私の神様(仮)
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「 さ 」
『オイカゼだ!オイカゼだ!』
「すげぇ喋るよこの鳥!あなたはインコ?オウム?」
『トリチカ!トリチカ!』
「トリチカ?!」
私の神様(仮)
~海は広いな大きいなー!月は昇るし日は沈む!(当たり前だ!)~
トリチカ…じゃなくてモトチカ率いる長曾我衆とモトナリ率いる毛利衆とともに船出して数日。
そろそろ暗くなり始めたから船を進めるのはおあずけらしい。現代の船とは違って暗いと進めないし風がないとあまりスピードが出ないとかでチカちゃんが語ってた。
ごめんねチカちゃん、実は話わかんないから半分ぐらい聞いてなかったんだ…。
「トリチカって言うの?」
『チカチカ!トリチカ!』
「トリチカ…ねぇ。」
「そいつぁアニキが決めた名ですぜ!」
振り返るとチカちゃん所の人が木箱を抱えてこっちをみていた。うはー筋肉ムキムキ!すげぇ!ほんのり浅黒い兄ちゃんは木箱を抱え直してあはは、と笑った。
「アニキの家だと親の字をつける風習がありやして」
「はっはーん、だからか。」
トリチカなんてなかなかナイスネーミングセンスじゃねぇ?ぶふっ
思わず噴き出すと筋肉の兄ちゃんも「笑っちまいやすよね」と言って笑い出す。
あのチカちゃんがトリチカ…ぶふはは
「この妙な笑いを誰か共感してくれる人…ナリちゃん…!」
だ、だめだ。なんか変な笑いが込み上げてくる…!ニマニマしながら私は筋肉の兄ちゃんに挨拶をして船内に潜り込む。
中には沢山の人がいてそれぞれ好きな事をやっている。
長曾我部の人も毛利の人も関係なしにワイワイ騒いでいた。
私は1番近くにいた4人グループの人にあの、と話し掛ける。
「ナリちゃ…えっと毛利元就の部屋ってどこですか」
「あ、シズカ様!元就様の部屋はあそこの階段を降りて右に行ったところです!」
「さ、様付け?!」
なんで!?様付けキモッ!!
ぞわわわと鳥肌がたったから腕を摩りながら聞き返すときっと毛利軍なんだろう彼は「え、」と若干首を傾げる。
「シズカ様は元就様の正室となられるんですよね!」
婚約楽しみにしてます!と言った毛利軍の人。すると横にいた長曾我部の人が「ばっ、何言ってんだ!」と口を開く。
「アネキはアニキに嫁ぐんだ!」
お似合いなのはやっぱり~!いやいややっぱり~!はぁ?だからやっぱ~!
なんて私がどっちに嫁ぐかと口論し始めた彼等。
どっちにも嫁がねぇよ(雑草×4
「…ありがとー」
とりあえず絶対聞いてなかっただろうけど御礼を言って私は階段へ。聞いてないほうが悪い!
言われた通り進むと確かに周りとは若干違う扉があった。
「なーりーちゃーんっ」
あーけーてー、と言い切るより早く扉が開けられる。ちょっと顔をあげると眉間にシワを寄せてこっちを見ているナリちゃんの顔があった。
「姉上か」
「ねー、ちょっと聞いてよ!」
ウケるんだってばーと思い出し笑いしてるとナリちゃんは部屋の中に入れてくれた。あれ、そんなに長居するつもりはなかったんだけどな。
せっかく入れてくれるというので私はお邪魔ーと侵入するこ…と……に………。
「………」
「どうした」
「いや…」
しいて言うなら ま さ に カ オ ス 。
ナリちゃんていうか…こう、イメージ的に智将達って部屋が綺麗じゃん?基本的に部屋が汚いのは主人公組にチカちゃんとかさ、その辺りじゃん。
ここまで言えば察するだろう、ナリちゃんの部屋汚ねぇ…。紙が散乱してるぜナリちゃん。
あそこにあるヤツとか半分崩れてて危なくね?
