YGO
アキは迷っていた。手には一枚の紙。
『進路についての希望調査用紙です。必ず提出するように!』
その締切というのが週明けなのだ。
「進路、か……」
両親や教師にはもう相談したが、
『アキが好きなこと、やりたいことをやりなさい』
と言われるだけで終わってしまう。
「やりたいことがわからないから、困ってるんじゃない」
好きなこと――デュエルは迷わずに答えられる。
だが、プロデュエリストになりたいかと言われると即答は出来なかった。
「アキ姉ちゃん!」
声の方を見ると、龍亜と龍可がこちらへ走ってきた。
「アキさんにお願いがあるの」
☆
「遊星の誕生日会?」
「そうなの! 今晩なんですけど」
「アキ姉ちゃんに重要な役割を頼みたいんだ」
「重要な役割?」
「会を開くのが遊星にバレないように、遊星を見張って欲しいんです」
答えは決まっている。
「いいわ。引き受ける」
お安い御用よ、と引き受けた。
――が。
「ゆうせー!」
遊星たちの家のリビングにつくなり、
「アキ姉ちゃんが遊星と2人きりで話したいって!」
と龍亜は遊星に向かって叫んだ。
流石の遊星も目を見開いている。
「待って! 私、そんなこと言ってない……!」
「早く遊星! 部屋で聞いてあげてよ!」
そう言って龍亜は2人を遊星の部屋に閉じ込めたのだった。
龍亜と龍可がガレージへ向かうと、既に準備を始めている面々――ジャック、クロウ、ブルーノがいた。
「龍亜、今のは何だったんだ?」
まずクロウが尋ねる。
「へ?」
「わざとか?」
ジャックも尋ねた。
「なんのこと?」
龍可は1人ため息をついて、今後龍亜に嘘をつかせるのは止めよう、と思ったのだった。
☆
「お、お邪魔します……」
「いや……、汚い部屋ですまない」
2人共、借りてきた猫のように大人しくなっていた。
「それで、話というのは?」
龍亜が勝手に言ってしまったことで、実際にアキには話すことなんてない。
しかし、成り行きの手前、何か話さなくてはとアキは必死に思考を働かせた。
「そうだわ」
「どうした?」
「進路のことなんだけれど……」
☆
「アカデミアではそういったこともするのか。それで、アキはどうしたいんだ?」
「え?」
「これから、アキはどうしたい?」
「私は……」
どうしたい、と言われても。
そのうち、自分の道を選ぶ時が来ることは分かっていた。
けれど、出来るなら。
「皆と、遊星と一緒にいたい」
「それがアキの答えなら、自ずと分かるんじゃないか」
「え?」
「俺や皆のためにアキがしたいと思うことが具体的に考えれば、見つかるんじゃないか?」
皆のため、遊星のために私が出来ること?
「でも」
怖い。しかし何に恐れているのか、アキにはわからなかった。
「どうした?」
「怖いの」
「怖い?」
口を開くのが何だか重かった。言ってはいけないことを言っているような。
「私、アカデミアに通いながら皆といることが、遊星たちといるこの日常が当たり前になっていて、これからも変わらずに続くと思ってた、そんな訳ないのにね」
一言一言をゆっくりと紡ぐアキを遊星はじっと見、続く言葉を待った。
「でも、これからどうなっていくか分からないでしょう? 毎日こうやって会うことはあっても、それぞれ違う道が出来て変わっていくかもしれない。
例えば、龍亜や龍可は留学するかもしれないし、クロウやジャックは旅に出るかもしれない、そのうち、みんなと、遊星と、離れ離れになって」
「アキ」
「私の決断がみんなをバラバラにしちゃうかもしれない……!」
変わっていくことが怖い、決断することが怖い、アキは素直にそう思った。
アキの流れ出るような不安ごと受け止めるように、遊星はアキを抱きとめる。
「ゆうせ……」
「アキ、落ち着け」
遊星の温かさに安心して、アキの目からポロポロと涙が落ちる。
「アキは自分で選んで、自分で決めてきた。だから今ここにいるんじゃないか。間違えたと思っても、アキならその時また新しい選択が出来るはずだ」
そうだった。
私は、ダークシグナーと戦うと決めた時も、ライセンスを取ると決めた時も。
自分で選んで、自分で決めてきた。
「それで俺たちはバラバラになったか?」
「……なっていないわ」
「安心していい。アキの決断でみんながバラバラになることはない。今までそうだったように。たとえバラバラになったと思う日が来ても、俺たちは必ず絆で繋がってる」
――ああ、そうだったわ。
「ありがとう、遊星」
互いの温もりを感じつつ、遊星は思う。
未来未来と連呼して命懸けで闘っていたけれど、自分の未来なんて考えていなかった。
(俺は、どうしたい?)
