私の神様(仮)
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「 うらはら 」
※最終話の天下分け目の戦いでの一方そのころ、です
※本編には何の関係もない
嗅ぎ慣れた火薬の香り、鼻につく湿り気のある土の香り。
政宗は唇を薄く舐めた。
「――つまり、だ。俺はいつも通り暴れりゃいいってことだろ?」
「ええ、こちらにはおだがじんをかまえています。われらはしょうめんより、むかえうつかたちでじんをとる。」
「all right」
「中央の武田と上杉とくれば、相手は西方を詰めるほかない」
「もしくは忠勝を使って横から刺しにくるか――いずれにせよ、陣を先に崩した方が勝つだろうな」
軍師・知将と名高い面々が、頭をそろえて図面を見下ろしている。それを聞きながら武具を研く者たちも、この日の本に名を轟かせる武人ばかりだ。
1年前までなら、こんな美味しい戦見逃すなんてなかった。この中に加わり、戦果を分け合い、ともに策を成すなんて……
「忍び隊は情報共有を優先させた方が良いな。」
「うむ。佐助、積極的に各国の忍び隊と連携するのだ」
「はいよ。ほんじゃま日本全国の忍び隊の実力見せてもらおうかねえ」
空気がひり付いている。軍議は進んでいく。
自分たちに任されたのは、つまるところ遊撃だ。
ならば、どこがどの役割なのか把握していればいい。
そう思って踵を返したところで、ふと視線を感じた。
「政宗」
「ah?」
見れば、神妙な顔をした元親がいる。
元親はその眼を鋭くしたまま、顎で陣の外を指した。
何も言わずにその後をついていく。少し離れた場所で、元親は声を潜めて口元を隠した。
「……言わなきゃいけねえことがある」
「なんだよ?」
「…与一がここにきてる」
「……は?」
「あいつ…俺らの船に忍び込んでたんだ」
苦い顔で言う。
一瞬言われたことが理解できなくて、政宗は眉を寄せる。
与一…与一がここに?あいつは小田原に残ったはずだろう?
しかしそう言う元親の顔は本気そのもので、嘘ではないことが分かる。
「…なにを」
「1人は嫌だ、ってよ」
「……」
「悪い」
一瞬、怒りにも似た感情が浮かんだが、続く言葉に何も言い返せなかった。
元就は知っているのかと思い視線を投げると、元就はこちらを見て、そしてそのまま視線を動かす。その動きでなんとなく、元就も知っているんだと理解した。
あいつが説き伏せられてしまったのなら、もう自分たちは何も言い返せないだろう。
「…まあ、あいつがゴネたらNoとは言えねえよな」
「南方の陣医所にいる。…前は俺らがいるが」
元親の言葉がそこで止まった。
先ほどの見取り図を思い出す。元親たちのところに咄嗟に行けるだろうか――そして、そもそも。
(……陣医所が襲われたとして…)
(この戦、Winnerにならなきゃ意味がねえ)
――自分は、国主だ。
そこは履き違えない。
だから…もし与一のいる場所が襲われたとしても、対局を優先するだろう。
与一だって、そのくらい分かっているだろうと思う。そんなことも分からずついてくるような奴ではない。だから、政宗が言えるのは、これだけだった。
「……やれるだけやってみる」
「ああ」
自分たちもやるべきことをやる。
なお引き下がれない理由ができたという事に他ならない。
元親が肩を叩く。それに頷いて顔を上げた。
空はすっかり薄く遠い色をしている。もうすぐ秋がくるだろう。
(…シズカ)
姉がいなくなって、しばらく。
彼女が今どこにいるのかは見当もつかないが……なんとなく、この戦が終わったら会えるような気がした。
政宗は前髪を払うと首をゴキリと鳴らした。
轟音が響く。
長曾我部軍が前に出たのが見えた。
ピィ―――…
佐助は上空から指笛を鳴らす。少し間を開けてから、返答の音が聞こえてくる。本陣に情報を伝えるために即興で決めた合図だったが、案外これはいいかもしれない。
この情報がそのまま本陣に伝わる。そして遠方から返答の音が聞こえてくる。
それを聞きながら視線を落とした。
戦場はまさに混戦だった。
多くの軍が入り乱れ、一瞬の間に戦況が変わる。押して、押し返されて、横から逃げた軍が合流してきて再び押される。
今もまさに毛利軍に押された浅井が横に流れて豊臣の軍旗を掲げるものたちと合流したところだった。長曾我部軍はそれを押し返すために前に出たのだろうと想像する。
(こりゃ時期を見て俺様も参戦しないと…厳しいか?)
ここが崩れると一気に横ががら空きになる。
だからこそ佐助が細かく情報をやり取りし、監視しているのだが…
「…っと!!」
びゅお!