「…なんつーか」
「?」
「あえて美化して言うならギャップ萌え…?」
「何の話か読めぬのだが」
「じゃあ直球に。…部屋汚くね?意外すぎて信じられんわ」
そういや幸村の部屋もわりと綺麗だった気がす…あ、オカンな迷彩による仕事か…。なんて若干現実逃避をした私は改めて衝撃的に散らかった部屋を見回した。
まるでテスト期間の部屋みたいにあちこちにプリントと言う名の紙類が散乱してて、更に本が積み重なって横倒しになってたりページがばっくり折れてたりしてる。
うおぉぉ…なんて自分の部屋とのデジャヴなんだ…!
「あの本は船が揺れるからあえてあのままなのだ」
「へー」(超棒読み
「……っ!」
バシッ
「いでッ」
棒読み返事にナリちゃんは私の背中をひっぱたく。背中がジンジンするんですけど!と睨み付けるとナリちゃんはほんのり赤くなりながらフン、と鼻を鳴らした。
「我はどこに何があるか把握しておる」
「うわぁ、」
そのセリフもデジャヴだぜナリちゃん!むろんそれは私の言ったことのあるセリフなんだけどね!
現役OLとかヲタ的思考の発言をしたナリちゃんは「あまり見るでないわ!」とツンツンして机の前の座布団に座った。
私も大量の紙の隙間に空いた微妙な空間によっこらせと腰掛ける。
「で、何のようだ」
「いやぁ、なんか改まって聞かれるとそんなたいした話じゃなくて申し訳ないんだけどさぁ、チカちゃんの飼ってる鳥いるじゃん?」
ナリちゃんはああ、アイツかと言わんばかりに目を細めて再び眉間にシワを寄せる。
これ、いつか痕とか付いちゃうんじゃないか。
「あの鳥の名前“トリチカ”って言うの知ってた?」
「……聞いている。まったく酷い名だ」
よかったナリちゃんもこの絶妙さをわかってくれるやん!アニキってばセンス独特すぎるよね!そう思ってニマニマしてたらナリちゃんは長いまつ毛を落として右斜め下を見た。
「……初めはシズカだった」
「私の名前?」
「ああ」
…いや、まぁ…思ってくれてたのは嬉しいけど、オウムに自分の名前つけるのはさすがに…ちょっとどうなのよそれ。私の微妙な気持ちを察したのかナリちゃんはだから、と言葉を続けた。
「我が鳥と名付けた」
「うん、そこで鳥は分類名であって、名前じゃないとかツッコミ入れたら負けなんですねわかります」
「そしたら奴が『親』の文字を入れると言って聞かぬのだ」
「だからトリチカ、」
「だからトリチカだ」
一瞬空気が静まり返った。ナリちゃんと視線が合って、そして――フフッ、どちらともなく吹き出した。
「やっぱりアニキのセンスちょっと独特すぎだよね?!」
「だが本人は満足しているのだ…ハ、もう口を挟むのも疲れたわ」
そう言って口角を上げて笑うナリちゃん。嘲りでも侮蔑でもなくて、全くもう、なんて呆れのこもった笑いだ。
そういえばナリちゃんやたら笑うよなぁ。原作はたしか鉄仮面のような表情の無さとか言われてた(あれ、なんか違う?)のに。
…本当はそんな事無かったのかな、原作だと変わらない表情だけだけど本当はちゃんと笑うしいろんな顔をするんだ。…それか、やよっちゃんもといチクビのアニキのおかげなのか。
どっちにしても萌えるしナリちゃんにはいい事だと思うんだ。笑顔って大事だもんね!
ひとしきり笑った後、私たちは「はー、」と息を吸った。笑いすぎてお腹痛いや、と思ってさすってたら、ナリちゃんはふっともう一度鼻で笑って、「まったくこの感じ…変わらぬ」と首を振った。
「それは…ナリちゃんが変わりすぎたんじゃない?」
「ふむ、そう見えるか」
「見えるよ。笑うようになったし」
「……そうか」
「“そうか”て。前は“フン”とかしか言わなかったくせに」
「十年もあれば人も変わる」
十年!?
