Phototaxis
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そういえば最近河川敷で練習している姿を見なくなった。
以前通りすがった時はやたらギャラリーが多くて見えなかったから諦めて帰ってしまったのだけど。
(…次ってどこと試合だっけ)
ぼんやり思考しながら図書室で借りてきた本を抱えなおす。
うーんちょっと借りすぎたかもしれない。けど三連休だしこのくらい読みたかったし。
「……――」
(ん?)
声が聞こえた気がして足を止める。
こんな時間に誰だろう。
足を向ければ一瞬だけ視界の隅に色黒い肌と、特徴的なユニフォームが見えた。
(土門だ。…あ、そうか鬼道に連絡入れてるんだ)
多分あのあたりの木に隠れてるんだろうなと思って見つめてみる。
木の陰に隠れているのかその姿は全然見えなくて、すごいなと素直に感心する。
さすがに影山に選ばれたスパイなだけある。
なんてのんきに考えていたからか、土門がため息をつきながら木陰から出てきて、私を見て固まった。
あ、ばれた。
「……あ、あの凪木…さん?」
「うん。」
すごい目が泳いでるし声が震えている。
うっわぁいつぞや虎丸くんに遭遇した時の私みたいだ。
「…いつから、そこに?」
「ちょっと前くらい」
「……い、い、…今の聞いてた?」
「まぁそこそこは」
「………」
「…………」
じっと戸惑った表情を浮かべて私を見つめる土門。
私もかなり背の高い土門を見つめ返す。
ううん、ずっと見てたら首が痛くなりそうだ。
彼は今どうするべきか必死に考えてるんだろうな、すぐに脅しに入らない辺り優しいというかスパイに向いてないというか。
確かに彼は熱心な人なんだろうけど、性根が優しすぎる。
鬼道も完全に人選ミスだって気づくべきだった。
しばらく無言で見詰め合っていたが、そろそろ肩にかけた本が重たいので私から会話を切り出そうと思う。
「私べつに誰かにチクったりしないから安心してよ」
「…は?」
「だから向こうに私にばれたこと報告しないでね、じゃあね練習頑張って」
「ちょ、待てって。」
すっと伸びてきた手に肩を掴まれる。
骨っぽい手。
「どういうつもりだよ」
「どういうつもりもないけど?」
「…俺、あいつらのこと裏切ってるんだぞ?」
「――…私のこと向こうにバラすとして」
土門に向き直る。
夕焼けの中、誰もいない校舎裏で一組の男女が真剣な顔で向かい合ってるなんてシチュエーションなのにまったくドキドキしない。
土門はもしかしたらドキドキしてるのかもしれないけど、私は荷物が重くてそれどころじゃない。
「そうすると聞かれてしまった土門君は使えない子として向こうに認知されるでしょ、一方私は向こうに存在を認知されて面倒になるかもしれない」
「…なんでそうだって分かるんだ」
「感。でも、スパイなんて送ってくる人はそういう事まで考えてるって思うじゃん。」
「…」
「…とにかく、お互いが黙ってれば何の問題も無いことでしょ?」
「凪木さんはそれでいいわけ?」
「だって、私土門君のこと信じてるもの」
「……」
「今度こそじゃあね」
ちょっと気取ってその場所を後にする。
今のちょっと私かっこよかったんじゃないの?なんて。
土門の顔ぽかんとしてて面白かったな。
「…なん、でお前らはそう簡単に人に信じるとか言うんだよ…」
なんか聞こえてきたけど、そんなの私は未来を知っていて、君がどういう人かなんとなく分かってて、それから君を含めた雷門イレブンが好きだからに決まってるじゃないの。