Phototaxis
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「佐久間くん」
「…凪木」
凪木は病院に来ていた。
世宇子中との試合でボロボロにされた帝国イレブン、病室の戸を開ければそこには包帯や点滴をつけてベットに横たわる帝国イレブンがいて、凪木は少し目を伏せた。
また、見てるしかできなかった。
「毎日来てくれてありがとな」
向かいのベッドにいる源田が小さな声で言った。
他のイレブンは皆疲れきっているのか、訪室にも気づかないほど静かに眠っていた。
ううん、と首を振る。
源田は、最後までゴールを守ろうとあがいていた。
ボロボロなのに、もう立つのも難しいほど傷ついていたのに、それでもゴールを守ろうとして、そしてゴッドノウズに吹き飛ばされた。
彼は立ち上がることができなかった。
「そもそもお前学校はいいのか?」
「うん、ちょっと今は行きたくなくて」
「サボリ魔」
「あはは…否定できないや」
佐久間は帝国の参謀として、鬼道が怪我でいないチームを引っ張っていた。
何度もボールを奪って回そうと、プレッシャーを掛けに向かった。
けれど、世宇子中は圧倒的だった。
それでも、佐久間は立ち向かった。そして、彼もまた他に伏せた。
「……」
今は寝ている皆。
皆だって、帝国イレブンとして、40年間先輩達が守り続けてきた伝統を、誇りを、守ろうと戦った。
でも、力の差は歴然だった。
与えられた、歪められた力の前で、その誇りも伝統も、そして沢山の期待を終わらせてしまった。
唇を噛む。
悔しかった。
あんな力に負けてしまったことが。
影山のせいで、歪められたことが、皆が傷ついたことが。
それから、見ることしか出来なかった私が。
そして、わかってしまった。
一線を引いたつもりだったのに、いつのまにかそんな線も関係なくなるくらい彼らに近づきすぎてしまっていたことに。
彼らの怪我を、思いを、苦しさを、無視できないくらいに。
そして、私は知っていたのに、覚えていたはずなのに。
気を付けて、と声をかけることだってできたはずなのに。
私は、結局その何一つもやらなかった。
その結果、彼らは夢を砕かれてこうして病院にいる。
……私だってふゆかいセンセーと何も変わらない。
「なんで凪木がそんな顔してるんだ」
「え?」
「…まあそんな奴なんだろうけどな」
「え??」
ベッドの上で佐久間が苦笑する。
どういうことだと源田に視線を移すと、源田も笑っていた。
そして小さく首を傾けて口を開く。
「凪木さんがこうして見舞いに来てくれるおかげで、俺たちも退屈しなくて済んでるって言うことだ」
「…よくわかんない」
「佐久間は分かりにくいからな」
「源田…」
「本当のことだろうが」
仲良さそうな二人に声を出さずに笑う。
最初は2人とも殆ど起きなくて、ずっと寝ていたけれど、ここ何日かは起きてこうして話し相手になってくれている。
核心に触れない気遣いが嬉しくて、ついついきてしまう。
(本当は、)
膝の上で手を握る。
(もう、サッカー見たくないって思うほどに怖いんだけどね)
できるだけ思い出さないようにしていた。
サッカーを見るたびにあの時の地面を抉る音、ゴールが歪む音、それから笛の音が蘇ってきそうで。
(弱いなぁ私)
「……凪木ミカンとって」
「え?あ、うん」
佐久間に言われてかごの中からミカンを取り出した。
源田君は?と聞けば俺はいい、とのことだったので佐久間にだけミカンを手渡す。
ミカンを受け取って、それからじっと私の眼を見た。
そしてため息混じりに笑ってむき始める。
「??」
私、佐久間がもしかしたら一番分からないかもしれない。
みかんを数房ごと口に入れて豪快に食べる佐久間のギャップを眺めながら、私は視線を落とす。
ぶぶ、と携帯が揺れてディスプレイに「マックス」の文字が浮かぶ。
手癖でメールの中身を開けば「早く学校に来ないと赤点取るよ~僕も染岡たちもノートまともにとってないからそのつもりで」なんてふざけ半分の内容。
私はそれに返事をしようと思って、返信ボタンを押してそのまま閉じた。
何も返せない、返す言葉がない。
ただ、あの試合を忘れたくて。
ぼろきれみたいに吹き飛ばされるみんなの姿を忘れたくて。
手の届かないところで傷つく皆をみて、ようやく思い出す馬鹿な自分を許したくなくて。
「凪木」
「ん?」
「学校行けよ」
「――…その、うち」
「……」