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びりりと日めくりカレンダーを破れば、1の文字が現れる。
銀時はニヤリとほくそ笑んだ。
「銀ちゃん、何笑ってるアルか?」
神楽はテレビから目を離し、酢昆布をかじりながら銀時に問うた。
丁度良いと銀時は心の中で頭をひねる。と同時に、ある人物が脳裏をよぎった。
「そーいや、沖田くん、真選組辞めて故郷に帰るらしいぞ」
「マジでか」
かかった、と笑いをこらえて銀時は続ける。
「マジもマジの大マジだよォ。あのマヨ副長に聞いたんだからァ」
「決着ついてないのに逃げるアルかアイツ!」
そんなの許さないアル、と神楽は日傘をひっつかみ、万事屋を飛び出して行った、入れ違いにやってきた新八に目もくれずに。
「あれ、神楽ちゃん、どうしたんですか?」
「そんなことより新八、大丈夫か?」
「へ? 何がですか?」
「お通ちゃん、今月いっぱいで芸能界引退するってよ。さっきテレビで――」
「マジっすか!?」
え、ちょっと待ってよ! と叫ぶ新八を見て、銀時はついにこらえきれなくなってだっはっは、と声を上げて笑った。
新八はキョトンと銀時を見る。
「ったく、おめーら本っ当に騙され易いなぁ。そんなに俺、演技上手いか? 新八くーん、今日は“エイプリール・フール”ですよォー」
「……てめェ! 寺門通親衛隊隊長、志村新八をナメんなァー!!」
「おおうっ、俺とやろうてのかィ!?」
しばらくの間、万事屋からの轟音と破壊音は止まなかった。
☆
日傘を差した神楽は真選組の屯所の門前でその向こうを見つめる。
「あれ、万事屋の」
今日の門番らしい山崎が神楽に気づいた。
「おいジミー、ドS野郎はいるアルか?」
「沖田隊長のことですか? 隊長なら、今日は非番なんでさっきどっか出かけましたよ」
「ありがとアル」
焦っても仕方無いことは分かっていた。
が、こうしている内に“奴”が遠くへ行ってしまいそうで。
(何処にいるアルか……)
こんな陽気だ、何処かで昼寝しているに違いない。
神楽は沖田が昼寝していそうな場所を片っ端から探した。
しかし、何処にもいない。
気が付けば夕日で空が赤く染まり始めていた。
屯所で待てばよかったと後悔しつつも、神楽は最後の可能性をかけた丘を登る。
「良い眺めアル……」
頂上に到達すると、眼下に広がる江戸の街を一望できた。
「こっちの方が良く見えますぜィ、譲らねぇけどなァ」
丘の真ん中に立つ木の上から、声がした。
「ようやく見つけたネ!」
神楽は木に手をかける。それを見下ろしながら沖田は尋ねる。
「どうしたんでィ、そんなに汗かいて」
「お前探して、町中歩き回ってたアルヨ」
「俺を?」
意外な答えに、沖田は思わずきょとんとした。
その間に神楽は木を登り終えて沖田の横に座る形で収まる。
登って来ないようにするのを忘れていたことに心の内で舌打ちした。
「なぁオマエ、故郷に帰るって、本当アルか?」
これは違う意味で意外だった。誰だよ、そんな事言ったのは。
「何の話ですかい? 俺ァそんなつもりも予定も全くありやせんぜ?」
「へ?」
「誰がそんな事、言ったんでィ?」
「銀ちゃんアル」
確かに旦那ならこんなウソ言いそうだと沖田は考え、そして氷解する。
「オメー、今日、何の日か知ってんのか?」
「今日? 何の日アルか?」
「エイプリール・フールでさァ。知らねェのか?」
「何だヨ、レイクプール・ヒールって」
無理もない、神楽は天人だ。沖田はため息をひとつつく。
「それこそ何だよ。いいか、エイプリール・フールってのは4月1日、ウソついてもいい日なんでィ」
「じゃあ銀ちゃんは毎日“エイプリール・フール”アルな」
「つまり、旦那はここぞとばかりにお前にウソついた訳でさァ、俺が江戸からいなくなる、ってねィ」
神楽は目を丸くして固まっている。
沖田の言った事を理解しようとしているようだ。
しばらくしてから、
「あの腐れ天パァ! 帰ったら叩きのめしてやるアルゥ!!」
と拳をボキボキ鳴らせた。
そして、神楽が下へ飛び降りようとした時、
「待ちなせェ」
沖田は神楽の腕を掴んだ。
「な、何アルか」
「何でオメー、オレの事をずっと探してたんでィ?」
言える訳がない。お前がいなくなったら寂しい、お前と離れたくない、なんて。
「け、ケンカ相手が居いなくなるのが嫌だっただけアルヨ……! それが何だヨ!?」
「いくらエイプリール・フールだからって、俺は騙されやせんぜ。本当は俺がいなくなると寂しいんだろィ?」
「誰もそんな事、言ってないアル!」
「ウソつけ。ケンカ相手がいなくなるかもしれなくて、それを確かめるためにそいつを探すなんて奴ァ殆どいねェだろうよ。それに」
沖田は神楽に顔を近づけた。
「普通、いなくなるって聞いて、一日中探し回るって言ったら、恋人とか好きな人ってのが定石だろィ」
「わ、わたしはオメーのことなんか……!」
神楽は頬を赤く染めていた。
近づいてくる沖田に何とか抵抗しようと後ずさりする。
「今日はエイプリール・フールだからねィ、今、お前が言ったことは本心じゃねェ、ってことになるぜ?」
神楽は更に後退した、が、ついに追い詰められた。背中に幹がぶつかった。
「俺も、お前が好きなんでさァ」
――今、何て?
