YGO
「遊戯さん、遊星」
「どうしたんです、十代さん?」
パラドックスが消滅して、1時間が経った。
デュエルモンスターズの大会は無事に開催され、会場を見渡せる屋上から3人はそれを眺めていたのだが。
突然のキュルキュル、という音と共に、十代が腹を抑えた。
「腹が減ってはデュエルはできぬ、ってね」
十代は照れ笑った。
☆
「ここが俺と相棒オススメのサ店だぜ!」
遊戯、否、闇遊戯に連れられて、やってきたのは童実野町のとある喫茶店。
「メニューは俺と相棒がオススメを注文するぜ」
「え、いいんですか? 楽しみだな!」
「宜しくお願いします」
店のドアを開けると、カランカランと鐘が鳴った。
聞きつけた店員が現れる。
「おかえりなさいませぇ! あ、間違えた、いらっしゃいませ」
「よう獏良! いつものエビフライ定食と、いつものパスタと、いつものモロヘイヤスープセットな!」
「かしこまりました!」
遊戯の知り合いらしいウェイターに案内され、遊星たちは席に着く。
「何で好み知ってるんですか!?」
「デュエリストの勘だぜ、十代」
「しかもかなりの常連さんなんですね、遊戯さん」
「当然だぜ。ここのサ店しか来たことないからな!」
☆
料理が出てくるまでの待ち時間でも、彼らのテーブルの上では言葉とカードが散らばった。
シンクロ召喚という未知の戦略には十代も遊戯も興味津々だ。
「お待たせいたしました!」
盆に乗せられた料理を店員はテキパキと遊星たちの目の前に置いていく。
「さぁ、どんどん食べてくれ! お金はデュエルキングの賞金がたんまりあるからな!」
と遊戯はメニューを開いた。追加を決めているらしい。
「うわぁ、美味そうっ! エビフライが三本もある!」
見たことのないエビフライの量に思わず十代は舌鼓を打った。
「“緑パスタのジェノベーゼ ~薔薇の花びら添えて~”をご注文のお客様!」
そして、遊星の前に運ばれる。
「こっ、これは……!?」
「どうしたんだ遊星?」
「このバジルのパスタ、ソーンウィップに似ている……」
あのデュエルの記憶が蘇る。同時にその痛みをも。遊星は身震いした。
「そ、ソーンウィップ?」
「彼女が俺を調教すると時使う技……、いえ、鞭なんです」
遊戯と十代が瞬間、固まった。
「ゑ、遊星……」
「お前彼女いるのか!」
「あ、はい」
相変わらず固まったままの2人に、遊星は何かマズいことを言ったのかと慌てて言葉を探したのだが。
「ヒューヒュー!」
「古いぜ十代!」
十代が遊星の脇腹をひじでグリグリと、はやしたてるように押しつけてくる。
「でも」
雰囲気が一気に落ちた。エビフライをくわえたまま、喧嘩でもしたのか? と訪ねた。
「最近、分からないんです。付き合うってどういうことなのか」
そう言って窓の外を見る。
「例えば、手を組んで組んで歩かなきゃいけないんだろうか。口づけだとか、夜に抱いたことがなければ、恋人って言えないんじゃないか……?」
十代のエビフライが口から落ちた。
「遊星」
「はい、遊戯さん」
「彼女はどんな人だ?」
「……アキは、赤毛で気が強くて、でも本当は優しくて、笑顔が一番素敵なんです。泣いている時は俺が抱きしめてやりたいくらいで」
「相当ラブラブじゃないか」
遊戯は笑った。
「十分だぜ、遊星」
「十分?」
「あとは相手の気持ちの理解と、自分の気持ちに素直でいれば大丈夫だぜ」
「はぁ……?」
遊星の頭の上に、幾つかのハテナマークが浮かぶ。
「遊星が言う付き合ってるカップルのイメージって、一般論だろ? 彼女がそうしたいのか?」
「あ……」
言われてみればそうだ。アキが嫌がることが出来る訳がない。
「少し考えてみれば分かることでしたね。ありがとうございます、遊戯さん」
遊星が微笑むと、遊戯は頑張れよと微笑み返した。
「そうかぁ、遊星には彼女がいるのかぁ」
唐突に十代が改めて考えるように呟く。
「そう言う十代さんだって、彼女さんいるんじゃないですか? とてもモテそうですし」
「うえぇ!? いや、俺、彼女とかいねぇーよ!」
十代は頭を横に勢いよく振るも、耳まで顔が真っ赤になっていた。
