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YGO

『ご飯にする? オフロにする? それとも……私?』

全く誰が言い出したのか。ベタではあるが、新妻を象徴するこの一言。
笑った記憶のある人もいることだろう。
しかしそれであっても、憧れるものらしい。
やはり言ってみたいと思う新妻が1人、悶々と頬を赤らめて玄関に立ち尽くしていた。
よし、とアキは覚悟を決める。

「お、お帰りなさい! ご飯にする!? オフロにする!? そ、それと……、だめ!」

アキはパチンと頬を叩いた。

「だめだわ、作り笑顔すぎる……」

深い溜め息をついた。
馬鹿馬鹿しいという呆れ、でもやってみたいという興味。
最早さっきの練習が何度目かわからなくなっていた。
というのも、この家で遊星と過ごすのは始めてなのだ。

アキがこの新居に来た晩、遊星は急な仕事で呼び出しされ、そしてしばらく帰って来られないとアキに告げた。
初めての夫婦喧嘩は、ひたすら泣くアキを遊星が何度も「すまない」と詫びて収めた。
アキも旦那の仕事柄を受け止めるのは妻の役目の1つだろうと思い直して、最終的には笑顔で遊星を送り出したのだった。

キッチンからのカタカタという音で、アキは我に返った。慌ててキッチンへ戻り、火を止める。鍋の蓋を開けると、いい具合に煮えたスープが香ばしい匂いをキッチンに広げた。今晩の夕食を遊星はきっと喜んでくれるだろう。
さて、夕飯の支度は済んだ、家中の掃除もした。お風呂も準備出来ている。
それでも何となく落ち着かないアキは家中をうろうろし、ベッドを整えたり玄関を綺麗にしたりとせわしなく動いた。
その間に遊星は帰って来る、そう信じて。

「疲れた……」

思わずアキの口からそう漏れた時、時計は夜の9時を示していた。ソファに体を横たえて携帯端末を見ても、遊星からの連絡はない。

「まだなの? 遊星、今日帰ってくるのよね……?」

涙が一粒、枕代わりにしたクッションにシミを作った。そしてすぐに新しいシミが生まれていく。

「遊星」

そのうちにアキはクッションに顔を埋めて声を殺すように泣いていた。





目に刺さるような光が、アキの目に瞼越しに染みた。
しまった、とアキは飛び起き、時計を見ると8時だった。窓の外の明るさが朝であることを証明している。
泣きながら寝てしまったことにアキは肩を落とすが、すぐに違和感に気付いた。
掛けた覚えのないふわふわな毛布、近くにある人の気配と吐息。

「遊星?」

床に座り、ソファに寄りかかって眠っている。アキは起こさないようにソファを立ち、キッチンへ行くと料理をしたままだったはずが片付いていた。

「全部、遊星が……?」

アキはソファの所に戻ると、眠る遊星に温もりの残った毛布を掛け、そして、

「ありがとう、遊星」

と頬にキスをした。
昔と変わらない寝顔がピクリ、と動く。

「アキ……」
「起こしちゃったかしら?」
「いや、大丈夫だ」

2人して立ち上がると、何かを言う暇もなく遊星はアキを抱きしめた。

「アキ、すまない。昨晩早く帰れなくて。約束を守れなかった」
「仕方ないわ。それに私はもう子どもじゃないもの、我儘言わないわ」
「でも泣いていたんだろう?」
「やだ、なんで知ってるのよ……」
「目が腫れている」

焦るアキの瞼に、遊星はキスを落とす。

「寂しい思いをさせたな……」

それに答えるように、アキは遊星の背に腕を回し、胸元に顔を埋めた。

「まったくよ、新婚の妻を放ったらかしにして仕事なんて」

思い出された寂しさと、今遊星が傍にいる嬉しさで胸がいっぱいになる。熱い雫を受け止めるように、遊星は腕に力を込めた。

「1ヵ月の休みを貰えたんだ」

アキは思わず顔を上げる。

「昨日、ようやく重要な仕事が片付いたんだ」

奥さんを大事にするよう皆に言われたと照れながら付け足すと、ばか、と困ったような笑っているような、そんな顔でアキは呟いた。

「アキ、一緒に居よう。好きな所へ行こう。朝も昼も夜も一緒だ」
「ありがとう、遊星」

愛してる、と2人の声と、2人の口が重なった。

 (了)




2011.5.28 初稿
2014.8.13 加筆修正
2022.2.18 加筆修正

25252番キリリク。甘い遊アキ、というリクエスト。
1ヵ月の新婚生活はご想像にお任せ。
シリアスかでろ甘しか書いてない。書けない。

Lemon Ruriboshi.
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