私の神様(仮)
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「 閑話 」
「ッ」
「Ha!甘ェ!」
「なんのっ!」
ガッ
「……いつまで続けんのこれ」
「さぁ」
「………」
目の前で幸村と政宗が殴り合っている。
呆れたような声を上げた佐助に、私は肩をすくめるほかない。コタは首を少し倒して、フゥ、と息を吐いた。
このまま日が落ちたって驚かないよ私は!
私の神様(仮)
あの大戦から少しして、ドロドロのベタベタだった私はそのまま瀬戸内コンビに回収され、与一と一緒に湯浴みへ突っ込まれ、しばらく船の上だった。
それでようやく地面に足をつけた…と思ったらそのまま宴会会場へ直通。あれよあれよと色んな人たちにもみくちゃにされて、コタが救出してくれなかったら私は今頃酒樽ひっくり返しの現場に巻き込まれていたかもしれない。
そんな帳を焼くほどの祝賀会――というか、戦勝会…?みたいな物凄い大規模な宴ののち、私たちは再び小田原城に戻ってきていた。
やっと落ち着いた……と思ったけれど、もうあと数日滞在したら、政宗も瀬戸内組も、幸村達も、みんな領地に戻るらしい。
だから誰とも言わずなんとなく集まって、くだらない話をしていた――のだけど、今日は気づいたら幸村と政宗が殴り合っていた。
「お二人さん、なんか壊す前に道場に行ってくんなーい?」
片付けるの俺様なんですけど、とボヤく佐助。
2人は声を聞いてるんだか聞いてないんだか「邪魔すんな猿!」「ぬぅっ!なんのこれしき!!」とお互いから目を離さずに拳を、存分に長い脚を繰り出している。
…当たり前のように佐助が片付けることになってるけど、そこには突っ込まないよ私!どうせ口にしたら手伝わされるって知ってるもん!こういうの『ヤブヘビ』っていうんだもんね!!
「朝も昼も晩も…我はもうこの流れにも飽きた」
「えっ。ナリちゃん2人の鍛錬見たことあるの?」
「?あぁ。」
「ぅええええええええ?!??羨ましすぎる!!」
私まだ結局見れてないんですけど!!
というかまだやってるの?!大宴会から戻ってきてからもまだ一回も見たことないんですけど!!
ナリちゃんの方を見ると、ほとほと呆れた、と顔に書いてナリちゃんは冷たい視線を2人に向けた。
あ、幸村が吹っ飛んだ。
「…姉ちゃんが朝起きるの遅いだけでしょ。……ねぇ、元就これは?」
「……これはどちらでも良い。だが、一般的なのは油だ」
「ふぅん…」
与一がなんかの図録を広げながらナリちゃんに聞く。
ナリちゃんは与一の質問一つ一つに丁寧に答えていて、なんだか勉強を見るお兄ちゃんみたいだ。
…与一はあれから、ナリちゃんに頼んで毛利家の資料?みたいなものを見せてもらっているようだった。聞いたところ、薬師になるために与一が知らない薬の材料を教えてもらっているらしい。
楽しそうにこんなものがあってね!と寝る前に与一の話を聞くのが最近の日課だ。
うんうん、どんどん成長せよ若人よ!
「んふふふ」
「……えっなにその顔…」
「若いっていいねぇ…っておもっただけ!」
「シズカ姉ちゃんだってまだ若ェだろ」
幸村と政宗の殴り合いを楽しそうに見ていたチカちゃんが笑いながら言う。けど……視線を向けたらなんていうかボロボロだ。包帯もすごいし、塗りたくられた薬草でいつものチカちゃんと違う香りがしている。
チカちゃんは、先の戦いでかなり無茶をしたんだとかで、相当身体を壊していたらしい。包帯を巻かれながら与一にビンタされてた。
数日前よりはだいぶ痛々しさはマシになったんだけど、包帯とかはまだ全部は取れてなくてやっぱり見た目的にもガッツリ怪我人モードだ。
「…チカちゃんは寝てなくて良いの?」
「あぁ?体動かしてる方が早く治るっての」
「そんなことないでしょ流石に」
の、脳筋すぎる…!
