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何故だ。
何故私は木野ちゃんハウスにいるのだ。
それもサッカー部と。
「なあなあやっぱりキミ鉄塔広場であったよな?!」
「いや、だから気のせいだって、私高いとこ苦手だもんそんな所上らないよ円堂君はなにいってんのよやだなぁもう」
「気のせいじゃないか?凪木…さんもそう言ってるんだし」
「そうだぜ、凪木は家も逆方向だし、わざわざンな所いかねぇよ」
「そっかなー…でもなぁースッゲー凪木に似てたんだよなー」
「円堂それより手を動かせよ、ぜんぜん進んでないぜ?」
何故だ…私は染岡に勉強を教えるはずだったのに、何故木野秋ちゃんのお家で勉強を教えているんだろう。
何故染岡だけでなく半田や円堂、風丸が居るんだろう、あ、いや、風丸は成績優秀だしそれは分かる。
風丸いるなら私要らなくない?風丸のほうが成績優秀だよ。
「ごめんね、凪木ちゃん、なんか無理強いしちゃって」
「あ、ううん木野さんこっちこそ上がりこんじゃってゴメンね」
「そんなことないよ、私も凪木ちゃんと友達になれて嬉しいもん」
「と、もだち」
お…おおぅ?
なんだ、やっぱりどこかでフラグ立ててたか私。
どこだ、コンビニ?本屋?教室??
ぐるぐる考えてみてもこれっぽっちも分からない。人生とはなんて複雑なんだろう。
「それよりも驚いたよ、染岡が強力な助っ人だっていうからなんだと思ったら凪木さんだったなんて」
「わ、たしも風丸君がいて驚いた」
「二人とも知り合いなのか?」
「前に一回本屋であったんだよ…円堂そこ間違ってるぞ、Xの代入するんだよ」
「えー?」
なるほど風丸くん、君は円堂専門講師だったのか。
つまり私は残り(染岡と半田、あと必要そうなら秋ちゃん)
秋ちゃんは机の上にお菓子やジュースを置きながら「凪木ちゃん頭良いんだもんね、私も教えてもらいたいな」なんて笑っている。
あなたは女神か。
「こいつ、授業中ぼけーっとしてるくせに頭良いんだよ」
「え、いつのまに染岡君に観察されてたの私」
「プリント配る時とかたまにな」
「…ははは」
まじめに何故こうなったのか誰か教えて欲しい。
染岡はよっしゃ!やるぜ!と気合を入れて数学を睨み始めた。
私も気持ちを入れ替える。
何故は気になるが、それより本来の約束を果たさなくってはいけない。報酬は貰ってるし。
染岡には基礎問題をとりあえず解いてもらう。
秋ちゃんには分からなくなったら聞いて、と伝える。
「……半田くん」
「な、なに?」
「半田くん基礎出来てるみたいだけど、怪しいところある、よね?」
「う」
「…比例反比例苦手?」
「なんで分かったんだ…?」
「バツが多いから」
「うわー…お見通しかよ」
そらそんな赤×だらけのノートみたらそう思うだろう。
ぱぱっと教科書の基礎問題を見せながら教える。数学なんてコツさえつかんでしまえばこっちのものである。
このメンバーが理系だとは思えなかったが、それでもある程度慣れておけばテストなんて余裕余裕。
半田と染岡の間に座って見比べ、間違っていれば教える。
そしてふと視線を感じて顔をあげると円堂が私を見ていた。
ばち
目が合う。何故か息が詰まる。
勉強しなよと言いかけた言葉を飲み込む。
「やっぱり、俺あのとき居たの凪木だって思うんだ」
「そ、う?」
「うん、だって雰囲気とか顔とか似てるし」
「円堂君、それより手、動かさないと」
「なぁ、凪木」
あ、れ、なんか嫌な予感が
にんまり笑う円堂。
笑顔から目が逸らせない、え、うそ、
「一緒に」
ガタッ
立ち上がる。私の顔は相当酷い。
怖いと思った。
円堂守が、怖いって、え?だって、いま、わたし。
どうしたんだと部屋中の視線が突き刺さる。
顔を上げる、フットボールフロンティアのポスターが視界に飛び込んできた。
まだ、一年生である。
アウトなのか、セーフなのか、わからない。
でも、来年の今頃は、彼らは世界一になっている。
一年があっと言う間なのは私は知っている。
きっと彼らにしてみれば濃厚な一年だと思う。
けど、いちねんしかない。
足が震えてる。
「凪木?」
染岡の声がする、ノートは男の子にしては綺麗な字で計算式が書かれている、うん、数学苦手なうちは全部そうやって途中式も書くといいよ、
半田が凪木さん、と声を上げる、秋ちゃんの心配そうな顔、風丸と円堂の驚いた顔、
円堂と、秋ちゃんと、風丸と、染岡と、半田がいる。
イナズマイレブンの主要人物がそろったこの部屋で、私は注目を浴びている。
なんだろう、ここ、すっごいこわい。
そう、思ってしまった。
「凪木ちゃん、どうかしたの?具合でも悪いの?」
女神の助け。
私はそれに曖昧に笑うと、うんごめん、用事思い出した、なんて酷い有り体な嘘をつく。
いまどきそんな嘘つくやつなんていない。小さい子でももう少しまともに嘘をつく。
身体が震えているのを必死にごまかす。
動揺しているのをとめられない。
「ごめ、んね、…帰るよ」
「凪木さん顔真っ青だけど大丈夫かよ、俺送るぜ?」
「かぜまるくんは、おうち、逆でしょ、…大丈夫だよ」
大丈夫だよ。
うん、私は大丈夫だ。
荷物を掴んで、思い出したようにお菓子と教科書を置いていく。
これみんなで食べて、あと教科書色々メモしてあるから、分からなかったらコレみて。
玄関まで送ってくれた秋ちゃんから本当に大丈夫?と声がかけられる。
うん、ありがとう。目は見れないままだった。
「なんかどたばたとごめんね、おじゃましました」
「ううん、気をつけて」
「ありがとう」
私はなんとか笑って木野ちゃんハウスを後にした。
自分でも驚くほど取り乱したし、今も手が震えてる。
どうして、私……いったいどうしちゃったんだろう。
けど、逃げなきゃって思っちゃったから、なんだか怖くて、…私は一人のファンでしかなくて、だから大好きな人たちの中に混ざることが、こんなにも怖くて……。
帰路に着きながら最後に見たみんなの顔を思い出す。
謝らないと。
逃げた理由考えないと。
あの嘘が通じてるなんて思ってない。
皆優しいから帰してくれたんだって……さすがにわかるから。
私は小さくため息をついて、それからマフラーを置いてきたことに気づいて、もう一度ため息をついた。