私の神様(仮)
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「 し 」
息を吸う。
息を吐く。
数を数えながらもう一度呼吸をする。
もうじき日が昇る頃か、東の空は白い。
…フーー…
息は細く、そして長く続く。
(シズカ)
幸村は思う。
彼女がもともと居たという遥か未来を。
今、この朝から連綿と続いた先にある、自分が絶対に見ることのできない時間。
シズカは1人そこからやってきた。
家族も、友も置いて。たった独りで。
そんな彼女のことを、守りたいと思っていたはずなのに。
「――俺は、何をしているのだ」
焼け跡を見ながら涙を堪えるシズカに、かける言葉を見つけられなかった。泣きそうなのを堪えて肩を震わせる姿に、駆け寄ることができなかった。
強くありたいと願っているのに、いざという時シズカの力になれない不甲斐なさを噛み締める。
「痛みひとつ支えられぬようでは……何を“義”と呼べるというのだ」
誰よりも清く、強き魂を持つ人だと思っていた。
自身の境遇も悟らせず、ただ皆を見て、背を押し、手を引く。
誰のためでもなく当たり前のように「誰かを救うこと」を選ぶ、その尊さに何度も心を奪われた。
あれほど強い方の、あんな顔。
もう二度と見たくはない。
二度と、ひとりで耐えさせたくはない。
気づけば、拳を握っていた。
胸の内がうるさくて、息を整えようとしても整わない。
「シズカ」
名前を言葉にする。
たったそれだけなのに苦しいほどに胸が揺れる。
こんなにも誰かを想うのが、こんなにも苦しいのが、恋でなくて何だというのか。
義も理も、今は遠い。
気づけばただひとりの人として惹かれていた。
「俺は。」
貴女への想いにだけは、嘘はつけぬ。
すべてを言葉にすれば、嘘になる。
この心の奔りだけを、まっすぐ伝えたい。
あの小さな背中に、手を伸ばせる男でありたい。
東の空が明るくなる。
握りしめた拳の力が抜ける。
もう一度、細く、長く息をした。
吐いた息は、朝焼けの光を受けてゆっくりと空気に溶けて消えた。
「言わなくては」
私の神様(仮)
~朝型の君と夜型の私~
今日も健やかな朝。
私はまだまだ眠い。というか、いつだって眠い。
与一は元気に今日もどこかに飛び出して行ったし(まぁ多分慶次のところかコタの所なんだろうけど)そのついでに私は起こされた訳なんだけど。
昨日は相当歩いたし、なんなら若干足が筋肉痛の気配すらある。
朝ごはん食べたら今日はゆっくりしようかなぁ。
チュチュン
「あ、スズメ」
スズメってこの世界でも言うのかな。もしかしから、こんな可愛い見た目でもバサラ技とか使うかもしれない。……あー、まつ姉ちゃんにも会いたいなぁ。慶次に頼んだら連れてってくれるかな?美味しいご飯食べてみたいんだけど!
もちろんザビーの顔した野菜以外で!
お腹が鳴りそうなのを感じながらボンヤリしていると、ギッ、と床板が鳴った。
「シズカ」
名前を呼ばれた。
振り向くと、いつもの熱血若虎こと幸村が立っている。
結われた襟足が肩から滑り落ちていて、なんだかいつもよりキュッとした空気がある。
「あ、幸村おはよ……う?」
一瞬いつもの空気と違くてビックリした。
ピンと背筋を伸ばした幸村は真っ直ぐに私をみている。
なんだなんだ、昨日やっとカビ取りが終わったと思ったんだけど、まだ残兵が残ってたか?それとも寝れなかった?
…あー。なるほど鍛錬終わりなのかも?だからキリッとした空気を纏っているワケか。いいねぇ、今日も私は政宗との鍛錬見れなかったけど!!そろそろ交渉して見せてもらえるようにしないとね!!
「今日も早いねー。元気そうでよかった!!」
幸村はきっと「うむ!シズカも元気そうで何より!」なんてこの朝にぴったりな、元気な挨拶を返してくれるはず、……本当にこの瞬間までそう思っていた。
幸村は、ほんの一呼吸、息を整えてから言った。
「少し……お時間を、いただけますか」
その目が、その声があまりに丁寧で、それから真剣すぎて。心臓がドッと嫌な音を立てる。
え、何事?
私の背中につっ、と嫌な汗が流れた。
なんか変なことしたっけ?!もしかしてやらかしたか?!先生に呼び出されたかコレ!!心当たりしかないんですけど?!…ハッさてはサナダテじゃなくて幸佐でしたか?!!だとしたらごめん幸村!!!