「そう言いながら十代、真っ赤だぜ! 好きな子とかいるだろ?」
「隠し切れてないぞ、十代」
「ゆ、ユベルまで」
「そうですよ、是非教えてください」
そこまで言われちゃ、と十代は口を開いた。
「デュエル強くて……、でもちゃんと芯がある子で。好きと言うか、どちらかと言うと憧れみたいなんと言うか」
「憧れから始まる恋ってのもあるんだぜ、十代」
「そ、そう言う遊戯さんは好きな人いるんですか!」
「俺達は教えたんですからね、遊戯さん」
遊戯はうーんと考えた後、
「好きな人はいないが、タイプはいるぜ!」
と言ってニヤリとした。
「では、遊戯さんのタイプとは!?」
そして遊戯はその鋭くした目を、遠くに向けた。
「漆黒の黒髪で鼻の高い人だ。世界三大美女のひとりで、何より薔薇とゴールドが似合うぜ!」
「それってクレオパトラですね! 遊戯さん」
「さすが遊戯さん。女性のタイプでさえこの世の人ではないですね!」
その頃、遊戯のカードの精霊たちは賑やかで。
「マスターが! あの毒女の牙にやられるっ……!」
「お師匠様。男の子の恋バナって可愛いですね」
「ファラオ―――!!」
後日、デュエルで現れたモンスターたちが意味深な目で彼らを見つめていた、というのはまた別の話。
☆
時空を超えながら、遊星は考えていた。
いつもの仲間たち――特にアキに、どんな顔をして会えば良いのか。
(笑顔で「ただいま!」か……?)
笑顔を作ってみたが、どうにも引きつってしまう。
(なら、「ただいま」で頬にキスするとか?)
何かのドラマにあったハズ、って、何てことを考えてるんだ、と首を激しく振った。
第一、ジャックやクロウもいるのに。
その内に、細く眩しい光が見えた。もうすぐ、故郷だ。
今は帰ることに集中しよう、とアクセルを踏み込む。
そして、一瞬、目が眩む。
遊星号にブレーキとターンをかけて止める。
「ただいま! みんな!」
自然に笑みが出た。
純粋に再会が嬉しかった。
「お帰り! 遊星!」
「お帰り、待ってたよぉー!」
龍亜と龍可が駆け寄ってきた。
遊星は2人の頭を撫でた。
「やったな遊星!」
「お前ならやってくれると思ってたぜ!」
今度はジャックとクロウ。
遊星は2人と拳を合わせた。
そして少し離れたところにアキが立っていた。
遊星が近づこうとすると、背を向けた。肩が小刻みに震えていた。――泣いているんだと分かった。
更に近づいて声をかける。
「無事でよかった……」
嗚咽混じりにそう言うと、アキは遊星の胸に飛び込んだ。
遊星の胸元で、遊星、遊星、とアキは泣き続けている。
遊星は抱きしめた。
「ただいま。アキ」
すると、アキは顔を上げて。
「お帰りなさい、遊星」
と言って、微笑み、顔を遊星に近づけた。
遊星も欲するままに顔を近づける。
「オホン」
「俺達もいるんだが」
「「……はい」」
2人して赤面していると、後ろの茂みから声がした。
「あー、惜しかったな遊星!」
「遊星とアキ、やっぱり恋人らしい恋人だぜ!」
残念だったな、と笑う赤い服の青年、親指を立てグッジョブ! と言いたげな青い学ランの少年。それは紛れもなく。
「遊星! この人……!」
「その、時空を超えた先で会った武藤遊戯さんと遊城十代さんなんだが……。何故この世界に!?」
「赤き竜から降り損ねちゃいました!」
「俺はなんとなく赤き竜に捕まってみて」
「何してるんですか十代さん! 遊戯さん!!」
あと、と十代が付け足す。
「遊星とアキさんのことが気になって!」
遊戯と十代はニヤリと笑った。
==おまけ==
「なあ、俺達がいる間に結婚式挙げようぜ!」
「遊戯さん、ナイスアイデア!」
「「しません!!」」
「ジャック、俺、伝説の方のイメージ変わったわ」
「うむ、俺もだ」
(了)
2011.11.11 初稿
2019.11.26 改題
2022.2.19 加筆修正
mi君様のリクエストより。
没の中から生き残った。原案はシリアスだったはずなのに……
special thanks:加藤氏(ギャグにした張本人)
Lemon Ruriboshi.