怪訝な顔をした私にチカちゃんは少し考えると「ほら」と力こぶを作って見せた。ぐっと作られたアニキのかっこよすぎる筋肉がみえて…そんでもって、ガラ空きな脇腹。
「えい」
「ッづゥ??!!!!ばっっっか!!脇腹はやめろ!!」
「治ってないじゃん!!」
「当たり前だろ!!」
わっはっは!脇腹ががら空きですよ!
もだえ苦しむチカちゃん。まだ全然治ってないのは一目瞭然だ。
現代だったら間違いなく入院レベルの大怪我だったんだからそりゃそうっていうか?!これでまたすぐ船に乗って瀬戸内に帰るっていうんだから意味が分からん!!
「治るまで、安静にしてればいいのに」
「なんでだよ?だって別に足が折れてるわけでもねえだろ」
「だって傷口まだ閉じ切ってないんでしょ?膿んじゃったらどうすんの…」
「膿む?」
「あ」
指摘されてドキッとした。
息をのんで辺りを見回すと、首を傾げたチカちゃんとナリちゃん、それから与一も私を見ていた。そして、佐助とコタが同じように周囲を見て、それから幸村と政宗がいて――…
(よ、よかった)
全員私が未来から来てるのを知ってる人たちだ。
安心する。
また余計なことを言ってしまったかと思って心臓が縮むところだった。まさか戦国時代って化膿するって概念ないとは思わないじゃん…!!
「…膿む、とは」
「……」
「傷口が開いていると成るのか?」
ナリちゃんが言う。
「え…あれ…うん??ちょっとまって、膿む、はわかるの?」
「ああ」
「気の流れが悪いとなるやつでしょ?」
佐助の声が落ちてくる。えええ…?!気!?気ってなに!?混乱しまくる私に視線がビシビシと突き刺さるのを感じる。
ううう待ってくれ!
どれは言っていいんだ、ていうか皆は何が引っかかってるのかを教えてくれ!!
「姉上」
「ぅぅう…助けてナリちゃん…」
「――傷口は閉じ切らぬ。そいつのように布を当て、血と膿が出るに任せ、熱が引くのを待つ。それが基本だ。」
「な、なるほど」
大混乱している私にナリちゃんが丁寧に教えてくれた。
でもそれってつまりそのまま放置ってことなのでは…!!戦国時代ワイルドすぎるんですけど?!!
ビシビシと視線を感じながら、私はみんなが何に引っかかったのかを考える。じゃあ…えっと?
「傷は…閉じ、ないの?」
「そうだ。…姉上の言う『閉じる』が縫う事であれば、それも手段としてはある」
「けど…熱が中にこもる方がよほど危ないからあんまりやらないよ」
「お…おうふ…」
熱…!?熱ってあの風邪引いた時のあの熱のこと言ってる?それともなんかぶつけたところが熱いとかそう言うやつ?
(そうか、もしや、この時代…感染するとかそういうバイオハザード的な考え方が…ない!?)
やっべえマジでどっかでも地雷踏んでそうな気がしてきた…私半兵衛になんか変なこと言ってないよね!?
あの時どんな会話したっけと思って必死に思い出しているとキラリとナリちゃんの目が光った。
「…姉上」
「は、はぃい…」
「なにか、有益なことを知っているな」
「う。」
「話せ」
「いっ…いや~~ァ…ほ、ほら?私政宗にもあんまり話すなって怒られてますし…?」
「シズカ」
政宗の声がしてそっちを見ると、いつの間にか殴り合いは終わっていて、真剣な顔の政宗がいる。
その横にいる幸村もじっと私のことを、いつの間にか見ていて、……全員の視線が間違いなく突き刺さっている。
「Go on.」
「うっ、なんとなくわかる単語で言うやん…!!」
「当たり前だろ、その分兵が助かるんだから」
「俺様も聞きたいなあその話」
「いだだだだだ!!指!佐助の指食い込んでるから!!」
肩もぎ取られる!