「……あ、うん。どうしたの?」
ガチで怒られるかも、と記憶を全力で遡っていたのに、口が滑った。
返事をした瞬間の顔を見て、私は(あ、)と何か終わらせてしまったことに気づく。
ゲーム画面で見るような赤い鉢巻はしていないけれど、それと同じくらい強い視線が私に降り注いでいる。
幸村は私の返事を聞くと、一歩間合いを詰めてきた。
私はこの絶妙な空気の中、どうするのが正解なのか分からなくて動けない。
影が私の足元にかかった。
「昨日、シズカが涙を堪えているのを見た。」
……あ、これヤバいやつかも
頭の中でビービーとアラートが鳴っている気がするけど、幸村の普段より低くて真剣な声が足を縫い止める。せめて目を逸らしたいけど…今すぐにでもここから離れたいけど、この雰囲気はそれを許してくれないような気がする。
思考の邪魔になるくらい私の心臓の音がうるさい。
「声ひとつかけられず、ただ外から見るしかできず……その無力さたるや……胸が張り裂ける思いであった」
…なんで幸村がそんな顔するの
ギュッと口を結んで眉を寄せる、その顔の意味がわからなくて――私までつられて苦しくなって。
「されど、伝えねばならぬと」
幸村は深く息を吸う。
「某は――貴女をお慕い申し上げている」
世界が止まったかと思った。
吐いてる途中だった息を吐き忘れて、喉の奥が引き攣る。
一瞬にして頭が真っ白になった。
フリーズする私を置いて、幸村は言葉を続ける。
逃げられない。
「理由を述べれば千にも万にも及ぶゆえ……ただ、このひと言だけを」
「どうか……この心を、聞いてくだされ」
脳がジン、と痺れた。
言われた言葉を飲み込めない。
「…え」
幸村の顔も上手く見れない。
心臓の音しかもう聞こえなくて、私は鼻を鳴らした。
何かを言わなきゃと思うのに、言葉が喉の奥で絡まって上手く出てこない。
口を開いては閉じる。
混乱する私の反応を、幸村は何も言わずにじっと見ている。
い、今自分どんな顔してるんだ、や、やだ、み…み、っ見ないで欲しい…!!
(や、ばい無 理 ……だいぶ無理…ッ)
破裂するのかってくらいの爆音で鳴る心音の合間に、ひゅ、と自分の喉から信じられない音が出た。唾を飲み込んだら気管に入りそうになって、なんかもう…どうしたらいいか!わかんないってば!?!!!
「っ」
幸村がまた何か口を開こうとしたのを白い視界の中で見た。
私は撃たれたように体を引いて幸村を見上げる。
私より背の高い幸村は、唇を一つに結んで私を見ていた。
本当に、真剣な目の中に私が映っている。
(は、)
(なになになに!!?)
気づいたら後退っていた。
頭がくらくらする。何も考えられない。
頭の中で正解を探すけど、それもまとまることはない。
私は、小さく息を吸い直す。
(ひ……ッ)
そして、気づいたらその場から走り出していた。
――…シズカの背中が廊下の向こうに消える。
幸村は一瞬踏み出しかけた足を静止させて、息を吐く。
知らず知らずのうちに肩に力が入っていたようだった。
「……返事は要らぬ」
誰にも届かない呟きを笑って、胸に手を当てる。
「伝えられただけで、…十分だ」
私は走る。
頭の中が真っ白で「え?」とか「は??」とか「急に何?!!?」みたいな単語が浮かんでは消える。
でもそれ以上は何も考えられなくて、私はとにかくがむしゃらに廊下を走った。
(今止まったら死ぬ!!なんか頭の中で再生されるッッ!!!無理!!!!!!やめろ!!!!)
目もくれずに走っていたら、行き止まりになってしまったから、裸足のまま庭に駆け降りる。城の隅っこだろうか、本当に来たことがない場所だ。
「ッハ、ッハ、……ッ、し、しぬ、ゼェ、ゼェ…っっ!」
本当に半年ぶりくらいの全力疾走に、口の中が血の味になる。朝ごはんを食べる前だったのが幸いだ、こんなの朝ごはん食べたあとだったら吐いてた!!オロロロ
いよいよ脚がもつれて、私は前につんのめった。
その勢いで植えられていた木にぶつかりそうになって、そのまましがみつく。
足がガクガクと震えて私はそのまま地面に崩れ落ちた。
世界がぐらぐら揺れる。
息が吸えない。
心臓の音が耳の奥を叩きすぎてうるさいし、肺もめちゃくちゃ痛い。
「な……な、な……に……今の……っ、は……???」
――どうか……この心を、聞いてくだされ
「ッッう”わあああああああぁああああぁあああアアアアア!!!!」
ごんッッ!!
いッた!!!!!!どうにかしたくて木を殴ったら思ったより硬くて痛い。
うぐぐぐぐ!やっ、これはあかんんん!
おおおおちつけもちつけ自分!!
頭を掻きむしってグルグル回ってみたけど、酸欠でぐるぐるする視界もゼェゼェ鳴る喉も、あとそれから汗が止まらなくてじっとりしているのもすべてが思考力を奪う。
そそそそ、そんな、…え!!?!!!マジで何!?
「いいいいいいいい、いきなり何!??!!なんだあれ!!なんで!!なんで朝からそんな熱量なの!!???」
まだあさイチなんですけど!?
