私の神様(仮)
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「へ」
トリップして数日。
絶対BASARAキャラを拝んでやるんだと息巻いたが、残念ながら全く影も形もない始末だった。
そうだよね、それが普通だよねぐすん。
でも、なんと驚くことに本当に歌だけで生計が立てられそうなのである!!
流石にこの時代にボカロやアニソンは珍しいらしく、(与一の言った通り)変な歌聴きたさでそれなりに人が集まってくれるの!!
今のところ人気は東方系とかの曲で、理由を聞いたら「この時代の歌と比べてすごく早口だからじゃない?」とのこと。
確かにBPM高めの方が、手を叩いて笑ってくれるからそうなのかもしれない。
この時代にクラブとか作ったら爆儲けしそうだな……みんなで足軽ダンス踊ろうぜ!!
そんならことを思って眠りについたはずだったが、ふと気がつくとめちゃくちゃ息苦しい。
「ふぉふぉふぉふぉはぁほぁ?!」
な、なんか顔が重たい?!なんか乗ってる?!
バルタン星人みたいな声をあげて顔の上に乗ってる何かを取ろうと暴れる。いやなんかそれなりに重みがあるんだけど?!
バタバタと暴れていた音で目が覚めたのか「姉ちゃん!」と与一の声がして、顔の上から重たい何かが転がり落ちた。
はーっ!はーっ!!ありがとう与一……!
「し、死ぬかと思った…」
そう言いながら何が乗ってたんだと視線を向けると、そこには青い塊が落ちていた。
いや、塊って言ったけど肌色が見えるわ、人だなコレ?!
時刻は夜、どう考えても私と与一しかいないはずだ。
「ってことは……ヒィィイイイ!!与一が大きくなった?!成長期の男の子ってこんなに一晩で大きくなるの?!!」
このまま行ったら一週間後には10mくらいになっちゃうよ?!
「……ハァ。姉ちゃん、おいらこっちだから」
「あれ?」
後ろを振り返ると、寝た時と同じ場所に与一がいて呆れたような顔を浮かべていた。
サイズはもちろんいつものサイズだし、着ている着物はいつものマスタード色だ。
やーーーん!寝癖もキュートだね!
……って与一がこっちにいるってことは……この青色の人何?!?!
「よ、与一のお友達…?」
「違うから」
「じゃあ…まさか与一の愛人っ?!ギャァごめんなさい!!お邪魔しましたァッ!」
「違うって言ってんじゃん!ほら、姉ちゃんが騒ぐから!!」
「う…ん…ぅぅ………」
呻き声を上げた青い塊は、そのままぐるりと身体を動かした。何となく分かってたけど、やっぱりその塊は少年だった。歳は与一より上だろうか、やや身体が大きく見える。
寝返りをうった際に茶色の前髪が顔を滑り、寄せられた眉と苦しそうに結ばれた口、それから包帯の巻かれた右目が顕になる。
魘されているのか、白い肌に頬が赤く上気している。
す、すけべ……
「ってコラァッ!ショタに手を出したらアカン言うてるやろが!!」
ビターンッ!
咄嗟に頭をよぎったスケベを自分の頬を殴って吹き飛ばす。思ったより勢いがついてしまってジンジンと痛むが、おかげで冷静になれた。
この子熱出てるじゃん!!