音を立てて風の塊が佐助の帆を叩いた。
油断していた。視線を鋭くそちらに向けて…
「え?!」
風の悪魔が目に入った。一瞬幻覚かと思い二度見をしたが、風魔はいつものように腕を組んで口を結んだまま遥か下方より佐助を見ている。
慌てて帆からおりてそちらに向かう。
「えっ、ちょ、あんたいつ帰ってきたわけ?!」
彼はシズカと共に穴に消えて以来行方知れずだったはずだ。
佐助たちの情報網をもってしても見つけられなかったというのに…当然の顔をしてそこに立っている。いったいどういうこと?眉を寄せて風魔を見返すと、彼は少し周囲に視線を配った後口を開いた。
「……(状況は)」
「…はぁ、見ての通り、戦の真っただ中。相手は豊臣、織田、徳川…それから九州の島津に前田…こっちの面々はお察し」
「…(氏政公は東か)」
「そ。アンタのことずっと探してたぜ」
「……」
「って、そんなことより待てよ…?アンタがここにいるってことは」
シズカちゃん、
頭をよぎる。自分が未来から呼び出してしまった彼女のことを。平和ボケも平和ボケした未来から来た普通の女の子。彼女も風魔と一緒に穴の中へ落ちていったはずだ。
そう思って聞くと、ゆっくりと頷きが返ってきた。
「うーわ…すごい嫌な予感がする……」
もしかしてこの場所に…?そう続ければ、再び迷いのない頷き。
佐助は頭を抱えた。
どう考えたって彼女がいていい場所じゃない。なんならこの瞬間どっかで野垂れ死んでたっておかしくない。というか、なんでこんな戦場のど真ん中に?
佐助が頭を抱えているのをみて、それから風魔は口をゆるりと動かした。
「――(今し方、落ちてきたばかりだ)」
「なーるほどねぇ…だとしても、あの子は早く下げた方がいいんじゃない?」
「――…(真田か?)」
「!おっと…」
いきなり確信をつかれて佐助は思わず顔に出してしまった。口を一つ結んだ風魔はその様子をじっと見ている。
たしかに、自分の主人と彼女の間柄は公然の事実ではある。だがこの風魔の言葉は『お前がそんなに気を回すのは真田のためか』とまで踏み込まれた、と感じた。
ぐっ、と喉を鳴らすが、風魔はさほど気にしていないように見える。
「…(伝えてやれ)」
「へ?」
「(鼓舞にもなるだろう)」
「……」
「……」
佐助は押し黙る。
そのぐるりとした思考に風魔はハ、と笑って見せた。
「……(相変わらず心配症だ)」
そう口影を残して、風魔は次の瞬間姿を消した。
「……はーー、」
佐助は長くため息をつく。
わからない。
この戦の最中、幸村にシズカがいることを伝えるのが正解なのか。
あの様子だと、風魔はシズカを安全圏に逃すつもりもさらさら無いらしい。それに、彼女を誰かに引き合わせるつもりもないかも知れない。居なくなっていた間、彼女と風魔の間に何があったのか知らないが――えらく過保護だと思った。
……ま、それは俺様も、かもしれないけど。
「ったくもう、どいつもこいつも」
佐助は数瞬もう一度悩んだ後、指笛を鳴らす。
懐から紙を出して、泥で文字を書いていると1匹のカラスが肩に留まった。佐助が伝書に使っている相棒の一羽だ。最も早く飛べる個体だった。
「よしよし、こいつを頼んだよ」
足首に紙を巻き付けてカラスの頭を撫でると、カラスは声を上げて飛んでいった。
元親は錨を振るう。
どれくらいの敵を薙ぎ倒したかは最早数えるのをやめて久しい。
相手をする島津は確実にこちらを潰しにくる。力と力がぶつかって手前の陣医所が落とされた。
(くそ、これ以上詰めさせられねぇ)
島津だけならば、まだ対処できた。しかし、目の前に見える軍旗は一つではない。島津に、石田、そして浅井。
情報は伝わっているだろうが、増援が来るまでの間持ち堪えるのはほぼ不可能に思えた。
ならばやることは一つだ。
「野郎共!!切り込むぞ!!」
「ッ――アニキ…!!」
前線を上げる。
取り囲まれる前に、前に出て確実に数を減らす。
迷っている暇はない。
ここが死地だ。
(ぜってぇ、背は向けねぇ。)
守ると決めた。
二度と誰の背にも隠れないと決めた。
あの日姉の背に隠れて、大事な人が傷つけられるのを見るしかできなかった自分を。
あんな惨めな思いは2度としないと誓った。
だから
「俺だって、意地ってモンがあるんだよ!!」
元就の耳には多くの情報が入ってきている。
中央右舷――上杉軍が織田とぶつかった。
回り込んだ伊達の後方奇襲は成功している、だが織田の抵抗も激しく崩し切るには一手足りない、という状況だ。このまま維持するには伊達の戦力では厳しい。守衛の強い上杉がだから耐えられているといった様相だろう。
手を打たなければ無駄に戦力を削る。
