私の神様(仮)
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「 後日談3 」
私の神様(仮)
「うーん…?くの…ーう……れ、でげ……??」
「…嘘だろ?」
「いや、マジだって、私本当に苦手なんだよ」
「knowledge」
「のー…????」
「知識、だ」
「うううう」
声がする。
異国の言葉に混ざって聞き覚えのある言葉が聞こえる。
ルイスは足を止めて部屋の中を覗き見た。
そこには自分が世話になっているオウシュウ、のヒットー、とシズカがいて何やら難しい顔をして紙片を眺めていた。
「Hi!シズカにヒットー!オハヨウゴザイマース!」
「あぁgood morning」
「おはよー」
「2人でstudy time?」
何となくそんな気がして聞くと、シズカは眉を寄せて悲しそうな顔を浮かべた。どうしたのかと思って政宗を見ると、政宗はゆるりと笑みを浮かべながら肩をすくめる。
「あー、シズカが読めねぇっていうから教えてたんだ」
「いやだから、私英語の成績悪いって言ったじゃん!」
「だとしても、だ。何で――お前がこんなに分からないんだよ」
「…逆に何でこんなに政宗はできるわけ?」
「そりゃsenseだろ」
「ぐぐぐぐぐ」
………あれ?
シズカをおちょくる政宗の顔に違和感を感じた。…ようなそうじゃないような?じっと政宗の顔を観察していると、政宗は「、なんだよ」と顎を引く。
「what?」
「……何でもねぇよ」
ぶっきらぼうに政宗の答えが返ってくる。
その顔にますます首を傾げた。
「やばいここ英語喋れるバイリンガル勢しかいない…!!私のぐだぐだ英語がバレてしまう…ッ」
「bilingual?Come on, that’s a bit much」
「わからんわからん!!」
「…だから、分かんなかったら俺を呼べって言ったろ」
「ううう」
いつもの悪い顔とは違う。シズカのことを笑ってはいるけれど、馬鹿にしてる感じではなくて…むしろ…。
政宗とシズカは友人だと聞いていたが、本当に友人なのだろうか?
友達と呼ぶにはルイスの知っているそれより、何かが多すぎる気がした。小さく首を傾げる。
シズカは首を振りながら、それでも英語で書かれた書簡に目を落としている。
わからない、と言いながらもその書簡を読み解こうとするのはやめていないようだ。
それを政宗は少し嬉しそうに眺めている。
着物の袖口に腕を突っ込んで、口角を持ち上げる。
その顔に、ルイスに小さな既視感が落ちた。
(あー)
祈りの後、あるいは懺悔の後に、部屋から出てくる牧師と、眉を寄せて困った顔で帰っていく光景に似ている。
教えを聞いて、自分の中に落とし込もうとしている人と、そんな相手を見て優しく微笑む姿だ。
つ、と視線をシズカに移す。
松永サンの城で半月ほど一緒に過ごしただけだったが、ルイスはシズカのことを善い人だと思っていた。それは丁寧だとか、優しいとかいう意味ではなくて、人の間に波風を立てることをしない、と言う意味でだ。
人を傷つけてはいけない――
そういう感性がシズカにはあると感じている。
だけど、その感性がただ宙に浮かんでいるようにも見えた。何かに裏打ちされている、という確信は持てなかった。礼儀や作法に近い……疑うこともしない、そんな種類のものに見えていた。
だからルイスは、教典を勧めたのだ。
シズカが悩んだとき、立ち返る言葉があればいいと思った。
でも今――…
「ねぇ」
「?」
「2人は、苦しい時何度も思い出す言葉って、ある?」
「ah?」
ポツリと言葉を2人の間に落とした。
問いに政宗が眉を寄せる。一方のシズカはちょっとキョトンとした後に苦笑した。
「それ、前も聞かれた」
「うん」
「パワーを貰える言葉、でしょ?」
「yes」
シズカは困ったように笑いながら書簡に指を滑らせる。
曖昧に笑うその顔は以前に聞いた時と同じようで…やっぱり明確に違う。政宗の視線がチラリとシズカに落ちた。
シズカの視線が揺れて、再び書簡に落ちた。
そして少し間があって、言葉が溢れる。
「……あった」
首が傾く。
「のかも?」
「――Ha、questionかよ」
ちょっとぼやけた言葉に政宗はカラカラと楽しそうな声を上げた。シズカの頭をグシャリと撫でて、だけどどこか満足そうだ。
それに抗議するシズカを見て、ルイスは確信する。
やっぱり。シズカはもう立ち上がるための、裏打ちされた言葉を持ちはじめた人だ。
それはルイスの信じる神の言葉ではないかもしれないけれど。
祈りの形をしていないかもしれないけど。
八百万の神々が住むとされるこの国で、ルイスの信じる形をしていないかもしれないけれど。
それでも、ルイスが祈り、広めたいと思うのは神の存在ではなく、言葉が明日へ進む力をくれるというその一点だ。
例えそれが「のかも?」と言われるほど曖昧なんだとしても。
「――シズカは」
「ん?」
「シズカのカミサマ、みつけたんだね」
3回瞬き。
そしてシズカは言った。
「うん、…まぁ、まだ仮って感じだけど」
シズカの前髪が小さく揺れる。
ほんのり自信を滲ませた声が跳ねて、狭い部屋の中に溶けていった。