私の神様(仮)
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「 後日談1 」
「……」
手のひらに汗が浮かぶ。
前にも借りていた部屋だったけれど、こんなに静かで広々としていただろうか。
不安になる空間の広さに、居心地悪さを感じる。
すこし体を動かしたけどあまり意味はない。
ギィ
「!!!」
床板が鳴る音が聞こえた。
私はびくりと体を揺らして顔を上げる。
ぎっ、ぎっ
静かな、だけど確実に床を踏みしめてこちらに向かってきた。
私は心臓が爆発しそうなのを感じて、喉を鳴らす。
やがて…障子の向こうにシルエット。
「……シズカ」
少しかすれた声がする。
私は唇を一度舐めると、ゆっくりと口を開いた。
「どっ……どうぞ…」
私の神様(仮)後日談1
「……」
「……」
人が一人増えたとて、部屋の居心地の悪さは変わらない。
私はちらりと目の前の人物に視線を向けた。
ばちり、と目が合う。
「っ」
顔をそらしたのは、なぜか幸村だった。
「…あ、あの、シズカ…」
「う、うん…」
「きょっ…今日は……」
返事を、いただけると…
もごもごもご、と言葉が幸村の口の中に掻き消えていく。
改まって言われるとものすごく気恥ずかしい。幸村の頬の熱が伝播してしまって私まで熱くなってきた。
そう、今日上田に来たのは(与一が上田に行きたいといったのもあるけど)私はずっと保留にしていた告白に…返事をしに来たのだった。
あの地獄…天下分け目の戦があった後、日本は大きく変わる――と思ったけれどそんなに変わりもしなかった。
みんなはそれぞれの領地に戻っていったし、敵軍だった織田も徳川も豊臣も、一応まだ存在している。
あれだけの乱戦だったから…もしかしたら見知った人たちは、もういないかもしれないけれど…誰がどうなったの、って質問はまだ怖くて誰にもできていない。
多分佐助とかコタあたりに聞けば分かるんだろうけど、聞いたところで何ができるわけでもない。
だから結局、あんまり私たちを取り巻く環境は変わらない。
変わったことがあるとするなら…私が少しだけ前に進めた、こと、だと思う。
「……幸村」
「う。うむ。」
幸村の頬が赤い。
目の前で正座をして、背筋をピッと伸ばしている姿はなんだか『待て』をしている犬みたいだ。尻尾をブンブンと振ってる幻覚が見える。
いかんいかん!これは幻覚これは幻覚…!
「一応…聞いておくんだけど、あの……まだ、私のこと……その」
「無論!某はシズカを、お慕いしている」
「そッ!……そ、そう…」
「あぁ!」
曇りのない返答に私の視線が揺れる。
ううううう!ストレートすぎるってば!!
喉の奥がヒクリとする感覚があって、私は一度言葉を探す。それを一度組み立てて、それから問題ないよね、って自分の頭の中で反芻。
まごつく私だったけど、幸村はその間も黙ってまっすぐに私を見ている。私も幸村は待ってくれるってわかるから、焦りはするけど慌てはしないで済んでいる。
それで、どうにかまともと思える言葉になったから、私はようやく顔を上げた。
「……えと…まずは、お礼、を言いたくて…。そっ、その、…好きって言ってくれて、あり、がとう」
緊張で顎が震えて言葉尻がおぼつかない。
背中にじわりと汗が滲むのを感じる。言葉一つ一つが間違ってないか朧げな頭で考えながら口にする。
失礼じゃないか、
本当に大丈夫か
ちゃんと伝わるか
さっきまであんなに確認したのに、もうすでに不安が勝っている。でも、止められない。
「で、でね…返事…なんだけど……」
「……」
「……」
「……」
「…ゆき、むらのこと、…好き、」
「!!!!」
「な、なんだけどね?!?あの…」
ぐわっと幸村が目を見開いて立ちあがろうとしたから、私は慌てて手も首も振って止める。
まだ続きがあるんです!!!幸村は大きな目をパチンと瞬かせるとハテナを浮かべながら腰を落とした。
「あの……。多分、この好き…って幸村のいう…、好きと……ちょっと違う、と思ってて……」
幸村が好きか?
そう聞かれたら私は迷わず頷く。
ちょっと前なら多分「幸村ってめちゃくちゃいいキャラだよね?!!受け攻め腹黒わんこ、どんな幸村も美味いし!
