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あれは、月明かりのない夜でしたね。
いつもより帰りの遅い総ちゃんを心配して、
私は家から離れない程度にお迎えに行こうとしました。
……気がつけば、もう少し、もう少しと道を歩いていて、
家は見えなくなっていました。
気味悪くも、総ちゃんが帰ってくるのが心配で、
ただただ、道の先を見つめていました。
そのうちに、えっちらおっちらと、
何かを背負った人が歩いてきました。
誰だろう、とドキドキしながら見ていたら、
それが、眠った総ちゃんを背負った、十四郎さんだと気がつきました。
「十四郎、さん？」
十四郎さんは顔を上げて、でも、一瞬にして逸らされて。
「十四郎さん」
私は駆け寄りました。
少し間をおいてから、
「お宅の沖田先輩、連れて帰ってきました」
と言いました。
その姿が何故か微笑ましくて、思わずクスクスと笑ってしまいました。
一緒に歩き出してみたものの、私と顔を合わせることはなくて。
照れているような様子が可愛らしくて、また小さく笑いそうになった時。
「女が一人、夜道歩くなんて、危ねーぞ」
と、十四郎さんはただ一言、呟きました。
心配してくださったんですね。
「だって、総ちゃんが心配だったんだもの」
私は正直に答えたけれど、十四郎さんのその優しさが嬉しくて。
噛み締めて味わうように口をつむって、最後に空を見上げました。
「あ……」
満天の星空と、私の好きな星が目に映りました。
「どうした」
「いいえ。総ちゃんをお布団に入れたあとに、ゆっくり」
家まであと少し。
十四郎さんに、これ以上負担をかけてはいけないと思ったんです。
総ちゃんをそっと布団に入れたあと、縁側に私と十四朗さんは腰かけました。
「で、さっきはなんだったんだ？」
「あれを見てください」
私はあの星、と指差しました。
それは地平線近くにある、小さな赤い星。
「星がどうしたんだ」
「私の好きな星が見えるんです」
「星なんて色が少し違うだけで、後は同じように光ってるだけじゃねえか」
少しぶっきらぼうに聞こえましたが、私は続けました。
「あの星を“南極老人星”って呼ぶ国があって、この星を見た者は長寿になるというの」
どれあれそれどれ、が続いて、やっと見つけた時。
「あれか。あれがアンタの好きな星なんだな」
嬉しそうな微笑みが、星明かりの中で見えました。
初めて見た、十四郎さんの微笑み。
優しげで、愛しいものを見るような、美しい目。
星空よりも輝いているように見えました。
「でもこんな星、みんな見れたら全員長寿じゃねえか」
「なかなか見られない星なんです。十四郎さん、私たち、長寿になれますね」
私はふふ、と笑うと、十四郎さんは私から顔を逸らして、ああ、とだけ答えました。
その笑みも優しいものでした。
「十四郎さん」
「何だ？」
「また、一緒に見ませんか」
気恥ずかしくなって、最後は消えるようになってしまったけれど。
私は顔をあげてそっと十四郎さんの方を見ました。
「……ああ」
十四郎さんは、しっかりとした声でまっすぐに応えてくれました。
私はもう１度、星空を見上げました。
今は窓に星が光り出す頃。
私はたった今、最後の手紙を書き終えました。
一通目は総ちゃんに、二通目は近藤さんに、最後は十四郎さんに。
一つずつ封をしながら、武州で共に過ごした日々を思い浮べています。
あの日、初めて十四郎さんと星を見た日から、何年経ったのでしょう。
あの日の星空は今も心に焼き付いています。
あの日見たあの星の輝きを今も忘れていません。
そして。
あの時、見つけたのは、それだけではありませんでした。
私は覚えています、あなたが見せてくれたあの表情を。
（了）
2009.12.22 初稿
2021.2.5 加筆修正
2022.2.2 加筆修正
トシミツオンラインアンソロジー企画“To dear you”にて掲載させて頂いた作品。
開催期間が過ぎたのでサイトに掲載。
当初、土方視点で書いて提出する予定だったのが、お題を勘違いしていたのでミツバ視点で書き直し、提出したのがこれ。
この頃、地域の天体観測会に参加していて、物語に登場する星の話題になり。
高校時代の合宿の時に、その星が長寿星だと教えて貰ったことを思い出してミツバさんと繋げた思い出。
因みに、りゅうこつ座のカノープス。
Lemon Ruriboshi.