私はその手から体をよじって逃げ出すと、改めて全員の顔を見た。
もちろん全員の顔に「教えろ」と書いてあって私は喉の奥が絞られる感覚を思い出す。
だ、大丈夫…だよね…?このメンバーなら…
ちらりと佐助を見上げると、佐助はニコリと笑って見せた。
「ダイジョーブだって、悪いようにはしないから」
「ううう、佐助が言うと信用ゼロだ……。えっと…。あの…この世には…目に見えないバイキン…って言うのがいてですね」
「は?」
佐助の鋭い声。
びくりと肩をすくめると幸村が小さく「佐助」と咎めた。
「…傷口に…そのバイキンが入ると、膿む……んです」
「――詳しく聞かせよ」
逃げれなくなった私は、知ってる限りのカスッカス知識を言う。
細菌っていうすごい小さい生き物がいて、そいつらが傷口に入ると、体の中の防御する働く細胞がなんかいい感じにしてくれて、それが膿みだってこととか…
佐助の「じゃあ未来ではどうしてんの?」って質問に「アルコールをかけて…」「alcohol?!!」って反応をされたりとか…そんな会話をしているうちに、気づいたら私はいつの間にか未来の話をしていた。
「…だから、傷口は綺麗にしなきゃいけないし、水の中にもそういう菌はいるから…煮沸してきれいな水を使ってるんだよ」
「――…到底信じられん」
「じゃあ元親の傷も?」
「うん…多分、きれいな水で洗い流して…きれいな布を当てて…大きい傷なら縫う…のかな……ってなんとなく思うけど…」
「………(ずいぶん、くわしい)」
「んね。シズカちゃんもしかして医の者の家系?」
「いやいや、違う違う。これは…」
漫画の知識で。
「……」
「シズカ?」
視線が揺れる。
なんだかわからないけど、急に懐かしさと…寂しい気持ちが急に胸を占めた。
口の中がカラカラになったような気がしてつばを飲み込む。
「…あの」
「どうした」
「ちょっと…ごめんなんか…急に……。」
うまく言葉にできない。
懐かしいなって気持ちなのかもしれないし、余計なことを話してしまった後悔かもしれないし、……改めて…今更……。本当に今更、なんだけど、違う時代に来たんだって自分事として思ったのかもしれなかった。
今更すぎて、恥ずかしい。
「シズカ」
政宗の手が私の頭を滑る。
「ゆっくりでいい」
「――…」
みんなが私の言葉を待ってくれている。
視線が彷徨う。
思ったことを口にする。
「――…私が、いた時代のこと」
「あぁ」
「…ちょっと、話したいかも。」
「of course」
ぽつり、と言葉が出る。
「…私、女子高生で…普通の、どこにでもいる……少しだけオタク、だけど」
「――…」
「でも本当に…朝起きて、ごはんたべて…学校行って、部活して、帰って、お風呂入って寝る…って感じで。」
「…学校って?」
与一が言う。
「学校は……与一の年の半分くらいの時から…私の歳、より少し上くらいまでの間に行く…寺子屋…はちょっと違う……今、ナリちゃんと与一がやってたみたいな、…教える人と、学ぶ人がいる場所のこと」
「そんなに長いんだ…」
「うん。…文字の書き方とか、計算の仕方……とか、あとは、……歴史、とか。勉強するんだよ」
「でもシズカ姉ちゃん文字読めねぇよな」
「…かなり違うんだよ。…政宗には、…というか梵ちゃん、には話したことあるんだけど…私のいた時代には南蛮の文字がすごい入ってきてて、日本語と混ざってるっていうか」
「へぇ」
「だから、さっき政宗が言ってた言葉も、なんとなくは分かる、けど私はあんまり得意じゃないんだ」
「シズカのその不思議な板は?」
「これはスマホ…って言う道具で、大体みんな持ってるやつで…。本当は、この中に写真を入れるだけじゃなくて…遠く離れた人とも会話ができるの。あとは…文を送ったりとか」
