私の神様(仮)
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「 き 」
「ねぇチカちゃん!」
「なんだ?」
「もしかしてあれ、小田原城?!」
「おう!もうすぐ着くぜ!!」
「ひゃほぉ!待っててねマイワイフ達ーっ!!」
私の神様(仮)
~OTKは強いもん!泣かないもん!!~
朝霧が薄らと立ち込める小田原の港。ようやく霧の向こうに街並みが見えてきた。
人もほとんどない時間だ。
だけど、その静かな港に小さな影がぽつぽつと立っているのを見つけて、私は心臓がギュッとなるのを感じた。
ソワソワとする気持ちに落ち着くなんてとても出来なくて、私は渡し板の前でウロウロする。
それを通りすがったナリちゃんが鼻で笑っていく。
「…フッ」
「ちょっと!笑わないでよ!」
だってさ、だってさ!
ちゃんと確認しなくたって私には分かる、あれは与一達だ。
我慢できなくなって、手すりに身体を乗せて大きく手を振ると、一番小さな影が手を振り返してくる。
ううううううっ!早く着かないかなぁ?!
急く私をじらすようにゆっくりと船が動きを止めて、縄を下ろしたナリちゃんの部下の人が縄を伝って船を留める。
やらなきゃいけないことなんだろうけど、あとどのくらいで終わるんだろう…!
そうして渡し板が降ろされて、船と小田原がつながった。
ムキムキの兄ちゃんが板に乗って足を踏み鳴らし、「荷を下ろせ!!」と声を張り上げた。
それを聞いて顔を上げたチカちゃんがいたずらっぽく私の方を見た。
「…先に行って来いよ、俺ァちょいと用事があるからな」
「ん!了解!」
チカちゃんに背中を軽く押される。
その勢いそのままに私は一気に渡し板を駆け下りた。
元気いいッスねという声を横切って渡し板を飛び降りる。その勢いで足の裏がジンと痺れたけど、そんなのどうだっていい。顔を上げると、ギュッと唇を噛んだ与一がこちらを見ている。
「ね、えちゃん…!」
「与一!」
一瞬だけ時が止まったみたいに、お互いの名前だけが耳朶を打つ。
つぎの瞬間、くしゃりと顔を歪めて、与一は弾かれるように駆け寄ってきた。
ツンとしたつり目が悲しそうに垂れて、今にも泣きだしそうな顔をしている。
それに私もつられてぐっと胸の奥で息がつまった。
「っ」
詰まる息そのままに、私と与一はぶつかるみたいな勢いで抱き合った。
腕の中の与一は信じられないほど熱くて、柔らかくて、相変わらずお日様みたいないい匂いがする。
この香りで、温かさで、本当に帰ってきたんだって思えて、私は大きく息を吸った。
は、と腕の中で震えた息が吐き出されて私のお腹を温める。
そして、与一は私の背中にギュッと腕を回してきて、顔をこすりつけた。
「姉ちゃ、ん…っ!おそ、いよ…ッ!」
「ごめん、ごめんね、与一……でも帰ってきたよ…!!」
「っ…あ、の仮面の兄ちゃんと一緒に行った時…おいら、また…家族が居なくなっ、ちゃうんじゃないか…って思っ…て…」
「…うん」
「すご、く…恐かったんだ、から……!」
「うん、うん…!」
与一の腕が小刻みに震えているから、同じだけ背中を撫でる。
やっと会えた嬉しさと、帰ってきたんだって実感で私の喉も鳴った。
ぎゅ、と与一の回された腕の力が強くなる。
震える背中を何回も撫でてやると、与一から体を離して真っ赤になった目元を擦った。
「姉ちゃん――」
「シズカーッ!」
「げふぉぁ!」
せっかく与一と感動の再会をしていたというのに、突然何かが凄まじい勢いでタックルしてきた。
おもくそ顎を打ちつけた私は勢いを殺しきれず、つま先立ちしたまま後ろに仰け反るという、かなりアクロバテックな姿勢になった。
な、なんだよ!今ので後頭部及び肺の裏側辺りを強打したじゃないか!
ギリギリで与一を引きはがせてよかった!!!
何事かとタックルしたまま引っ付いてきた物体を見ると、茶髪が目に付いて…って前一回コレやった気がするんだけど?!
「い、痛いんだけど、政宗!どいて!」
「シズカ!やっと帰ってきやがったか!」
「人の話聞いちゃいねぇ!」
ぎゃおお!政宗の膝が太ももに突き刺さって筋肉潰しになってんだけどぉおおおおお!いてぇえええ!