いつもより帰りの遅い総ちゃんを心配して、
私は家から離れない程度にお迎えに行こうとしました。
……気がつけば、もう少し、もう少しと道を歩いていて、
家は見えなくなっていました。
気味悪くも、総ちゃんが帰ってくるのが心配で、
ただただ、道の先を見つめていました。
そのうちに、えっちらおっちらと、
何かを背負った人が歩いてきました。
誰だろう、とドキドキしながら見ていたら、
それが、眠った総ちゃんを背負った、十四郎さんだと気がつきました。
「十四郎、さん？」
十四郎さんは顔を上げて、でも、一瞬にして逸らされて。
「十四郎さん」
私は駆け寄りました。
少し間をおいてから、
「お宅の沖田先輩、連れて帰ってきました」
と言いました。
その姿が何故か微笑ましくて、思わずクスクスと笑ってしまいました。
一緒に歩き出してみたものの、私と顔を合わせることはなくて。
照れているような様子が可愛らしくて、また小さく笑いそうになった時。
「女が一人、夜道歩くなんて、危ねーぞ」
と、十四郎さんはただ一言、呟きました。
心配してくださったんですね。
「だって、総ちゃんが心配だったんだもの」
私は正直に答えたけれど、十四郎さんのその優しさが嬉しくて。
噛み締めて味わうように口をつむって、最後に空を見上げました。
「あ……」
満天の星空と、私の好きな星が目に映りました。
「どうした」
「いいえ。総ちゃんをお布団に入れたあとに、ゆっくり」
家まであと少し。
十四郎さんに、これ以上負担をかけてはいけないと思ったんです。
総ちゃんをそっと布団に入れたあと、縁側に私と十四朗さんは腰かけました。
「で、さっきはなんだったんだ？」
「あれを見てください」
私はあの星、と指差しました。
それは地平線近くにある、小さな赤い星。
「星がどうしたんだ」
「私の好きな星が見えるんです」
「星なんて色が少し違うだけで、後は同じように光ってるだけじゃねえか」
少しぶっきらぼうに聞こえましたが、私は続けました。
「あの星を“南極老人星”って呼ぶ国があって、この星を見た者は長寿になるというの」
どれあれそれどれ、が続いて、やっと見つけた時。
「あれか。あれがアンタの好きな星なんだな」
嬉しそうな微笑みが、星明かりの中で見えました。
初めて見た、十四郎さんの微笑み。
優しげで、愛しいものを見るような、美しい目。
星空よりも輝いているように見えました。
「でもこんな星、みんな見れたら全員長寿じゃねえか」
「なかなか見られない星なんです。十四郎さん、私たち、長寿になれますね」
私はふふ、と笑うと、十四郎さんは私から顔を逸らして、ああ、とだけ答えました。
その笑みも優しいものでした。
「十四郎さん」
「何だ？」
「また、一緒に見ませんか」
気恥ずかしくなって、最後は消えるようになってしまったけれど。
私は顔をあげてそっと十四郎さんの方を見ました。
「……ああ」
十四郎さんは、しっかりとした声でまっすぐに応えてくれました。
私はもう１度、星空を見上げました。
今は窓に星が光り出す頃。
私はたった今、最後の手紙を書き終えました。
一通目は総ちゃんに、二通目は近藤さんに、最後は十四郎さんに。
一つずつ封をしながら、武州で共に過ごした日々を思い浮べています。
あの日、初めて十四郎さんと星を見た日から、何年経ったのでしょう。
あの日の星空は今も心に焼き付いています。
あの日見たあの星の輝きを今も忘れていません。
そして。
あの時、見つけたのは、それだけではありませんでした。
私は覚えています、あなたが見せてくれたあの表情を。
（了）
2009.12.22 初稿
2021.2.5 加筆修正
2022.2.2 加筆修正
トシミツオンラインアンソロジー企画“To dear you”にて掲載させて頂いた作品。
開催期間が過ぎたのでサイトに掲載。
当初、土方視点で書いて提出する予定だったのが、お題を勘違いしていたのでミツバ視点で書き直し、提出したのがこれ。
この頃、地域の天体観測会に参加していて、物語に登場する星の話題になり。
高校時代の合宿の時に、その星が長寿星だと教えて貰ったことを思い出してミツバさんと繋げた思い出。
因みに、りゅうこつ座のカノープス。
Lemon Ruriboshi.