「どうしたんです、十代さん?」
パラドックスが消滅して、1時間が経った。
デュエルモンスターズの大会は無事に開催され、会場を見渡せる屋上から3人はそれを眺めていたのだが。
突然のキュルキュル、という音と共に、十代が腹を抑えた。
「腹が減ってはデュエルはできぬ、ってね」
十代は照れ笑った。
☆
「ここが俺と相棒オススメのサ店だぜ!」
遊戯、否、闇遊戯に連れられて、やってきたのは童実野町のとある喫茶店。
「メニューは俺と相棒がオススメを注文するぜ」
「え、いいんですか? 楽しみだな!」
「宜しくお願いします」
店のドアを開けると、カランカランと鐘が鳴った。
聞きつけた店員が現れる。
「おかえりなさいませぇ! あ、間違えた、いらっしゃいませ」
「よう獏良! いつものエビフライ定食と、いつものパスタと、いつものモロヘイヤスープセットな!」
「かしこまりました!」
遊戯の知り合いらしいウェイターに案内され、遊星たちは席に着く。
「何で好み知ってるんですか!?」
「デュエリストの勘だぜ、十代」
「しかもかなりの常連さんなんですね、遊戯さん」
「当然だぜ。ここのサ店しか来たことないからな!」
☆
料理が出てくるまでの待ち時間でも、彼らのテーブルの上では言葉とカードが散らばった。
シンクロ召喚という未知の戦略には十代も遊戯も興味津々だ。
「お待たせいたしました!」
盆に乗せられた料理を店員はテキパキと遊星たちの目の前に置いていく。
「さぁ、どんどん食べてくれ! お金はデュエルキングの賞金がたんまりあるからな!」
と遊戯はメニューを開いた。追加を決めているらしい。
「うわぁ、美味そうっ! エビフライが三本もある!」
見たことのないエビフライの量に思わず十代は舌鼓を打った。
「“緑パスタのジェノベーゼ ~薔薇の花びら添えて~”をご注文のお客様!」
そして、遊星の前に運ばれる。
「こっ、これは……!?」
「どうしたんだ遊星?」
「このバジルのパスタ、ソーンウィップに似ている……」
あのデュエルの記憶が蘇る。同時にその痛みをも。遊星は身震いした。
「そ、ソーンウィップ?」
「彼女が俺を調教すると時使う技……、いえ、鞭なんです」
遊戯と十代が瞬間、固まった。
「ゑ、遊星……」
「お前彼女いるのか!」
「あ、はい」
相変わらず固まったままの2人に、遊星は何かマズいことを言ったのかと慌てて言葉を探したのだが。
「ヒューヒュー!」
「古いぜ十代!」
十代が遊星の脇腹をひじでグリグリと、はやしたてるように押しつけてくる。
「でも」
雰囲気が一気に落ちた。エビフライをくわえたまま、喧嘩でもしたのか? と訪ねた。
「最近、分からないんです。付き合うってどういうことなのか」
そう言って窓の外を見る。
「例えば、手を組んで組んで歩かなきゃいけないんだろうか。口づけだとか、夜に抱いたことがなければ、恋人って言えないんじゃないか……?」
十代のエビフライが口から落ちた。
「遊星」
「はい、遊戯さん」
「彼女はどんな人だ?」
「……アキは、赤毛で気が強くて、でも本当は優しくて、笑顔が一番素敵なんです。泣いている時は俺が抱きしめてやりたいくらいで」
「相当ラブラブじゃないか」
遊戯は笑った。
「十分だぜ、遊星」
「十分?」
「あとは相手の気持ちの理解と、自分の気持ちに素直でいれば大丈夫だぜ」
「はぁ……?」
遊星の頭の上に、幾つかのハテナマークが浮かぶ。
「遊星が言う付き合ってるカップルのイメージって、一般論だろ? 彼女がそうしたいのか?」
「あ……」
言われてみればそうだ。アキが嫌がることが出来る訳がない。
「少し考えてみれば分かることでしたね。ありがとうございます、遊戯さん」
遊星が微笑むと、遊戯は頑張れよと微笑み返した。
「そうかぁ、遊星には彼女がいるのかぁ」
唐突に十代が改めて考えるように呟く。
「そう言う十代さんだって、彼女さんいるんじゃないですか? とてもモテそうですし」
「うえぇ!? いや、俺、彼女とかいねぇーよ!」
十代は頭を横に勢いよく振るも、耳まで顔が真っ赤になっていた。
