YGO
「はい! ジャック!」
「何だ、これは」
突然遊びに来たかと思えば、差し出された紙袋。
中には見覚えのある服が入っていた。
「まだ持っていたのか」
「だって、ジャックがまたいつ私の家に居候」
「それ以上言うな」
それは嫌な思い出ではないのだが、どうにも思い出すのが憚られる。
「で、何の用だ」
「まあ、いいからいいから、着替えて!」
ほら、と押されてジャックは言われるがままに紙袋を受け取った。
☆
「一緒に見たい映画があるの」
着替えて部屋を出るなり、カーリーは笑顔で言った。
「映画?」
「うん。だって今日は『ロード・オブ・ザ・キング』のアンコール上映の日よ!」
「断る」
横目でチラリとカーリーの顔を見ると、ひどく悲しそうだった。いたたまれない。ジャックは思わず目を背けた。
「完成試写会で記者のお前なら見たハズだろう、何故俺と」
「いいの、ジャックと行きたいの!」
カーリーはガシッとジャックの腕を掴み、ずいと迫る。
そして目をうるうるさせながら「お願い!」と一言加える。
「……そこまで言われたら行かない理由もないな」
「じゃあ!」
「デュエリストに二言はない、行ってやる」
やったー! と小躍りするカーリーに、これが惚れた弱みというやつかとため息をついた。
「どうしたんだ? ジャック」
入れ替わる形で遊星が帰って来た。
そしてジャックとカーリーを交互に見ると、言った。
「へぇ~、デートかよ。お前もやっとその気になったんだな」
「何の話だ!」
「頑張れよ」
「はーい! 頑張りまーす!」
「お前が答えるな、カーリー」
☆
繁華街はとてつもない混みようで、人の流れに流されてしまいそうになる。しかも立ち並ぶ店に思わず気をとられてしまうから尚更だ。
喫茶にブティック、雑貨屋、デュエル用品店やDホイールに関するものを扱う店、デュエリストのファングッズを売る店なんかもある。ここに来れば、何でも揃いそうだ。
ふと見ると、さっきまでいたカーリーがいない。
「ジャック、どこー!?」
どこかで声が聞こえた。声を頼りに声の主を探す。
やっと姿を見つけ、手を伸ばす。
カーリーは気付いていないようだ。
ジャックはなんとかカーリーの手を掴み、引き寄せた。
「ジャック!」
「全く。手間をかけさせるな」
「ごめんなさい」
「さっさと行くぞ」
そう言って掴んだままのカーリーの手を引き、人混みを掻き分けていくのだった。
☆
『そして、ここからジャック・アトラスのデュエルキングの道が始まった』
今更見直したところで何だというのだ、と画面いっぱいに映る自分を見て思った。
カーリー曰く、追加映像があるとかなんとか。だが、事実通りに変更した程度で自分にとっては新鮮な話でもないし、強いて言えば遊星やクロウのインタビューが増えたくらいだろう。
この頃の自分はまだまだ未熟者で、そのくせ傲慢な井の中の蛙だったな、とジャックは思い返す。
こんな醜態を晒すくらいなら撮り直して欲しいくらいだ。
いっそ寝てしまおうか。その前にカーリーの様子を窺っておこう。きっと、呆れ顔で見てるに違いない。
「うっ……! ううっ……!」
ジャックの予想は大いに外れ、目に映ったのは画面を見つめながら泣くカーリーだった。
ジャックが見ていることに気がついていないのか、こちらを見ることもなく、ただただ、涙を流し続けている。
(……この映画のどこで泣けるのだ!?)