思わず声を裏返すと、軽く肩をすめて「…姉上の周りで何が起こってももう不思議に思わん」と言う。当たり前のようなその仕草が妙に自然で、確かな時の流れを感じてしまう。
部屋汚いなんて言ったら、しょーちゃん拗ねて絶対口聞いてくれなかったもんな……。
「……昔、姉上が言っていたな。人は死んだら星になるのではなく、土になるのだと」
しみじみとした声音。床に散らばった紙の一つを手に取って、何の気なしに弄びながらナリちゃんは少し黙った。
「…土になるから、また次の種を育む。いずれ誰もが土塊になり、また何かを育む。人の営みとはそうやって続くのだと知った。……だから、あの口うるさい義母を許そうと思えたのだ」
ザラザラとした紙の目を撫でながらポツポツと言葉を紡ぐナリちゃんを私は少し真面目な顔で見ていた。
義母さんとの関係も少しはマシになったんだろうか。前向きにお母さんとの別れを受け入れられたんだろうか。
私にとってその話をしたのはつい最近のことだけど、しょーちゃん…じゃなくてナリちゃんが積み上げた年月は、良いものだったんだろうな。ナリちゃんのこの顔を見ているとそう思わずにはいられない。
「…しょーちゃん的には大進歩だね!」
「……成長と呼んでくれ」
「うんうん、成長!…成長したと言うことは、人参は食べられるようになったの?」
「……さもありなん、と言うやつだ」
口では呆れながらも、目元は笑っている。
その笑顔の向こうにあの頃のしょーちゃんの面影を見て、私は胸の奥がジン、と揺れるのを感じた。
なんだかそれで小っ恥ずかしい気持ちになって私は立ち上がった。
「やー、笑った笑った!聞いてくれてありがとうね!どうしても共有したくてしたくて」
「我も姉上に言いたいことは山のようにある、が、……また明日でも良いだろう」
そう言ってナリちゃんは目を伏せた。
サラサラの前髪が流れてほんの少しナリちゃんの表情を隠す。口元にうっすら笑みを湛えたその動きは見惚れるほど綺麗で、絵になる美人さんパワーをひしひしと感じている。
くぅっこりゃ海の男アニキも放っておかないですよねェェ〜!!!
「…じゃあ、また明日ね!おやすみナリちゃーん!」
私はナリちゃんに手を振って部屋を出る。
その勢いで危うく散らばった部屋の紙を踏みそうになって慌てて避けた。けどその勢いで、思ったよりも扉が強く閉まってしまった。
風圧で紙が飛んで、動いたのを拾い上げながら、ナリちゃんが呟いた言葉は私に届くことはなかった。
「あぁ。また、明日。」
* * *
「……さて、どうしようかな」
まるでテキスト選択式ゲーならポーンなんて音と一緒に選択式が出そうなセリフだなぁ、なんて考えながら私は廊下をキョロキョロ見回した。
ナリちゃんにお休みも言えたしチカちゃんにも言わなきゃなぁ。
「…あ。さっきの」
「お!姐さん!」
向こうから、さっき木箱を抱えていたムキムキ兄ちゃんが今度は俵を肩に担いで歩いて来た。うはぁー!ホントにムキムキ!
「あーそうだ。チカちゃんって今どこにいますかね?」
ついでにその腕筋触らせて下さいハァハァ、と呟いたらキラリと歯を見せて笑ってくれた兄ちゃん。それじゃあお構いなく~!
うぎゃお!めちゃくちゃムキムキ!筋肉の筋とかすげぇぇ!なんつーか男を感じるね!!
なんてニヤニヤしてたら兄ちゃんは「そうッスねぇ」と唸って首を軽く傾げた。
「さっき部屋に帰ったから…今頃湯浴みでもしてるんじゃないンすかね?」
キュピーン!湯浴み!!
「湯浴み?!どっち!」
「え、えっと突き当たりを右に行って三つ目…」
「貴重情報あざぁぁぁぁっす!!」
ヨホホホ湯浴み!!
私は兄ちゃんのムキムキンニクから離れると兄ちゃんが教えてくれた方角へBダッシュした。チカちゃんの湯浴み!!裸!裸!!うへぇえふうるあぁはぁあ!
マリカのキノコ×3ばりの速度のまま私は走り続け、突き当たりに激突しながらも腕で反動をつけて目的地へ走った!
手前からいーち、にー、さぁーん!はっけェェェェエんッッ!!
