Phototaxis
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冬休みなんてあっというまであった。
定期試験のお時間である。
「たのむ!」
「な、なんで私に頼むの…?!」
「お前以外に頼めねぇんだよ!」
「…」
どこだ、どこでフラグが立ったんだ、教えてくれ。
目の前で手を合わせる染岡は実にらしくなくて可愛かったが、如何せんこれでフラグが確立してしまってはどうしようもなくなる。
ましてや彼は主要人物の一人である。
必要以上に関わりたくはない。
(う…そんな顔しないでくれ…)
顔を上げた染岡は申し訳なさそうな、でも必死さが滲んでて、それから私を信頼していると言わんばかりの顔だ。
…そ、んな……懇願されたら…。顔が引きつる。
……定期試験の勉強を教えてくれと頼んでくるのにもきっと相当勇気が要ったし、タイミングも計ったに違いない。
だから放課後こうして彼は下校ルートで待ち構えていた。
ちらりと見るとそこはいつぞやのコンビニの近くだった。
「凪木の勉強の邪魔になるのは分かってるけどよ…」
「今回も成績悪いとお母さんに怒られる?」
「…なんで分かった」
「どこの家庭もそんなもの……でしょ」
うちはそんな事はないが一般的には多分そうだ。
それに染岡はいつも中の下、下の中から上あたりの成績だ。
中の中くらい(それこそ半田である)になってほしいのだろう。
たしかに中1から躓いてしまってはこの先とても不安である。
基礎の基礎、高校にもよるがここはこの先、生きていくうえでとても関わってくる。
つまるところ中等教育なんて基礎も基礎、……分かっている人が教えてあげたっていいんじゃないか、彼はプライドを捨てて私に頼んできているのだ。
そこでなんやかんや理由をつけて教えてあげようとしている自分がいることに気がついて苦笑する。
素直に言うと、染岡の頼みだ、聞いてあげたい。
大丈夫、サッカー部には関わらない程度だから、都合よく居たクラスメイト、私はそこのポジションだから。
ベンチのベンチスタート。
大丈夫、私は地続きの私で染岡を助けてあげたいって思えてる。
私はスッと指を指す。染岡が視線を追いかけた。
その先にはコンビニエンスストア24時間営業。
「ココアがいいな」
「ぐ、…タカるのかよ」
「これっきりだよ、授業料」
「わーったよ、お前案外ちゃっかりしてんだな」
「案外?」
「もっとクールなやつかと思ってたぜ」
とかいいながらあったかいコンビニの中に入ってお目当てのココアを手にして素直に会計を済ませる。
子供に集っている気分だったが、私はガラスに映った自分を確認する。
大丈夫、私は中学生だ、中身BBAだけど。
…あ、スカート変なシワついちゃってる。
なんだろこの折じわ、
ぺと
「ひいっ」
「あ、わりぃ」
どこの彼氏だ!あったかいココアに肩をすくめて振り返ると、申し訳なさそうな染岡がいた。
ドキドキ心臓が五月蝿い。申し訳なさそうな顔も結構素敵だからイレブンオプションは卑怯だ。
ありがと、と一口飲んでから染岡が手袋も何もつけてないことに気づく。
「染岡君」
「んぁ?」
「はい、残りどうぞ」
「は?」
「案外クールではなかった女子をこんな寒い中待ってたから、冷えたでしょ。どうぞ。」
「…お前変わってんな」
「え、やだ、普通がいい」
「俺の認識はもう変わり者だ」
「えぇー…」
不名誉すぎる。
さんきゅと言ってココアを飲んで暖を取る染岡。
あ、関節キスだ、と思ったがそんな事いったら顔を真っ赤にして怒りそうだったのでやめた。
とりあえず、今日からでも勉強しないと。
帰ってきたココア飲料で染岡と関節キスしながら私はそんな事を考えた。
……私はさすがにそんなことじゃドキドキしないよ。
大人だからね。一応。こんな……見た目だけど。