それぞれがそれぞれの道を進んだ時、俺はどうしたい? どんな姿をしていたい?
ふいに、部屋のドアがノックされる。
「ゆーせー、アキ姉ちゃーん?」
慌てて離れる2人だったが、もう遅かった。
扉の向こうで待つ全員の目に、抱きしめ合う二人の姿が映った。
「あ、えっと」
「お邪魔しましたぁ~」
「お、おい! 誤解だ! みんな!!」
☆
ガレージに下りた遊星は思わず目を見開いた。
いつも過ごしている空間が、いつにもない活気に包まれている。
「遊星、誕生日おめでとう!」
カランとグラスが響く。
そして少し遠くのテーブルに山盛りにされている、ささやかなご馳走。
久々のパーティーに皆、浮かれていた。
「龍亜の唐揚げ、頂きぃ!」
「何すんだよ、クロウ!」
へへっと笑うクロウの顔に嫌味はなく、ただお祭り騒ぎに悪ノリしたようだった。
「クロウ、大人気ないわよ!」
まるで小さな兄弟喧嘩を収めるようにアキは2人をたしなめる。
笑い声絶えぬ祝賀のムードに、いつも不機嫌そうなジャックも、ポーカーフェイスの遊星も、笑っていた。
日が沈んで、空は赤に藍色が混ざり始める。
しかし活気はなかなか冷めず、楽しい時間が過ぎていく。
「そういえば、こんな遅くまでいて大丈夫? 両親は心配しないの?」
ブルーノが龍亜と龍可に尋ねる。
一瞬、寂しそうな顔をするが、しかしそれを跳ねのけるような笑顔で龍亜と龍可は答えた。
「へーきへーき! 俺たちの父さんと母さん、仕事で殆ど帰らないから!」
「え。ごめん、マズいこと聞いたかな……」
謝るブルーノに龍可は答える。
「大丈夫。昔は寂しいこともあったけど、今はみんながいるから寂しくないわ」
そう言うと2人は皆の顔見た。
すると龍亜が、そうだ、と思い出したように言った。
「こうやってみんなと一緒にいると、1つの家族の中にいるみたいだよな!」
龍可も顔を更に明るくした。
「そうそう! ジャックとクロウとブルーノは、本当のお兄さんみたいだし!」
「お兄さん!? 僕が?」
素直に嬉しいらしく、ブルーノが笑顔で自分を指差している。
別の所で話していた他の4人も、視線をこの3人に集中させた。ジャックのフォークからは肉が滑り落ちる。
「うん、ブルーノは兄ちゃんみたい!」
「ありがとう! あれ? でも遊星とアキは?」
すると2人は少し迷ったような顔をした。
「やっぱり、お兄さんとお姉さん、かな?」
「オレは、父さんと母さんみたいに思うことがあるかな!」
瞬間、遊星とアキの顔がみるみるうちに朱くなる。
そんな2人を皆が放っておく訳がなかった。
☆
帰りは随分遅くなってしまい、遊星はアキを自宅まで送り届ける。
自宅の前でDホイールを止めると、遊星はヘルメットを取り、聞いてくれるかと恥ずかしそうにアキに問うた。
勿論とアキはそれに答える。
「今まで人の親になんてなれないと思っていたんだ。俺は実の父親も母親もよくは知らない。だから、父親みたいだと言われて……、正直驚いた」
アキはどんな反応をするだろうか。
遊星は目をアキの方に向ける。アキは微笑んでいた。
「私も。沢山の人を傷つけてきた私が人の親になれる訳がない、そう思っていたわ。でも私にもその資格があるのかなって」
そう笑うアキが愛おしくて遊星はアキの頬に手を伸ばす。
「アキに言いたいことがある」
「なに?」
深い青色の瞳に真っ直ぐに見つめられている。
アキの胸の鼓動は高鳴る一方だ。
「離れ離れになっても絆が俺たちを繋いでくれると俺は信じてる。でも俺は、アキとだけは」
遊星は口を閉ざした。このまま言ってしまって本当にいいのだろうか。アキの未来を狭めてしまうのではないだろうか。
それを察したのか、アキは遊星、と呼んだ。
「きちんと言って欲しいわ、あなたが私にどうして欲しいのか」
深く瞳を見つめられ、遊星はその視線の強さを感じた。そして負けない位にアキの瞳を見つめた。
「ずっと、俺のそばにいてくれ、アキ」
遊星はアキを思いっきり抱きしめた。