ギブギブ!と政宗の腕で絞まった首でなんとか呼吸しながら叫ぶとチカちゃんの声が降ってきた。
「おいおい、シズカの顔色がヤバイぜ?」
「ah?誰だテメェ」
そういいながらやっと政宗が私の上から退く。
つか今のポジション痛いのを除いたら美味しかったよね!
是非次はいつきちゃんにやってあげてくださいませ!にゅふふ!
「相変わらず甘えん坊なのは変わんねぇな!」
「質問に答えろ!」
ギロリと鋭く睨みつける政宗と対照的にいたずらっぽくニヤニヤ笑うチカちゃん。
チカちゃんは腰に手を当てて歯を出して笑った。
「俺は長曾我部元親、幼名は弥三郎だ。……久しぶりだなぁ、『梵ちゃん』?」
挑戦的な声音でそういったチカちゃんにしばし場の空気がフリーズする。
ギギギ、と錆付いた跳ね橋みたいに政宗(と与一)がこちらを見てくるから「そうだよ、」と頷くとすばやく2人の視線がチカちゃんに向けられる。
そして、
「はぁああぁ?!何言っ……、What…ンだと!?」
「えええええ!!」
ほとんど同時に絶叫した。
2人とも目が取れるんじゃないかってぐらい目を見開いて、カラカラと笑う対照的なチカちゃんを凝視している。
政宗はハッ!と我に返ると、ニヤニヤした私を見て、それからもう一度チカちゃんをみた。そして、少し間を開けると、その場にへたへたと腰を落として右手でガシガシと頭を掻く。
「ahー…マジかよ……」
すごく脱力している政宗がおかしくて思わず放心状態の与一と一緒に写メを取っていると政宗がチラリとチカちゃんを見上げた。
ぐはぁぁぁああ上目遣いもぇぇええ!
「……ホントに弥三郎なのか…」
ぼそりと呟いて、両腕と頭を力なく膝の中に落とした。
すっかり脱力しきった政宗はすごく珍しいから私の連射も止まらない。
そんな私のことなんか頭にないんだろう政宗は、そのままもう一度ゆっくりと顔を上げた。
「…嘘だったら容赦しねェからな…」
政宗の言葉にチカちゃんは一度呆けた後いつも通りアニキの笑顔を浮かべた。
「当たり前だろ?…相変わらず疑り深いな、伊達。」
そういって政宗のくせっ毛を上からワシワシと撫で付けるチカちゃん。
されるがままになっていた政宗は「政宗でいいぜ、元親」といつもの調子で笑みを浮かべた。
政宗はそれに続けて、まだ何か言いたげに息を吸ったけど、結局何も言わなかった。
代わりに、あきれと安堵が混ざったため息をつく。そして2人は顔を見合わせてフハッ、と噴き出した。
ハァアアアアアご馳走様です!!!!
そんな東西アニキズっぷりを発揮してくださった2人を交互に見つめて、与一が目を瞬かせる。
「……ほんとに、大きくなっちゃってる…」
「ん?テメェは与一……な訳ないよな、ガキのまんまだしよ」
与一はどこだ?と辺りを見回しながらチカちゃんは言う。
あ、地雷踏んだわこれ。
さっきまでくちゃくちゃに泣いてた与一が、打って変わって頬を膨らませてチカちゃんを睨み上げている。
あのー…与一なら目の前に居るんだけど、と言おうとしたらツカツカと与一がチカちゃんに向かって歩き出した。
「おい、お前の親父はどうしたんだ?」
「……ん、」
背を屈めて与一と視線を合わせてチカちゃんが問うと、ずいっと与一が何かを目の前に突き出す。今度はチカちゃんが「は?!」と驚く番だった。
与一の手に握られていたのはあのお手玉だ。私もチカちゃんに突き付けられたアレ。
「おいらが与一だよ、弥三郎!」
「な、」
「驚きたいのはっ!おいらの方なんだからね!」
ムスっとしたまま与一が唇を尖らせた。
どういう事だといわんばかりに二人してこっちを見てくるものだから、私も分からんと肩をすくめる。知らんよだってなんもしてないもん!佐助のせい(かもしれない)だもん!