今日はお日柄もよろしいんですけど!?
「幸村最近おかしかったけどいよいよ本当にッッ!!おかしくなった!?」
あばばばばば!!!!おちつけ私ぃいいいいいぃぃいい!!
大パニックを小田原城の片隅でどうにか処理しようとしていたら、背後から砂利を踏む音が聞こえてきた。
幸村が追いかけてきたのかと思ってぎょっとして飛び退くと、そこには黒い影が。
「こっっっ……コタ…!?」
「……」(こくり
いつの間にかさっきまで誰もいなかった所に小田原城の守護者こと風魔小太郎が首を傾げて立っていた。
奇声を上げていた私を心配してくれたのか、あるいは不審者と思ったのかはわからないけど、雰囲気が「なんだおまえか」って言ってる気がする。
コタは私の顔を見ると首を傾げた。
「……」
「なっ、や、まじで!気に!!!しないでっ!?ちょっと走っただけ!!!」
「……?」
「ア゜↑ッ?!っやほら、ね!?運動…運動不足だったなァ?って!おもって!!」
「……」(ドン引き
「ひ、引かんといて!!」
私悪くないんだってこれ!!だってあんな急に……
『某は――貴女をお慕い申し上げている』
「ッヴァアアアアアアアア!!!!!
「!!」(ビクッ
頭の中から、で、出ていけェエエエエエ!!!
頭をぶんぶん振ってもう一回木の幹にパンチを出した。
ゴンッって音が私の手から響いて、しびれが肩に来る。
「~~~~ッッ!!!」
信じられない痛みがきて私はしゃがみこんだ。
ほ、骨!!骨で殴っちゃった!!!痛すぎ!!
コタはそんな私の奇行を引いて見ていたけど、少し考えるようなそぶりを見せて、それから一瞬で消えた。
ひっ、一人にしないで!!私を冷静にさせないで!!
「や、やめてコタお願いだから!見捨てないでぇぇ」
「……」
「えっ?あれ小太郎兄ちゃん…と姉ちゃん?」
「あっ!よ、よ、よいち」
「うわ。なんでそんな汗だくなの!?しかも裸足だし!!」
再びコタと、コタの小脇に抱えられた与一が目の前に現れた。
どこにいたのかポカンとした顔でコタを見上げて、それから私の姿にドン引きする与一。
「こ、これには深いわけが」
「?わけ?」
「いやッッ!なんもないです!今日はお日柄がよろしいからね!!」
「怪しすぎ!」
そんなこと!言われましても!
酸欠とアドレナリンで頭がぐちゃぐちゃで頬が勝手に引きつり笑いを浮かべる。
与一は本当に変なものを見る目で私をまじまじと見た後、「あちこち土ついてるから水浴びた方がいいよそれ」と薬師のたまごの鏡みたいな発言をした(えらいねぇ!!ばっちくてごめん!)
そんな与一の手元に握られたものが目に入って、私はあわててその話を振る。
「あっえーっと!!与一その手元の何?」
「え?ああ、これ和紙だよ」
「和紙?」
「そう。前にさ、慶次兄ちゃんが京からきたって教えてくれた話したでしょ?」
色んな提灯があちこちで光っていて綺麗だーって!
与一は小太郎に抱えられたまま、ひゅっと紙を持ち上げた。
白い和紙がひらひら揺れるのをコタの顔が追いかける。
「おいらも見たいって言ったら、提灯の作り方教えてくれたんだ。だから一緒に作ってるところ」
「提灯……」
ぽつりとその単語を口にしたとき、思考がふわっと別の方向に引っ張られた。
近所のお祭りでたくさん縁日が並んでいた記憶だ。
名前も知らない商店街のお店が、それっぽい屋台を出して、ちょっと割高なものを売っている。
だけどその道なりはいい匂いがして、それから提灯が揺れて綺麗だったっけ。
帰り際遠くなっていく明かりを見てまた来たいなと思ったんだ。
その時、来年もって思って。
「……あ」
思わず声が漏れた。
与一がぱちりと目を瞬く。
『なぁシズカまた今度やろうぜ花見!!』
声が聞こえる。あの家で、嬉しそうにはずむ声だ。
青い着物が揺れて、ほっぺたに黄な粉をつけていた。
「与一、お花見しようか!」
「…え?」
「ほら…ちびちゃんズが帰っちゃう前にさ、みんなでやったじゃん。その時またやろうねって約束したなって思い出して」
「……!!」
「提灯をいっぱい並べたら、桜みたいにみえるんじゃないかな」
与一の手元の和紙を見る。
きっとこの紙をピンク色にしたら、綺麗な色になると思うんだ!