アキは少し驚いていたが、すぐに抱きしめ返す。そして遊星の耳元で囁いた。
愛してる、と。
「ああ、俺もアキを愛してる」
☆
月曜日夕方。
アキは遊星たちのガレージにいた。
「進路希望用紙は提出したのか?」
「ええ、勿論」
「やりたいことが見つかったんだな」
「遊星には隠しても分かってしまうのね。私、なりたいものがあるの」
そう言うアキの瞳の奥に不安が見えた。遊星は微笑んで言った。
「アキ、俺は待つ。アキが新しい目標を達成するまでは」
「どういうこと?」
「アキが新しい目標を達成して更に大人になるのを俺は待ってる」
「ありがとう、遊星」
アキは安心したように笑う。
「アキの新しい目標、よかったら聞かせてくれないか?」
新しい目標は2つあった。
1つは具体的な将来の目標。それは例の紙に書いた。
そして、もう1つは理想の将来のアキ自身。
「秘密よ」
(了)
2010.12.13 初稿
2021.2.20 加筆修正
2022.2.19 加筆修正
人生で2作目の遊アキ。
プロポーズする遊星、将来人の親になることへの不安を持った遊星とアキを書きたかった。
ストレートに結婚してくれって言わせて爽やか甘目指したら、遊星が照れるだろう妄想がよぎって、めちゃくちゃ甘くなった。
Lemon Ruriboshi.
『進路についての希望調査用紙です。必ず提出するように!』
その締切というのが週明けなのだ。
「進路、か……」
両親や教師にはもう相談したが、
『アキが好きなこと、やりたいことをやりなさい』
と言われるだけで終わってしまう。
「やりたいことがわからないから、困ってるんじゃない」
好きなこと――デュエルは迷わずに答えられる。
だが、プロデュエリストになりたいかと言われると即答は出来なかった。
「アキ姉ちゃん!」
声の方を見ると、龍亜と龍可がこちらへ走ってきた。
「アキさんにお願いがあるの」
☆
「遊星の誕生日会?」
「そうなの! 今晩なんですけど」
「アキ姉ちゃんに重要な役割を頼みたいんだ」
「重要な役割?」
「会を開くのが遊星にバレないように、遊星を見張って欲しいんです」
答えは決まっている。
「いいわ。引き受ける」
お安い御用よ、と引き受けた。
――が。
「ゆうせー!」
遊星たちの家のリビングにつくなり、
「アキ姉ちゃんが遊星と2人きりで話したいって!」
と龍亜は遊星に向かって叫んだ。
流石の遊星も目を見開いている。
「待って! 私、そんなこと言ってない……!」
「早く遊星! 部屋で聞いてあげてよ!」
そう言って龍亜は2人を遊星の部屋に閉じ込めたのだった。
龍亜と龍可がガレージへ向かうと、既に準備を始めている面々――ジャック、クロウ、ブルーノがいた。
「龍亜、今のは何だったんだ?」
まずクロウが尋ねる。
「へ?」
「わざとか?」
ジャックも尋ねた。
「なんのこと?」
龍可は1人ため息をついて、今後龍亜に嘘をつかせるのは止めよう、と思ったのだった。
☆
「お、お邪魔します……」
「いや……、汚い部屋ですまない」
2人共、借りてきた猫のように大人しくなっていた。
「それで、話というのは?」
龍亜が勝手に言ってしまったことで、実際にアキには話すことなんてない。
しかし、成り行きの手前、何か話さなくてはとアキは必死に思考を働かせた。
「そうだわ」
「どうした?」
「進路のことなんだけれど……」
☆
「アカデミアではそういったこともするのか。それで、アキはどうしたいんだ?」
「え?」
「これから、アキはどうしたい?」
「私は……」
どうしたい、と言われても。
そのうち、自分の道を選ぶ時が来ることは分かっていた。
けれど、出来るなら。
「皆と、遊星と一緒にいたい」
「それがアキの答えなら、自ずと分かるんじゃないか」
「え?」
「俺や皆のためにアキがしたいと思うことが具体的に考えれば、見つかるんじゃないか?」
皆のため、遊星のために私が出来ること?
