Phototaxis
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「…なに、これ」
目の前に、黄色と青のユニフォームが転がっている。
痛々しい光景にそれ以上の事が何もいえない。
なによ、これ。
ただの暴力、じゃないの
隣に居た友人が呟く。
そう、それ。
暴力だ。
見知った友人達が蹴られ、吹き飛ばされ、地に伏せている。
もう、立てない。
一方的な試合、なんて物じゃなかった。
ただのゴミ掃除。
目の前に立つ邪魔なゴミを払いのけてる。そんな躊躇の無さ。
「これ、…サッカーなの…?」
「凪木…風丸君が、…染岡も、半田も、マックスくんも…やだ…もうみたくない…」
隣で友人が震えている。
私はその手を取る。私だってもういやだ、まさかこんな、…分かってるつもりだったけど、そうじゃなかった。
もっと現実は酷くて、痛くて、気分が悪い。
ちらりと黒い大型の乗り物に視線をやる。
高みの見物をしている男。顔までは見えないけど、あれが、影山。
(どうしよう、鬼道も含めて嫌いになりそう)
このあとのことを考えるとそんな事は無いけど、でもやっぱり目の前の友人達を見ると許せそうに無い。
また、いつかみたいに足が震える。
豪炎寺、まだなの。
早くこの目の前の惨状をどうにかして欲しくて、縋るように豪炎寺を見る。目金くんが抜けた。ユニフォームが放られている。
でも、豪炎寺は動かない。
貴方の苦しみは分かる。
けど、けど、それでいいの、ねぇ
ベンチにいる秋ちゃんと友人の後輩の春奈ちゃんも顔色が悪い。
それはそうだと思う。
私だってあの位置で見てたらトラウマものの恐怖を感じると思う。だってただのガヤの私だってこんなに息が詰まっているんだから。
もう一度帝国学園を見る。
風丸もろともゴールネットに叩きつけられる。
誰かが笑っている。
だれ、笑ってるの。
ふふふふ、ふははは、
笑うな、笑ってんなよ、うるさい、うるさいうるさいうるさい
「…あぁ、だめかも」
「え?」
「ごめん、ちょっと離れる。」
「え?え?凪木?」
私は友人の手を離して大またで歩く。
目指すは背番号10のユニフォームと動かない炎のストライカー。
ユニフォームを拾い上げる。
そして驚いた顔をしている豪炎寺につきつけた。
「ねえ貴方すごいストライカーなんでしょ、ねえ着てよこれ」
「…だが俺は」
「貴方がサッカーしない理由なんて知らない…でも、でも、いま…今皆は、すぐそこで傷ついてるの…!」
サッカーを出来ない私じゃ何も出来ない。
でも貴方ならできる、たしかな存在でこのユニフォームを着てそこに立てる。
喉も、足も、身体が芯から震えている。
この頭のぐちゃぐちゃのまま、私は豪炎寺を見る。
「お願い…豪炎寺…フィールドに、立って…お願い…」
足の振るえがそのまま声に伝わる。
豪炎寺はじっと私の顔とユニフォームを見た。
対面するのも会話するのも初めてだから当然だと思う。
そんなのどうでもいい。
今、私はこのくらいしか出来ない。
一刻も早く、彼をフィールドに送り出さないと。
「あなたじゃないと、あなただから、…おねがい…私じゃ、なんもできないの…っ!」
「!」
息を呑む豪炎寺。そして少しの間目を閉じた。
「…今回だけ…俺を許してくれ夕香」
ぼそりと声が聞こえて、私の手の中からユニフォームが無くなる。着ていた制服を変わりに押し付けられてようやく私は我に返った。
振り返ると、フィールドに向かう背番号10が見えた。
凪木、友人が駆け寄ってくる。
大丈夫…豪炎寺が来てくれた。もう、大丈夫。
友人に差し出された手を私は強く握った。
震えはもう止まっていた。