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ふわふわとしていた。
温かかった。柔らかい何かに包まれていた。
明るくて、なんだか嗅いだ覚えのある匂いがする。
なんだっけ。これ。
いやな匂いじゃない。
音がする、布のこすれる音。
遠くで誰かが喋っている気がする。
なんだろう、これ。
ゆっくりと覚醒していく。
なにしてたんだっけ。
さっかー。
しあい、ていこく、きどう、かげやま、それからつちけむりとごうおんと、てっこつ
「…づッ!」
目を開ける。
ズキズキと鋭い痛みが襲う。
やけに視界が悪い。
なん、だ、っけ私、なんでこんなとこに
「凪木?!」
突然声がして光がさえぎられた。
いかつくて怖い顔がドアップで映りこむ。
「そめ、おか……?」
「気づいたのか凪木!」
「…ん…?」
そうだ、染岡に、鉄骨が、落ちてきてそれで。
「そめおか、怪我…は…?」
「あ?してねぇよ、この通りピンピンしてるぜ!」
「……よかった…」
あんなに大量に降ってくるなんて思いもしなかったから。
無事でよかった、そめおか、怪我してなくて、よかった。
よかった…。
安心感で視界が滲む。
染岡がギョッとした表情を浮かべた。
「な、どこか痛いのか?!腹か!?」
「…?(はら…?)いたくな、いよ」
感覚が麻痺してるのか、ただ温かくて柔らかいだけ。
「じゃあ、なんで…」
「…?」
「…あー…いいから拭いとけ!」
布団でごしごし目じりを擦られる。
い、いたい、そっちのほうが痛い染岡
「…え?布団?」
「ああ、帝国の保健室だよ」
「ほけんしつ?…え?」
「覚えてねぇのかよ…帝国戦が始まってすぐ、鉄骨が降ってきたんだよ」
「…」
そう、それで、染岡に直撃したと思って、それで土煙で何も見えなくて、
でも染岡は無事でそれで、よかったっておもって、皆怪我してなくて。
「あ…」
そうだ、それで私に鉄骨が倒れこんできたんだ。
思い出した。
「え、私無事?」
「…見た感じはな、だからさっきから痛くねえかって聞いてるんだろ」
「あそっか」
「……あのなぁ…!」
怒っているのかあきれているのか、多分両方だろうなと思いつつ身体を起こす。
ん、ちょっとおなか痛い?
「…とにかく、凪木が無事でよかったぜ」
「ええと、ごめんありがとう」
「…おうよ」
照れくさそうに笑う染岡。
ちょっくら円堂たち呼んで来ると言って部屋を出て行く。
その背中を見ていて、ようやく左半分に違和感があることに気づいた。
手を持っていくと、布に触れる。
(…眼帯?)
鏡が無いので確かなことは分からないけど、多分眼帯だ。
鉄骨の土煙の中目が痛かったことを思い出して、なんかやらかしてしまったかと思う。
ためしに右目を閉じてみれば真っ暗だった。
ズキズキとした痛みがある。
あんまり酷使しないほうが良さそう。
視線を落として手のひらを見た。すると真っ白な布団の上にジャージが放り投げられているのが見えた。
(あ、これ染岡のジャージだ)
掛けてくれたんだと思って嬉しくなる。
あの匂いは染岡か。
秋葉名戸でジャージを借りたことを思い出す。そうだそれで嗅いだことあったんだ。
(あれからどれくらい経ったんだろう)
まだ帝国だと言っていたし、もしかしたら時間は殆ど経ってないのかもしれない。
まだ、帝国戦間に合えばいいけど。
「――――!」
「…―――?!」
なんだか騒がしい。
扉が開く音と騒がしい足音がして、一斉に人がなだれ込んできた。
一気に騒がしくなった保健室。
「凪木!!」
「えっうわ!!」
オレンジ色にタックルされて私はベッドに倒れこんだ。
お腹がやけにズキズキと痛む、それと枕に沈んだ頭も。
