Phototaxis
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探すまでもなく、円堂は、鉄塔広場に居た。
無事に木戸川との戦いでも勝利したが、これで世宇子中に勝てるのかと、雷門のゴールは俺が守るんだと、そう言ってタイヤを受け止めていた。
重たくて硬いものをはじく音、響く低音が、それがどれだけの質量をもっているのかを物語っている。
(円堂、)
私は吹き飛ばされる円堂に思わず足を一歩踏み出した。
砂を踏みにじる音に円堂が振り向いて、そして固まった。
「え…凪木…?」
「…こんにちは円堂君」
こんにちは、と言うには日が少し落ちてしまっているけど。
そう付け足して笑うと、円堂はポカンとして首をかしげた。
「…いま少し時間…いいかな。」
「!ああ!丁度少し休憩しようと思ってたんだ!」
ニカッとボロボロの顔で円堂も笑った。
* * *
「…すごいね、タイヤ」
「ん?ああこれか。俺ずっとこれで練習してきたからさ、これやってればなんか見つかるかなって思ってさ」
夕日に照らされているタイヤは風を受けて小さく揺れている。
ぶら下がっている枝も、磨り減っていた。
隣に腰掛けた円堂はペットボトルのふたを閉めながら、円堂大介の秘密ノートを眺めている。
「これ、じいちゃんの特訓ノートでさ。ゴッドハンドもこれで学んだんだぜ!」
「見ても良い?」
「ああ!」
手渡されたノートはなるほど全く読めない。
落書き状態の挿絵から辛うじて人の心臓辺りにマークが入っているのが解かる。
文字を上に重ねて書くからこんなに読めなくなるんだよなぁと苦笑した。
「マジンザハンドって言う技なんだ!」
「なんか強そうだね」
「ああ!じいちゃんも完成させられなかった技!これを覚えて世宇子中のボールをとめるんだ!」
そう言って、手のひらを見つめた円堂は小さくため息を零して、思いつめた表情を浮かべた。
私は円堂にノートを返して顔を覗き込んだ。
「…この間の木戸川戦でのゴッドハンド、私びっくりしたんだよ、強くなってたから。」
「え?凪木きてたのか?」
「うん。スタンドにいた。…見てたよちゃんと。すっごいかっこよかった皆。」
「凪木来てくれてたんだな…いつもありがとな」
「…ううん。……私なんて」
「……」
円堂が黙る。
私はベンチの上で膝を抱えた。
「…あのね、円堂、ごめんね」
「…」
「私、世宇子中の試合見て、ちょっとサッカー嫌いになっちゃって」
「……」
「怖く、なっちゃったんだ」
円堂は私の顔を真剣に見てくれていた。
私は視線を上げずに、真正面に伸びる自分の影を眺める。
「でもね、色々考えて、それで皆に迷惑かけて、…木戸川戦を見てね、やっぱり私サッカー大好きだなって」
「…!」
「みんなのするサッカーがね、好きだなぁって思ったんだ。」
私は遠ざけていたつもりだったれど、やっぱり心からサッカーが無くなる事は無くて。
FWの染岡と豪炎寺の真剣な顔も、MFで頑張るみんなの顔も、DFとしてボールを止めようとする皆が、それから、GKしてる円堂が大好きだ。
だから、私はもう迷わなくていいって。
一人で怖がってるならいっそ飛び込んで来いってマックスが言ってくれた。
染岡は私の思うようにすればいいって、ちょっと照れながら言ってくれた。
そしてもうとっくに友達だから一緒に居ていいって、半田が言ってくれた。
だから、もういいよって。
「ずっと答えは出てたんだけれど、やっぱり怖かったんだ。…でもね、もう大丈夫。私、皆と友達になって、心のそこから雷門イレブンのこと応援する。…最後まで、逃げない。私はフィールドに立たないけど、最後まで応援する。
……こんなことを言うのも、わがままなんだけど、私も戦わせて欲しい」
「っ凪木!!」
急に両手を握られた。
びっくりして顔を上げると夕日で照らされてキラキラした笑顔の円堂が居て。
ちょっぴり目じりに涙が浮かんでいる気がした。
「俺、ずっとずっとずーーーーっと待っててよかった!」
「えっ」
「フィールドに立たないとか、ベンチにいないとかそんなの関係ない!凪木!一緒にさ!」
そして一段と大きな声で、円堂は言った。
「サッカー、やろうぜ!」
その言葉で、私はやっと呼吸が出来たって、そう思った。