私の神様(仮)
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「 ん 」
――…ヒュ、ヒュ、
息が断続的に音を立てる。
力を込めようと指先に熱を灯すが、震えが生まれた。
幸村はその感覚に苦々しい気持ちを浮かべる。
バツ、バツ、と心臓が千切れ飛びそうなほどの音を立てるの聞こえている。
額から液体が伝う感覚があった。
しかし、それを拭うことはできない。
二槍を地面につき、睨みつける。
眼前の大男…豊臣秀吉は表情をぴくりとも動かさずに幸村を見下ろしていた。
「…所詮その程度か」
「……」
耳の奥で低い音が反響する。
腹の底に響く声音に、眉を顰める。
幸村は肩で息をつくが、この男は呼吸一つ乱した様子はない。そこから実力の差が滲んでいるようで、幸村は奥歯を噛み締めた。
信念は折れていない、決意も、覚悟も、この槍もまだ確かにここにある。
だが――
「ガッ……!」
秀吉の拳が幸村の右頬を撃つ。
見えていたのに体が追いつかない。
受け身を取り損なって頭を強打する。
叩きつけられた身体はギシリと悲鳴を上げた。
「甲斐の虎の腰巾着…何かと思えばただの路傍の石よ」
「…ぐぅっ」
立ち上がろうとする。
しかし、足に力が入らず不恰好に膝から崩れ落ちた。
肺が燃えるように熱い。呼吸するたびにギィギィと骨が痛む。
強かに穿たれた右側の視界の隅が赤い。
「路傍の石ならば、踏み砕かれるが理だ」
「っつ…真田を、侮るな…!」
叫んで踏み込む。
迷いはない。幸村の槍は真っ直ぐに秀吉の眉間を狙う。
消耗してなお衰えない速度で繰り出されたその穂先だったが、秀吉はなんのことのないように篭手金でそれを真っ向に受けてみせた。
返しの一撃が来る。
視界の隅で握られた拳を見て、幸村は咄嗟に腕を上げる。
槍で受けようと構えたが、その拳が紅蓮に染まった。
「ゔぐっ」
息が詰まる。
肺が潰れた。
秀吉の拳が鳩尾に刺さり、身体のなかの空気が強制的に追い出される。
視界が一瞬白く飛ぶ。
身体が浮いたのを感じる。
続いて背中を打ち付ける。
背中が地面を抉って土煙が立ち昇った。
ヒュ、、ヒュ、っヒュ
身体が勝手に空気を求める。指先が痺れて、耳鳴り。
まずい、
直感して、幸村は体を捻った。その場所を秀吉の拳が叩き潰す。ヴォン、と空気を引き裂く鈍い音が遅れて耳を打った。
体を起こそうと地面に手をついて、肘が崩れる。
っ…まだだ――
まだ、戦える。
自分を鼓舞する。
焔が揺らめくのを押さえつける。
乱れる呼吸を数拍鎮めようと胸に力をいれた。
そこへゆらりと影が覆い被さる。
逆光で表情までは見えない。だが、この男の放つ威圧感はビリビリと肌を刺す。
「貴様如き、我が覇道の障害にもならぬ」
「!!」
拳が引かれる。
――来る!
槍を握ることを諦めて、幸村は腕を挟んだ。
ゴッ!!
