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「…そういえば…凪木はいないのか?」
「え?凪木ちゃんってだれ?」
鬼道と一之瀬の言葉に数名が固まった。
新たな雷門イレブンとして仲間になった鬼道と一之瀬。
鬼道は、凪木が雷門サッカー部のマネージャーでないことは分かっていたが、転校してきたというのにまだ一度も見かけていないことを疑問に思っていた。
一方突如イレブンの前に現れた帰国子女の一之瀬は初めて聞く名前に首をかしげる。
その名前に固まったのは染岡と半田とマックス。それから円堂だった。
「そういや最近見ないな、凪木元気か?」
「……」
「…あ、あのさ円堂、そのこと、なんだけど」
「?」
円堂は、何故そんなに半田が気まずそうな顔をしているか分からなかった。
* * *
「きてない?」
「もう1週間になる、ずっと来てないんだよ、あいつ」
「風邪じゃないのか?」
風丸が腕を組んで問う。
それもわかんないんだと半田は首を振って返した。
壁にもたれながらそれを聞いていたマックスが、「メールもぜんぜん帰ってこないよ」と投げやりに付け加える。
メール、と聞いて円堂がマックスのほうを見た。
「なんだ、マックス凪木の連絡先知ってるのか」
「うん、勝手に交換した」
「勝手に…って…ふぅんマックス意外とやるタイプ?」
「はは、嬉しくないね」
一之瀬にニヤニヤと言われて不機嫌に返事する。
ごめんごめんと謝る一之瀬にまあどうでもいいけどねとマックスは鼻を鳴らした。
そして「とにかく、凪木は音信不通ってわけ。」と自嘲した。そんな皮肉交じりの笑みに気付かず円堂はぼやく。
「凪木どうしたんだろうな」
不意に鬼道が口を開いた。
「…もしかして」
「?なにか知ってるのか鬼道」
「このあいだの帝国と世宇子の試合…あれが原因かもしれない」
「え?」
何言ってるんだと土門が返した。
すげぇ酷い試合だとは聞いたけど、なんでそれが原因で?と首をかしげる。
そもそも凪木先輩、試合見に行ってたんでヤンスか?栗松の問いに俺から誘ったんだ、と鬼道。
「お兄ちゃんいつの間に…」
「たまたま、だ。…1週間ほど前だったとしたらその可能性が高い。…あれは試合なんてものじゃなかった」
思い出して拳を握り締める鬼道。
その様子を横目で見ていた豪炎寺が「ああ、」と零したのを円堂が「どうした豪炎寺?」と拾う。
「…最初の帝国との試合で、俺は凪木からユニフォームを受け取ったんだ」
「え?」
「あ、それ僕見てた。何か話してたよね二人とも」
豪炎寺と凪木?あまり接点がない気もするがと風丸は腰に手を当てた。
たしかに凪木はどっちかといえば染岡とか半田とかのイメージが強いよな、視線を受けて染岡も半田も目を逸らした。
その態度に円堂は更に首をかしげる。
「…あいつ、あの時俺に『私じゃ何も出来ない、これくらいしかできないから』と…泣いていたように見えた。誰かがけがをしたり…そういうのが苦手なのかもしれない」
「…凪木ちゃんが?」
「凪木さんが…泣く?」
秋と土門が顔を見合わせる。そんなの想像もつかない。
それよりもっと凪木は…、…?
そこでやはり言い淀んでしまった。
首をかしげた秋を横目で見て、一之瀬が言う。
「じゃあ、その凪木ちゃんは世宇子の試合見て、それで来れなくなったってこと?」
「可能性の話だがな」
「…凪木はそんなに弱くねぇよ…ッ!!」
染岡の視線に一之瀬が肩をすくめた。
マックスも半田も何も言わない。
「じゃあ凪木の様子見に行こうぜ!サッカーは本当は楽しいってもう一回教えてやるんだ!」
円堂が立ち上がる。
そんなことしている時間あるの?と一之瀬が言う。
次の試合は木戸川だ。豪炎寺のもともといた学校。
サッカーの強豪で、決して油断できない相手であることは痛いほどわかっている。
「それに、凪木の家知ってるのか?」
「う、それは」
「…凪木ちゃんの友達はどう?」
「家まではしらねぇとよ」
「そんな…」
「…あの」
ずっと黙っていた春奈が小さく手を上げた。
「言っていいのか分からないんですけど…凪木先輩、これ以上誘わないでって…帝国戦のときに」
「…え?」
風丸が瞬きをしながら聞き返した。
春奈は俯いて、少し言葉を選んで顔を上げる。
「先輩私たちとあまり関わりたくないって…ずっとそんな雰囲気でした」
「何言ってるの音無さん…」
「でも、先輩ずっと嫌がってましたよ…!帝国戦のときだって私がお願いしたから来てくれたってだけで…!」
…それって、…だってつまり凪木先輩は俺たちのこと、と小さく宍戸が零した。
それ以上言葉を続けられず言葉を切って俯く。
沈黙する面々。重い空気が流れた。
「…皆さ、気づいてなかったの?」
マックスが口を開く。
「凪木は一年生の頃からずっと僕らを避けてたよ。」
「なっ…」
「う、そ、だろ」
染岡と半田がマックスを凝視する。
風丸と秋も目を丸くしてマックスをみた。
「嘘じゃない。僕わかる、似てるから。凪木は僕らを避けてた」
「…なんで俺たちが避けられてるんだ」