もちろん好き!!」って言ってたと思う。
でもそれは、真田幸村っていう…戦国BASARAのキャラクターを好きっていうだけで……目の前にいる"真田幸村"ではない、と思う。
それに、今こうやって私を見て、待って、静かに耳を傾けてくれる"幸村"へ、同じくらい真剣に好き、をぶつけられるだろうか、とも。
「私…多分、まだ幸村に同じだけの好きを、返せないと……思ってて」
「……」
「で、っでもね…向き合いたいとは思ってる……!―…だから、私が…胸を張って幸村に……好きって言えるまで…待ってもらえませんか…」
「!」
最後の方は幸村の顔を見れなくなっていた。
顔を逸らしたくなる気持ちを抑えるのに精一杯で、幸村の顔を見る余裕がない。
ぐるぐると申し訳なさと、伝わっただろうかって気持ちと、泥みたいな気持ちが心臓あたりで混ざっている。
でも、嘘だけはつきたくない。
幸村の誠実さにちゃんと応えたい。
それには、私がまだ足らなすぎる。
「……」
「――…」
静寂。
時間が止まってしまったんじゃないか、ってくらい静まり返っていた。その静寂に気づく余裕が出てきた時、幸村が「は、」と息を飲む音が聞こえてきた。
「――某は」
「……うん…」
「シズカに、向き合って……いただける?」
「え?」
「そこまで真摯に…」
ぐしゅ、と幸村は顔を歪めた。
その反応が予想してたどれとも違くて私は混乱する。
こんだけ先延ばしにした挙句、保留、と言ってるも同然だし、理由も訳わからないしで、泣くか怒るか――最悪縁を切られても仕方ないなとは思ってた。
だけど、今の幸村の顔はどれも違うような……?!今の顔は何……?!
幸村は膝の上で強く拳を握りしめる。
「ぐぅぅ……」
「えっ、ちょっ…」
「某は…っ!某は……っっ!!」
幸村はなんかすごい絞り出すみたいにぶるぶると震えながら何かを言い淀んでいる。
なん……何この反応?!??昨日の夜寝れないくらい身構えてたのに、なんか思ってたんとちゃうんですけど…?!!?
「あ、あの、……幸村?」
「ハッ……!す、すまぬ…!」
幸村は顔をパッと上げて私を見たのち、慌てて千切れ飛びそうなほど首を振った。
「某まさか…シズカがそこまで…真剣に考えてくれているとは思わず…!!」
「えぇ……?」
どういうこと?!
だっ、だって……あんなに真剣だったじゃんさ?!
瞬きを繰り返して幸村の顔を見たけど、幸村の顔は相変わらず真剣そのものだ。
私の頭の上に疑問符が並び、幸村の頭の上には感嘆符が並んでいるかのように感動極まれり!みたいな顔をしている。な、なんか温度差…あるねこれ?!
幸村は私の顔を見ると、またハッ!!とした顔を浮かべて佇まいを直した。
「その………」
一瞬視線が揺らいだ。
幸村も言葉を探してるんだ、と思って私は舌を転がす。
なんだか意外だった。幸村ってもっと…思ったことがすぐに口に出るタイプだと思ってた。
だけど、これももしかしたら私がちゃんと見てなかったからなのかも。知らず知らずのうちにBASARAの幸村はこうだからって思い込んで、見てなかったのかも。
幸村は握った拳の指先をモゾモゾと動かすと、私をまっすぐに見返してくる。
「某は、シズカがそんなにも、真剣に考えてくれたことが何より嬉しい。……某のこの胸の内を、しかと聞き…そして考え悩んでくれたのだ。それだけで、十分過ぎるほどでござる」
一言一句。丁寧な言葉だ。
真剣で、真摯で、まっすぐな、幸村らしい言葉。
私はそれを受けて、やっぱり痛感する。
幸村の言葉も心も信念も…私がこれを全部受け取って、同じだけ返すことはまだ難しいと。
幸村のことがちょっとだけ遠く感じる。これまで感じたことがなかったけど、納得感はあった。
困惑と…あとちょっと悲しい顔が出てたかもしれない。
幸村は私の顔を見て、ほんの少し苦笑した。
「某はな」
言い聞かせるような、不思議なトーンの声。
宛先が私になのか、自分自身なのかは掴めない。
幸村はおもむろに自身の手のひらを胸に当てた。
「シズカに想いを伝えられたことも。こうして、シズカの言葉を聞けたことも……どちらも有難く…。……そうだな、満たされた、という気分だ」
だから。と幸村の目は私を捉える。
「シズカのそういう所が、やはり好きなのだと思う。」
「!!!!」
ドッ!!