「でも」
怖い。しかし何に恐れているのか、アキにはわからなかった。
「どうした?」
「怖いの」
「怖い?」
口を開くのが何だか重かった。言ってはいけないことを言っているような。
「私、アカデミアに通いながら皆といることが、遊星たちといるこの日常が当たり前になっていて、これからも変わらずに続くと思ってた、そんな訳ないのにね」
一言一言をゆっくりと紡ぐアキを遊星はじっと見、続く言葉を待った。
「でも、これからどうなっていくか分からないでしょう? 毎日こうやって会うことはあっても、それぞれ違う道が出来て変わっていくかもしれない。
例えば、龍亜や龍可は留学するかもしれないし、クロウやジャックは旅に出るかもしれない、そのうち、みんなと、遊星と、離れ離れになって」
「アキ」
「私の決断がみんなをバラバラにしちゃうかもしれない……!」
変わっていくことが怖い、決断することが怖い、アキは素直にそう思った。
アキの流れ出るような不安ごと受け止めるように、遊星はアキを抱きとめる。
「ゆうせ……」
「アキ、落ち着け」
遊星の温かさに安心して、アキの目からポロポロと涙が落ちる。
「アキは自分で選んで、自分で決めてきた。だから今ここにいるんじゃないか。間違えたと思っても、アキならその時また新しい選択が出来るはずだ」
そうだった。
私は、ダークシグナーと戦うと決めた時も、ライセンスを取ると決めた時も。
自分で選んで、自分で決めてきた。
「それで俺たちはバラバラになったか?」
「……なっていないわ」
「安心していい。アキの決断でみんながバラバラになることはない。今までそうだったように。たとえバラバラになったと思う日が来ても、俺たちは必ず絆で繋がってる」
――ああ、そうだったわ。
「ありがとう、遊星」
互いの温もりを感じつつ、遊星は思う。
未来未来と連呼して命懸けで闘っていたけれど、自分の未来なんて考えていなかった。
(俺は、どうしたい?)
それぞれがそれぞれの道を進んだ時、俺はどうしたい? どんな姿をしていたい?
ふいに、部屋のドアがノックされる。
「ゆーせー、アキ姉ちゃーん?」
慌てて離れる2人だったが、もう遅かった。
扉の向こうで待つ全員の目に、抱きしめ合う二人の姿が映った。
「あ、えっと」
「お邪魔しましたぁ~」
「お、おい! 誤解だ! みんな!!」
☆
ガレージに下りた遊星は思わず目を見開いた。
いつも過ごしている空間が、いつにもない活気に包まれている。
「遊星、誕生日おめでとう!」
カランとグラスが響く。
そして少し遠くのテーブルに山盛りにされている、ささやかなご馳走。
久々のパーティーに皆、浮かれていた。
「龍亜の唐揚げ、頂きぃ!」
「何すんだよ、クロウ!」
へへっと笑うクロウの顔に嫌味はなく、ただお祭り騒ぎに悪ノリしたようだった。
「クロウ、大人気ないわよ!」
まるで小さな兄弟喧嘩を収めるようにアキは2人をたしなめる。
笑い声絶えぬ祝賀のムードに、いつも不機嫌そうなジャックも、ポーカーフェイスの遊星も、笑っていた。
日が沈んで、空は赤に藍色が混ざり始める。
しかし活気はなかなか冷めず、楽しい時間が過ぎていく。
「そういえば、こんな遅くまでいて大丈夫? 両親は心配しないの?」
ブルーノが龍亜と龍可に尋ねる。
一瞬、寂しそうな顔をするが、しかしそれを跳ねのけるような笑顔で龍亜と龍可は答えた。
「へーきへーき! 俺たちの父さんと母さん、仕事で殆ど帰らないから!」
「え。ごめん、マズいこと聞いたかな……」
謝るブルーノに龍可は答える。
「大丈夫。昔は寂しいこともあったけど、今はみんながいるから寂しくないわ」