目の前の引き戸を見て私はニヤニヤすると魅惑の覗き見をすべく微妙に隙間を…ゲフンゲフン。えっと、いきなり開けたらいくらチカちゃんでも恥ずかしいよなぁって思ってちょっと隙間をアケマシター。(超棒読み)
少し隙間を開けて中を覗くと普通に脱衣所があった。そこには誰もいなかったけどカゴにチカちゃんの服が綺麗に折り畳んであったから私はこっそり中に侵入。
うへへへチカちゃんの脱ぎたてハァハァ!こ、この服が普段チカちゃんの素肌を包んでるわけねハァハァ
携帯のスピーカーを指で押さえて私はコソコソと携帯をムービーに切り替えて水音が聞こえる扉に手をかけた。
スパーンッ
「素敵ティクビはいねぇがぁぁぁぁぁあ」
「ひゃわぁぁぁあっ」
うほっいい声!邪魔な板を横に押し退ける、もとい扉を開け放つと目の前にはとても素敵な腹筋と胸筋がありました。てゆーか、やよっちゃんみたいな台詞だったぞ今の!
チカちゃんは入って来たのが私だと認識するや否や手元にあった木の桶で前を隠してしまった。
やよっちゃんばりの叫び声に気を取られた私は隠されたモノを見はぐったので後で携帯のムービーを確認しておこう。
ピロリンなんてかわいらしい音と共にムービーを止めて私は浴室に足を踏み入れた。
「な、な、なっ……?!?!!」
「やーん!私は昔からチカちゃんの裸を見てるんだよ!何を今更恥ずかしがってんのさ!」
だからとっととその邪魔な桶どかしちマイナー!
舌をチッチッと鳴らしながらチカちゃんを見たらなんだか可哀相なぐらい顔を真っ赤にさせて目をしばたかせてた。
「おーいチカちゃーん。」
「…な……ッッ!」
「ん?」
「な、なんでシズカがここにいるんだよッ!ここ湯浴みだぞ!!」
「知ってますけどなにか問題でも!」
「大有りだ!」
むふふチカちゃんてば照れちゃって!かーわいー!
チカちゃんをニヤニヤしながら見つめていたら、やがてため息をついて「で?」とすっかり諦めたような声をあげた。プププ私の勝ちよ!!
「何の用だ?わざわざ湯浴みまで押しかけて来てよ…」
「いやさぁ、ナリちゃんのところにトリチカについて笑いに行ったんだけどさ、おやすみってチカちゃんにも言わなきゃと思ってさ!そしたら湯浴みしてるって聞いて…ついつい身体が勝手に…ね?」
てへっ、とぺこちゃんするとチカちゃんは半眼になりながら私を見つめる。そんなに見つめたらまた桶を奪いたくなっちゃうでしょーがっ!
「ほら、シズカおねーちゃんが背中流してあげるから早く背中向けなさい、そんで桶邪魔!」
「おい…シズカ姉ちゃんも女なんだから少しぐらい自重してくれよ…」
「ダメー」
自重したら私じゃなくなると思うんだよね!ほら早くー!とチカちゃんに近寄ると、チカちゃんは後ろにジワジワとバックしながら距離を空けていく。
「……ちょっと」
「………なんだよ…」
「でりやぁぁあ!隙ありぃぃぃい!」
「うわっ!」
あまりにチカちゃんが逃げるものだからついつい飛び掛かっちゃったじゃないか!避けずにチカちゃんは私を両手で受け止めたから桶がカポーンと床に落下した。
チカちゃんは私を抱き留める。てっきり避けられると思ってた私は勢いよく飛び付いてしまっていた訳で。
凄く痛そうな音をたてて床に二人して倒れこんだ。
う、うわぁ…チカちゃんてば背中ぶつけたよね痛そう…!
「えと、ごめんね…痛かった…よね、今の」
「あー大丈夫だ」
いや、痛いだろ今の…!バチンっていったよだって!チカちゃんの微妙に痛そうな顔が下にあって…って下?
ずずぃっと視線を巡らせると私はそりゃ絵に描いたようにチカちゃんに馬乗りしているらしい。
ひ、ひゃぁっふぉぉぉおぉおおおお!
え、何この姿勢!私チカちゃんを押し倒して鳴かせようっていうの!自分がGJじゃまいか!うわ!無意識にこの姿勢とった自分偉いィィィ!!やばいチカちゃん筋肉ぱないグプフフニュハゥ!
「…なぁ、もういいか?」
「はぅあ!」
やばいこれ私にチカちゃんを襲えっていう神様からのプレゼントじゃねぇ?!とテンションがMAXになってたらチカちゃんは軽々と上体を起こしてしまった。
ち、力の差が卑怯だ!うろたんだー!
