Phototaxis
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「なあ何で凪木来なかったんだ?」
移動教室へ向かう途中で半田につかまった。
なんのこと?とトボければ目を細めてあのなーとぶんむくれる。
「この間の伊賀島戦だよ、俺たち待ってたのに」
「…もう待たなくていいよ」
「は?」
「もう、ベンチには行かないから」
「ちょっ、どういうことだよ」
どういうことも、ない。冷たくならないように、でもきっぱり言えるように。
一度頭の中で復唱する。
「ううんと、もともと私ベンチ好きじゃないっていったじゃん」
「なんで?」
「近すぎて皆が見えないから」
「……そういえば前も言ってたな」
「そう、だから。それに私マネージャーじゃないしさ」
ファンが云々とかそういう話はしないでおく。
きっと半田は聞いたら怒るから。
声に抑揚がなくならないように気をつける。
「でもさ、皆待ってるぞ?」
「それでも、だよ」
さ、ほら遅れるよ、半田。
逃げるように私は速度を速めた。
夜。
ベッドの上でゴロゴロしていたらメールがきた。
ディスプレイに表示された名前に固まる。
「『鬼道有人』って…いつのまに」
この間の伊賀島戦でトイレに立った時かもしれない。
知らないうちにアドレス交換されてたのは二人目だ。
(マックス…そういえば前みたいに絡んでこなくなったかも)
私がまた戻るって決めた時からだ。
あのとき驚いていたのは何か気づいたからなのかもしれない。
マックスは空気に敏感だからなと思いながらメールを開く。
絵文字も顔文字もない、ついでに句読点だけはしっかりとついてるメールだった。
『――明日試合があるんだが、観に来ないか。
帝国学園対世宇子中の試合だ。時刻は14:00開場、15:00に試合開始。
チケットはこちらで用意している。帝国のベンチの真上だ。ここならば全体が観やすいだろう。
14:30頃にBゲート前で待っている。
鬼道有人。』
「なんつー鬼道らしいメール。」
メールなんだから名前で〆なくていいんだけどなと思いつつ、対戦相手を思い出す。
自称神の美人さん、アフロディ。神のアクアを飲んでドーピングしている。その実態は影山のプロジェクトZ。
そしてこの試合。鬼道は出ない。そして、帝国は惨敗する。
(そんな試合見に行くのか…)
正直に言うと怖い。
最初の帝国戦、それから地区大会決勝の帝国戦。
誰かが傷つく戦い。
(でも、せっかくいい席とってくれてるし)
いわゆる当たればラッキーな席。
ゴール裏ではないから、両方よく見えるはず。
「折角だから行ってみよう…学校は適当にサボろう」
鬼道に返信を打つ。
誘ってくれてありがとう、と。
送信し終えてため息をつく。
これでよかったんだよね、とほんの少しの後悔が胸をよぎったけれどその理由を探す前に霧散する。
「…明日起きてから考えよう」
寝ることを決めてしまえば、あっと言う間に眠りにつけた。
私は、これを後悔する。