Phototaxis
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「あなたそれでもオトナなんですか」
「……」
「犯罪ですよ」
ふゆかいセンセーが逃げてきた。
多分夏美ちゃんがクビを宣言した後だろう。
このタイミングでエンカウントしたってことは土門も裏切っているんだと言い捨ててきたんだと思う。
きっと今頃円堂たちが土門を追いかけてくれているはず。
…そんな事より。
私は言いたいことがある。
自分のためなら平気で子供の命を脅かすコイツに。
「子供を守るのが、子供を育てるのが、大人の責任で教員の勤めなんじゃないんですか?出世のためなら、気に入られるためなら、平気でその命を、安全を脅かすことができるんですか?私はあなたを軽蔑します。……最低です。」
「……」
苦虫を噛み潰したような顔で、ふゆかいセンセーは私を見ている。中学生にこんなことを言われてどんな気持ちなんだろう。
少しでも後悔してくれるだろうか、それともガキが分かったようなことを言う、とでも思っているのだろうか。
……どちらにしても、私はこの人に後悔してほしいと思っている。
そして、…………罰を受けて欲しいとも。
社会人なら、大人なら当然のことだと思うし、ましてやこのセンセーがやったことは殺人未遂だ。
だから。……だから私は。
「……最低」
「……!お、お前に何がわかる!ただのガキのくせに!あのお方に破滅させられるかもしれない……私の気持ちが!!」
「わかるわけないでしょう!わかりたくもない…っ」
どうして、どうしてそんなことが言えるんだ。
大人のエゴで、大人の都合で、子供の夢を砕いてしまうんだ。
私は、そんな人の気持ち分かりたくもない。
ここの奥底で何かが蠢いている。
どろりとした、ヘドロのような何かが息をする。どくり、どくり、鼓動が渦になって私の思考を、喉を、目の奥を侵略してくる。
私の心の奥でずっと眠っていた感情の塊が、私を支配しようとしている。
止めなきゃ、と思うのにこの激情を止められない。
次から次へと言葉が溢れて脳を掠めていく。
「私は……貴方みたいな人が大嫌いだよ…ただ…土門も円堂たちも、それから鬼道だって……みんなサッカーが好きなだけじゃないですか…」
好きだと言う純粋な気持ちを、笑って踏み躙るのはそんなに楽しいのか、そんなことをして何になる。
熱くなって震えた喉を誤魔化したくて私は口を閉じた。
こんな、こんなことを言いたくて待ってたわけじゃない。
この世界にきたわけじゃない。
……こんなことがしたくて生きてるわけじゃないのに。
「君が思うほど世界は綺麗事ばかりでできてるわけじゃない、誰がやらなければならないことだってある、そのチャンスを掴めるかどうか、それがオトナなんだ、私はそれを」
掴むんだ、とふゆかいセンセーは言って踵を返した。私の発言なんてとるに足らない、会話をするつもりすらないらしい。
返したその足でそのまま影山の元に向かうんだろう。くたびれたそのスーツジャケットに私は吐き捨てる。
「2度と、彼らの前に現れるな!…この…クズっ……」
まだ言い足りなかった言葉が、私の中に積もったヘドロのような感情が口をついて飛び出したがっていたけれど、グッと堪えた。
何を言っても無駄なのだ、だって彼はハナから私と向き合ってくれていない。子供だからって。興味がないんだ。
「……最低なクズ野郎」
吐き出せなかった熱が、抗議するように視界をにじませてくる。飲み込みきれなかった言葉が脳を焼いて繰り返される。
行き場のない感情はぐるぐると渦を巻いて私の中で暴れている。
は、と吐き出した息がとても熱い。
「……サイテー、だよ。ほんとに……」
「……凪木」
「!!」
急に名前を呼ばれて私は振り返った。
そこには半田と一年生たちがいた。草むらに隠れていたのか、その頭に葉っぱがついてしまっている。
今の見られた。
慌てて顔を振ると、半田たちは茂みから出てきた。
その表情はまさに「おずおず」といった様相で、栗松くんは私と目が合うと光の速さでその目を逸らした。
「……あー…えっと」
気まずさで声を出したのは、私。
「ちょっと……言いすぎちゃった」
「そ、そんなことないッス!!」
そういって壁山は身を乗り出すと私の顔を見た。
ちょっと泳いでいるけど、それは私にかける言葉を探しているからだと直感的に分かった。
その言葉を待っていると壁山は「お、オレうれしかったんッス」としどろもどろになりながら口にする。
「凪木さんが怒ってくれて…その、なんていうか…安心した……って感じで」
「……」
「うんうん!わかる!俺も!なんていうかスッキリした、っていうか!!」
宍戸君も大きく頷いて笑みを浮かべる。
なんて返すのが正解なのか言葉を見つけられない私に、半田が言った。
「凪木、俺たちの代わりに…怒ってくれてありがとな」
「――……」
どうしてそうやって笑えるんだろう。
どうして、そんなことが言えるんだろう。
暴れていたドロドロとした感情がいき場を無くして口をついて出そうになる。
そんなことをごちゃごちゃと考える私と、笑みを浮かべて私の肩を叩く半田、それからありがとうございます!!と口々にいう一年生たち。
そのまぶしさに、自分がもっと苦しくなって、私は適当に場をごまかしてその場を立ち去った。
どんな会話をしたのかなんて覚えてない、どんな顔をして別れたのかも覚えてない。
ただ、自分のことがものすごく大嫌いだ、とおもったことだけは覚えている。