「避けてた…とはちょっと違うかな。凪木はずっと僕らと一線引いてたよ。理由は知らない。僕は凪木じゃないからね。でも、わかるよ。助っ人で入った部活の人たちもあんな感じだから」
そういいながらマックスは興味なさそうに帽子の裾を手にとって弄んだ。
風丸が「そういえば、去年の勉強会で凪木途中で逃げるように帰ったな…」と呟く。
あの時凪木の顔色はとても悪かった。
本人は用事を思い出したといっていたけれど、多分違う。
もしかして、あれも、と呟いた風丸に染岡が声を荒らげた。
「それはもう一年前の事だぞ!!あの時のアイツと今は違うだろうが!!」
「…そうだけど…」
秋が俯く。
再び静まり返るなか、豪炎寺が表情を変えずに小さく零した。
「…つまり、俺たちはだれもあいつのことを知らない、ということか。」
「なんですか…それ……」
そんなことってあるんスかと壁山が問う。
だって、凪木先輩、ずっと来てくれてましたよ!小林がいう。ずっとずっと、俺たちのこと見ててくれたでヤンス、栗松が言った。…俺たちのファン1号、多分凪木先輩ですよね、宍戸が呟く。
「けど、この前の試合は誘っても来なかったんでしょ?」
一之瀬の言葉に鬼道が顔を上げる。
「…?あのとき凪木はスタンド席にいたが」
「え…見に来ていたのか、伊賀島戦」
「なんだお前達、知らなかったのか?」
「ああ、凪木何も言わないから」
「…そうか。」
もしかしたら俺のほうが凪木のことを知っているかもなと微妙な表情を浮かべた鬼道。
けれどそれも凪木のほんの一部。
影野が「凪木さん存在感があるのに、どうして」と背を丸めた。
「…俺、凪木のこと友達だって思ってたのに…」
今まで黙っていた半田が声を震わせる。
「凪木、俺たちのこと嫌ってたのかな…」
「ッ半田!」
染岡が制するように名前を呼んだが、半田も負けじと顔を上げた。
「だってそうとしか思えないだろ!これだけの人数いて、2人しか凪木の連絡先知らなくて!だれもなにも知らないんだぞ!?」
俺だって悔しいよ!と声を張り上げる半田の表情に染岡は俯いた。
見たことの無いほどに悲しそうで苦しそうな顔して半田は染岡を見ている。
言い返す言葉を無くして、染岡は口を閉じた。
…本当に、凪木は俺たちを嫌ってるのか?
思い出す、凪木の顔。
出会った頃の凪木は確かに少し距離感があった。けれどあれはまだ殆ど喋ったことがなかったからじゃないのか?
二年生になったとき、よろしくねと笑った凪木は、本当に嫌ってる奴が出来る顔をしていたか?
帝国戦で叫んでくれた凪木の声。
それから、ベットの上で「よかった」と声を震わせて涙を流していた凪木の顔。
…あれが、本音じゃないなんてありえねぇだろ!
ふいに、円堂が言った。
「俺、凪木が俺たちの事嫌ってるとは思えない」
「円堂…」
「あいつ言ってたんだ、今はまだ迷ってるって。だから答えが出るまで待ってくれって」
それって多分俺たちとどう接するかってことだと思うんだ。
まだ凪木から答えを聞いてない、だから信じる。円堂はそういった。
円堂の言葉に土門が頷く。
「…凪木さん俺に言ったよ、俺たちのファンだって。だから楽しくサッカーしてくれって。…それって嫌いだったらいえないよな?」
「そうですよ!凪木先輩、ふゆかい先生にすっごい怒ってました…!俺たち、かっこいいって、…すごく嬉しかったんですよ!」
「凪木先輩、いつも俺たちのこと見ててくれたッスよ!前より走れるようになったねって、褒めてくれてたッス!」
頷く一年生達。
鬼道が腕を組んで僅かに顔を上げる。
「御影戦の時に、あいつは随分楽しそうに観戦していた。雷門なら勝つと信じていた。…もちろん伊賀島戦の時だってそうだった。」
「秋葉名戸のときもだ。ずっとフィールドを見ていた。お前達のプレイを見て楽しそうだった。」
静かに、それでいて力強い豪炎寺の声。
そうだよ凪木は何か理由があって俺たちと離れようとしてたんだ、と円堂が言う。
「…じゃあ、なんでメール帰ってこないわけ?」
「マックス」
「だって、おかしいよ、僕毎日送ってるのに、返事一回も来てない」
「……」
「前までちゃんと返事返ってきたんだよ」
黙るマックス。
鬼道はどうだと視線を受けて、あとで送ってみようと頷きを返した。
「じゃあ凪木は鬼道にひとまず任せよう。」
さ、とりあえず練習戻ろうぜ!と円堂が努めて明るい声を上げる。
もうすぐ試合なのだ。準決勝の大事な試合だ。
キャプテンの声に各々のメニューへ戻っていく部員達。
その背中を見送りながら半田はため息をついた。
(俺だって、信じたいけど)
初めて凪木と出会ったコンビニ。
寒い冬の日に、にくまんを買い食いしていた凪木。改めて考えるとなかなか凄い出会いだったかもしれない。
あのときは女子が相手で上手く喋れなかったっけ。
けれど、勉強を教えてもらったり授業を受けたり、サッカーの話をしているうちに、不自然さが無くなって、いつの間にか友達になったって…
凪木のこと殆ど知らなくて、それで何かあったのかもしれないのに、なにもできなくて。
なにもさせてもらえなくて、悔しい。
半田は手のひらを眺める。
凪木と一度、ちゃんと話したい。
そう、思った。