どうしたらいいものか。ジャックがそう悩んでいる時だった。
カーリーは眼鏡を外し、ハンカチで涙を拭う。そしてようやく見られていることに気がついたようでそのままジャックの方を見た。
「どうしたの? ジャック」
ジャックの口から言葉が出なかった。
そういえば、カーリーが眼鏡を外した顔をそんなに見たことがないような気がする。彼女がダークシグナーだった時はお互いの生死がかかっていてそんな余裕はなかった。
……こんなに優しい目をしていたのか、いや、知っていたはずだ。
「ジャック、私、何かした?」
「何でもない! 俺は寝る!」
「ええ!?」
☆
「おい、カーリー」
映画の後、再びさっきの大通りに出て2人は少し歩いた。人通りはさっきよりも少し減っただろうか。
「どうしたの?」
ジャックは一件の眼鏡店の前で立ち止まると、カーリーのメガネを外した。
「コンタクトにはしないのか?」
「え?」
瞬間、我に返る。
(見とれていたのか!? 俺は!)
カーリーに眼鏡を押しつけるように返した。
「へ? でもこの眼鏡気に入ってるし、私がコンタクトなんか……」
「好きにしろ」
「ええ!?」
ジャックはフンと鼻をならし、足早にその場を後にする。
「待って!」
カーリーはジャックに走って駆け寄り、勢いのままその逞しい腕に抱きついた。
「ジャックのこと、大好きなんだから!」
☆
「はぁ……、今日も疲れたぜ。でもチームのためだんもんな」
この男、クロウ=ホーガン。
今日も仲間のため、子どもたちのため、身を粉にする男だ。
しかし悲しいかな、この甲斐甲斐しい男に女の影がちらつくことは全くない。
ふと道の傍らで、戯れる男女が目に映った。
「ったく、見せつけんなっつー……」
バックミラーに見覚えのある男女の顔が映った。
「はぁ……」
夕日の中、黒いDホイールを疾走させる男の背中は、どこか寂しかった。
(了)
2012.12.2 初稿
2014.8.2 加筆修正
2022.2.18 加筆修正
初ジャッカリ。超融合アンコール記念。
小説後半が書きたいが為に書き始めたくせに早々に失速。
友人に助けを求め、シーンのリクエストに応えつつ。
ありがとう、加藤。
Lemon Ruriboshi.
「何だ、これは」
突然遊びに来たかと思えば、差し出された紙袋。
中には見覚えのある服が入っていた。
「まだ持っていたのか」
「だって、ジャックがまたいつ私の家に居候」
「それ以上言うな」
それは嫌な思い出ではないのだが、どうにも思い出すのが憚られる。
「で、何の用だ」
「まあ、いいからいいから、着替えて!」
ほら、と押されてジャックは言われるがままに紙袋を受け取った。
☆
「一緒に見たい映画があるの」
着替えて部屋を出るなり、カーリーは笑顔で言った。
「映画?」
「うん。だって今日は『ロード・オブ・ザ・キング』のアンコール上映の日よ!」
「断る」
横目でチラリとカーリーの顔を見ると、ひどく悲しそうだった。いたたまれない。ジャックは思わず目を背けた。
「完成試写会で記者のお前なら見たハズだろう、何故俺と」
「いいの、ジャックと行きたいの!」
カーリーはガシッとジャックの腕を掴み、ずいと迫る。
そして目をうるうるさせながら「お願い!」と一言加える。
「……そこまで言われたら行かない理由もないな」
「じゃあ!」
「デュエリストに二言はない、行ってやる」
やったー! と小躍りするカーリーに、これが惚れた弱みというやつかとため息をついた。
「どうしたんだ? ジャック」
入れ替わる形で遊星が帰って来た。
そしてジャックとカーリーを交互に見ると、言った。
「へぇ~、デートかよ。お前もやっとその気になったんだな」
「何の話だ!」
「頑張れよ」
「はーい! 頑張りまーす!」
「お前が答えるな、カーリー」
☆
繁華街はとてつもない混みようで、人の流れに流されてしまいそうになる。しかも立ち並ぶ店に思わず気をとられてしまうから尚更だ。