2人は私の視線につられて和紙を見て、それから与一は満面の笑みでこちらを見た。
「うん!やろう!!」
「……」
「コタも手伝ってくれるの?」
「……」(こくこく
「ありがとう!」
コタは与一の足が汚れないように(きゃっ!面倒見の鬼!ありがとう!!)縁側まで連れていってから私を振り返った。
「……」
「え?何?」
「あ、そうだよ姉ちゃん来る前に水浴び!してきてね!!」
……!そうだった!私今汗と泥まみれだった!!
ちゃーんと水浴びをして(頭洗ってるときってなんであんないろいろ思い出すんだろうね!???!)キレイキレイになった私は慶次の部屋へ向かう。
数個隣の部屋だったよなーと思いだして「与一いる~?」と聞いたら中から「おっ!きたな!」と元気な慶次の声がした。
「お待たせ!」
「姉ちゃんこっちこっち」
障子を開けると、そこには与一と慶次とコタがいた。
三人で色々作ったのか部屋の中は所狭しと物が散乱していて、なんだか甘いにおいもする。
「シズカちゃん、聞いたよ!随分粋なこと考えるね」
「えへへへでっしょ~!」
「……」
私はコタの隣に腰を下ろした。
辺りをぐるっと見回すと乾かしているのか、まだ表面がテカテカしているものもあれば、色を塗り始めているようなものも置いてある。
なんだか物珍しい光景にきょろきょろしていると、与一が私に筆を渡してきた。
「はい、姉ちゃんは、糊を貼る係ね」
「ありがと。糊ってこれ?」
「そうそう。」
与一に渡されて糊を見ると、何だか粒々としている。
小学校の時持ってたやつだーと懐かしい気持ちになっていると肩を指でつつかれた。
「ん?なぁに?」
「……」
「あ、やり方教えてくれるの!ありがとうコタ」
「……」(コクコク
コタに教わりながら提灯の枠組みに和紙を貼っていく。
慶次は枠組みを作って、与一は色塗り、コタは乾いた提灯の中に油受けを繋げる作業だ。
みんなでたまに話しながら黙々と手は動かす。なんか小学校の時の班活動的なやつを思い出すね!
そうやって黙々と作業していると、だんだん自分の世界に入り込んでいくというか、何だかすごい無の境地……そして禅……――――
『……ただ、このひと言だけを…』
「ミ゜ッッ」
「?どうしたシズカちゃん」
「ッ!な、ななナーナナナナッッ何でもない!!!!」
「…姉ちゃんなんか今日変だよ」
「………」(こくり
くっそ!集中し始めたと思ったのに!
グギギギ!邪魔するなーーーっっ!!!手!!お前は震えるな!!
筆の先につけすぎた糊を震える手で落としていると、ヘラヘラとした声音で慶次がいう。
「なんだよ顔が赤いじゃん!もしかして…真田となんかあったとか?「!!!!!!」――アッハッハ!嘘う…そ……?」
ぐわっと一気に顔に熱が集まるのがわかった。
目を見開いて慶次を見ると、膝を叩きかけた姿勢で慶次の動きは徐々に静止した。
そして一瞬の間。
「………」
「……え、まじで?」
「ッンンンンンな訳ないでしょ!!ゆっ、幸村がそんな訳?!ないじゃん!!!佐助にならともかく!!ッやーい慶次の風来坊!!!ポニテ!!!!」
「いたっ!痛い痛い!!」
真顔になった慶次に思わず頭突きをする。
をををヲヲ見るな!!
顔が赤いのがわかったから見られないように慶次の着物のヒラヒラに顔を突っ込んでやる!!と身体を押し付けると、慶次は慌てて立ち上がった。
逃げるな!!ずるいぞ!!
ドタドタと逃げる慶次を追いかけていたら、スッと障子が開く音がした。
「…ずいぶんにぎやかですね」
「!!謙信様?!」
そこには本日もお日柄のよろしいダイヤモンドダストを浮かべた謙信様がいた。
ふふふ、と笑いながら部屋の中を見回した謙信様は「おや」と与一の手元の提灯を見る。
「みなでちょうちんづくりですか?」
「あ、あぁ!シズカちゃんと与一がこれで花見をするんだっていうから手伝ってんだよ」
「おや…なつのさくら…というわけですか。みやびですね」
そう言うと、謙信様は部屋に上がってきて、おもむろに慶次がさっきまで使っていた竹に手を伸ばした。
そしておもむろに組み上げ始めるものだから私と与一は思わず顔を見合わせる。
「謙信様、手伝ってくれるんですか?」
「ええ。ひとはおおいほうがよいでしょう。…どうしんにかえりますね、わたくしのつるぎよ」
「はいっ謙信様っ」
「かすがたん?!」
当たり前のように謙信様に返事を返したかすが(まあ謙信さまいるところにかすがあり、ではあるけど!!)は謙信様へ情熱的にハートを送りまくると、打って変わって真剣な目で私が置いた筆を取る。
「これを手伝えばいいんだな?」
「え、うん、ありがとう…!!」
「…あれ、なんか珍しい顔ぶれ?」
「ナルちゃん」
「手工芸してんの?面白そうじゃーん!俺も混ぜてよ」
開け放ったままだった障子の向こうから今度はナルちゃんが顔を出す。そして早く乾かすなら絶対開けといたほうがいいって!と障子を全開にした。
それに与一が慌てて手を振る。
「あっ、あの、これ政宗……さま、たちには見せたくなくって」
「ん?」
ナルちゃんの目が一瞬キョトンと本気で分からない顔になった。それから少し考えてポンと一つ手を打つ。
「あ、そういうのダイジョーブ!少年が梵と仲良かったの知ってるからさ!!」
「えっ」
「呼び捨てでいいよって。そう言うの気にするやつウチにはいないからさぁ」
委縮する与一をみてナルちゃんは「だれかさんと違って常識があって偉いね〜」と笑った。おいなんでいまこっち見たし!!!