元親は「おいおいマジかよ」と頭をかいた。
「そりゃ悪かったな。……にしてもこんなに小さかったか?」
「そっちが大きくなりすぎなの!!」
そういって頬を膨らませた与一はフンッ!とへそを曲げて顔をそらしてしまった。
脱力したままの政宗が苦笑しながら肩をすくめた。
「……お前、俺の時とまったく同じ反応してんな」
「だって!」
「ah, I know.」
政宗がぼそっと呟いて、与一の頭をくしゃっと撫でる。
その力の強さに頭を揺らした与一は「もう本当に意味が分かんない」とため息をついた。
「元親!貴様、積み荷の整理もせずさっきから一体何をして…」
カツ、カツとヒールを鳴らして、眉を吊り上げたナリちゃんがようやく船からおりてきた。積み荷の点検をするって言ってたけど、この様子じゃチカちゃんがサボってきたなこれ。
ナリちゃんはチカちゃんを鋭く睨みつけて、「まったく貴様も国主なら……」と声を尖らして……それから与一を見て目を丸くした。
「…与一、か…?」
目を瞬かせて同じようにナリちゃんが呟く。
与一は頷いて、それから「松、だよね?」と確かめるように名前を呼んだ。
少し視線を揺らがせたナリちゃんは続けて、ヤンキー座りのままの政宗に目を向ける。
「ということは貴様は梵天丸か?」
「ああ、お前は相変わらずって感じじゃねぇか、松寿丸」
「お前もな梵天丸」
こっちはけっこうあっさり納得しあったらしい。
まあたしかに、チカちゃんの変貌っぷりを見た後だとそんなに驚くほど変わったわけじゃないし、とくにナリちゃんはしょーちゃん時代からこんなかんじだったもんね!
私は一度全員の顔をぐるっと見回した。
拗ねていたり、眉を吊り上げていたり、笑ってたりしてる顔が並んでいる。みんながみんな変わらない空気に安心しているような、そんな空気があたりを包んでいる。
私はそれを堪能したくて、ゆっくりと大きな呼吸をした。
なんか、本当に帰ってきたんだって感覚があって。…もちろん半数以上が大成長を遂げているわけだけど、思っていたよりもお互いの空気は変わってないかもって少しだけ安心した。
「むふふふ、これでちびちゃんズ全集合したって訳ね!」
「俺たち捕まえて”ちび”は無いだろ流石に」
「えー。じゃあデカちびちゃんズにしとくよ」
兎にも角にも、全員大集合ってこと!
いやぁよかったよかった!
「…済んだか?シズカ、元気そうで何よりだぜ」
「あ、こじゅ!」
「………」
「コタも!」
ひと段落着くまで背景になっててくれた小十郎が歩み寄ってくる。
ついでに100%空気になってた小太郎が(ていうか今までどこに隠れてたんだろ)降りてきて無言で頭を撫でてくれた。
コタに「お留守番しててくれたの、ありがとう」と言うとコタは口端をほんのちょっぴり持ち上げる。それがワンちゃんで可愛すぎたので私もコタの頭(というか兜)を撫でた。取れるかなと思ったけどぴったりハマってて揺れもしなかった。
コタはそのままちょいちょいとお城を指差す。
「みんな待ってくれてるの?」
「………」(こくん
「じゃあお城に行こうか、」
…ドド
「…ん?」
なんか地響きみたいな音がかすかに聞こえてきた。まさか地震?!と身構えても音が近くなって来るばかりで揺れは来ない。
ふとお城のほうを見るとなにやら砂埃が舞っている、というか地響きもそっちから……
「うぉおおぉおおぉお!!!みなぎるぁあああ!!」
「ああもうほら旦那が遅いから着いちゃってるじゃん!!」
「幸村!」
赤い鉢巻を風になびかせて文字通りの爆走をしてきたのは甲斐の若虎、真田幸村だった。そしてそれプラス保護者ことオカン兼忍の佐助。
2人はそのまま勢いを少しも落とさないで……
…ってちょ!!
「まっっ、幸村すとpp「うおおぉおおおぉおおおおおお!!!」ぎゃあああああ!」
バゴォッ
何を思ってそのまま突っ込んできたのか、幸村は私に政宗のn倍の威力で私にタックルをかましてきた。
幸村は私にタックル、というより、もはや突進な勢いを微塵も緩めないものだから、私は今度こそ本当に冗談抜きで吹き飛んだ。
足が地面から離れた感覚があって、例の如く石頭が私の額を強打する。
気絶しなかったことを褒めて欲しいんだが?!
「ゆ、幸村ッ!?」
「お久しゅうござるシズカ!!某シズカに会いたくて到着をずっと待っておったのだ!!」
「う、ん…分かったからとりあえず、退いてくんない?君さ、また私の筋肉を破壊しにかかってるんだなコレが!」
本当に政宗と同じ事ばかりしやがって!右左両方使えなくなるじゃないか!
幸村は満面の笑みで私の顔を見た。そして「はっっ!!」とまた大音量で声を上げる。地べたに転がる私に抱きついている状態で我に返ったのかじわじわと赤くなる。
…あ、なんかもう嫌なヨッカーン☆
「ッッ破廉恥でござるぁああああああ!」
「本当に何がしたいんだお前はぁぁあああ!!!!」
今日は散々だよ私!!