「きょ、今日はエイプローン・クールだから、う、嘘アル!」
「エイプリール・フールだからって、ウソ以外言っちゃいけない訳じゃないからねィ。なんなら、証拠を見せてやりまさァ」
そういうと、真剣な眼差しで沖田は神楽に顔近づけてくる。
神楽は反射的に、沖田の顔を両手でパーンと良い音をたてて挟んだ、否、潰した。
「ぶっ!」
「私に手を出すなんて1億年早いアル!」
「騙されてやんの」
「ハァ!?」
「でもパチキ決める前にテメェにやられたのは気に食わねぇなァ」
かぁっと神楽の顔に血が上る。照れなのか怒りなのか。
「もういいアル! お前なんか大嫌いアルっ!」
神楽は木から飛び降りて綺麗に着地すると、あっかんべえをしてから丘を駆け下りた。
また独りになった木の上で沖田は考える。
(どっからが嘘で、どっからが本当だったんだか)
エイプリール・フールなんてなくなればいいのに、とひとりごちる。
「とりあえず旦那をシめねぇと……」
木から下りると、沖田はその歩をかぶき町に向けた。
(了)
2011.4.1 初稿
2021.2.6 加筆修正
2022.2.2 加筆修正
加筆修正が難産だった。
10年近くで文体とかって変わるものですね
Lemon Ruriboshi.
銀時はニヤリとほくそ笑んだ。
「銀ちゃん、何笑ってるアルか?」
神楽はテレビから目を離し、酢昆布をかじりながら銀時に問うた。
丁度良いと銀時は心の中で頭をひねる。と同時に、ある人物が脳裏をよぎった。
「そーいや、沖田くん、真選組辞めて故郷に帰るらしいぞ」
「マジでか」
かかった、と笑いをこらえて銀時は続ける。
「マジもマジの大マジだよォ。あのマヨ副長に聞いたんだからァ」
「決着ついてないのに逃げるアルかアイツ!」
そんなの許さないアル、と神楽は日傘をひっつかみ、万事屋を飛び出して行った、入れ違いにやってきた新八に目もくれずに。
「あれ、神楽ちゃん、どうしたんですか?」
「そんなことより新八、大丈夫か?」
「へ? 何がですか?」
「お通ちゃん、今月いっぱいで芸能界引退するってよ。さっきテレビで――」
「マジっすか!?」
え、ちょっと待ってよ! と叫ぶ新八を見て、銀時はついにこらえきれなくなってだっはっは、と声を上げて笑った。
新八はキョトンと銀時を見る。
「ったく、おめーら本っ当に騙され易いなぁ。そんなに俺、演技上手いか? 新八くーん、今日は“エイプリール・フール”ですよォー」
「……てめェ! 寺門通親衛隊隊長、志村新八をナメんなァー!!」
「おおうっ、俺とやろうてのかィ!?」
しばらくの間、万事屋からの轟音と破壊音は止まなかった。
☆
日傘を差した神楽は真選組の屯所の門前でその向こうを見つめる。
「あれ、万事屋の」
今日の門番らしい山崎が神楽に気づいた。
「おいジミー、ドS野郎はいるアルか?」
「沖田隊長のことですか? 隊長なら、今日は非番なんでさっきどっか出かけましたよ」
「ありがとアル」
焦っても仕方無いことは分かっていた。
が、こうしている内に“奴”が遠くへ行ってしまいそうで。
(何処にいるアルか……)
こんな陽気だ、何処かで昼寝しているに違いない。
神楽は沖田が昼寝していそうな場所を片っ端から探した。
しかし、何処にもいない。
気が付けば夕日で空が赤く染まり始めていた。
屯所で待てばよかったと後悔しつつも、神楽は最後の可能性をかけた丘を登る。
「良い眺めアル……」
頂上に到達すると、眼下に広がる江戸の街を一望できた。
「こっちの方が良く見えますぜィ、譲らねぇけどなァ」
丘の真ん中に立つ木の上から、声がした。
「ようやく見つけたネ!」
神楽は木に手をかける。それを見下ろしながら沖田は尋ねる。
「どうしたんでィ、そんなに汗かいて」
「お前探して、町中歩き回ってたアルヨ」
「俺を?」