地面に深く沈む。
骨が軋んで、筋肉が引きちぎれるようなブチブチという音が重なる。
身体が砕けるような痛み、衝撃。
視界が黒く揺れる。
――…
胸から下げた六文銭が軽い音を立てている。
その音が現実を知らしめる。
――使う時が、来たのやもしれぬ。
黒煙に塞がれた空が明滅する。
胸の奥にある焔が強く揺れて、ジジ、と布を叩くような音を立てている。
闇を照らしていたその光は、遠く、霞んでいくようだった。
それを見る時、いかなる気持ちなのかと考えたことがある。だがこうして目の当たりにすると、存外に穏やかなものだ、と思う。こんなにも充足感があるのは、強敵を相手に燃やし尽くした、と思っているからに他ならない。
真田幸村として……否、ただ1人戦国の世に生きた武人として、技を磨いてきた。
情熱を燃やし、命を燃やしてきた。
それでもなお上がいる。
(はは、――武人として、これほどの終いもない)
満ち足りた気分だ。
この乱世を生きたこと。
日の本を二分する大戦で存分に技を振るえたこと。
このような強敵と武を交えられたこと。
考えうる限り、武人として最大の誉だ。
焔が揺れる。
潰えようとする。
その瞬間の光の眩しさを知る。
幸村はその光に願う。
この天下分け目の大戦の果てに、師と尊敬するお館様の覇道があることを。
自分はそこにいなくても良い。
師の教えは確かにこの胸にあり、
運は天にある。
それがこの『真田幸村』を形作っている。
チラチラと明滅する焔をみて、安堵と充足感が胸を満たし――…
(――…、?)
ほんのわずか、違和感を感じた。
思わず目を向ける。
充足感の向こうに、ざらりとした感触があったのだ。
確かにこれは満ち足りた気持ちで……
これ以上望むものなどない、はずだ。
――…本当に?
ジッ、音を立てて焔が揺れる。
幸村の胸の内側に燻る何かがある。
パチンッ――。
子が手のひらを弾いたような、小さな破裂音。
その音とともに脳裏をよぎった。
息を詰まらせて、喉を震わせた小さな肩を。
いつもの笑顔ではなく、縋るものを探す寂しげな顔を。
そして…涙が零れそうになる寸で、目を強く閉じて堪えたその瞳を。
バチン!
胸郭の奥で火花が散った。
幸村の心臓がドッと唸る。
(――違う)
肺の奥から何かが破裂したのを感じた。
それは熱を持ち、幸村の血液を逆流させるほどの大きな濁流になる。
焔が激しく瞬いてその勢いは増す。
心臓を一閃。
貫く様な衝撃。
衝撃は肋骨を突き破ろうとするほどの勢いで肺を膨らませる。
(―――まだ、)
(まだだ…!!!)
熱を持った濁流が、幸村の指の先を、耳の奥を、腹の底を駆け回る。
熱い血が全身を満たしている。
「ッ…まだ――!!」
肺が裂ける、肋骨が砕ける。
抑えきれない衝動が、心臓を貫いてあふれ出た。
「某は!……ッまだ死ねぬ!!」
咆哮。
「シズカから……返事を!!まだ、聞いておらぬ故ッ!!!!!」
指先に力が灯る。
幸村は肺から叫ぶと、熱のままに立ち上がった。
理由など要らなかった。
ただ幸村の心が燃え盛る、それだけでよかった。
うすらと霞む頭を振り払って、巨躯を睨み付ける。
秀吉は吠える幸村を静かに、無表情で見下ろしている――…
そう思っていた。
しかし、かの大男は歯を見せてあくどい笑みを浮かべていた。
「――フッ、…ハハハハハ!!!!」
地面が震えている。槍を持つ指先に力が入る。
ひとしきり笑ったのち…秀吉はその真紅の瞳で幸村を貫いた。
「シズカ!あの未来から来たという小娘!!よもや、このような形で答えを示しに来るとはッ!!!」
「……!!」
秀吉は紅い双眸を細め、まるで獲物を味わうように幸村を舐めた。
楽しんでいる。
心底笑っている。
この男が何を愉しんでいるのか、幸村には理解できない。
ただ――
この男が、彼女を覚えている。
その名を呼び、まるで値踏みするように笑っている。
心の奥で焔が渦巻く。
「ならばその火種、我が正しく終わらせよう!!」
その声が、頬を叩いた刃のように空気を切り裂いた。
次の瞬間――拳が空気を裂いて迫る。
幸村は反射で半歩、身を捻った。秀吉の剛腕が耳のすぐ横を切り裂く。
(……動けるッ)
槍がうなる。
柄のしなりが手に伝わり、秀吉の拳と激突した。
衝撃は腕の骨を軋ませたが、身体が潰れない。
むしろ――押し返せる。
「……ッらァ!!」
幸村が地を蹴る。
炎が血管を走るように、脚へ、腕へ、背骨へ、連鎖していく。
その度に身体に力が漲ってくる。
動かすほどに、身体は軽くなっていく。
秀吉の目がわずかに細められた。
圧が膨れ上がる。
空気がバリバリと割れ、秀吉の大きな身体が一歩前へ沈む。
「ほう…!!」
拳と槍がぶつかる。火花が散るたびに幸村の膝が震える。
痛みはある。骨もきしむ。だが、確実に秀吉の拳を追えている。
(追える!この怪物の拳を!)