「これ秘密にしたいんだろ?わかるわかる。梵のことビックリさせたいよな」
「う、うん!」
「おっしゃ、じゃあ梵たち近づけないようにしようぜ!」
「おや、そのようなことができるのですか?」
「もっちろん!」
ナルちゃんはそう言うとパタパタと障子の向こうに消えながら「こちゃーん!今ひまー?」と友達を誘うような声を残して消えていった。
それを涼しげな目元で見送った謙信様はフフフ、と笑うと目にも止まらぬ速さで竹を組み上げる。その横で「まったく落ち着きのない奴らだ!」とかすがは息巻きながらこちらもあっという間に和紙を貼り付けていく。
あまりの素早さに、そろそろ折り目をつけた和紙の残りが無くなるなと思って私は手を伸ばした。この勢いだと本当にあっという間に終わってしまうかも…というか数どのくらいあればいいんだろ?
「提灯ってどのくらい必要かな?…というかどこでやろう?」
「何も考えてなかったのか?謙信さまの手を煩わせておいて…?!」
「ご、ごめん…!!」
「朝姉ちゃんがいたところに生えてた梅の木は?」
「あーあのすごい硬い木か」
あれ梅だったんだ…
梅は殴ると痛いって覚えた!もう2度と殴りません!
というかあの木ってどのくらいの高さあったっけ…
「うめ、であればあとこのすうばいはひつようでしょうね」
「な、なるほど」
「…これ夜までに間に合うかな…」
与一があたりを見回して呟く。慶次も残りの材料を見て「うーん」と口をへの字に曲げて腕を組んだ。
「もう少し材料は集めるとして…花見そのものの準備もいるだろ?」
「あっ!そうだよ、おまんじゅうとか大福も必要だ」
せっかくだからあの時みんなが美味しいって言ってたお店とか作った大福とかも揃えたいよなあ。まだお店があるといいんだけど、とあの時買ったものやラインナップを思い出していると、ナルちゃんがルンルンで帰ってきた。
「こちゃーんに梵たちの足止めお願いしといたよ~!」
「あ!ありがとう!」
「そしたらさぁ」
「ん?」
ナルちゃんに手招きされてさらに二つの影が障子の向こうに滲んだ。
こ、この障子向こうでもわかるゼムっぷりは…!
「…これは骨が折れそうなことを…」
「いいじゃないか、風情があって」
「勘助兄ちゃん!ノブさんも!」
「性悪武将もついてきちゃった、エヘ☆」
「…心底、あなたにだけは言われたくありません」
勘助兄ちゃんは片手をひらりと挙げると苦笑いをした。
横にいたノブさんもにっこりとした笑みを貼り付けたまま部屋を見渡してそれから肩をすくめた。
「二人も手伝ってくれるの?」
「ええ。今ちょっと軽率に頷いたことを後悔しています」
「まあまあ。あの軍神殿もいるんだ、案外すぐ終わるだろ」
「ぜんりょくをつくしましょう」
「謙信さまは休んでいてください!私と慶次がその分…!」
「材料もとりにいかねえとなあ。あと女中のみんなに声かけて食べるものもいるだろ?」
「じゃあこじゅも呼んでくるかぁ」
「昌景も呼んできましょうか」
「いや、それだったら幸村の相手をさせて――…」
どんどん私たちを置いて話が進んでいくのを、与一と二人ポカンと眺める。
な、なんかどんどん話が大きくなってる気がする…!!