「腐女子として自信無くすわこの力の差」
「ていうより男と女…だからな」
まぁ、自分×より他CPのが萌えるからいいかな!是非次は第三者として最後まで観戦したいものです!で、今私はチカちゃんと向かい合うようにして座ってる。
…片割れは素っ裸だけど。
チカちゃんは頭をポリポリかいて軽くため息をついた。
「シズカ姉ちゃん、一応俺男だぜ?」
「そうであるより前にチカちゃんは私の弟でしょ?」
そう言えばチカちゃんは一瞬驚いたような顔をしてそれから「そうだな」なんて笑った。
「たしかに俺ァ姉ちゃんの弟、だな」
「そーそー!何を今更言ってんの!」
まったく嫌ね!とふざけてチカちゃんの左膝をパシンと叩くと、ふとチカちゃんの左の下腿に傷を見つけた。
丸から更に少し広がったようないびつな傷の上に、更に横一筋真っすぐな傷痕。チカちゃんのこの場所にあるいびつな傷。私には心当たりがあった。
「……これ、」
「…ああ、コイツか」
チカちゃんは傷痕を引き寄せて指で触れる。丸く残っている傷は、間違いなく銃で撃たれたあの傷痕だった。
「痕…残っちゃったんだ」
「ん、まぁ、な」
そう呟きながらチカちゃんは目を細めて傷痕を見る。
しっかり残ってしまった。
私は改めてその傷に手を伸ばす。その手を追いかけてチカちゃんはポツリと、悲しい顔を浮かべた。
「……シズカ姉ちゃんだって、すげェ血が出てさ。…痕、残っちまったよな」
「、…アハハ、そんなこともあったね!自分じゃ見えないから忘れてたや」
チカちゃんが本当に苦しそうな顔をするから、私は明るい声をわざとあげた。
実際、血だってすぐ止まったし、そんなに言うほど痛くもなかったし。傷は残ってるかもしれないけど、こんなの誰に見せることもないんだし別に良い。
だから気にしないでって!意味も込めて落ち込むチカちゃんの肩を叩いたのに、チカちゃんはその手首を捕まえて私を見た。
「…シズカ姉ちゃんが忘れても、俺ァずっと忘れられなかった」
「……」
「悔しくて、情けなくて仕方なくて……自分で歩くことすら辞めてたって、さ」
真っ直ぐな眼差しで私を見て、それからちょっと唇を噛んだ。苦しそうで、悲しそうな顔は変わらなくて、…チカちゃんにはどうにか笑ってほしいと思ったから私は言葉を探す。
だけどチカちゃんはそれを遮るみたいに、私の腕を引いた。重心が崩れて、私はまたチカちゃんの胸の中にダイブする。
「チカちゃ、」
「……本当にごめん」
声が震えている。私を支えている腕が、吐き出した息が震えてる。そんな深刻に悩まなくたっていいのに、だって私はあの時やよっちゃんを傷モノにだけはしたくなかっただけだ。
だからチカちゃんが……やよっちゃんが、そんな顔をしなくても。
「だからもう2度としないって。…この傷に誓ったんだ。次はもう逃げねぇ」
チカちゃんの指が歪な形の上に引かれたまっすぐな傷跡をなぞる。こっちは見覚えのない痕だ。
私は思わず空いた手を伸ばす。
少し痕に触れると、掴んだチカちゃんの手に力が籠る。節っぽくてゴツゴツしてて、あの頃の柔らかさなんてカケラもない。そのギャップに私は少し戸惑った。
「誰の後ろにも隠れない。…何が来たって正面から受け止めるって、決めた」
「……」
チカちゃんの手から力が抜けた。今度こそ顔を上げるとそこには苦笑したチカちゃんがいる。
やよっちゃんの頃とは全然違う笑顔だ。少なくともこんな、剥き出しの、心臓が痛くなるような表情は見たことがない。チカちゃんの苦しい気持ちを貰ったのかも、そんな錯覚があって、私は息を吐き出す。
「チカちゃん」
「……おう」
「すごい、なんていうか、ええっと……。言葉がないんだけど」
「……」
「うーん…ありがとう……?」
「疑問系かよ」
ハハ、とチカちゃんは笑う。
だって、と言葉を探したままの私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でると、チカちゃんは私の肩を押して、また座り合う形に戻った。
何も言葉をかけられなかった私に、気にすんなと言わんばかりにチカちゃんは吹っ飛んだ桶を拾って頬をかいた。
「湯冷めすんなよ」
「…たしかに?」
そこまでじゃないと思ってたけど、結構服が濡れてしまっている。水滴が垂れるほどじゃないけど色はすっかり変わっていて、私は立ち上がって全身を見た。
チカちゃんが着物を貸してくれたからそれを借りて寝ることになりそうだ。
乾くかなぁと眺めていた私をチカちゃんも眺めている。そしてパチリと目が合った。何か言葉をチカちゃんも探しているようだったから、今度は私が、にへら、と笑ってみせた。
やっぱりシリアスは割に合わん!そろそろひそかに蓄積してたシリアスモードの充電が切れそうなんだもんね!
