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総悟とお前、2人だけにしてやりたくて。

屋上から見た景色には、街の灯りが、星が、
沢山輝いてた。

病院の屋上から星を見上げて、
泣きながら、
お前の名前を何度も、
何度も何度も叫びたかった

……けど

結局俺は何も出来なかった
光は全て、涙に滲んで、眩しくて仕方なかった――




【四葉の白詰草】

 三輪目 交錯




あれから数日。
早川家や店に隊士を遣って護衛にあたらせたが、大きな変化もなく、淡々と時間だけがすぎていった。
諦めたのかもしれないが、念の為気は抜けない。
ある日の空の茜と藍が混じる頃、沖田が屯所に戻ると急ぎ足の山崎に出くわした。

「あ、沖田隊長!」
「どうした山崎」
「あの、万事屋の旦那が来てます。沖田隊長に用とのことだったので沖田隊長の部屋に通しておきました」
「へいよ」

自室に向かい、襖を開けると、

「よお」

と我が家のようにくつろぐ銀時が沖田を迎えた。

「思った以上に早かったですねィ」
「万事屋のモットーは“仕事は迅速かつ正確にこなすべし”でね」

それは初めて知りやしたと沖田は笑う。
さて、と銀時は座り直して胡座をかいた。

「それより、例の件は意外とすぐに分かった。ただ」
「ただ?」
「本当に話しちまっていいのか?」

一呼吸置いて。

「覚悟は出来てまさァ」





「副長!」
「山崎か、入れ」

土方の部屋の襖がそっと開く。

「副長、例の事件のホシ、割れました」
「誰だ」
「“草刈組”、最近出来た集団みたいなんですが」
「どうした?」
「奴らに怪しげな動きが。もしかしたら奴ら、まだ諦めてない可能性が」

その時。
短い警報音の後、スピーカーから近藤の声が屯所に響き渡った。

『全隊士に告ぐ! 至急、会議室に集合せよ! 繰り返す! 全隊士に……』





「すまねぇ、旦那。俺ァ行かなきゃならねぇ」

沖田は傍らに置いていた刀を掴んだ。

「おいおい、肝心の内容、全く話してねぇよ?」
「あれが流れた時はすぐに集合しなきゃならねェんです。申し訳ねェですが、また後で」

沖田が会議室に着いた時には既に多くの隊士が集合していた。
決められた場所に腰を下ろす。

「攘夷志士による誘拐事件が発生した。高額な身の代金を要求している。要求に従わない場合、人質の命は無いと言っている」

微かにざわめきが起こる。
まさか、と土方と沖田の心が焦る。

「ホシと人質は?」
「ホシは草刈組。人質は早川四葉、7歳だ」

嫌な予感は的中した。
どんな場合でも冷静でなければならない。しかし、一般隊士に動揺は隠せても、ゼロにするのは無理な事だった。
こっそりと会議室に侵入していた銀時は土方と沖田の動揺に気づいていた。

「俺が身代金を渡す役を引き受ける」

静まり返った会議室に銀時の声が響く。
土方と沖田は我に返った。

「鞄だが箱だかの中は重さだけ合わせりゃいい。俺がそれを渡すと同時にその子どもを渡してもらう。それを合図にお前らが暴れりゃいい」

正攻法だが、悪くは無い。

「何でテメーがここにいて、そんなこと言い出したかは知らねぇ。テメーに貸し作るのも勘弁したいところだが、そうも言ってられねぇ」

土方は不敵な笑みを浮かべた。

「トシがそういうならそれでいこう! 急げ、出動だ!」

近藤の掛け声を合図に、全員立ち上がった。ばたばたと隊士たちは会議室を出て行く。
そんな中、銀時は土方を呼び止めた。

「報酬か?報酬なら幾らでも」
「ちげーよ。いいか、よく聞け。お前は、俺の近くに隠れてろ。俺が四葉を助け出したら、お前は四葉を連れて逃げろ。俺がお前の分を働いてやる」
「何で俺が! それに何でお前が四葉の事を」

銀時は正面から、土方の胸倉を掴んだ。

「お前が四葉の……!」





パトカーの中で別働隊の山崎から入ってきた情報を整理する。
家の敷地を飛び出した猫を追って門を出たところを拐われたらしい。
加えて護衛の隊士の隙をつくような形だったらしく、手も足も出なかったという。

取引の場所に、時間通り銀時は居た。
犯人グループの後ろに罠で縛られた四葉が見える。

「金は持ってきたろーな……。てか、オメー誰だ?」
「何でも引き受ける万事屋でーす。約束の金を持ってきましたー」

鞄を見せつける。敵は手を伸ばして取ろうとした。

「待て。縄解いた人質と同時に交換だ」
「あ? 何言ってんだテメー! 何様の」
「やめろ。そんな事して俺らに得はねぇよ」

リーダー格の奴がキレた手下を止めた。

「いい度胸してるなァ、兄ちゃん」
「こちとら商売で代行してるもんでね」
「よし、その条件を飲んでやる。おい、娘の縄を解いてやれ!」

縄が解かれ、銀時の目の前に四葉は連れて来られた。
目は潤み、顔に恐怖の情を浮かべている。

「同時だな。もし少しでもおかしなことをしたら、この娘がどうなるか分かってるな?」
「わーってるよ。じゃあ“3、2、1”で同時な」

右手に鞄を、左手を四葉の方に伸ばす。

「「3、2、1……」」

隊士達は息を呑んだ。
銀時が四葉の腕を引き、腰に下げていたはずの木刀が一閃する。

「行けェェェェェ!!」

うおおおおという掛け声が地鳴りのようになって真選組の隊士たちが動き出す。
一安心したのも束の間、白刃が銀時の目に映った。

「貴様ぁあ!」

間一髪で、その刃を木刀で受け止める。
しかし、このままの状態では四葉を守る余裕がない。

「土方ァァァ!」

瞬間、抱えていた四葉が離れるのを感じた。土方が連れて行ったのを確かめると、一気に向けられた刃を薙ぎ払う。

「お前!」
「構うな! さっさと行きやがれ!」

土方は左腕で四葉を抱きかかえ、右手で愛刀を握りしめた。

「どけぇぇぇ!」

気圧された敵が刀を下ろす。

「おじさん! あれっ……!」

四葉は遠くを指差し、さっきよりも更に怯えた表情を浮かべていた。
指差したのは、斬り、斬られる凄惨な修羅世界。

「何も見るな四葉! 目ぇ瞑れ! あれはお前の見るもんじゃあねぇ!!」

土方が四葉を抱き寄せると、恐怖感故か、四葉はひしと土方に抱きついた。
熱い涙が土方の首筋を伝った。

(四葉は、俺が守る)

刃を向ける者がいようと、銃声が響こうと、土方はひたすらに安全な場所を目指した。


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