城之内夢
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「城之内君、顔色悪いよ? 大丈夫?」
城之内が登校してすぐの遊戯がかけた言葉だった。
「あ? そうか?」
「本当よ、風邪でも引いたんじゃない?」
「保健室行った方がいいんじゃねぇか?」
杏子や本田まで言うのだから、相当のようだ。
「平気平気、昼までには良くなんだろ」
と城之内らしい返事で、その場は流れたのだが。
「は!? 倒れた? 克也が?」
放課後、3年生の教室が並ぶ廊下に優利羽の驚きの声が響いた。
「は、はい。さっきの体育の授業中に、急に倒れちゃったんです」
「朝から調子悪そうだったから、心配してたんですけど……。保健室行けって言っても言うこと聞かなくて」
遊戯と杏子の説明を聞くと、優利羽は溜息をついた。
「今はどうしてる?」
「保健室で寝てるんスけど、アイツ、家が家だから帰っても休めないんじゃないかと思って」
「それで僕達、城之内君の幼馴染みの優利羽先輩にならどうしたらいいか教えて貰えると思って聞きに来たんです」
優利羽の家は、城之内の家と近い。幼い頃はよく行き来していた。だから、城之内の家の事情も分かっている。
何かあったらお互い様、遠い親戚より近くの他人。
「わかった、なら――」
☆
城之内の目に、見慣れない天井が映った。
「ここは、どこだ……?」
自分の喉から、か細い自分の声が聞こえた。
ああ、俺、体育の時間に倒れて。保健室に運ばれて、寝て、遊戯と本田に支えられながら帰ってきて……。
そういえば、ふらふらになりながら制服に着替えたような気がする。
ぼうっとする頭で何となく色々と思い出す。
額に貼られた熱冷ましが心地良い。
部屋には人の気配がない、誰もいないのだろうか。
……急に心寂しくなる。
大袈裟だけれど、もし容態が急変して助けを呼んでも、誰も気付かなかったら?
さっきの声じゃ誰も気付いてくれないかもしれない。
このまま死ぬ気すらした。
熱で頭がおかしくなったのか。
異常なまでの寂しさに、恐怖を感じた。
「誰か……、母さん、静香……」
天井に向かって右手をのばす。そして、すぅっと目を閉じた。
自分の母親も妹も、今ここにいるはずがない。
誰がこの手を掴むというのだろう。
腕の力を抜いた、重力に任せて腕を下ろそうと。
(あ、れ?)
手に何かが触れている。
温かい。誰かが、自分の右手を両手で包むように握っていた。
城之内はそっと目を開けた。
「克也?」
「……優利羽?」
丁度入って来たらしい。優利羽の横に置かれた盆には、湯気のたつ粥が一椀。
「何してるの?」
優利羽は城之内の手を握ったまま、ゆっくりと床へ。
「え、いや、別に」
何だか恥ずかしくなって、優利羽がいるのと反対の方向に寝返りを打つ。
「まあ、とにかく。食欲があるなら食べなよ」
そう言って、優利羽は粥を差し出した。
もうそんな時間なのかと時計を見た。夕方6時を回った頃だった。
「そういやここは……」
粥の茶碗を手にしたまま、城之内は尋ねた。
「私の家」
「は? お前ん家!?」
「ああ、安心して。父親も母親も当分は仕事でいないから」
おいおい、それはまずくないか? 風邪ひいてるとはいえ俺、男だぞ?
なんだ? 絶対的信頼か? 或いは男に見られてないってか?
「克也」
「な、何だよ」
「さっき、心細かったんでしょ?」
「え?」
ギクリとした。
そんなこと柄じゃないと思っている城之内からすれば、当てられただけで十分恥ずかしい。
「病気の時、誰かが近くにいないと無性に寂しくなったりするよね」
そういえば、よく風邪ひいてたっけな、優利羽。
「食べたら寝なさいよ。それとも、心細くて眠れないなら子守唄でも歌ってあげようか?」
優利羽はニヤリと、少し小馬鹿にしたように笑う。
「うるせえ、風邪移すぞ?」
「その時は看病よろしくー」
ヒラヒラと手を振って、優利羽は部屋を出て行った。
……全く何考えてんだか。
☆
「すっかり元気になったみたいで安心したよ、城之内くん!」
城之内が再び登校した日、遊戯が嬉しそうに言った。
「よっぽど優利羽先輩の看病が良かったんだなあ、城之内」
本田はニヤニヤ笑っている。
少しムキになって“違う”と城之内は言おうとしたが、
「へっ、何とでも言え」
という言葉に変わっていた。
違うと否定してしまえば、優利羽の看病がなかったことになりそうだと思えた。
「そうだ、今日新しいゲームが入荷するってじいちゃんが言ってんだった! みんな遊びに来ない?」
本田や杏子が賛同する一方で、
「わりィ、遊戯。行きてぇのは山々だが、俺はパスだ」
「え、どうして?」
「優利羽ん家、行かなきゃなんねえんだ」
そう言って城之内は鼻の上を掻く。
「今度は俺が看病する番でさ」
(了)
2009.12.7 初稿
2013.12.12 加筆修正
2022.1.31 加筆修正
2022.2.23 加筆修正
城之内夢2作目、王道の風邪ネタ。
予定外の夢主ツンデレ化。
Lemon Ruriboshi.