0距離絶叫は耳がキンキンする…と目頭を抑えていると、真っ赤になって口をパクパクさせている幸村との間に迷彩が入り込んできた。
「やあやあ、随分久しぶりだねシズカちゃん」
「佐助!久しぶり!相変わらず苦労人だね」
「いきなりそれ?!」
だって最後に会った時よりなんか疲労が濃いもん、オーラに。そう伝えてやると佐助は「あ~」と変な声を出して苦笑した。
どうやら図星らしくハハハ、と誤魔化して後ろの幸村の方を向いて肩を叩く。
「ほら、旦那。ちゃんと謝って!」
「あ、う…先ほどは申し訳なかったでござる……」
「もういいよ…慣れたし……」
「…おい」
急に声がかかって振り返ると眉間にこれでもかといわんばかりにシワを刻んだナリちゃんが立っていた。
きっとすごーくすごぉぉく嫌だったんだろうな…幸村の絶叫…。だってもう顔にありありと「不快だ」って書いてあるもんな…。
いきなりチカちゃんと同じ扱いを受けるようなフラグをおったてた幸村は「あれ居たの?」的な雰囲気をだしながら貴殿は…と呟く。
「我は毛利元就、こやつは長曾我部だ。…貴様は甲斐の真田か?」
「いかにも、某は真田源二郎幸村でござる。貴殿が噂に名高い毛利の…お初にお目にかかるでござる」
ぐっと頭を下げてあいさつする幸村に、こめかみを押さえながらチカちゃんが「威勢のいい若虎だぜ…」と言った。
「氏政公は城か?」
「北条なら今朝方腰を痛めて動けねェとよ」
「…おいおい、大丈夫かよ爺さん」
「他にも武田や上杉殿が待っております故…」
「おう、じゃあ移動とするか」
チカちゃんの一言でぞろぞろと皆が移動を始めた。
荷物をまだ運んでいる部下さん達にちょっくら待ってろよ!と声をかけるとぐるりとこちらに顔を向ける。
「与一」
「何?」
「行こうぜ、特別に肩に乗せてやっからよ!」
「い、いい!!」
ぼんっと頬を赤くさせて与一は素晴らしい特等席を断ると「行こ!小太郎兄ちゃん!」と腕を組んで立っていたコタに声をかけて歩いていく。
フラれたな元親、とナリちゃんが馬鹿にした笑みを浮かべて抜かしていった。
置いて行かれたチカちゃんを見上げるとなんとも微妙な顔をしている。
「…なんでだ?」
「そりゃぁ嫌がるでしょ…子ども扱いされたら…」
そんなんだからアニキってばいつきちゃん泣かしちゃうんだよ!
与一の代わりに私が肩に乗りたいと挙手したら断られて、代わりに私がションボリしながら町を抜けていく。
双子が営んでる昼ドラ真っ青な八百屋と魚屋さんもちゃんと機能していた。うはぁなんか全体的に真新しい雰囲気になって、なんだか新鮮や!
人数もかなりの数いるから、みんな思い思いのことを話しながら街を進む。
私もあたりをキョロキョロと見回しながら与一とあれからの事を聞く。ほんの少し前に大火事にあったとは思えない程の復興ぶりに感心していたら、あっという間に小田原城までたどりついた。
栄光門とは違う門をくぐって、左右を固める門番さん達に挨拶をする。お城の中に入って、コタと幸村の案内についていく。
ちょっと進むと暗がりの中に何やら光るものが目に入ってきた。
「…やっと来たか」
「うほぉぉ!かすがたんだぁ!」
光っていたのはかすがの髪だったみたいだ。
久しぶり!と脊髄反射で腰に向けてしがみつく。かすがは顔を真っ赤にして「は、離れろ!」と言ってきたけど引き剥がしにかかってこない辺り凄いツンデレだと思う。
えへへそんなかすがも大好きだよ!