「与一、水汲んできて!!」
「うん!」
与一が外に駆けていく音を聞きながら、私は急いで布団の上に少年を引きずり乗せる。そして買ったばかりの手拭いを手に乱れていた襟元を直してやっていると、少年が手を動かした。
「……は、は……うえ…」
か細い声と共に指先が震える。
何かを探し求めて伸びた手を私は握りしめる。
「少年、」
「……うっ……ははうえ…?」
「少年、大丈夫?」
「ッ」
瞼が震えて、潤んだ瞳が私を捉える。
握った手のひらの力を強くして声を掛けると、途端に少年は息を呑んで飛び退いた。
「ッ誰だお前!!」
「あの、」
「此処はどこだ!?どうして俺は……」
そこまで言って、何か思い当たる節があったのか少年は言葉を切ると俯いてしまった。
どうしたの、と声をかけようとするより先に少年は顔を上げる。
「そうか、また母上の仕業か」
「……」
「今度は何だ?誘拐か?それとも身売り?ハッ、残念だが大した金にもならないぞ」
自嘲したような、諦めたような、嫌悪感を顕にした笑みを浮かべて少年が言う。なんて言葉をかけていいのか分からず困惑していると、騒ぎを聞きつけたのか、桶に水を汲んだ与一が足早に戻ってきた。
「どうしたの姉ちゃ……って何だ目が覚めたのか」
「子供…?」
「……そうだけど、お前も子供だろ」
桶を置いて与一が私の手から手拭いを抜き取る。
「おいらに任せて」と冷えた水で手拭いを濡らす与一を横目で見て、ひとまず私は混乱する少年を落ち着かせることにした。
「えーっと、私はシズカ。こっちは与一。私たちは君に危害を加えたりしないから安心して!」
「どういうことだ…?俺を殺すんじゃないのか?」
「殺す…って」
そんな物騒な。
ポカンとしていたのが顔に出ていたのか、少年は「どういうことだ…?」と考え込んでしまった。
いやそれは私たちが聞きたいくらいなんだけど。
とりあえず横になったら?という提案も届いていないらしい。
……しかしこの少年、なんだか微妙に既視感がある……。この右目を隠してる包帯とか…母上がどうとか……それにこの青の着物である。なんかこう……某独眼竜とか…レッツパーリーな誰かさんとか……ここはさりげなく聞いてみるか!
「ヘイ少年」
「あ?」
「いつまでも少年だと呼びにくいから名前教えてよ」
彼はその提案に一瞬躊躇した様子だったが、与一の「おいらたちは名前教えたのに」という追撃のおかげで彼は口を開く。
「俺は……梵天丸」
「きっ……」
「き?」
キタァァァァァ!!!!!やっぱりね!!なんかそんな気がしたんだよ!!
マッカーサー初めて会うキャラが政宗(幼少期)だなんて!!ふふふふふやはりここはBASARAの世界なんだ!!
っていうか梵ちゃんめちゃくちゃ可愛いいいいい
「梵ちゃん可愛いイイイィイイイ!!!」
腰細いし色白いし目が大きい!!
私はクソマブ梵天丸くんに咄嗟にしがみつこうとして手を動かした。すると
「さっ…触るな!!」
そんな悲鳴に近い声音で梵ちゃんは私の手を払った。強い力に払われた手の甲がジン、と熱くなる。
「ごっ、ごめん、急に触られたら嫌だよね……!!」
「…っち、ちが、そうじゃな……」
「でも汗拭かないと。梵ちゃん熱あるよ」
「姉ちゃん怖くて信用ならないならおいらがやるよ」
「ひどい!大丈夫コワクナイヨー!」
「そう、じゃなくて……っ、俺に近寄ると化物になるんだ!!」
「化物……って」
どういうこと、
梵ちゃんはハッとした表情で私と与一を見ると、すぐにくしゃりと顔を歪めて俯いてしまった。
肩が震えているのが見て取れて、私は与一と視線を合わせる。与一は思い当たることがあるのか、ジッと梵ちゃんに視線を向けた。
「……その目、何かの病気?」
「……」
「そうなんだろ」
言い当てられたからなのか、梵ちゃんはさらに深く俯いて手を握り締める。
そうだ、私がなぜ「母上」というキーワードで政宗を思い浮かべたのか。それは彼の右目の病気についてのエピソードを知っているからだ。