「what?!」
「あ、でもね。相手もこれを持ってないといけなくて……あと多分電波がないから繋がらないよ」
「そうか…」
スマホに目を落とす。
データフォルダの中には、いろんなデータが入っている。
私が好きな絵師さんの絵とか、ちびちゃんズの写真とか、…松永のところで撮った変な顔とか。
それからもっと遡ると――…
「あ…」
「どうした?」
スマホのアルバムを遡る。スッと写真がロールしていく。そして瞬く間に。
――……
(あ、った)
空が綺麗だな、と思って撮った写真。
友達と買い食いしたクレープの写真。
寝落ちてノートに取り損ねた日の黒板の写真。
ちょっとブレてる野良猫の写真。
それから、血の繋がった家族。
「――…」
「…姉ちゃん」
与一の柔らかい声。
「これが、姉ちゃんがいた時代なの?」
「……」
ちら、と与一を見る。
与一は興味津々、でも、寂しそう、とかでもなくて、私に話しかけている。丸くて綺麗な目。顔を上げないまま、私はもう一度スマホに視線を落とした。
当たり前のようにあった、私の生活。
17年間、あった場所。
「今見ると…空が狭いね」
「…うん」
「――シズカ」
ぽつりと名前を誰かが呼んだ。
私は聞こえなかったふりをして、スマホをさらに遡る。
強がってるのは自分でもわかってた。今ここにいる人たちは…みんな優しいから、気遣ってくれるのもわかってた。
でも、そんなみんなが思うほど、悲しいものでもないんだよって、わかって欲しかった。
いつか誰かに言ったみたいに、私はここにきたことを後悔も、悲観してもいない。
懐かしくて、遠い場所。
遥か400年向こう。
もう帰れない。
私だって、何も知らなかった頃には戻れないくらい、この場所が大好きなんだ。
与一は私の気持ちを汲み取ってくれて、つとめて明るい声をあげる。
「姉ちゃん、この黒い線は何?」
「これは電線…あー、政宗の雷の、もっと弱いやつを流すやつ」
「流してどうすんの?」
「家とか施設に配るんだよ、家は色んなものが電気で動いてるの」
「…前に姉ちゃんが言ってた『せんたっき』ってやつも?」
「そうそう」
流石に洗濯機の写真はないなぁ。
カメラロールを雑に遡っていく。みんなが小さなスマホの画面を覗き込むから、顔が寄り集まっていてすごく狭い。
一枚開くたびに「なんだこりゃ」とか「なぜ地面が黒いのだ」とか「この光っている巨大な塊はなんでござるか!」とか質問が飛び交う。
私はそれに一つ一つ答える。
ナリちゃんとか佐助は仕組みまで聞こうとしてきたけど、流石に私にはわからないから「ごめん」と謝る。
そして、それなりに遡って行った先のサムネイルに、
「あっ」
「これは…前田殿?」
……正確には、ゲームのパッケージだけど。
BASARA2のパッケージの写真。
これを手にした時本当に嬉しくて、思わず撮っちゃったやつ。すごく楽しみで、早く家に帰ってやりたくて、走って帰ったんだっけ。
私はその写真をじっと見る。
「――あの、さ」
いつもならスマホを投げ捨てて、みんなが見てしまったものを誤魔化してたと思う。
だけど。
顔を上げる。
チカちゃんとナリちゃんがいる。長曾我部元親と、毛利元就。2人は作中だと犬猿の仲だ。だけど今ここにいる2人は同じ船で小田原に来て、チカちゃんの怪我の手当をみんなで手伝った。
佐助とコタを見る。猿飛佐助と風魔小太郎。
――…2人が同じ師に学んでいたこと。そして過去にあったことは作中には書かれていない。だけど、私はそれをもう知っている。