そんな事考えてたら佐助が同じ事指摘して、クナイを投げつけてられていた。…言わないでよかった…。
「謙信様がお前の事待ってるぞ」
「お館様と2人で?」
「いいや、あと1人いるが……」
「?」
氏政おじいちゃんかな?腰は大丈夫だろうか。あとで揉みにでも行ってあげよう!ジジ孝行する気満々で道案内するかすがの腰に抱きついてると急にかすがが動きを止めた。
「ついたぞ」
「じゃ、開けていいの?」
「ああ」
それじゃお構いなく!と勢いよく障子を開け放つと一際大きな人物が真っ先に目に付く。
「おお!やっと着いたかの!」
「ずいぶんとおそかったですね」
「ほっほ、やっと帰ってきたのぅ!」
「うはあぁああ!お館様に謙信様!それに氏政おじいちゃんも!」
そこにはいつもの威嚇してるみたいな兜をしていないお館様と、相変わらず周りにダイヤモンドダストが浮かんでいそうな謙信様、それから腰は大丈夫なのか笑顔でお茶を啜っている氏政おじいちゃん、それから…
「おっ、アンタが噂のシズカちゃんかい?」
「け、慶次ィ?!」
そんな3人の偉人達が座っている中になぜか前田の風来坊、一部ではエアーだとか囁かれてる、政宗・幸村に続く主人公核、前田慶次が平然と座っているではないか!
え?なんでいんの?
「その顔はなんで居るのってぇ顔だな」
「まぁ一瞬思ったけど…遊びに来てたんじゃないの?」
慶次はあちこちに出没するからなぁ、別にどこに居ても不思議じゃないよね!
むしろ今まで会わなかったほうが不思議…ってそういやぁ私慶次が絶対行かないような場所にしかいなかったね…。
しかしまぁせっかく会えたんだし主人公sの中で一番のムキムキを拝ませてもらうぜKGィ!
「へっへっへ…兄さんいい筋肉してやすね…ハァハァ」
「…え、ちょ…」
「ちょっとでいいから触らせてくれやせんかねぇ…なぁに別に舐めたりなんてしやせんよハァハァ」
「はいはーいシズカちゃん、自重!」
「ええええー?!」
オカンてめぇ空気嫁ーッ!
足掻いてみたけどしっかり首根っこ掴まれてしまっているのでこれ以上慶次には近づけない。
ぐぎぎぎぎと地面を踏みしめて前に進もうとしたら首がきゅぅっと絞まった。ぐぇっ
「おいシズカ姉ちゃん無事か?」
「うううう…オカンが苛めるよぉん」
「シズカ、可愛くないぞ」
「かすがその一言ヒデェ!」
悪気は無いんだろうかすがの一言に嘘泣きをしていたら小太郎がまた頭を撫でてくれた。
「コタってばいい子!ラビュー!」
「ぶっ」
政宗が噴き出した。
そんな政宗に若干首を傾げつつ再び笑っているお館様達に視線を移す。
「氏政おじいちゃん、腰は大丈夫なんですか?」
「心配なぞせんでも儂はまだまだ若いもんには負けんぞ!」
「はぁ、」
うんうん、元気そうで何よりだ。
ぐるんと顔を動かすと視界の隅でワナワナと震える朱が目に付いた。震えてはいるが俯いていて顔は見えない。…どうしたんだろう。
「…あの、幸村どうしt「ぅおぉおやくぁたずあぶあああああ!!」うるせぇぇええ!今日2回目ぇぇぇ!」
なんなんだよコイツ!今日絶対鼓膜がぐっばーいする!
歩く騒音こと幸村は真っ赤になったまま拳を振り上げると部屋の中にいたお館様に勢いよく近づいた。
お館様も不敵な笑みを浮かべて「どうじゃった?」と幸村に尋ねる。
「そ、某…間に合わなかったでござらあぁぁぁあ!!」
「ぶぁっかものがぁああぁああ!」
「ぐはあぁああ!!」
お館様にグーパンで殴られた幸村は私たちの真横の障子を突き破って綺麗に整えられた庭に頭からスライディングする。
その時一緒に庭の小さなため池の淵で体を強打してた。
絶対痛そうだけど幸村とお館様との師弟愛で平気なんだろう。なんて強じんな体なんだ幸村!