意外な答えに、沖田は思わずきょとんとした。
その間に神楽は木を登り終えて沖田の横に座る形で収まる。
登って来ないようにするのを忘れていたことに心の内で舌打ちした。
「なぁオマエ、故郷に帰るって、本当アルか?」
これは違う意味で意外だった。誰だよ、そんな事言ったのは。
「何の話ですかい? 俺ァそんなつもりも予定も全くありやせんぜ?」
「へ?」
「誰がそんな事、言ったんでィ?」
「銀ちゃんアル」
確かに旦那ならこんなウソ言いそうだと沖田は考え、そして氷解する。
「オメー、今日、何の日か知ってんのか?」
「今日? 何の日アルか?」
「エイプリール・フールでさァ。知らねェのか?」
「何だヨ、レイクプール・ヒールって」
無理もない、神楽は天人だ。沖田はため息をひとつつく。
「それこそ何だよ。いいか、エイプリール・フールってのは4月1日、ウソついてもいい日なんでィ」
「じゃあ銀ちゃんは毎日“エイプリール・フール”アルな」
「つまり、旦那はここぞとばかりにお前にウソついた訳でさァ、俺が江戸からいなくなる、ってねィ」
神楽は目を丸くして固まっている。
沖田の言った事を理解しようとしているようだ。
しばらくしてから、
「あの腐れ天パァ! 帰ったら叩きのめしてやるアルゥ!!」
と拳をボキボキ鳴らせた。
そして、神楽が下へ飛び降りようとした時、
「待ちなせェ」
沖田は神楽の腕を掴んだ。
「な、何アルか」
「何でオメー、オレの事をずっと探してたんでィ?」
言える訳がない。お前がいなくなったら寂しい、お前と離れたくない、なんて。
「け、ケンカ相手が居いなくなるのが嫌だっただけアルヨ……! それが何だヨ!?」
「いくらエイプリール・フールだからって、俺は騙されやせんぜ。本当は俺がいなくなると寂しいんだろィ?」
「誰もそんな事、言ってないアル!」
「ウソつけ。ケンカ相手がいなくなるかもしれなくて、それを確かめるためにそいつを探すなんて奴ァ殆どいねェだろうよ。それに」
沖田は神楽に顔を近づけた。
「普通、いなくなるって聞いて、一日中探し回るって言ったら、恋人とか好きな人ってのが定石だろィ」
「わ、わたしはオメーのことなんか……!」
神楽は頬を赤く染めていた。
近づいてくる沖田に何とか抵抗しようと後ずさりする。
「今日はエイプリール・フールだからねィ、今、お前が言ったことは本心じゃねェ、ってことになるぜ?」
神楽は更に後退した、が、ついに追い詰められた。背中に幹がぶつかった。
「俺も、お前が好きなんでさァ」
――今、何て?
「きょ、今日はエイプローン・クールだから、う、嘘アル!」
「エイプリール・フールだからって、ウソ以外言っちゃいけない訳じゃないからねィ。なんなら、証拠を見せてやりまさァ」
そういうと、真剣な眼差しで沖田は神楽に顔近づけてくる。
神楽は反射的に、沖田の顔を両手でパーンと良い音をたてて挟んだ、否、潰した。
「ぶっ!」
「私に手を出すなんて1億年早いアル!」
「騙されてやんの」
「ハァ!?」
「でもパチキ決める前にテメェにやられたのは気に食わねぇなァ」
かぁっと神楽の顔に血が上る。照れなのか怒りなのか。
「もういいアル! お前なんか大嫌いアルっ!」
神楽は木から飛び降りて綺麗に着地すると、あっかんべえをしてから丘を駆け下りた。
また独りになった木の上で沖田は考える。
(どっからが嘘で、どっからが本当だったんだか)
エイプリール・フールなんてなくなればいいのに、とひとりごちる。
「とりあえず旦那をシめねぇと……」
木から下りると、沖田はその歩をかぶき町に向けた。
(了)
2011.4.1 初稿
2021.2.6 加筆修正
2022.2.2 加筆修正
加筆修正が難産だった。
10年近くで文体とかって変わるものですね
Lemon Ruriboshi.