与一と政宗。与一は、作品にいない。だけど私の大事な家族。伊達政宗は、私の知らないところで考えて、泣いて、笑って突き進んできた1人の人。
私が知らない時間を、生きている人たちだ。
そして、
(幸村……)
私に、心を寄せてくれた人。
真っ直ぐに、隠しもせずに。
――…みんなに、聞いてほしいって思った。
みんなだからこそ、言いたいって、私は思った。
「……私、みんなのこと前から知ってたの」
「……」
「皆、すごい人たちでしょ。だから…400年後も、名前が残ってるんだ」
「その名前は…書物になったり、絵になったり、想像されて脚色されたりして、色んな形になってるの」
言葉を、選ぶ。
「…私は、そのたくさんの形の…うちの一つが好きでさ。毎日そのことばっか考えてた」
寝ても、覚めても。
学校が終われば走って帰る日もあった。
色んなファンサイトに行って、解釈を膨らませて、ゲームをやって、何度も聞いたボイスをもう一度聞きに行った。
「みんなの事、本当に大好きだったんだ」
だから、知ってた。
だから、当たり前のように信じた。
でも…ここは現実で、2次元じゃないって私はもう知ってる。
私の爪がかけたまま伸びていくのも、チカちゃんの傷はすぐに治らないのも、与一が成長していくことも。
私の時間が進むのと、同じ速度で世界も進んでいくって。
一瞬だけ、空気が静まり返った。
湿った空気にしてしまった、と思って私は慌てて息を吸った。
「だ、だからさ私……」
「stop」
ぐしゃり、乱暴に頭を撫でられる。
「…ンなの、とっくに知ってる」
政宗が与一達を見る。
与一も、チカちゃんもナリちゃんも、小さく笑っていた。
私は、あの夜泣いた顔を思い出して政宗をもう一度見上げる。
「好きでもねぇなら、あんな踏み込んでくるわけないだろ」
鼻で笑いながら政宗は一瞬目を逸らした。
「――Glad it was you」
「……ん?」
知らない単語に首を傾げた。なに、と聞き返そうとした私の頭をもう一度撫でて、政宗は口角を持ち上げた。「意味は自分で考えな」そう言って笑う顔は、ゲームで散々見た奥州筆頭、の顔だった。
全員の顔をもう一度見回す。
誰も引いてない。誰も私を値踏みしていない。
みんな、私の言葉を信じてくれてるんだ。
「――」
不意に、視線が向いた。
幸村と目が合う。
そして幸村は唇を静かに振るわせた。
「…初めて」
「ん…?」
「某は、今日初めて知った。」
何を、と聞くより先に言葉が重なる。
「シズカが、どんな世界で生き、何を当たり前とし、何を失って、……そして何を背負っていたのか」
「…背負うって、」
そんなのじゃない、
幸村のような覚悟でも、志でもない。
そう伝えたかったのに、幸村は私の言葉を飲んで、一歩踏み出す。
「某はそれを」
「……立派だ、と思う」
断言。
「失ったものが確かにあり、理も違う世で生きることの苦しさは、某の想像にも及ばぬ。」
「だが、シズカが軽いことのように語るのも」
「恐れを、笑って隠すのも」
「――とても尊いと思う」
真っ直ぐな目。真剣な声。
幸村が絶対に伝えたいと思って言ってくれているのがわかる。
ぎゅ、といつかのように心臓が痛くなって跳ねる。
――その瞬間
「おい」
低い声。
視線を向けると、政宗が苦い顔で幸村を見て、その肩を掴んでいた。
「俺たちの目の前でシズカを口説いてんじゃねェよ」
幸村が一瞬固まって、それから首をブンブンと左右に振った。
「くッ…口説いてなど…!!」
「ahー、そういう自覚がねぇのが1番タチ悪りぃ」
ちら。と政宗からの視線が落ちてくる。ニヤニヤとした顔。しかもなんか含みがある。
というか、こっ…これは……
(もし、かして……バレ、てる…?!)