彼が幼少期の頃に天然痘に罹ったことで、醜悪になった息子の目玉を抉り取った、という苛烈なエピソード。彼はその病気のせいで母親からも、家臣たちからも疎まれていた、という話。
もしかして、それで周囲から化け物と揶揄されていたのではないだろうか。そして、近寄ると伝染るとまで言われた経験があるのではないだろうか。
私は梵ちゃんをみる。
与一より大きいとはいえ、彼もまだまだ子供だ。親の愛情と周囲の協力が必要な年齢。なのに、彼は自分を化物と揶揄されながら生きてきた。
バケモノ。…………。
「……違うよ」
「…え?」
「梵ちゃんはバケモノなんかじゃない」
少年はのちの伊達政宗だ。
BASARA時空なら、彼は土地柄厳しい奥州をまとめ上げる筆頭であり主人公格の1人。
私のいた時空でいえば、彼は日本を平定できただろうとまで言わせしめた知将。そんな立派で勇敢で、そして聡い人がバケモノなんかであるはずがない。
「で、も……母上は…俺が化物だ、って…」
「違うよ、違うんだよ……梵ちゃんも私も与一も、同じ人間」
「でも……でも……ッ」
「だってほら、ここに目があって鼻があって、口があって…手も足もある!私たちと一緒だよ。」
「…!!」
それに、例え手足がなくたって、人はヒトでしかないのだ。どんな姿形であれ他人を化物だと揶揄するなんてあり得ない。あってはならない。
めちゃくちゃなこと言うね、と隣で与一が言うが、その声音はどこか弾んでいて喜んでいるように感じる。
「っ……俺は」
声が震えている。
「俺は……人間だ」
「うん」
「ちゃんと、人間なんだ……っ」
ポタポタと地面が濡れる。
彼の震えた声はまだ悲しそうだったが、それでもさっきまでの絶望的な感覚はない。
思わず腕を伸ばして、頭に触れると今度は拒否されなかった。私は梵ちゃんを抱き寄せると、背中をさする。服の胸元が梵ちゃんの体温と涙で温かく濡れていく。
どうか、この先の彼の人生が明るく多くの人に愛されるものであるよう、強く願った。
「……そんなわけで、梵ちゃんは今日から此処に住むことけってーい!」
「は?!」
熱が出ていた梵ちゃんに布団を譲り、再び与一と布団を半分こにして朝までぐっすりし、目が覚めると梵ちゃんの熱はすっかり引いていた。
うんうんよかった!子供は元気が一番だからね!!
与一と2人で朝ごはんの支度をしていると、ようやく梵ちゃんが目を覚ましたので、そう伝えると梵ちゃんは目を見開いてこちらを見た。
なるほど梵ちゃんは目覚めがいいタイプなんだね!
「いや、実はさ、梵ちゃんのいた場所に帰る方法がわからないんだよね」
「……」
もちろん私もだけど。
梵ちゃんも夜中に突然こんな庶民の家の中に来てしまったことに疑問があるのか首を傾げる。
だってさ、いくら子供とはいえ梵ちゃんは次期当主の1人だし、お城だって絶対警備とかしてたわけじゃん?なのにいきなり深夜に私の顔面の上に落ちてくるなんてどう考えても普通じゃない。
ここから奥州に向かうにしてもどうやって行ったらいいかも、ついたらなんで説明したらいいのかもわからん。だから、帰り方がわかるまで同居しよう!!という提案をしたのだ!賢いね私!!
「って言っても朝から頭使ったからもうお腹ぺこぺこなんだけどね!!ご飯もうすぐできるからもうちょい待ってね!」
「……ってわけだから、よろしく梵」
与一も隣で釜の様子を見ながら挨拶をする。
今日のメニューは超健康的にご飯とお味噌汁とお魚だ!すでに出来上がった味噌汁の匂いがお腹に染みて今にも鳴りそう……。
そのまま意識が朝ごはんの方にむきそうになった時、梵ちゃんが「おい!」声をあげて、私と与一はほとんど同時に振り返る。
「あ、ぅ……。その、よろ、しくな…」
顔を真っ赤にしてしどろもどろにそう言った梵ちゃんに思わず顔がニヤける。
くっそォォォまたかわゆすな弟が増えたなぁぁぁ!!!
「うんっ!!これからよろしくね!梵ちゃん!!」