Phototaxis
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あのあと、帝国お抱え医の診察を受け、「土ぼこりで傷ついてるね、もしかしたら視力が落ちるかもしれない」といわれた。
失明はしないだろうけど、しばらく眼帯生活が続くことになった。
それからあの謎の腹痛はボールがぶつかったせいだと思われる。
帰ってから確認したところお腹の横のほうに丸くあざが出来ていた。
多分これ鬼道の蹴ったボールがぶつかったから内出血したんだ。
なにするにも痛むけど死ぬよりはぜんぜん良かったので、むしろ生きてる証みたいになっている。
どーよ、ちょっとかっこいいだろ。
そんな事を考えていたら足をひっかけてよろめく。
「わっ」
「ちょっと大丈夫?」
「う、うん」
「もー気をつけないと」
私は友人と一緒に河川敷に来ていた。
というのも今日は虎丸君(と、弟)の試合があるからだった。
友人に病院に行ってから河川敷に行くと話しをしたら「ひとりじゃ危ないから私も行く」とのこと。
ありがたい話だった。
隣を歩く友人がぼやく。
「しかし凪木が身を張って染岡を助けるなんてねー」
「…大いなる誤解が生じてる気がする」
「そ?」
間違ってないでしょと適当な友人。
ため息をついて、周りに気を配る。
片目が使えないとこんなに不便なんだと改めて感じる。
物は取れないし、零すし人にはぶつかるし、よろめくし。
「ほら、凪木ついたよ」
「ありがとう」
「いえいえ。」
友人に手を引かれて河川敷に降りる。
私の姿を見つけて虎丸君が駆け寄ってきた。
「お姉さ…どっどうしたんですかその目!!」
「やっほ虎丸君、ちょっと名誉の負傷した」
「うそつけ土ぼこりで傷つけたんだろ」
そのうしろから弟がやってきた。
応援でテンションの高い両親から逃げてきたらしい。
両親のテンションは仕方ない、前にいた世界では弟はそんな試合になんて呼んでくれなかったし。
しかも今度は父親の大好きなサッカーだ。
そりゃあんなテンションにもなる。
弟が凄い嫌そうな顔をしてぼやく。
「恥ずかしいから止めてくんねぇかな…」
「あー無理無理。諦めな」
「げぇ…」
「っあああのお姉さん!無理しないでくださいね!!」
「うん大丈夫だよ虎丸君、そんな酷くないから」
「でも…」
「それより折角来たんだからかっこいいところ見せてね!」
「はい!」
目を丸くしたあと、ちょっぴり顔赤くにぱっと笑って虎丸君は頷いて見せた。
それからじゃあ行ってきます!!と深く礼をしてチームメイトの元へ走っていく。
あああああ可愛いよ…!虎丸君…!
打ち震える私に友人の肘が軽く刺さった。
「しょたこんって呼ぶわよ」
「う、それはやめて」
「まあでも気持ちは分かる」
「…しょたこん」
「面食いと言ってちょうだいな」
「それもどうなの」
しかし虎丸君のお姉さん好きがこじれてる気がする。
本気でそろそろどうにかしたほうがいいんじゃなかろうか。
客席(と言っても選手の親ばかりだけど)を見回す。
適当にあいてるスペースを探して座った。
「凪木ほら、虎丸君が手ふってる」
「ん」
ポジションに着いたらしく、虎丸君が顔の横で手を振っていた。
わかってるって、虎丸君FWだもんね。
ちゃんと見てるよ、との意をこめて振り替えすとまた笑って、真剣な表情になった。
弟はMFだったらしく、左サイドバックについている。
(…まあ虎丸君とかFWに回すならあそこが適任だよね)
ピーッ笛が鳴る。
キックオフだった。
敵チームがボールを拙く回す。
普段雷門で見慣れているからちょっと違和感があるけれど、これはこれで何をするか予想できなくて面白い。
(さすがにGKがボールを蹴りにいくなんてことは無いけどね)
弟が走る。
交わそうとする子をブロックする。
プレッシャーに耐え切れなくなった相手の子がパスを出す、
「よしっ」
それをカットして弟がボールをキープした。
「おおー」
「凪木の弟やるぅ」
これはもしかしたら本当に弟の才能かもしれない。
ブロックが上手い。それとドリブルも。
お父さんが興奮で立ち上がったのを母さんが咎めているのを視界の隅で捕らえる。
「いけっ虎丸!!」
高く上がるボール。
ちょっと外れた位置に落下するかと思いきや、虎丸君の素早さとテクニックで上手くカバーされた。
虎丸君の足元にボールが来る。
GKとの1対1。
(虎丸君…)
打たないと。
君はすごくいい位置にいるよ。
ちょっとためらった様子があったあと虎丸君が構えた。
「あれ…」
「え、もしかして」
一瞬虎の咆哮が見えた気がした。
「タイガーッ、ドライブ!!!!」
虎丸君の必殺技が決まった。鋭いシュートがゴールに突き刺さる。
ピピーッという笛の音と共に点が追加される。
わっと歓声があがる。
「…す、ごい」
「あの子もう必殺技打てるの…!?」
生のタイガードライブ。すごかったけど、なんだかすこし威力が物足りないタイガードライブ。
手を、抜いている気がした。
シュートを決めて褒められる虎丸君。照れたように笑っているけれど、なんだかさっき見た笑顔とは少し違うように見える。
そのあと虎丸君は得点を決めることなく、パスを回すだけになってしまった。
(ああ、もしかして最初の必殺技、私と約束したから見せてくれたのかな)
圧勝した虎丸君達のチーム。対戦相手は泣いていた。同じチームメイトたちは笑っていた。