思わずナリちゃんを見る。
だって……ナリちゃんが、幸村に告白されたことを言ったのかと思った。だからいつもみたいにフン、て鼻で笑ってしたり顔をしてるのかと思った、のに。
「…」
ナリちゃんは、ゆるりと目元を緩めて笑っていた。
私と目が合うとそのままを伏せて微かに頷きを返してくる。チカちゃんはその隣で腕を組んで、にんまり笑ってる。
与一だけが「え…?えぇえ?!!」って声をあげて目を剥いていた。
私は信じられない気分になってもう一回政宗の顔を見た。政宗は…ッHa!と弾けるみたいに噴き出した。私の頭を両手で乱暴ぐしゃぐしゃにすると、ハハハ!と楽しそうに見えない視界の向こうで笑い声をあげる。
「あとはシズカ次第だろ」
「――…!」
「何を選んだって、俺たちは変わんねぇよ」
そして、ばんっ!と力強すぎるくらいの勢いで背中を叩かれた。前につんのめった私を、また笑って政宗はひらりと手を振る。
い、痛いんだけど!背中から凄い良い音したんだけど!!
「ま、政宗殿…某は」
「おー何か言いたいことがあんなら続きは道場、だろ」
「…!」
「………。え?何もしかして俺様今気を遣われた?竜の旦那に?明日雨降る?」
「ンな訳あるか」
幸村と政宗が歩いていく。
幸村はチラリと私の方を見ると、礼儀正しく頭を下げていった。真面目だなぁとその後ろ髪が揺れるのを見送っていると、ポン、と肩を叩かれる。
「…シズカちゃん」
「ん?」
「ごめんね」
「……」
佐助が言う。
思わず見上げると、真面目な顔でびっくりした。
そのせいで一瞬何のことかわからなくて。それから呼び出したことを謝ってるんだ、と気づく。
だから…私別に悲しいとか思ってないんだってば、って言おうとしたけど、それより先に佐助の顔がいつもの飄々とした顔に戻った。
「ま、でも実際のところ…俺様は悪くなくて、禁術発動してる時に邪魔した風魔が悪――」
スココ!
佐助が飛び退いて、その場にクナイが突き刺さる。
もちろんコタだ。
コタはむっすりと腕を組んだまま口を動かす。
「……(弱いのが、悪い)」
「はぁ?ひっでぇ」
「……(事実だ)」
ぴしゃりと言い切るコタ。それに佐助はちょっと面食らって、それからまぁそれは…改善の余地あり、ってことで!と明るい声をあげる。
「じゃあ俺様も旦那達の様子見に行ってこようかな」
「……(組み手、するか)」
「マジ?風魔と?それは――腕がなるね」
ニヤリ、嬉しそうに佐助は笑うと瞬間姿を消した。
そそくさと道場に向かったんだろう。コタは、それを見て少し肩をすくめると私にひらりと手を振ってその後を追った。
「俺はもうちょいシズカ姉ちゃんの話が聞きてぇな」
「え?」
「海の向こうの話とかよ、怪我人は安静にしとけ、なんだろ?」
じゃあ安静にするから話聞かせろや、とチカちゃんは笑った。手元のスマホに目を落として、私は話題になりそうな写真を探す。
「…与一、それはどう使うかわかるか」
「え、う、うーん。…なまものっぽいから…乾燥させる?」
「煮詰めて使う」
与一とナリちゃんはまた勉強の続きにもどったのか、うんうんと考える声が聞こえてくる。私はその声を聞きながらまた少しアルバムを戻って、チカちゃんが喜びそうなものを見つけた。
「あ、じゃあ――」
これは、そんなある日の、後少しだけ続く日々の話。