「うぅうおやくぁたずぅあぶあぁぁああ!!」
「ゆっきむるぅわぁあああ!!」
「お前達やめないか!」
ここは氏政の城だぞ!!というとっても常識的なかすがのツッコミも燃え上がる二人には届いていないみたいだ。
見るからに高そうなツボをコタがすばやく回収するとちょうどその場所に幸村が吹き飛んでいく。
「おお!さすが伝説!」
慶次が楽しそうにキャッキャと笑いながら手を叩いた。
チカちゃんが呆然と武田主従を見つめ、ナリちゃんと小十郎が頭痛そうに額を押さえる。
与一はハラハラとしながら私の後ろに隠れた。
「いい加減に止めないと…って氏政おじいちゃんは?!」
「うじまさならばここですよ」
「…あー、完全にtripしてんな…」
おじいちゃんの意識は完全にどっかに旅立っているみたいで、名前を呼んでもなんの反応も無い。
ぶっちゃけ一瞬召されちゃったんじゃないかと思って焦ったけどコタが大丈夫、とでも言わんばかりに調度品の回収をしてるから大丈夫なんだろう。
うーん、どうやって殴り愛を止めさせようか。
……ってあ。
「佐助!出番だ!」
「あいよ!…へへっ、待ってました~!」
佐助はウィンクしてしゅばっと姿を一瞬にして消した。
「はいはい、お二人さんそこまでーってね」
….と思ったらクロスカウンターを決めるそんなポーズで固まる2人の間で手を突き出して佐助は笑っている。
ようやく我に返った幸村とお館様は「むっ!」と声を上げた。
「おっ、さすが忍君」
「俺様あんたに褒められても嬉しくないんだけど?」
「なんだよーこの間遊びに行った時の事まだ怨んでるのかい?」
「さぁて、ね」
「え?!まさかのストーリーモードクリア済みだったり?!」
「は?」
「また訳わかんない言葉を…」
なんだいそれ、と見てくる慶次ともう慣れたよな佐助。うーんこれも積み重ねた経験値の違いか…。
「ちょっと2人とも!これもう何回目だと思ってるのさ!」
城でなら構わないけどここは人ん家なんだよ?!と完全にオカンになった佐助に政宗がハァ、とため息をつく。
「はっ!ご先祖様は…!」
「ようやく気づいたか?」
「氏政公、こやつらはいつもこうなのか…?」
眉間にシワをよせて尋ねたナリちゃんにおじいちゃんは部屋へ視線を移して、声にならない声で絶叫した。
「おおお…!先祖代々に伝わる家宝が…!」
「何の事言ってるかわかんないけどこの部屋の物ならコタが回収してくれてるよおじいちゃん!」
だからお願いもう一回ぶっとばないで!!
のろのろとおじいちゃんは家宝を確認して「おお流石風魔じゃ!」と嬉しそうに笑う。
そんなすったもんだの大騒ぎ中な関東連合勢をみた瀬戸内組は本当にこれで大丈夫なのか…ってのが顔中にありありと表れてる。
ですよねー
「大丈夫だよチカちゃんにナリちゃん。…たしかにこれ見たら不安になるだろーけど」
「…ああ……」
「…姉上がそう言うなら…」
不安そうに頷く2人に取り合えず頷いておくと、謙信様がふふふ、と笑った。
「シズカはみなをしんらいしているのですね」
一瞬思考が止まった。
部屋に視線を巡らせると、あまりに見覚えのある面々が一堂に会している。デカちびちゃんズはもちろん、熱血武田主従がいて、じじ孫北条組あんど慶次、それからこじゅに、目の前の謙信様たち。
ゲーム画面の中にいる彼らが目の前にいる。
……私の情報が欲しいから、あるいは利用価値があるから。私と話してくれるのはそんな理由があるかもしれない。
でも、そうだったとしても。
私はやっぱりみんなのことを疑ったりとかしたくないなと思う。
うん。私は私のために皆を信じたいなって思った。
疑ってくなんて疲れちゃうもんね!
「…もちろん謙信様も、かすがも、コタもおじいちゃんも信じてますよ、私。」
そんな答えに謙信様少し目を見張って、笑って「それはうれしきことですね」と言った。
微笑む謙信様にかすがが「はぁんっ」と幸せそうにキラキラし始める。
こっちはこっちで自分達の世界に入ってしまいそうだったので慌てて私は瀬戸内組に「話すなら今の内だって!」と声をかけた。
「そうだな、」
「氏政公、それから…謙信公に信玄公も話がある」
「政宗おめぇも来てくれ」
「俺は?」
「元親、こいつも一緒で良いか?」
政宗に言われて慶次がお邪魔するよ!と笑う。
佐助もやっとお説教が終わったらしく「旦那も必要だよね、」と声をかけた。
「風魔よ、シズカを先に部屋へ案内してやるのじゃ」
「………」
こくりと頷きが返ってくるのを確認して氏政おじいちゃんが「では別室に行こうかのぅ」と言って歩き始める。
瀬戸内ズに政宗に小十郎、武田主従に謙信様がゾロゾロと続いて、…後に残されたのは私と与一、そして忍びーズだった。
「……私達も風魔についていこう」
「え、かすが達は謙信様達と一緒じゃなくていいの?」
なんかかすがはいつも謙信様の横に控えてるイメージがあったんだけど。
するとかすがはチラリとコタを見て肩を竦める佐助を見た。
「風魔がお前といるのに、ついて行く訳にはいかないだろう」
「……え…っと…?」
意味がわからん。
え、なに?小太郎が逆ハ的な意味で?