「…チカちゃんこそ風邪ひいたりしないでよ!おやすみチカちゃん!!」
ムフフ、チカちゃんの裸体もしっかり堪能したしそろそろ私も部屋に戻って寝ようかな!あまり夜更かしして船酔いとかすごく嫌だからね!
ルンルン気分で浴室を出ようとするとチカちゃんが声をかけて来た。
「明日は日の出と同時に進めるからな!」
「あいやいさー!」
日の出と同時に起床、なるへそそのぐらいならどこぞの朱いアイツのおかげで慣れっこだぜ!
…って待てよ、もうすぐ幸村に会うって事はまた日の出起床生活が始まるって事なのか!
うがぁぁあ!フリーダム起床だった松永の城が懐かしいぜぇぇえ!
早起きに怯えながら、私は部屋を目指す。
私の部屋はナリちゃんとチカちゃんの部屋の奥にある。わざわざ用意してくれたらしくて、退くことになったひとごめんという気持ちでいっぱいだ。
(だってこの時代ってハンモックとかで寝てるんじゃなかったっけ?!天地の差だよねほんとにごめん!!)
一度外に出ると、波の音が途端に強く耳を打った。
「わっ」
アニメの世界みたいな満点の星空が広がっていて思わず声を上げた。
現代じゃもちろん、小田原にいた時だってこんなに星は見えなかった。暗い海の上だからなのか、季節が巡っているからか、吸い込まれそうな星空だ。
思わずカメラを構えて、それから全然綺麗に撮れないことに気づく。
露光とか変えてみたけどやっぱりダメで、私は諦めて携帯をしまった。くそーっ!その分目に焼き付けてやるから!!あれはデネブ・アルタイル・ベガ???!!
ちゃぷちゃぷ、と水が跳ねる音と船にぶつかって泡立つ音、それから船が軋むギィギィ、というちょっと怖い音。空から聞こえて来てるような、自分が揺れているのか、不思議な感覚だ。
私はなんとか目に焼き付けたくて、流れ星とか流れないかなって探してみたけど、もちろん都合よくそんなものはない。ちょっとだけ悲しくなって、それからさっきも少しだけ悲しかったことを思い出す。
(……10年)
ナリちゃんが言っていた数字を考える。
10年っていったら私はまだ小学校低学年だ。ジュースを服にこぼしたり、石の裏のダンゴムシを見つけたり、一輪車で遊んでた頃。それから今になるまで、覚えてないこともたくさんある、2人はそんなに前から来てたんだ。
政宗と再会した時のことを思い出した。
震えてた手と声と。
…探してた、と言う言葉の重みがなんだか急にズシンと乗っかって来た。それからナリちゃんの微笑を、チカちゃんの表情を順番に思う。
なんなら3人とも今の私より年上かも、と思った。
(なんか……)
あのチカちゃんの手も、ナリちゃんの声も、政宗の表情も。ゲームの中で散々みていた顔なのに、声なのに、知らない人みたいだった。
(……置いてけぼり?ってかんじかも)
1人で帰った放課後の、遠くでチャイムが聞こえた時みたいな。いつも楽しく帰ってたのに友達がいない空白感というか。
あの3人のことが分からない感じ。ちょっとだけ疎外感があって、それから
「……あー、……寂しい」
の、かも?