「い、いいのかな…おいらたちの我儘なのに…こんな」
「……」(わしゃっ
戸惑う与一の頭をコタが撫でて口角をくっと持ち上げる。
見上げて、与一はにんまりと笑みを浮かべた。
顔を上げると、これまで出会った人たちがワイワイと話していて、なんだか浮足立ってしまう。胸の奥がぎゅっと、温かい気持ちになって私も思わず目を細める。
温かさを感じて、私はその光景をじっと見ていた。
* * *
「――ッわーったから押すなって!」
「お、おい、いったいどうしたというのだ、そんなに急いで」
「いいから!ほらほら!」
「What the heck is going on?」
与一がデカちびちゃんズを連れてくる声が聞こえてくる。
すっかり日も落ちて、流れてくる風も冷たさが出てきた。
ゆるく風が流れるたびに提灯の灯りが影の向きを変えて、花の終わったあとの梅の木はとても幻想的な雰囲気に仕上がっていた。薄く塗られたピンク色の提灯はほんのり赤い光を出していて、遠目に見たら本当に桜みたいだ。
振り返って、それからどんな顔してればいいんだろとちょっと悩んで表情筋を動かしてみる。
(……喜んでくれるかな)
ちょっとドキドキして待っていたら、庭を歩いてくる大人数の影が見えた。
デカちびちゃんズは、ぐいぐい背中を押してくる与一に疑念の顔を浮かべていたけど、視界に入ってきた巨大なライトアップに全員が目を見開いた。
「――これは」
「…すげえ…」
「……」
足を止めて巨大な梅の木…もとい桜の木を見上げて足を止める3人。
どんな顔をしたらいいか結局思いつかなかった私は、表情を作るのに失敗したまま小さく胸の前で手を振った。
「やほ、みんな」
「姉ちゃん、こいつはなんだ?」
「みんなとまたお花見したいな、って思ったから」
「――!」
ナリちゃんが信じられないものを見る顔でこちらをみた。
ちびちゃんズが帰るちょっと前に…みんなでやったあのお花見、覚えてる?私が口にするとナリちゃんは二度頷いた。
「ね、また一緒にお花見して美味しいもの食べよ」
「っ!、…ああ…」
「もちろん!!」
与一が嬉しそうにチカちゃんとナリちゃんの手を引いていく。
よかった、喜んでもらえたっぽい。
ホッとした私は残る政宗の手を取ろうと思って、3人とすれ違う。声をかけようと顔を見上げて…
「――…」
政宗の顔は桃色の光に縁どられていた。
呆然と、時間が止まったように、ただ花の咲いていない梅の木を見上げている。
その顔は昨日見た、あの悲しい顔で。
呼吸も瞬きも忘れてしまったのかって思うくらい、止まっていて。
(――…あ)
思わず、こぼれた。
「……梵ちゃん…?」
「ッ!!」
ハッと目を見開いて、政宗が私を見た。
そして、瞳が揺れる。
「あっ、ご、ごめん…な、なんか急に口から出ちゃって」
「――…いや…」
私は言葉が詰まった音を聞いた。
びっくりした私を見て、政宗は笑顔を見せる。
だけど本当に、あまりに笑顔がへたくそだ。
「ボーっとしてた…もうあの桜……、無いのにな」
その言葉が風に溶けた瞬間だった。
政宗の喉が中途半端に震えて、胸が引きつったのが見えた。
「なんか、似てたから、」と言葉をつづけようとしたみたいだったけど、言葉が胸の引き攣りにつっかえる。
「……わりィ」
絞り出された声は、力なくかすれていた。
聞いたことのない声に私が息をのむと、政宗はうつむいてしまう。
その瞬間、政宗の足元でパタリ、と音がした。
(ない、てる……)
うすらと桃色の光を反射した涙は、そのまま小さな音を立てて地面を濡らす。
政宗の指先が震えているのが見えた。
与一が戻ってくる。
何も言わず、うつむいた政宗の手を取る。
いつの間にか私の隣にチカちゃんもナリちゃんも立っていて、二人とも真剣な顔で政宗のことを見ていた。二人とも、政宗が泣いていることに気が付いているようだった。
政宗は与一の手を指の腹でゆるやかに撫でる。
その間もハタ、ハタ、と静かに地面は濡れていく。
やがて――
政宗は、喉の奥でひとつ息を呑んだ。
「……あの日、目が覚めたら…奥州にいた」
つっかえて傷がついた声がぽつりと落ちる。
「それからずっと…戻りたくて――…気が付いたら俺ひとりで、あの家の前にいて。……戸も壁も、何もかも……小さいころのまんまで。……みんなが……いると思ったんだ」
ぽつりとこぼれる言葉を私たちは聞いている。
震えた声を、全部。
「……でも、いなかった。誰も、」
誰かの息をのむ音がする。
桃色の光がゆらゆらと揺れて政宗の輪郭をあいまいにする。
癖のある髪が、肩と一緒に一つ大きく揺れた。
「与一も、弥三郎も、松寿丸も、…お前も」
視線がこちらに向きかけて、でも耐えきれずまた俯く。
「――いなかった、んだよ」
そういって政宗が息を吐き出す。