きっと私の頭上にありありと現れていたんだろうハテナに気づいた佐助がほら、と説明してくれた。
「ほら、紛いなりにも俺様たち同盟結んでんじゃん?でもだからっていつ裏切られるかわかんないでしょ?」
特に忍はねーそう言って佐助が肩をすくめた。
それに頷くかすがと佐助。
「…あー、そういう事…」
なんだ別に私と与一がコタといるのが羨ましいとかじゃない訳ですかそーですか!
「べっ、べつにガッカリなんてしてないんだからねっ!…ぐすん」
泣きまねする私を見て与一がすぐに「ほっといて大丈夫だよ」とか辛辣な一言を伝えてしまい、私は佐助に首根っこを掴まれてズルズルと廊下を引きずられる。
「……あの、猿飛さん」
「なーに?」
「かかとが擦れて熱ってきてんですけど」
「気のせいじゃん?」
「…オカン」
「さぁて後8周ぐらいするか」
「すいませんでしたぁぁぁ!」
8周とか!この城すっげぇ広いんだからね!
文句を言おうとしたけど佐助なら本気で8周しかねないので口をチャーック!
今こそ全力で自重するべきだろ思いました。
ずるずると引きずられていく音を聞きながら私は小太郎の横を歩く与一を見る。
「ねぇ、与一が使ってる部屋ってまだ空いてる?」
「え?うん」
「じゃあ私与一と一緒の部屋がいいなぁ」
「…………」
「ね、姉ちゃん?」
おいら1人でも大丈夫だよ、と言う与一。
「いや、ほら…私が寂しいんだよ。」
せっかく帰って来れたんだからまた前みたいに与一と一緒に寝たいんだよね、これが。なんかあちこち行って色々過ごしてみたけど朝起きて部屋が静かなの落ち着かないっていうかさ。
アハハと笑って言うと与一はじっと私の顔を見て、少し考えるとゆっくり頷いた。
「えへへじゃぁよろしくね与一!」
「…いいけど寝ぼけて蹴らないでね」
「んな事しないよ!」
梵ちゃんじゃあるまいし!!
で、小太郎達3人に送られて着いた部屋は豊臣軍の所の部屋と同じぐらいのスペースだ。与一だけだと広すぎるかもな、なんて印象を受ける。ただ、それを埋めるようにいろんな物が置いてあって、人が生活してる感じがちゃんとある。
与一が先に部屋に入って私たちのことを振り返った。
「じゃあ俺様たちは隣に居るからなんかあったら呼んでよ」
「じゃあかすがたん、なんかあったらすぐさま私を呼ぶように」
「…なぜだ」
「何故って忍ズが揃って同じ部屋なんてどう考えても美味しい事しか無いじゃん!」
そんな奇跡的にウマウマ展開を見逃すなんて腐女子として失格よ!ぜってぇめくるめく3P的展開が待っているに違いないんだから!にゅふふふ!
きっと忍だからこそできるぷれいがあるんだよねえへへへへへへげふんげふふふ
「……」
「え、何?コタ」
「…姉ちゃん涎垂れてるよ」
「はっ!」
いけないいけない、ついやっちまった☆
冷たい視線が突き刺さってヲトメのハートにざっくりと貫通したので、かすがに「用があったら呼ぶねー」と返事をしておいた。
私の返事に頷いた3人はぞろぞろと部屋を出て行く。そうして今度はついに私と与一の2人きりになった。
さっきまでの喧騒に慣れてしまっていたからか、シーンと音がするような気がする。
与一は少し居心地が悪そうなそぶりを見せて、腰を落とした。
「…ねぇ与一」
「ん?」
「前逃げる時、すごい大荷物もってたじゃん?あんなに何持ってたの?」
うちにあんな与一の体を隠しちゃうんじゃないかって大きさの物なかったと思うんだけどな。
そう思って与一に聞いたら、与一は少し照れたように口元をモゴモゴさせながら押し入れを開けた。そこには綺麗に畳まれた着物が何枚も置いてある。見覚えがあるそれに、私は与一の顔を見た。
「……これ梵ちゃんたちの」
「うん。着物」
私も近寄って見覚えのある着物に触れた。梵ちゃん達が私たちのところに来た時に着てたものもあるし、私が買ったやつもある。懐かしさに一枚一枚めくって見ていると、ところどころ焦げ跡や布が目に入った。
「町に火が回った時、これだけは絶対持って行かなきゃって思ったからさ」
ちょっと焦げちゃったけど、と与一は顔を上げた。その拍子に私と目があってしまって慌てて手を振る。
「あ、でもね!」
張った声が広い部屋に響く。
「慶次兄ちゃんが直してくれたんだよ。ほつれてたところも直してくれたし『みんな帰って来たら驚くぞ!』って。それでさ、色んな話もしてくれてさ」