そう言うと2人は皆の顔見た。
すると龍亜が、そうだ、と思い出したように言った。
「こうやってみんなと一緒にいると、1つの家族の中にいるみたいだよな!」
龍可も顔を更に明るくした。
「そうそう! ジャックとクロウとブルーノは、本当のお兄さんみたいだし!」
「お兄さん!? 僕が?」
素直に嬉しいらしく、ブルーノが笑顔で自分を指差している。
別の所で話していた他の4人も、視線をこの3人に集中させた。ジャックのフォークからは肉が滑り落ちる。
「うん、ブルーノは兄ちゃんみたい!」
「ありがとう! あれ? でも遊星とアキは?」
すると2人は少し迷ったような顔をした。
「やっぱり、お兄さんとお姉さん、かな?」
「オレは、父さんと母さんみたいに思うことがあるかな!」
瞬間、遊星とアキの顔がみるみるうちに朱くなる。
そんな2人を皆が放っておく訳がなかった。
☆
帰りは随分遅くなってしまい、遊星はアキを自宅まで送り届ける。
自宅の前でDホイールを止めると、遊星はヘルメットを取り、聞いてくれるかと恥ずかしそうにアキに問うた。
勿論とアキはそれに答える。
「今まで人の親になんてなれないと思っていたんだ。俺は実の父親も母親もよくは知らない。だから、父親みたいだと言われて……、正直驚いた」
アキはどんな反応をするだろうか。
遊星は目をアキの方に向ける。アキは微笑んでいた。
「私も。沢山の人を傷つけてきた私が人の親になれる訳がない、そう思っていたわ。でも私にもその資格があるのかなって」
そう笑うアキが愛おしくて遊星はアキの頬に手を伸ばす。
「アキに言いたいことがある」
「なに?」
深い青色の瞳に真っ直ぐに見つめられている。
アキの胸の鼓動は高鳴る一方だ。
「離れ離れになっても絆が俺たちを繋いでくれると俺は信じてる。でも俺は、アキとだけは」
遊星は口を閉ざした。このまま言ってしまって本当にいいのだろうか。アキの未来を狭めてしまうのではないだろうか。
それを察したのか、アキは遊星、と呼んだ。
「きちんと言って欲しいわ、あなたが私にどうして欲しいのか」
深く瞳を見つめられ、遊星はその視線の強さを感じた。そして負けない位にアキの瞳を見つめた。
「ずっと、俺のそばにいてくれ、アキ」
遊星はアキを思いっきり抱きしめた。
アキは少し驚いていたが、すぐに抱きしめ返す。そして遊星の耳元で囁いた。
愛してる、と。
「ああ、俺もアキを愛してる」
☆
月曜日夕方。
アキは遊星たちのガレージにいた。
「進路希望用紙は提出したのか?」
「ええ、勿論」
「やりたいことが見つかったんだな」
「遊星には隠しても分かってしまうのね。私、なりたいものがあるの」
そう言うアキの瞳の奥に不安が見えた。遊星は微笑んで言った。
「アキ、俺は待つ。アキが新しい目標を達成するまでは」
「どういうこと?」
「アキが新しい目標を達成して更に大人になるのを俺は待ってる」
「ありがとう、遊星」
アキは安心したように笑う。
「アキの新しい目標、よかったら聞かせてくれないか?」
新しい目標は2つあった。
1つは具体的な将来の目標。それは例の紙に書いた。
そして、もう1つは理想の将来のアキ自身。
「秘密よ」
(了)
2010.12.13 初稿
2021.2.20 加筆修正
2022.2.19 加筆修正
人生で2作目の遊アキ。
プロポーズする遊星、将来人の親になることへの不安を持った遊星とアキを書きたかった。
ストレートに結婚してくれって言わせて爽やか甘目指したら、遊星が照れるだろう妄想がよぎって、めちゃくちゃ甘くなった。
Lemon Ruriboshi.