吐き出す喉は震えて、鼻が鳴っている。ハタ、とまた一つ涙が落ちる。
与一が顔を伏せて政宗の右手を両手で握りしめた。
チカちゃんもナリちゃんも、目を伏せて唇をかみしめる。
「それから、何度も行った。……行けば誰かに会えるんじゃねぇかって……」
「政宗……」
元親が低く呼ぶ。その声も、少しだけ掠れていた。
ナリちゃんの方から息が震える音が聞こえてくる。
その音を聞きながら私は以前甲斐にいたときに政宗から聞いたことを思い出す。
――『当たり前だろ、だって俺たちは『家族』なんだから』
私は、その言葉の本質を、政宗が…梵ちゃんが、その言葉に乗せていた想いを分かっていなかったかも、と思う。
私と与一にとっては半月くらいだったけど、梵ちゃんにとっては長い年月だ。
私はそれを。
「でもダメだった。……声もしねぇし、匂いもしねぇし……俺が覚えてる気配、全部なくなってた」
「……ああ、終わったんだ、って。もう二度と帰れねぇんだって、それで……」
政宗が喉を鳴らす。
「……すげぇ、さみしかった」
ひどく静かに声が響く。
泣きじゃくるわけでもなく、声を荒らげるわけでもない。
ただ、ひとつの本音が、灯りに照らされてそこに落ちた。
こんなふうに泣く政宗を、私はゲームでも見たことがない。物語の中にも、セリフの隅にも。肩を震わせて、うつむいて涙を流すなんて、あの『奥州筆頭 伊達政宗』じゃありえない姿だ。
だけど、政宗の痛みは本当に苦しくなるくらい伝わってきて、そこに嘘も偽りもない。
だから…
(――……)
…今、目の前にいるのは、長い時間をひとりで耐えてきた"ただの人"なんだと、やっと腑に落ちた。
瀬戸内から小田原に向かう途中の船の上で、私が感じた寂しさを。
置いていかれたような寂しさを。
今目の前にいる『彼』は『人』だから…私と同じように、痛むんだ。
そう思ったら胸がぎゅっとした。
…ごめんね、梵ちゃん
ひとりにして、ごめん。
「…だから、さ、…シズカと与一が…花見、って言ってくれて…元親も、元就もいて……俺、今すげえ嬉しくて……」
かっこわりィ、と言って政宗は大きく息をついた。
チカちゃんがスッと前に出て、政宗の肩に手を乗せた。
チカちゃんのまつ毛にも光がたまっていて、桃色を反射する。
「俺も、元就に会うまで…同じだったから、わかる」
「……」
「探してくれて、ありがとな。"梵ちゃん"」
「…っ」
「…我らも…――"梵天丸"を、与一を、姉上を…見つけるのが遅くなってすまなかった」
ナリちゃんの声が震えている。
与一からも鼻をすする音が聞こえて、私は目が焼けるような感覚になる。
政宗が顔を上げた。
ハタ、
桃色の光に照らされた政宗の顔は、泣き腫らしていて目は赤いけど、けれどその顔はもう悲しそうでも、苦しそうでもない。
政宗が私を見た。そして、チカちゃんも、ナリちゃんも私を見る。
「シズカ、与一…ありがとな」
「ああ、…本当に」
「また皆でよ、ここにいれてよかった」
「みんな…」
私は泣いてない。泣いてないけど……その、なんか、胸が詰まって、言葉にならない。
喉の奥がジンと痺れて、私まで泣き顔のみんなにつられそうになる。
「……っ、や、やめてよ……みんなしてそんな顔……」
そう言った私の声まで震えてしまう。
泣く予定なんてなかったのに。視界がぐっと滲んだから、私はあわてて手で拭った。
「はは、…もうシズカにだけ『泣き虫梵ちゃん』とは言わせねえぞ」
「…昔よお、そうやって言って長風呂して湯あたりしたことあったよな」
「ッッ!いつの話だよ!」
「あったな。あの姉上の怪しげなカラクリを落として泣いたこともある」
「そうそう梵ってばあのとき『シズカに怒られるかな!?』ってさ」
「おい!」
皆の声が重なって、笑い声が夜空に飛んでいく。
少しだけ目が腫れていたり、まつ毛がぬれていたり、笑顔が下手だったりするけど、桃色の光に照らされて同じように笑っているのは同じだ。
みんなの声は小さかったころとは違う。だけどもやっぱりどこか似ているような気がする。
もう花の咲いていない梅の木の下に向かって、4人は楽しそうに歩いていく。
(――…ああ、そうかぁ)
あの船の上で感じた寂しさも、昨日の家の焼け跡で感じた苦しさも。
私は彼らのことをすでに「好きなゲームのキャラクター」としてではなくて、家族として感じていたのかもしれない。
だから、彼らの楽しそうな背中を見るとこんなにも嬉しくなるんだ。
少し大げさなくらいに息を吸う。
なんだか不思議な感覚だ。
彼らには彼らの人生があって、私が見ていないところでも何かを考えて、生きている。
(みんな、生きてきたんだ。私が知らない時間を、ずっと)
泣いたり、怒ったり、笑ったり、ひとりで歩いてきた時間があって。
その積み重ねが、今目の前にある彼らなんだ。