「伊達へ立て直しを指示せよ、機動力で振り切れ」
中央左舷――武田は押し引きを繰り返し徳川に対して時間を稼いでいる。騎馬隊を生かした機動力がかなり効いていると。しかし相手の徳川もまた武田の戦い方をわかっている。忠勝を使って切り込みに来ているだろう。
真田の身内が徳川にいる。あまり悠長にしていると余計な情を挟みかねん
「無作為に突っ込んできた阿呆を確固撃破せよ、確実に削れ」
中備左舷――長曾我部は島津を相手にしているが、一方で浅井が流れ込んできている。少し前に前線を上げたが、…長くは持たないだろう。このままだと押し潰されるのは時間の問題だった。
「……」
(やはり、一筋縄では行かないか)
戦慣れした者同士でぶつけて崩す時を見計らう――それは双方同様の考えのようだ。向こうにいるのも名だたる知将と軍略家ばかり。こういう乱戦の時の軍の動かし方を知っている。
「だが、この戦場を牛耳るのは毛利だ」
盤石な地盤…そういう時は一点崩す。
針の穴一つでいい。ピンと張った布こそ穴一つで裂けもする。
故に、元就は指示を出す。
「撃ち返せ!これ以上進ませるな!」
持久戦ならば毛利の手の内だ。
「北条を西方へ!長曾我部の支援よりも後方を崩さぬよう防衛を強化せよ!」
例え家族を見捨てる判断が迫っていたとしても。
元親への救援は出さない。代わりにヤツが守ろうとしている後方を確実に死守する。
毛利の弓隊は北条が支援していた分まで中央部隊を援護する。そしてそのまま右舷を守り切らねばならない。
「元就様、伝書です」
声をかけられて振り返る。
毛利の忍びがカラスを連れていた。真田のところの猿のカラスだ。足には文が結えられいる。直接持ってきたのだろう、ゆるく結ばれたままの文を受け取り、中を見た。
「!」
書いたのは猿飛か、はたまた別の者かは分からないが、そこに書かれていたのは、探し人の名だ。
(――姉上)
帰還せり、と書かれた一文を指でなぞる。
やはり無事だった、…だったのかもしれないが今この場のどこかにいるのだ。
負けるわけには、なお行かない。被害を抑えなくてはいけない。……また、明日会うためにも。
(姉上の悪運を、今ほど信じぬ時はない)
元就は采配を振るう。
黒煙だらけの空に鋭い声が響き渡った。
幸村は短く息を吐く。
正面にいるのは徳川軍だ。
はじめは優位だったものの、徐々に武田の騎馬隊の動きへ慣れてきたのが見て取れる。
こちらも無傷とは行かなくなってきた。
(くっ……!)
このままでは、先に消耗し尽くすのはどちらか。
幸村は視線を巡らせる。
相手は雑兵ばかりだ、けれども数が際限ない。
お館様も斧を取り、敵を薙ぎ倒すが次から次へと現れる。
毛利からの指示はいまだに変わらず、戦況も膠着状態だ。
幸村は槍を振り回し、肩で一つ息をついた。そこへ
「――ッ真田!!」
「?!ま、政宗殿!!」
ここで聞こえるはずのない声がした。
思わず声がひっくり返るのを感じながら振り返ると、馬を操り、雑兵を蹴散らしながら政宗が推し入ってくるではないか。
政宗は上杉と共にいたはずでは?思わず手を止めて顔を見上げる。
三日月の兜を深々と被り歯を剥いた彼は、六爪を一度大きく振るとそのまま声を荒らげた。
「豊臣だ!」
「?!しかし…」
「お前が1番身軽だ!!行け!!」
「ッ」
お館様はここを離れられない。
他の誰も。国主として旗印を背負っている者が前線から離れるなんて士気に直結する。
だからお前がいけと言っているのだ。
そしてこの膠着状態を打破しろと。
政宗の言わんとすることはわかる、だがそれは、――
ぶるり、身体震えた。
(猛者との戦い……)
「旦那っ!」
「佐助……俺は…!」
「分かってるって。だから俺がきたんだろ。独眼竜は?」
「このまま撹乱を続ける、俺らを捕まえられるQuickな奴らがいるか楽しみだ」
ってなわけだから、余計な心配無用。
佐助が真剣な顔で言う。
2人は膠着状態を打破するための一槍となれ、そう言っているのだ。再び政宗の顔を見る。こう言ったものは政宗だって好むと思ったのだ。しかし、彼は馬上から腕を組んでニヤリと笑って見せた。
「俺たちは死ぬわけにゃ行かねえ理由があるんでな」
「…!!」
胸に炎が揺れる。
その顔と胸の熱がなんなのか考える間もなく、幸村は地を蹴った。
お館様の命ではない、"幸村"が行かねばと思った。
戦場の粘ついた空気が頬を打つ。これから向かうは死地なのに――何故だか口角が上がるのを感じた。
「…毛利の旦那から聞いたの?」
「ah?」
「…いや別に?」
怒号の中に声が掻き消える。
戦はまだ終わる気配がない。
政宗は、フ、と短く息を吐き出すと目の前を睨みつけた。
「Let's party!!!」