Phototaxis
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれ以来円堂は私とすれ違うたびに申し訳なさそうな顔をするようになった。
風丸から「円堂が悪いこと言ったな、すまない」なんて謝罪されて「釘を刺しておいたから」なんて笑顔でのたまうものだから、やっぱり彼には悪いことをした。
勝手に予防線を引いたのは私だし、勝手に逃げたのも私だ。
……何かこんなに怖いと思うのだろうか。
私はイナズマイレブンという作品が好きで。
円堂たちも大好きで。
……今こうやって同じ学校に通っているけど。
もう知らない人、ではないんだけど。
怖い、と思うこの気持ちは何なのだろう。
ハァ、ため息をつく。
どれだけ悩んでも答えは出ない。
それでも謝らなければ。
この気持ちに言葉がつけられないとしても、悪いのは私なのだから。
夕方の鉄塔広場。
そこに彼は居なかった。
もしかしたら河川敷のほうなのかもしれない。雪も積もってるのによくやることだ。
良い意味でのサッカー馬鹿だからなんだろうけど。
冬は日照時間が短い。あの時と同じ時間なのにもうまっくらで、町灯りに雪がキラキラしていてこれまた格別の景色だった。
(もう一時間待ってこなかったら帰ろう。)
今日はもう来ないかもしれない。暗くなるのも早いからもう帰路かもしれないし。
ぼんやりと町並みを眺める。
なんで、ここの世界に来たんだろうな。
今眼下に広がる街は私が住み慣れた街ではなく、あの雷門がある街で、この灯りのどこかにイナズマイレブンのキャラクターたちの家がある。
改めて不思議な感覚だ。
今ここにいる私には現代で生きてきた記憶も知識も知恵もある。けれど私はまた中学生をやっていて、知っているはずのイナズマイレブンじゃない、生きている彼らと同じ校舎で過ごしている。
当たり前のように現状を受け入れてしまっている。
けど、ここで生きていくことを享受し切れているわけでもない。
私は、この私自身を捉えあぐねている。
「……アイデンティティかぁ。」
カツン、音がした。
一気に現実に引き戻される。ああなんか緊張する。
やがて音が大きくなってひょっこりと、オレンジのバンダナが顔を出す。
「えっ」
大変驚いたようだった。ごめんね、今度は逃げない。
「こんばんは、円堂君」
「え、…あれ、凪木?え?本物…だよな?」
「うん。…ごめんね、前のも私だよ」
「やっぱり!そうだと思ったんだよ!」
良かった幽霊とかじゃなくて!にぱっと笑う円堂。
そうやってもう気にしてない雰囲気を出せる彼は本当に強いと思う。
彼みたいに生きれたらきっと私はもっと。…やめよあほらしい。
「前は逃げてゴメンね」
「いいって!気にしてないからさ!それより凪木って足速いんだな、追いつけなかった」
「あの時は必死だったから」
それこそ取って食われる感覚ではあったとは口が裂けてもいえない。
「あのね、円堂君。この間私に言おうとしてくれてた言葉なんだけど」
「ん?…ああ、あれか」
「あれね、私の中でしっかり結論出してから聞かせてもらいたい」
「え?」
「今ちょっと色々悩んでて。…自分で解決しなきゃいけないことなんだよね、だからその悩みが解決してから…円堂君がよければもう一度。」
「…なんかよくわかんねぇけど、凪木が悩みを解決するまで俺待ってるよ」
円堂はにっこり笑う。
話してくれるつもりなんだろうか、結論がいつになるかも分からないのに。
しかも私たちはあの日、木野ちゃんハウスで(まともに)会話するのが初めてなのに。
「…話してくれるの?」
「ここが好きなやつだから、きっと凪木と話せたら楽しいだろうなって思うんだよ、だから」
「…」
「凪木が頑張って悩みを解決するまで、俺も頑張って待つ!そしたらフェアだろ?」
ぜんぜん理由になってない。しかも意味が分からない。
でも、嬉しかった。
笑顔を浮かべている円堂がすごく眩しい。
どこかでもう引き返せないかもと感じている。それも仕方ないかと思っている自分もいる。
でも決心をつけるためには覚悟がまだ足りていない。
だから円堂の優しさをありがたく思う。
「…そうか、ありがと」
「良く分からないけど、凪木こそ俺たちと居てイヤじゃないのか?」
「ううん、そんなことない。この間のはちょっとビックリしただけなんだよ」
「あー…ごめん」
「あれも私が悪かったからさ。気にかけてくれてありがとう」
私はこれで素直に彼らと接せられそうだった。
吐き出した息は白くかすんで闇に溶けた。