』とだけ書かれていた。
お妙は、全く、と一つ呟くと、しゃがんでその焚き火に当たった。
ふ、と笑みが一つ溢れた。
(了)
2008.12.17 初稿
2013.12.13 加筆修正
2021.2.5 加筆修正
2022.2.2 加筆修正
2008年クリスマスに、桜子様に捧ぐ。
Lemon Ruriboshi.