そうそう、慶次兄ちゃんって京から来たんだって!姉ちゃん知ってた?そう言う与一の声が上擦っている。……なんか、いつもの様子と少し違う気がする。
まじまじと与一を見たけど、与一は私と目を合わせないで身振り手振りで話を続ける。
「京って凄いんだって、色んな提灯があちこちに並んでて、夜はぶわって光るんだ!いつも誰かが笛を吹いたりしてて……」
「与一」
与一の目がようやく私を見た。
戸惑い、というか落ち着きのない感じ。今こうして目を合わせて漸く気付いた。
私は与一のこの表情を見たことがあった。
初めて出会ったあの夜の日に見た顔だ。途方に暮れてたあの夜に浮かべていたあの表情。
与一は、本当に恐れていたんだ。
「……火事、ほんと、怖かったね」
「――……うん。」
家を巻く炎があんなに熱いこと、煙は視界を奪うほど立ち昇ること、風が唸って、聞いたことないような音を立てること。初めて見た火柱があんなにも恐ろしいこと。私は知らなかった。
与一が目を伏せる。
「怖かった。……怖かったけど、…それよりも持っていかなきゃって気持ちでいっぱいで」
「与一…」
震えるほど怖かったのに、それでも与一はちびちゃんズの思い出を守ろうとしてくれてた。ちょっと焦げちゃったけど、与一が宝物みたいに大事にしたくてたまらないものは、与一が守ってくれたからここにある。
「慶次兄ちゃんがね、直しながら『怖かったな、…守りきれなかった悔しさ、よくわかるよ』って。おいらのこの気持ち、忘れるなって言ってくれたんだ」
小太郎兄ちゃんも、よく来て遊んでくれたんだ。だから怖かったけど、寂しくはなかったよ。与一はそう言って笑みを浮かべる。
そうかこの部屋の生活感、おもちゃとか読み物とか、全部慶次とコタが持って来てくれてたんだ。私がいない間、与一が寂しくないようにって気にかけてくれてたんだ。
私はあの2人に心の中でお礼を言った。
それから与一の隣に並んで身体をくっつける。
「な、なに?」
「こうしたくなっただけー」
「えぇ?何それ」
困り顔で与一は笑うけど、嫌がって離れたりはしない。だから私はそのまま与一の体温を身体の片方で堪能する。柔らかくてすべすべの肌。あったかくて落ち着く体温。気持ちいいなあ、とおもう。
「――この間の、血を吐いてた兄ちゃんもだけどさ。…おいらやっぱり誰かが苦しんでるのは嫌だなって思うんだ。何もできなくて…悔しいなって、だから、やっぱり、ちゃんと薬師、目指したくて。……うまく出来るかはわかんないけど。そしたら、……梵の目も、弥三郎の怪我も、松のお母さんの病も、治せるかもしれないって思うんだ」
与一の言葉はほとんど独り言に近い。私に話していると言うよりは自分の中の考えをまとめてるみたいな。言葉をかけるのは野暮な気がして、私はそのポツポツとこぼれる真剣な言葉を、ただ聞いている。
「あ、でも梵たちは大きくなっちゃったから、もう大丈夫…なのかな…。――、でもきっと同じ病気の人を助けてあげられるはずだよね、…だから、おいらも、出来ること増やしたいんだ」
そう言って与一はハッと我に返って私の顔を見上げて来た。おずおずと顔色を窺うように不安そうな顔をしている。悪いことをしてしまっただろうかと言いたげな表情に、私は首を振った。
「いいと思う」
「…、笑われないかな」
「うん。それどころかさ多分すごいびっくりして…喜ぶんじゃないかな」
与一の思いは十分伝わると思う。
きっとすごい喜んで、それで全力で応援してくれるだろう。
「今度さ、私たちだってやるんだぞ!って見せて、三人の鼻を明かしてやろうよ。あっと驚かせてやって、そんで成長したのは私たちもだぞ!!って」
「…えへへ、楽しそう」
与一はそういって私の腕に体重を乗せてきた。
よりぴったり身体がくっついて、それでもっとあったかさを感じる。
与一の髪が肩を滑ってちょっとだけくすぐったい。
「…姉ちゃん」
「ん?」
「みんな見つける約束、守ってくれてありがとう。それから、おかえりなさい」
「……ただいま、与一!」
静かだし、広い部屋だけどなんだかすごく満ち足りた感覚がある。
幸せって多分こういう事なんだろうなって、クサいことをおもって、私は与一の重たさにそっと目を閉じた。