「おい円堂!凪木さんは怪我人なんだぞ!」
「あっそっか!ごめん凪木!!」
風丸の怒った声。
視線を動かすと円堂が申し訳なさそうに笑っている。
大丈夫だよと身体を起こすと満面の笑みを浮かべた雷門イレブンの姿があった。
「あは、勢ぞろいだ」
「何言ってるんだよ、当たり前だろ?」
苦笑する風丸。なんだかボロボロだ。
「せ、せんぱい本当にどこも痛くないですか、大丈夫ですか?!」
「ちゃんと手足あるでヤンスか!?」
「小林くん栗松君、ありがとう。大丈夫だよ。手足もちゃんとある」
「よ、よかったッス…!」
おいおいと泣きながらいう壁山君を宍戸君が慰める。
「まったく心配させるんだから」
「ほんとだよ、倒れる鉄骨の下にお前がいたときマジで心臓止まるかと思った」
「う、ごめん」
マックスと半田に言われて私は固まる。
眉を寄せて怒る半田に風丸がまあまあと笑った。
「凪木さんもこうして目が覚めたんだし良かったじゃないか」
「だって本当にびっくりしたもの」
「ああ、あのとき鬼道が咄嗟に動いてくれなきゃ危なかったよ」
「…鬼道?」
首をかしげる。鬼道が何かしてくれたんだろうか。
ぼそりと声がする。
「…鬼道がボールでお前をふっとばしたんだ」
「…は?」
豪炎寺のほうを見る。
彼は笑っていた。ポケットに手を突っ込んでニヒルな笑みを浮かべている。
それに伴い低い声。
「…凪木さんが下敷きになりそうなのに気づいて、ボールを蹴り飛ばしたんだよ……」
「か、影野くんか…」
「…ふふふ、ここにいるよ」
壁山君の影からのらりと現れる影野くん。
ぞぞぞ、としている一年生達に再びふふふ、と笑う。
「じゃあ私、鬼道に助けてもらったんだ。」
「ああ。」
「そっか、じゃあお礼言わなきゃ」
「―――…やっぱりここにいたのね」
「雷門!」
夏美ちゃんの声がするけれど、皆がいるせいで姿までは見えない。
夏美ちゃんはコホンと咳払いを一つして、それから言った。
「これから写真を撮るからフィールドに集合だそうよ」
「写真?」
「ええ、おおかた明日の新聞に載せるのでしょう。小汚い格好では雷門中学の恥になるから今すぐ身なりを整えてきて頂戴」
……地区予選決勝を、見逃したらしい。
春奈ちゃんとの約束も果たせなかった。
ごめんね、春奈ちゃん…。
写真かー!てれるなぁとかなんとか言って保健室を出て行く雷門イレブン。
円堂がじゃあまたあとでくるからな!といって出て行く。
残ったのは私と染岡。
「…染岡も早くいきなよ、夏美ちゃんに怒られちゃう」
「ん?あぁ…」
なんだ煮え切らない。
ちょっと考えてそれからベッドの上のジャージに視線を落とした。
そうだ、これ返さないと。借りるの二回目だ。
引き寄せて手早くたたむ。
「これ、ありがとう。」
染岡に手渡すと、それでもやっぱり煮え切らない返事を返して受け取る。
…なにか言いたげだけど。
「…なに?どうかしたの?」
「……あンとき」
「ん?」
「お前が声張り上げてくんなきゃ俺もどうなってたかわかんねぇ」
「…!!」
「ありがとな」
耳まで赤くしてそれだけ言い捨てると染岡は脇目も振らず保健室を飛び出していった。
…私が叫んでたの、聞こえてた。
それで、染岡、咄嗟に下がったんだ、だから、怪我しなかった…?
「う…」
どうしよう、すごく、すごく、嬉しい。
じわりと片目だけの視界がにじむ。
私が居たから、染岡が無事だった。
布団ごと膝を抱える。ぽたりと涙が溢れた。
「よ、かった…」
あの時飛び出して、声を張り上げてよかった。
染岡が無事で、皆が無事で、それから試合が出来て、地区予選突破できて、それから私が生きてて。
「よかった…っ!」
布団に水滴が落ちていく。
じんわりと色を濃くして小さくぬらした。