秀吉の拳が、幸村の頬を掠める。
そのまま衝撃が首に走るが、意識は飛ばない。
幸村は槍尻で地を突き、跳ねるように体勢を立て直す。
「まだまだァ!!」
焔が身体の中心から吹き上がる。
その熱に、秀吉の紅い瞳がギラリと光った。
吠えるように拳が連打される。一撃ごとに幸村の肋が軋む。
口の奥から血がにじむ。
だが、幸村もまた槍の一太刀ごとに秀吉の膚を裂く。
血が散る。
骨が唸る。
両者ともに、一歩も引かない。
空気が爆ぜて、熱風が空気を膨張させる
双方の攻撃が一段と鋭い音を立て…
「……」
「ッぐ…」
巨躯が崩れ落ちる。
微かに何かを呟く声が聞こえたような気がしたが、幸村の耳元でザァザァと血潮が流れる音にかき消された。
「は―――…」
まるで炎その物になったように体の内が燃え滾っている。
吐き出した息は口の中を焼き切って、外へと流れ出ていく。
ボォオオォ―――
ほら貝の音が響く。
ハッとして顔を上げると、真っ先に揺れる夕日が目についた。
赤い光が砂埃に反射し、視界を揺らめかせた。
(……終わった…のか?)
胸の内側が燃えている。
自らの焔が、まだ鎮まりきらず荒れ狂っている。
判然としないまま、幸村はふらりと膝をつく。
肩で息をし、焼けるような空気を肺に押し込むたび、内側の焔がまだくすぶっているのがわかる。ギリギリと鳩尾が痛む。
「……ッ…ッは…」
地面に影が落ちる。
秀吉が倒れて動かない。
だが、その巨躯が完全に沈黙しているのかどうか、まだ確信が持てない。
眼下に両軍が映る。
敵方の旗が揺らめき後退していく。
幸村は槍を突き立て、ゆっくりと立ち上がる。
膝が揺れたが、燻る熱が身体を支えた。
「――…」
くっ、と口を結ぶ。
己を焦がす焔を内に留めて、幸村は眼下を見下ろす。
落日の斜光が数多の死体と軍旗を照らして影を長く落としている。
ボォオオォ―――
黒煙の隙間から照らされる荒れ野を、幸村はただ黙って見つめていた。
* * *
多くの怪我人が運び込まれてくる。
目まぐるしく人が行き交っていて、さっきまで隣にいた与一もどこかへ行ってしまった。
――…どうやら、戦は、終わったらしい。
いつまでも、どこまでも続くとすら思っていたけれど、こういった物であっても、ちゃんと終わりがあるようだった。
怒号も轟音もいつのまにか消え失せていて、気づけば日はすっかり傾いていた。
地平線に沈み始める頃合いだろうか。
眩しく目に突き刺さる斜陽に目を焼いて、私は顔に飛んだ汗をぬぐって顔を上げる。
戦は終わっても、運ばれてくる人は一向に減る気配はない。
次々と運ばれてくる人たちに手を貸す。体を支える。
崩れ落ちそうになった人に肩を貸して座らせた。
考えるよりも先に身体が動いて、私は次を探すために顔を上げた。
その視界の隅で、陣幕に朱が揺れた。
一瞬行き過ぎようとした視線を引き戻す。
「――ゆ、」
「――……シズカ…?」
口の中がカサカサだった。
呼ぼうとした名前も、カサつく口の中で転がって、うまく出せない。指先が震えた。
陣幕の入口で立ち尽くしていたのは、幸村だ。
どれほどの死闘をしてきたのだろうか、服も鎧もたくさんの血を浴びて、髪もいつものハチマキも重たそうに下がっている。
だけども、背中に二槍を背負って…両足をしっかり地面につけて私を見ていた。