「シズカ!早く来ないと全部食っちまうぞ!」
「お前そんなに食えんのかよ?」
「俺だけじゃねえ元就だって食うだろ」
「我が?」
「そうだよ前のときすっごい食べてたからね大福」
「はて、覚えておらぬな」
だからいま、こうして4人がいて、立場は違うけど一緒にお花見ができている。
BASARAのキャラクターとしてじゃなくて、一人の人である彼らに出会えて。
そして、彼らに「来いよ!」と言ってもらえることに。
(――…会えてよかったな)
心の中でそっとそう思う。
お花見の提灯が風に揺れて、桃色の光がみんなを綺麗に縁取っている。
四人の笑い声が重なって響くその音はとても心地が良い。
私はその声を聞きながら、ゆっくりと歩きだす。
風は相変わらず優しく頬を撫でて、私の髪を揺らす。
「また来年も」そういえる時間が今もまだ続いていることに、私は心が満ちるような感覚がして、皆の元へ走って駆け寄った。
幸村は、遠くに笑い声を聞く。
ここからでもあの木の下が、とても暖かいことはわかる。
羽織の中に腕を差し込んで幻想的な光景を遠巻きに見ていると、不意に背後に気配が増えた。
「――…まざらなくていいんです?」
飄とした声。
幾度も聞いた声にいまさら振り向く必要もない。
「家族団欒の時間に水を差すこともないだろう」
「…あまり情を向けない方がいいと思いますけどね、俺は」
「なぜだ?彼らは他国の将だが、今ここにいて、あのように笑っている。それで十分であろう」
「……」
幸村がわざと的を外した回答をしたことで、部下は長く沈黙する。
ただ、幸村は信じている。
彼女が大切だと思うものを。
守りたいと感じたその心を。
振り返る。
部下は思っていたよりも険しい顔をしていた。
その顔に思わず笑ってしまう。
「俺を信じろ」
「…やれやれ」
軽口を返して、部下も季節外れの桜を眺める。
夜の小田原に浮かび上がる桜は、散ることなく影を揺らめかせて彼らの顔を明瞭に浮かび上がらせている。
幸村はその光景を胸に刻み付けるように目を細めるのだった。
* * *
「おい布団たんねぇぞ」
「んぁー?出す出す」
「もっとそっちに詰めぬか、引けぬぞ」
「Hey!ここは俺がもらうぜ!」
「えー?!政宗寝相悪いんだもん!端っこ行ってよ!」
真ん中を占領した政宗に与一が文句を言うと、政宗はニヤリと笑って与一をくすぐりにかかった。ひーひー言いながら笑う与一たちに呆れたように笑いながら「邪魔ぞ」と枕を運んでいくナリちゃん。
私から布団を受け取って担ぎながらチカちゃんは「政宗は昔っから寝相悪ィもんな」と笑う。
そんなみんなを見て私は微笑みながら押入れを閉めた。
夜もだいぶ深まってきた時間帯、私たちは同じ部屋にいた。
与一の発案で今日はみんなでお泊り会だ。
「あれ、さっき枕だしたけどどこ行った?」
「ほんとだ」
「そこの布団に埋もれているのでは?」
「どれどれ…おっbingo」
「おい、それ気をつけろよ雪崩る…」
「うおっ」
詰みあがった掛け布団の中から枕を引っ張り出した勢いで布団が雪崩れそうになるのを政宗が慌てて抑える。与一が枕を受け取って、チカちゃんは布団を上から持ち上げて直した。
それを眺めながらナリちゃんがおもむろに私の隣に枕を放ったから、思わず顔を見た。
「あれ、ナリちゃんここでいいの?」
「元親のやつ酒を飲んでおる。どう考えてもいびきをかく」
寝不足はごめんだ、とナリちゃんは自分の布団を均しながら言う。
うーん昔はやよっちゃんがサイレントな感じだったけど確かに今の兄貴だったら全然いびき凄そう…。
「シズカの布団これでいいか?」
「うん、ありがと政宗」
「You're welcome」
「じゃあ俺は端だな」
「だってよ与一!諦めな!」
「……蹴られたら元就の布団にいれてもらお」
そんな会話をしながら、みんな布団につく。
全員が定位置に着いたのを見て、ナリちゃんが行灯の火を消した。
ふぅと音がして、部屋に夜が降りてくる。
しばらくガサゴソと布団にもぐる音とかがしていたけれど、ふいにぽそりと与一の声が部屋に響く。
「…今日、楽しかったね」
「――あぁ」
そう返したのは政宗だ。
隣からフ、と笑う音が聞こえる。
「おいら、多分今日のこと一生忘れないと思う」
「おいおい、今から"一生"たぁ…ずいぶん気が長いな」
「…みんなも忘れないよ、絶対」
与一の迷いのない言葉に、少し辺りが静まり返る。
誰も否定しない。
私も、否定しない。
「…明日も早い。続きはまた明日でも良いだろう」
「うん。……皆、おやすみ」
おやすみ、と部屋の中にいくつも声が響く。
私はそれにまた笑みを深くして静かに布団の中へと潜り込んだ。
また明日。
布団の中は少し冷たいけど、いつもより柔らかくて心地が良かった。