この寂しさの行き場がないのはなんとなくわかってるから、深く考えるのはやめようと思う。
だけど、秀吉に問われて感じた、半兵衛に指摘されたのと同じくらい、大事な感覚かも。って気がする。だから、星空と同じくらい忘れちゃいけないな、と思ってもう一度空を見上げた。
「……へぶしっ」
ちゃんとじっくり見ようと思ったけどこれ海風冷たすぎて耐えられないかも!!
私は自分の腕を摩って背中を丸めた。
じじじじ自分が濡れてるの忘れてた!!ッこれで風邪でも引いたら本当に姉の威厳がなくなってしまう!
「それだけはぜぇったい駄目!」
私はちびちゃんズの威厳あるお姉様でいるんだい!
私はもう一度身震いをすると、今度こそ部屋へと駆け戻った。
次の日の朝、日の出から一時間ぐらいしてナリちゃんにたたき起こされた私は(うまれて初めてデコにチョップくらった)なんだか風が強い甲板に立っていた。うわぁぁぁ風がつべてぇぇぇ!
「ようやく起きたか」
「えぇもう、誰かさんのチョップが凄まじく効きましたよ!」
振り返るといつも通りのオクラを被ってナリちゃんが立っていた。
どうでもいいけどあのオクラでこの風受けて吹き飛ばないのかな。なんかすごく風圧受けてそうなんだけど。
「ねぇ今ってだいたいどの辺りなの?」
追い風のおかげで船の進む速さは昨日の比じゃないみたいだ。かなりの速度で進んでるから割と早めにつきそうなんだけど。
「だいたい今は駿河に入った辺りだと思うぜ」
「あ、おはよーチカちゃん。」
「おう」
バサバサと上着をはためかせてチカちゃんがやってきた。今の今まで航路を確認してたからほとんど合ってるはずだ。ナリちゃんはふむ、と唸る。
「という事は明日辺りには着くか」
「マジで!」
「ああ、けどこの風が今日一日続けばだぜ?」
いや、それでも相当速いよね!だって夜のあいだは進んでなかったんだもんさ!
私は若干背伸びして進行方向を見る。
「もうすぐ会えるんだね!」
「小田原には先日の小田原急襲の際にいた軍の一部がそのまま残っているらしい」
「じゃあ武田の人とかも残ってるのかな」
「その可能性はあるな」
「よっしゃ!」
幸村とかオカンとか武田モブズとか!もしかしたら謙信様達も居るかも知れないんだよね!
やっべぇ超楽しみなんですけど!
「与一もいるんだよな、小田原に」
「うん、きっと待ってるよ」
与一驚くだろうな!まさかナリちゃんとチカちゃん…しょーちゃんとやよっちゃんがこんなに大きくなってるなんて!ふとチカちゃん達の顔を見ると二人ともなんだか楽しそうに見えてなんだか私まで嬉しくなった。
「おそらく梵…あぁいや今は伊達政宗か。ヤツもいるだろうな」
「アイツの事だからな、居るだろ」
「政宗が?」
そういえば私、政宗と最後に会ったの私+ナルちゃん+政宗+いつきちゃんで本気の雪合戦して以来じゃないか?あのあと小十郎が来て二人を雪の上で正座させ…あの寒さを考えたらこの風の寒さがメじゃない気がして来たよ!…二人とも足は大丈夫だったんだろうか。
「姉上は政宗に小田原に家があると伝えたのだろう?」
「うん、」
「だったら必ずいるだろうな。」
確かな確信がある、そんな声でナリちゃんは言う。
チカちゃんも同じ意見らしくて同じような顔をして進行方向を見つめて笑っている。
まだまだ水平線に近い太陽がとても眩しく輝く中、キラキラ輝く海を船は進む。
「与一も梵天丸もどうなってンだろーな」
「…少なくとも貴様程変わってはおらぬだろう」
「へっ、違ェねぇや」
ナリちゃんの言葉にチカちゃんは苦笑しながら目を細めて海を仰ぐ。私もつられてそっちを見た。
「ねぇ、ちびちゃんズが全員揃ったら皆でまたごはん食べよう!そんでもって雑魚寝しよう!」
3人がいなくなって悲しい思いして、すぐに一人にしてしまった与一の為にも、またみんなでワイワイやりたい。
私の言葉に二人とも笑って頷いてくれた。
また一段と強い風が吹いて、船を小田原ヘ向けて進めていく。