そこに、いる。
幸村の顔を見た瞬間、心の中に言葉があふれてきた。
拾い上げるよりも先に次から次へと色んな感情が渦巻いて、うまく拾えない。
自分の下手さに、……違う、これは
「……う」
「う?」
「ゔッ」
ぼろり、
一瞬で視界が揺らいだ。
喉が詰まる。
「ゔっ、ゔわ"ぁあああぁぁあああぁあああああああんッッッ!!!!こ…ッこ"わ"か"っ"た"ぁ"あ"あ"あ"ああ!!!!!!」
ぐちゃっとしたものがそのまま飛び出た。
涙になった物もあるし、声になった物もあったけど、とにかく水をひっくり返したみたいに全部があふれ出る。
幸村は突然大泣きを始めた私を見て、ギョッとした顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「なっ…!シズカ?!そ、某何かしてしまったであろうか?!」
「ゔぇ"え"え"っ、だっ、だって……ッ!ゆき…っ、う、ゔうッ!!」
「なぁ!?なななな、泣かないでくだされ…!い、ッ…いったいどうすれば…!??」
そう言って大慌てで右往左往する幸村はいつもの幸村だ。
私はまたそれに心臓が滅茶苦茶になる。
幸村に会えた、それだけなのに心の底から安心している。
心の底から無事であったことを喜んでいる。
頭にものすごい血液が集まって、熱になって、それで全部が涙と鼻水になって出てくる。
本当に全く…全然ちっとも…人に見せられる顔じゃないのは頭の隅で分かってるんだけど、どうにも身体も涙も止まらない。
わんわんと声を上げて泣いていたら、背中に温かさを感じた。
するりと温かさが背を滑って、私は定位置を見上げる。
「……」
コタが、泣き止まない私の背をゆっくりと撫でている。
あの夜の森で背を撫でた大和くんと同じ温かさ。
ぐっ、再び胸が詰まる。
あのとき、私は言いたかったことを、伝えたかったことを言えなかった。
暗い森を独りで行く大和くんに、……
言わなきゃと思うより先に口が勝手に開いた、
「あっ…こ、た"、ね、わた…っ、ひっく……うゔっ、あの、とき……ッ」
「……」
コタは私の背を撫でる手を止めて私の口を見る。
伝えたいのに嗚咽に呑まれて言葉にならない。
どうにか絞り出そうとしているのをみて、コタは「なんだその話か」と言わんばかりにニマ、と口角を持ち上げた。
「(い、き、た、よ)」
小さな頷き。
その言葉に、頷きに。
いよいよ私の堰は壊れてしまった。
「ッッゔああぁああああぁああんっ!!!」
喉が引きつって身体中が熱い。
何も考えられないくらいに脳は焼けている。
嬉しい、
安堵、
よかった、
さびしかった、
こわかった、
そんな感情が生まれてはそのまま零れ落ちていく。
コタの温かな手のひらが、また私の背を滑る。
幸村が私の涙を拭おうとして「いやしかしこれは破廉恥では…ッ??!」と慌てている。
血みどろで、ぼろぼろのドロドロでそんな事をするものだから、私はまた安堵があふれてきて、そのまま零れる。
「…おーい!!」
「Ha!やっぱり帰ってきてやがったか!」
「フ…」
「姉ちゃん!!」
西日が光る。
影が長く伸びて揺れている。
逆光になっているけれど、聞き慣れた声だ。
…鼻を鳴らして歩いてくるのはナリちゃんで、
…大きく手を振っているのはチカちゃんで、
…走ってきているのは政宗だ。
