pkmn
まれに、サトシとピカチュウを自転車に乗ったトレーナーが追い越して行くことがある。
最初は「そんな旅もいいかもしれない」と思ったサトシだったが、やっぱりピカチュウと歩くほうがいいや、ゆっくり歩いた方がポケモンたちと出会いやすいだろうし、と思い直して今に至る。
今日もまた、1台の自転車がサトシとピカチュウを追い抜いて行った。
「ピカピ!」
「どうした? ピカチュウ」
するとピカチュウは走り出し、そしてある場所で突然止まった。
「ピーカ」
ピカチュウが何か咥えている。手を差し出すと、それはコロンとサトシの手のひらに転がった。
「……ルアー、かな?」
「ピカピ、ピッカ! ピカッチュウ!」
ピカチュウは必死で道の先を指差し、何かを訴えている。さっきの自転車がどんどん遠ざかって小さくなっていく。
……そういえば、あの自転車の人とこのルアー、似てないか?
「行くぞピカチュウ!」
「ピッカ!」
全速力で走り出す。しかし、相手は自転車だ。
「すみませーん!」
「ピーカー!」
何度も叫ぶが、なかなか気づいてくれない。そろそろ息が上がってきた。苦しい。これが最後、とサトシは思いっきり叫んだ。
「すみませーん!!」
「ピーカーチューウー!!」
自転車に乗った人が振り返る。サトシとピカチュウに気づいたらしく、向きを変えて戻ってきた。
「あたし?」
「うん、君」
手を膝につき、肩で息をしながらサトシは手をずいっと彼女に突きつけた。
「これ、君の?」
☆
ルアーはやはり彼女のものだった。何かの弾みに落ちたのかも、と彼女は言った。
「ありがとう、これお気に入りのルアーなの」
「お礼ならピカチュウに。見つけたのはピカチュウだからさ」
「ありがとう、ピカチュウ!」
そう言いながら、彼女はピカチュウに手を伸ばした。
「あ……!」
ピカチュウは知らない人に触られるのが嫌いだ。このままだと電撃が……!
「ピィカ!」
「よしよし! 本当にありがとうね、本当に大事なルアーだから助かったわ!」
サトシの心配は不要だった。だが、ちょっと面白くない。
ーー俺の時は散々電撃を浴びせられたのに。
でも、そのピカチュウが心を許したということは、ポケモンの扱いにかなり慣れた人なのかもしれない。サトシはそう思うことにした。
「それにしても、変わってるわね? ポケモンをモンスターボールに入れないなんて」
「よく言われる。でも俺のピカチュウ、モンスターボールに入るの嫌いでさ。だから一緒に同じものを見て、同じものを聞きながら旅してるんだ」
「ふーん。一番の相棒、ってわけね」
「そういう君こそ、変わったルアー使うんだね」
「特製なのよ、と・く・せ・い! こう見えても良く釣れるんだから、この“カスミスペシャル”!」
「カスミスペシャル?」
あっ、と彼女が我に返り、自己紹介がまだだったわね、と笑った。
「あたしはカスミ。君は?」
「俺はマサラタウンのサトシ! ポケモンマスターを目指して、ピカチュウと旅をしてる最中さ!」
(了)
2017.9.4 初稿
2018.6.18 再掲
2022.2.19 加筆修正
キミきめ&サンムーンにカスミとタケシ登場記念で昨年書いたもの。
続きを考えてない訳じゃない(一緒に旅するくらいまで?)んですが、
とりあえずここで締め。
心の余裕と時間が出来たら書いてみようかなぁと。
ゆるーく考えてます。
Lemon Ruriboshi.
最初は「そんな旅もいいかもしれない」と思ったサトシだったが、やっぱりピカチュウと歩くほうがいいや、ゆっくり歩いた方がポケモンたちと出会いやすいだろうし、と思い直して今に至る。
今日もまた、1台の自転車がサトシとピカチュウを追い抜いて行った。
「ピカピ!」
「どうした? ピカチュウ」
するとピカチュウは走り出し、そしてある場所で突然止まった。
「ピーカ」
ピカチュウが何か咥えている。手を差し出すと、それはコロンとサトシの手のひらに転がった。
「……ルアー、かな?」
「ピカピ、ピッカ! ピカッチュウ!」
ピカチュウは必死で道の先を指差し、何かを訴えている。さっきの自転車がどんどん遠ざかって小さくなっていく。
……そういえば、あの自転車の人とこのルアー、似てないか?
「行くぞピカチュウ!」
「ピッカ!」
全速力で走り出す。しかし、相手は自転車だ。
「すみませーん!」
「ピーカー!」
何度も叫ぶが、なかなか気づいてくれない。そろそろ息が上がってきた。苦しい。これが最後、とサトシは思いっきり叫んだ。
「すみませーん!!」
「ピーカーチューウー!!」
自転車に乗った人が振り返る。サトシとピカチュウに気づいたらしく、向きを変えて戻ってきた。
「あたし?」
「うん、君」
手を膝につき、肩で息をしながらサトシは手をずいっと彼女に突きつけた。
「これ、君の?」
☆
ルアーはやはり彼女のものだった。何かの弾みに落ちたのかも、と彼女は言った。
「ありがとう、これお気に入りのルアーなの」
「お礼ならピカチュウに。見つけたのはピカチュウだからさ」
「ありがとう、ピカチュウ!」
そう言いながら、彼女はピカチュウに手を伸ばした。
「あ……!」
ピカチュウは知らない人に触られるのが嫌いだ。このままだと電撃が……!
「ピィカ!」
「よしよし! 本当にありがとうね、本当に大事なルアーだから助かったわ!」
サトシの心配は不要だった。だが、ちょっと面白くない。
ーー俺の時は散々電撃を浴びせられたのに。
でも、そのピカチュウが心を許したということは、ポケモンの扱いにかなり慣れた人なのかもしれない。サトシはそう思うことにした。
「それにしても、変わってるわね? ポケモンをモンスターボールに入れないなんて」
「よく言われる。でも俺のピカチュウ、モンスターボールに入るの嫌いでさ。だから一緒に同じものを見て、同じものを聞きながら旅してるんだ」
「ふーん。一番の相棒、ってわけね」
「そういう君こそ、変わったルアー使うんだね」
「特製なのよ、と・く・せ・い! こう見えても良く釣れるんだから、この“カスミスペシャル”!」
「カスミスペシャル?」
あっ、と彼女が我に返り、自己紹介がまだだったわね、と笑った。
「あたしはカスミ。君は?」
「俺はマサラタウンのサトシ! ポケモンマスターを目指して、ピカチュウと旅をしてる最中さ!」
(了)
2017.9.4 初稿
2018.6.18 再掲
2022.2.19 加筆修正
キミきめ&サンムーンにカスミとタケシ登場記念で昨年書いたもの。
続きを考えてない訳じゃない(一緒に旅するくらいまで?)んですが、
とりあえずここで締め。
心の余裕と時間が出来たら書いてみようかなぁと。
ゆるーく考えてます。
Lemon Ruriboshi.
1/6ページ