城之内が登校してすぐの遊戯がかけた言葉だった。
「あ? そうか?」
「本当よ、風邪でも引いたんじゃない?」
「保健室行った方がいいんじゃねぇか?」
杏子や本田まで言うのだから、相当のようだ。
「平気平気、昼までには良くなんだろ」
と城之内らしい返事で、その場は流れたのだが。
「は!? 倒れた? 克也が?」
放課後、3年生の教室が並ぶ廊下に優利羽の驚きの声が響いた。
「は、はい。さっきの体育の授業中に、急に倒れちゃったんです」
「朝から調子悪そうだったから、心配してたんですけど……。保健室行けって言っても言うこと聞かなくて」
遊戯と杏子の説明を聞くと、優利羽は溜息をついた。
「今はどうしてる?」
「保健室で寝てるんスけど、アイツ、家が家だから帰っても休めないんじゃないかと思って」
「それで僕達、城之内君の幼馴染みの優利羽先輩にならどうしたらいいか教えて貰えると思って聞きに来たんです」
優利羽の家は、城之内の家と近い。幼い頃はよく行き来していた。だから、城之内の家の事情も分かっている。
何かあったらお互い様、遠い親戚より近くの他人。
「わかった、なら――」
☆
城之内の目に、見慣れない天井が映った。
「ここは、どこだ……?」
自分の喉から、か細い自分の声が聞こえた。
ああ、俺、体育の時間に倒れて。保健室に運ばれて、寝て、遊戯と本田に支えられながら帰ってきて……。
そういえば、ふらふらになりながら制服に着替えたような気がする。
ぼうっとする頭で何となく色々と思い出す。
額に貼られた熱冷ましが心地良い。
部屋には人の気配がない、誰もいないのだろうか。
……急に心寂しくなる。
大袈裟だけれど、もし容態が急変して助けを呼んでも、誰も気付かなかったら?
さっきの声じゃ誰も気付いてくれないかもしれない。
このまま死ぬ気すらした。
熱で頭がおかしくなったのか。
異常なまでの寂しさに、恐怖を感じた。
「誰か……、母さん、静香……」
天井に向かって右手をのばす。そして、すぅっと目を閉じた。
自分の母親も妹も、今ここにいるはずがない。
誰がこの手を掴むというのだろう。
腕の力を抜いた、重力に任せて腕を下ろそうと。
(あ、れ?)
手に何かが触れている。
温かい。誰かが、自分の右手を両手で包むように握っていた。
城之内はそっと目を開けた。
「克也?」
「……優利羽?」
丁度入って来たらしい。優利羽の横に置かれた盆には、湯気のたつ粥が一椀。
「何してるの?」
優利羽は城之内の手を握ったまま、ゆっくりと床へ。
「え、いや、別に」
何だか恥ずかしくなって、優利羽がいるのと反対の方向に寝返りを打つ。
「まあ、とにかく。食欲があるなら食べなよ」
そう言って、優利羽は粥を差し出した。
もうそんな時間なのかと時計を見た。夕方6時を回った頃だった。
「そういやここは……」
粥の茶碗を手にしたまま、城之内は尋ねた。
「私の家」
「は? お前ん家!?」
「ああ、安心して。父親も母親も当分は仕事でいないから」
おいおい、それはまずくないか? 風邪ひいてるとはいえ俺、男だぞ?
なんだ? 絶対的信頼か? 或いは男に見られてないってか?
「克也」
「な、何だよ」
「さっき、心細かったんでしょ?」
「え?」
ギクリとした。
そんなこと柄じゃないと思っている城之内からすれば、当てられただけで十分恥ずかしい。
「病気の時、誰かが近くにいないと無性に寂しくなったりするよね」
そういえば、よく風邪ひいてたっけな、優利羽。
「食べたら寝なさいよ。それとも、心細くて眠れないなら子守唄でも歌ってあげようか?」
優利羽はニヤリと、少し小馬鹿にしたように笑う。
「うるせえ、風邪移すぞ?」
「その時は看病よろしくー」
ヒラヒラと手を振って、優利羽は部屋を出て行った。
……全く何考えてんだか。
☆
「すっかり元気になったみたいで安心したよ、城之内くん!」
城之内が再び登校した日、遊戯が嬉しそうに言った。
「よっぽど優利羽先輩の看病が良かったんだなあ、城之内」
本田はニヤニヤ笑っている。
少しムキになって“違う”と城之内は言おうとしたが、
「へっ、何とでも言え」
という言葉に変わっていた。
違うと否定してしまえば、優利羽の看病がなかったことになりそうだと思えた。
「そうだ、今日新しいゲームが入荷するってじいちゃんが言ってんだった! みんな遊びに来ない?」
本田や杏子が賛同する一方で、
「わりィ、遊戯。行きてぇのは山々だが、俺はパスだ」
「え、どうして?」
「優利羽ん家、行かなきゃなんねえんだ」
そう言って城之内は鼻の上を掻く。
「今度は俺が看病する番でさ」
(了)
2009.12.7 初稿
2013.12.12 加筆修正
2022.1.31 加筆修正
2022.2.23 加筆修正
城之内夢2作目、王道の風邪ネタ。
予定外の夢主ツンデレ化。
Lemon Ruriboshi.