Phototaxis
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「帝国学園についたのはいいけど」
曇天の下にそびえる帝国学園はまるで魔王の城の様な雰囲気をかもし出している。
まあある意味でラスボスがいるんだからあながち間違いでもないんだけど。
問題はそれじゃない。
スタジアムまでの道が分からないのだ。
普段なら校庭でやってるから適当に歩いてたどり着けたのだけれどそうも行かない。
とりあえず中央目指して入ったのはいいけれど、一本道じゃなかったり、曲がっていたり、似たような景色が続いていたりで、自分が今どのあたりに入るのかも曖昧だった。
(ううん、方向音痴ではないんだけど、これは迷う)
おとなしく入り口の警備員に聞けばよかった。
警備員というか、SPぽい人たちだったけど。
そろそろ本気で向かわねば間に合わない。
生徒を捕まえるにしても、生徒の殆どが会場入りしてしまっているのか、無人状態だった。
(えええ本当にどうしよう)
「…お前は」
「?!え、あ、」
声をかけられて振り返ると、ドレッドゴーグルマントのフル装備をした鬼道が立っていた。
顔に何でここに居ると書いてある。まあ確かにそうだろう。
私も知りたい。
「ごめん迷っちゃって」
「今度は迷子か」
「うるさいなぁいいじゃんべつに」
私の言葉に鬼道は一瞬ハッとした顔をしてそれから何故か自嘲したような笑みを浮かべる。
「……観客席か?」
「ううん、ベンチ」
「案内しよう」
マントを翻しながら鬼道が言った。
天の助けだった。
うるさいとか言っちゃってごめん鬼道超助かった。
こっちだという鬼道に小走りで追いつく。
無言の二人、静かな校内?に足音だけが響く。
高い天井に音が反響して自分が宙に浮いているような間隔に陥る。
そういえばこのスタジアムってフィールド浮いてるんだっけ。それもどうなんだろう、危なくないのかな。
興奮した観客が落ちたりとかないのだろうか。
(…あれ?)
ふとおもう。
「なんで鬼道がここに居るの?もうアップの時間じゃないの?」
「……探し物をしていた」
「探し物…(あ、影山の罠のことか)」
そうか、そうだった。試合ぎりぎりまで鬼道はトラップを探してるんだっけ。
鉄骨の罠を。
「…あのとき、お前は言ったな」
「ん?」
「『いつか地獄を見る』と」
「…あぁ……」
あれはちょっとイライラしてたというか。
やたら信号に引っかかってむしゃくしゃしたというか。
なんていうか本当に申し訳ない
「ご、ごめんね、あの時イライラしてて」
「…いや、あながち間違いではなかったからな」
「え?」
「…」
鬼道は黙ってしまった。
間違いじゃないってどういうことだ。今の状態のことを言っているのか。
…もしかしてさっきの自嘲も私の言葉でそれ思い出して笑ったのか。
…やっぱり私は鬼道を傷つけたかもしれない。
「鬼道、本当にゴメン」
「?なぜお前が謝る」
「私本当に酷いこと言った。ごめんなさい。」
「…あのときのことを言っているのか?」
「うん」
「そんなの気にしていない」
「……」
鬼道の表情を見たけれど、ゴーグル越しで目が見えない。
声も平坦で、雰囲気も変わらない。
分からない。
本当に気にしていないのか、隠しているのか。
(影山装備のせいだ。まさかこのゴーグルにそんな役割があるとは思わなかった)
「…なにをジロジロ見ている」
「え、ああ、ごめん」
「…変なやつだ」
「……」
鬼道には言われたくないし、その台詞聞くの二回目だしで複雑すぎる。
徐々に歓声が大きくなり始めて、スタジアムが近いんだなと思う。
鬼道は辺りを見回しながら歩いている。
(少しくらい手伝うべきかな…)
時間を割いてもらってしまった。
少しくらい協力するべきな気がする。
けど、私はただの迷子で、雷門のファンってことになってるし、影山云々知ってるはずも無いので、いきなりそんな話できるはずも無い。
どうしよう、なんかいい方法ないかな?
考える。
そして。
「…鬼道、私占いが得意でね」
「?」
「鬼道の探し物、見つける手伝いできるかもしれない」
「…悪いが俺は占いを信じない」
「…鬼道の探しものは、今後を大きく左右するほど大事なもの」
「!」
脳内会議の結果、私はちょっと電波になることにした。
スタジアムの中から聞こえる声が少し五月蝿い。
けれど鬼道だけに聞こえるほどの大きさに調節しやすくて助かる。
「…それも早く見つけないと困る」
「わかるのか」
「占い得意だから」
「…それで、それはどこにある」
切羽詰った声になる。
占いなんて信じていないけど話を続けろというのは、それだけ焦っているっていうことだ。
でもそんな時間を使ってまで私を案内してくれた。
「…それは隠されてない」
「…」
「時間が来ると現れる」
「…」
「けれど、現れると結構困る」
「…」
「…夕立みたいに。…突然。」
「…ゆうだち…?」
「探し物への道しるべはもうすぐ現れる…って。」
「…それで終わりか?」
「うん。…どう?役に立ちそう?」
だいぶ占いっぽい感じで言えただろうか。
というか、混乱させてないだろうか。
眉間に皺を寄せている鬼道を見つめる。
「夕立…隠されていないだと…?空…雲か……?」
「ごめん、混乱させた?」
「いや、何かのヒントなんだろう。…お前の占いが当たるならな」
「結構当たるよ」
「そうか」
階段を上ると一気に開ける。
わっと音が大きくなってそこはもうスタジアムの中だった。
「凪木!」
「凪木、…ってなんで鬼道と居るんだ?」
染岡と円堂が駆け寄ってくる。
迷子になったと言えば「お前でも迷うんだなここ、」と染岡がぼやく。
そりゃあ迷いますよ。人間だもの。
振り返って鬼道にお礼を言おうとしたら、鬼道は既に帝国のベンチに座っていた。
口パクでお礼を言ったが多分見えてない。
しかたない、あとでちゃんとお礼を言わないと。
「凪木ぜんぜん来ないって思ってたんだよ」
「ごめんごめん。頑張ってね二人とも」
「おう!」
「あたりまえだ!」
そう言って再びフィールドに戻っていく二人を見送ってベンチに近寄る。
そこには暗い顔をした春奈ちゃんと心配そうな秋ちゃん、それから帝国スタジアムを眺める夏美ちゃんがいた。
私の落とした影に気づいて春奈ちゃんが顔を上げる。
「凪木先輩…!」
「約束どおりきたよ」
「ありがとうございます…」
「ここ、座っていい?」
春奈ちゃんと秋ちゃんの間に開いたスペースに座る。
顔を見ればやっぱりヘタな笑顔を浮かべていた。
「凪木ちゃん来てくれたのね」
「うん、約束したから」
「凪木ちゃんがここにいてくれると頼もしいや」
えへへ、とわらう秋ちゃんは相変わらず超天使だった。