Phototaxis
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「秋葉名戸?来なくて良いよ別に」
「なにそれ」
「だってすっごい弱そうだったもん」
そんな会話を教室でマックスと繰り広げて、私は今回用なしのようなので、おとなしく本でも読もう。
帰り道の本屋で本を探していたら見慣れた白いツンツン頭を見つけた。
「豪炎寺くん?」
「?ああ、凪木」
(絵本…)
手の中に絵本を見つけて私は少し目を細めた。
間違いなく夕香ちゃんの本だ。
松葉杖をつきながら本を運ぶのは大変そうだったのでそれを取った。
「手伝うよ」
「いいのか」
「うん、私も本買うところだったから。」
一緒に会計を済ませて本屋を出る。すると豪炎寺が少しいいかとファーストフード店を指差した。
特に急ぎの用もなかったので頷いて後を着いていく。
イチゴシェイクを頼んで席に座る。
豪炎寺はオレンジジュース。なんか子供っぽくてこっそり笑った。
「足の具合はどう?」
「次の試合には出れなさそうだ」
「そっかぁ」
やっぱり豪炎寺抜きで戦うのか。
ずずず、シェイクを飲む。うむ。久しぶりに飲むと美味しい。
ところで用ってなんだろうか。
「凪木はサッカーが好きなんだな」
「…?うん、好きだよ」
「プレイはしないのか?」
「ええ?しないよ…運動苦手だし。どっちかというとみてる方が好きなんだ」
「ふ、なるほどな。……円堂たちもそれで見てたのか」
「まあ…大体そんな感じかな」
「最近のあいつらのことどう思う?」
「うーん。すごい上達しててびっくりしてる。ほら、雷門って結構攻撃的なサッカーをするタイプだと思うんだけど……みんなよくボールをカットして回せてるな…って……」
はっ、喋りすぎた!
そう思って顔を上げると、豪炎寺はじっと私を見ながら頷いていて、その口元には笑みが浮かんでいる。
うわあ、豪炎寺イケメン…じゃなくて、エースストライカーになにを分かった風な口をきいてるんだろう!!
「いやごめんなんでもない」
「なんでだ、別に変なことは言ってない」
「……いや、なんかほら…プレイしてるわけでもないのに偉そうだったなって」
「なんだそれ」
そういって苦笑する顔は年相応の男の子で、オレンジジュースといい、大人びてはいるけどちゃんと中学生なんだなと思った。
「ところで次の試合応援に来てくれるのか?」
「それがマックスに来なくていいよと言われてね」
「…なんだそれ」
「さあ…なんか弱そうだったって言ってた。」
「……あいつら…」
眉間に皺を寄せる豪炎寺。
まぁその気持ちは分かる。次は予選大会準決勝だ。
そんなのでどうするといいたいんだろう。
しかしその眉間のシワはいただけない。
「えい」
「!?な、なんだ突然」
「皺寄ってるけど」
ふけるよ~とシェイクを飲む。
ちょっと解け始めてて飲みやすい。
豪炎寺は私に突かれた眉間を押さえて指でほぐしている。なんかその姿が可愛い。
「ふふふ」
「…お前な…」
「まぁまぁ。ええっと、そうだから次の試合行かなくて良いかなとか思ってるよ」
「…いや、来てくれないか」
「えぇ?」
行けることなら行きたいけど本人達が来なくていいって言ってるんだから行かなくてよくない?
なんで?と聞き返せば豪炎寺はすこし言葉を捜して、それから口を開いた。
「フィールドに立つと、声が聞こえるんだ、応援する声が」
「まぁそりゃそうだよね」
御影の時を思い出す。
アレだけの大歓声が届いていなかったらそれは凄い集中力だとおもう。
「特にアウェーでの試合の時は、自分達に向けられた声援がすごい力になる」
「ふんふん」
「まだ俺たちには応援の力が無いからな、少しでも多いほうが良い」
「ほー」
そう言われたら行こうかなと思う。
私の声でいいのだろうか、気が散ったりしないだろうか。
「できればベンチから渇を飛ばしてやってくれないか」
「…わん、もあ、せあ。」
「…ベンチから渇を飛ばしてくれないか」
「えぇ…?」
それってつまりマネージャー達と同じ場所に立つって事でしょ?
ただのファンなのに?
ていうかだったら秋ちゃん達いるじゃん
「できたら観客席が良いんだけどなぁ」
「どうして?」
「…そっちのほうが皆がよく見えるから?」
「なんで疑問系なんだ」
それでも渋る私に豪炎寺はまあ気が向いたらで構わない、と言って立ち上がる。
「送るよ?」
「いや、大丈夫だ」
「…じゃあまた。」
「ああ」
私達はそう言ってファーストフード店を出た。
そんなベンチに立つなんてできるわけない。
あそこは真剣に向き合った人たちが入る場所だ。
ファンが応援の為に入る場所じゃない。
豪炎寺だってそれが分かってるはずなのに。
うーん?と首をかしげて私はシェイクを最後まで飲みきると、路上のゴミ箱に空を投げ入れた。