Phototaxis
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アフロディが私に接触してきたことは、口止めしておいた。
大事な、ほんとのほんとに大事な試合の前に余計な心配をかけるわけには行かない。
しかもその理由が私の記憶、…トリップのことに関するならなおさらだった。
影山が、鬼道へのアドバイスの件だけでここまで正解に近い推論をたたき出してくるとは予想外だった。
もっと注意して置けばよかった。
なんて後悔したところで未来は変わらない。
だったら、私はやっぱり自分で決めた道を進むしかないのだ。
「…いよいよ始まるんだな、決勝が」
円堂の声に顔を上げる。
いつもと変わらない真っ直ぐな目をしていた。
すぐそこにテレビの向こうで何度も見た景色が広がっている。
雷門イレブンがいて、マネージャーの皆がいて、響木監督が、キャプテンの言葉を聞いている光景。
「皆とこの場所に立てて信じられないくらい嬉しいよ」
私も、私もね、信じられないくらい嬉しいよ。
こうやって皆と同じ場所に居ること。この場所で私も戦えること。
円堂、君のおかげなんだよ
円堂の顔を見つめる。円堂はチームメイト、マネージャーに視線を向けてそれから私を見てにっこりと笑う。
分かってるよ、って言われた気がして気恥ずかしくて私もちょっとだけ笑う。
「俺、このメンバーでサッカーをしてこれて本当に良かった!皆が俺の力なんだ!」
円堂から貰った力、染岡からもらった力、それから半田、マックス、鬼道、秋ちゃん、数え切れないくらい多くの人たち。
みんなから力を貰って私はここにいる。
どれだけ辛いことでも、どれだけ悲しいことがあってもこうして皆が背中を押してくれた。
いつのまにこんな近くに立ってしまったんだろう。
違和感が無いくらいにいつのまにか傍にいて皆で笑ってサッカーしてる。
それが泣きたいくらい嬉しくて、悔しいけれど「雷門イレブンだもんなぁ」なんて思えてしまう。
「さ!まずはアップだ!」
『おぉー!』
皆が各々フィールドに駆けて行く。
ちらりと円堂が自分のバックに目を向けて、それから駆け出そうとする瞬間、突風。
思わず顔を伏せて、それから顔を上げればそこには世宇子中の姿があった。
白を貴重にしたユニフォームに身を包んで、髪をなびかせるアフロディ。
アフロディは円堂を見てふふ、と小さく笑った。
私のことは一度も視界に入れないまま、アフロディはチームの面子に顔を向ける。
世宇子中は皆自信たっぷりに口端を持ち上げ、アップをすることも無くそこに居た。
私は訝しそうな顔をする円堂に声をかける。
「…円堂くん。」
「ん?」
「…いってらっしゃい」
「…ああ!行ってくる!!」
眩しい笑顔を浮かべて円堂は先にアップに向かっていた仲間たちの中に紛れていった。
辛い戦いになる。でも、きっと。
未来を知ってるからとかじゃなくて、心のそこから「雷門なら絶対勝てる」と信じられる。
フィールドに駆け出していったみんなの背中を見て漠然とそう思った。