「そう言いながら十代、真っ赤だぜ! 好きな子とかいるだろ?」
「隠し切れてないぞ、十代」
「ゆ、ユベルまで」
「そうですよ、是非教えてください」
そこまで言われちゃ、と十代は口を開いた。
「デュエル強くて……、でもちゃんと芯がある子で。好きと言うか、どちらかと言うと憧れみたいなんと言うか」
「憧れから始まる恋ってのもあるんだぜ、十代」
「そ、そう言う遊戯さんは好きな人いるんですか!」
「俺達は教えたんですからね、遊戯さん」
遊戯はうーんと考えた後、
「好きな人はいないが、タイプはいるぜ!」
と言ってニヤリとした。
「では、遊戯さんのタイプとは!?」
そして遊戯はその鋭くした目を、遠くに向けた。
「漆黒の黒髪で鼻の高い人だ。世界三大美女のひとりで、何より薔薇とゴールドが似合うぜ!」
「それってクレオパトラですね! 遊戯さん」
「さすが遊戯さん。女性のタイプでさえこの世の人ではないですね!」
その頃、遊戯のカードの精霊たちは賑やかで。
「マスターが! あの毒女の牙にやられるっ……!」
「お師匠様。男の子の恋バナって可愛いですね」
「ファラオ―――!!」
後日、デュエルで現れたモンスターたちが意味深な目で彼らを見つめていた、というのはまた別の話。
☆
時空を超えながら、遊星は考えていた。
いつもの仲間たち――特にアキに、どんな顔をして会えば良いのか。
(笑顔で「ただいま!」か……?)
笑顔を作ってみたが、どうにも引きつってしまう。
(なら、「ただいま」で頬にキスするとか?)
何かのドラマにあったハズ、って、何てことを考えてるんだ、と首を激しく振った。
第一、ジャックやクロウもいるのに。
その内に、細く眩しい光が見えた。もうすぐ、故郷だ。
今は帰ることに集中しよう、とアクセルを踏み込む。
そして、一瞬、目が眩む。
遊星号にブレーキとターンをかけて止める。
「ただいま! みんな!」
自然に笑みが出た。
純粋に再会が嬉しかった。
「お帰り! 遊星!」
「お帰り、待ってたよぉー!」
龍亜と龍可が駆け寄ってきた。
遊星は2人の頭を撫でた。
「やったな遊星!」
「お前ならやってくれると思ってたぜ!」
今度はジャックとクロウ。
遊星は2人と拳を合わせた。
そして少し離れたところにアキが立っていた。
遊星が近づこうとすると、背を向けた。肩が小刻みに震えていた。――泣いているんだと分かった。
更に近づいて声をかける。
「無事でよかった……」
嗚咽混じりにそう言うと、アキは遊星の胸に飛び込んだ。
遊星の胸元で、遊星、遊星、とアキは泣き続けている。
遊星は抱きしめた。
「ただいま。アキ」
すると、アキは顔を上げて。
「お帰りなさい、遊星」
と言って、微笑み、顔を遊星に近づけた。
遊星も欲するままに顔を近づける。
「オホン」
「俺達もいるんだが」
「「……はい」」
2人して赤面していると、後ろの茂みから声がした。
「あー、惜しかったな遊星!」
「遊星とアキ、やっぱり恋人らしい恋人だぜ!」
残念だったな、と笑う赤い服の青年、親指を立てグッジョブ! と言いたげな青い学ランの少年。それは紛れもなく。
「遊星! この人……!」
「その、時空を超えた先で会った武藤遊戯さんと遊城十代さんなんだが……。何故この世界に!?」
「赤き竜から降り損ねちゃいました!」
「俺はなんとなく赤き竜に捕まってみて」
「何してるんですか十代さん! 遊戯さん!!」
あと、と十代が付け足す。
「遊星とアキさんのことが気になって!」
遊戯と十代はニヤリと笑った。
==おまけ==
「なあ、俺達がいる間に結婚式挙げようぜ!」
「遊戯さん、ナイスアイデア!」
「「しません!!」」
「ジャック、俺、伝説の方のイメージ変わったわ」
「うむ、俺もだ」
(了)
2011.11.11 初稿
2019.11.26 改題
2022.2.19 加筆修正
mi君様のリクエストより。
没の中から生き残った。原案はシリアスだったはずなのに……
special thanks:加藤氏(ギャグにした張本人)
Lemon Ruriboshi.