…そして先頭を歩く小さな影は与一。
「んもう、姉ちゃんてばどんだけ泣くのさ!!」
キラキラとはじけるような、でもちょっと涙声。
たくさんの足音がやってくる。
よかった、よかった、よかった――――
言葉が渋滞しては安心感だけが渦巻いていく。
ぶわりと風が音を上げた。
戦場の残り火をまとった風が、悪魔みたいな声を上げて拭き上がる。
その風は、べたべたな私の前髪と泣き声を攫うと、そのままはるか上空へと飛び上がっていった。
私は思う。
この地獄を
この時代を。
私たちは今、間違いなく生きているのだと。
----------------------------
――…
山影が落ちる町並みを歩いている。
いつもならまだ明るく温かい時間だと思うのだけれど、影の中に足が入ると冷たさを感じるほどだ。
じゃり、と2人分の草鞋の底で砂が鳴った。
少し持ってもらったとはいえまだまだ重たい荷物を背負い直す。
すると少し先に見覚えのある暖簾が目についた。
「あ、見てあれ」
「……『紅葉屋』…?紅葉屋って小田原の?」
「そうそう。暖簾分けしたんだって」
腰のあたりで弾けるよな声がする。
顔を見なくても、どんな顔をしているのかわかる。
「お二人さん!どうだい、あの北条家御用達の甘味屋だよ!」
「また来るよ、今はちょっとおいらたち急いでるんだ!」
細く長い道が蛇行しながら続いている。
威勢のいい声が響き、道の隅で旅人たちが風呂敷や木箱を広げて商いをしている。
その張りのある声が山に反響して帰ってきているようだった。
軒を連ねる家々は小田原よりも近い。
山が迫り、人が多いのも相まって、密度があり…とても賑やかな様相だ。
「…いい町だね」
「うん。幸村が言ってた通り」
そう言いながら裏路地を覗き込む。
確かにあの時言っていたように裏路地は人一人通るのがやっと、という細さだ。
幼い幸村もこの道を鍛錬帰りに通ったのだろうか?
軒先から味噌の良い香りがする。
どこかの家が夕飯を仕込んでいるんだろうか。
私はその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
と。
「――シズカ!!」
わん、と山間に声が響いた。
その声の大きさに、何人かが目を丸くして足を止める。
大きすぎた、と言わんばかりに肩をすくめた幸村が少し先から手を振っている。
そして私たちを見つけて駆け寄ってきた。
「お二人ともお久しゅうござる!与一殿も」
「うん!幸村の兄ちゃんも元気そうでよかった」
「それは何より。奥州はどうでござったか」
「あっちも元気そうだったよ、今度瀬戸内組に聞いたことを塩釜で試すって言ってた」
「なんかすごい生き生きしてたよ。……あ、で幸村に伝言もあずかってて――」
心地よい会話が続く。
山から風が吹きおろし、鼻の頭が少し冷たくなる。
風には豊穣な土の香りが混ざっている。
何かの鳴き声が聞こえてくる。鳥かもしれないし、もっと別の獣かもしれない。距離感がわからないけどきっと多分遠いんだろう。
「…ほんとだ」
「む?」
「幸村が言ってた通り。…来れてよかった」
「!――…無論でござる」
道を踏みしめて、私たちは横並びに歩く。
両隣の温かさを感じて、私は口を開けて空気を食べる。
すこし勾配のある道は、うねりながらどこまでも続いていた。