心臓が変なタイミングで跳ねた。
血圧がおかしくなったのが一瞬でわかるくらい、顔が熱をもつ。ぐっと、思わず顎を引いた。
こっそりと頬に手を当てたけどやっぱり滅茶苦茶に熱い。
こっ……………こいつ……!!!
幸村は私の顔が真っ赤なのも、心臓が死ぬほど痛いのも気づいていないようで、ニコニコと笑顔を浮かべたまま「うむ」と1人で何かを納得した。
「某決めたでござる」
「え?」
「シズカがそのように真剣に己と向き合っているのであれば、某も報いねば!!」
「………………ん?」
幸村の目がキラキラと輝く。
なん、なんか変な方向に話がいってる気がするんですけど!!
ぐっ、と力強く拳を握りしめた幸村は私の手を取って、そのまま握りしめた。急なことに私は一瞬フリーズする。
幸村の手は熱すぎるほどに熱くて、火傷しそうなほどだ。
「シズカが胸を張って好きだと言えるよう、某はシズカに恥じぬよう在り続ける!それが某にできる礼であり、義でござる!!」
「……んんんんんんん??????」
待って、なんの話?!?
幸村の言ってることが分からなくて、でも握られた手が熱くて、どんどんキャパが無くなっていくのを感じる。
ゆゆゆゆゆ、幸村さん?!手!!手ェ!!!
「だから」
「っ」
目が優しい。
「これからも、末長くお頼み申す!!」
「――」
あぁ。
もう、
眩しい人だ、と思う。
太陽みたいにあったかくて、強くて、優しい。
いつかちゃんと、私の言葉で返事ができてこの人の誠意に応えたい。
そう思って、幸村のあったかい手を少し握り返そうとして――
「いや〜〜〜〜〜〜昼間からアツアツだねご両人っ!」
「「!!!!!!!!!」」
あまりに………あまりに突然声が落ちてきて、私も幸村も後ろに飛び跳ねた。ギョッとして顔を上げると、そこには天井の板を外してひっくり返った佐助がいる。言わずもがなその顔はニヤニヤとしていて、どう見ても茶化しにきたとしか思えない。
「さッ……!!佐助!!!」
「俺様ってば感激だよもう!あんなにちっちゃかった弁丸様が女の子の手を握って熱く心交わすなんて……」
「おっ、…降りてこい!!」
「えぇ〜、そんな水臭い!俺様抜きでどうぞどうぞ」
ニヤニヤニヤニヤ
本当に腹立つ顔をして佐助は私を見た。
くっっっそ!!人払いはしたけど佐助払いするの忘れてた!!
顔が真っ赤だし、なんならこの様子だと最初から天井裏にいた可能性すらあって、私は佐助を睨みつける。
佐助はひっくり返ったまま笑みを浮かべると、そんな顔しないでよーと笑う。
「んでんで?シズカちゃんの好きは今のところどっちなの?友として?それとも……ブフッ!!」
瞬間、佐助の顔面に座布団がめり込んだ。
私をおちょくって遊んでいた佐助は避ける間もなく地面に叩き落とされた。
「佐助!!お前と言うやつは……!!シズカの誠意に対して…っ!!」
「いやいやいやちょっと待ってよ旦那!!今のはどっからどーー見ても…うわ危ねぇ!!」
言い終わるより先に幸村の拳が畳を突き破る。
それをギリギリで避けた佐助に幸村の追撃が襲いかかる。
「ちょっ…!旦那これ本当に怪我するから!!」
「ッであれば鍛錬が足りぬぞ!!」
「んな滅茶苦茶な!!」
目の前でどんどんと物が壊れていく。
悲鳴を上げる佐助と、それを追う幸村。
私はなんだか懐かしさすら感じて思わず声を上げて笑ってしまった。
「見てないで!助けてよシズカちゃん!!」
「んはは、ぜったいやだ。頑張れ幸村!!」
「うおおおおお!!漲るァァァア!!」
「げぇ!!」
心が跳ねる。
懐かしくて、楽しくて、この時間を共有できる幸村たちに会えてよかったな、と思う。
この時代に来て、幸村たちに出会えた。
しんどい事も沢山あったけれど、それでもこうやって言葉にして伝えられてよかった。
幸村に、返事を言えてよかった。
私は笑いすぎて涙が滲む視界で、そう思った。