喫茶にブティック、雑貨屋、デュエル用品店やDホイールに関するものを扱う店、デュエリストのファングッズを売る店なんかもある。ここに来れば、何でも揃いそうだ。
ふと見ると、さっきまでいたカーリーがいない。
「ジャック、どこー!?」
どこかで声が聞こえた。声を頼りに声の主を探す。
やっと姿を見つけ、手を伸ばす。
カーリーは気付いていないようだ。
ジャックはなんとかカーリーの手を掴み、引き寄せた。
「ジャック!」
「全く。手間をかけさせるな」
「ごめんなさい」
「さっさと行くぞ」
そう言って掴んだままのカーリーの手を引き、人混みを掻き分けていくのだった。
☆
『そして、ここからジャック・アトラスのデュエルキングの道が始まった』
今更見直したところで何だというのだ、と画面いっぱいに映る自分を見て思った。
カーリー曰く、追加映像があるとかなんとか。だが、事実通りに変更した程度で自分にとっては新鮮な話でもないし、強いて言えば遊星やクロウのインタビューが増えたくらいだろう。
この頃の自分はまだまだ未熟者で、そのくせ傲慢な井の中の蛙だったな、とジャックは思い返す。
こんな醜態を晒すくらいなら撮り直して欲しいくらいだ。
いっそ寝てしまおうか。その前にカーリーの様子を窺っておこう。きっと、呆れ顔で見てるに違いない。
「うっ……! ううっ……!」
ジャックの予想は大いに外れ、目に映ったのは画面を見つめながら泣くカーリーだった。
ジャックが見ていることに気がついていないのか、こちらを見ることもなく、ただただ、涙を流し続けている。
(……この映画のどこで泣けるのだ!?)
どうしたらいいものか。ジャックがそう悩んでいる時だった。
カーリーは眼鏡を外し、ハンカチで涙を拭う。そしてようやく見られていることに気がついたようでそのままジャックの方を見た。
「どうしたの? ジャック」
ジャックの口から言葉が出なかった。
そういえば、カーリーが眼鏡を外した顔をそんなに見たことがないような気がする。彼女がダークシグナーだった時はお互いの生死がかかっていてそんな余裕はなかった。
……こんなに優しい目をしていたのか、いや、知っていたはずだ。
「ジャック、私、何かした?」
「何でもない! 俺は寝る!」
「ええ!?」
☆
「おい、カーリー」
映画の後、再びさっきの大通りに出て2人は少し歩いた。人通りはさっきよりも少し減っただろうか。
「どうしたの?」
ジャックは一件の眼鏡店の前で立ち止まると、カーリーのメガネを外した。
「コンタクトにはしないのか?」
「え?」
瞬間、我に返る。
(見とれていたのか!? 俺は!)
カーリーに眼鏡を押しつけるように返した。
「へ? でもこの眼鏡気に入ってるし、私がコンタクトなんか……」
「好きにしろ」
「ええ!?」
ジャックはフンと鼻をならし、足早にその場を後にする。
「待って!」
カーリーはジャックに走って駆け寄り、勢いのままその逞しい腕に抱きついた。
「ジャックのこと、大好きなんだから!」
☆
「はぁ……、今日も疲れたぜ。でもチームのためだんもんな」
この男、クロウ=ホーガン。
今日も仲間のため、子どもたちのため、身を粉にする男だ。
しかし悲しいかな、この甲斐甲斐しい男に女の影がちらつくことは全くない。
ふと道の傍らで、戯れる男女が目に映った。
「ったく、見せつけんなっつー……」
バックミラーに見覚えのある男女の顔が映った。
「はぁ……」
夕日の中、黒いDホイールを疾走させる男の背中は、どこか寂しかった。
(了)
2012.12.2 初稿
2014.8.2 加筆修正
2022.2.18 加筆修正
初ジャッカリ。超融合アンコール記念。
小説後半が書きたいが為に書き始めたくせに早々に失速。
友人に助けを求め、シーンのリクエストに応えつつ。
ありがとう、加藤。
Lemon Ruriboshi.