私の神様(仮)
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「 え 」
ぎっ、ぎっ、
――…ふと音で目が覚めた。
一瞬何の音かと思ったけれど、この部屋に来るときに鳴ってた床の音だ。
誰か来たんだなぁ、と頭のどこかで思っているけど身体はすっかりおやすみモードになっているから目は開かないし、気力もない。
そしてその足音が部屋の前まで来て、スッと障子を開く音が聞こえた。
「シズカちゃん」
「……」
「起きて」
どこか聞いたことのある気がする声が囁く。
私はその声の正体を知りたくて、億劫だけどほんの少し目を開けた。そこにいたのは寝る直前まで考えていた…
「…ゆ、きむら?」
私の神様(仮)
~震えるほどビート!~
「――違うよ」
ボヤけた視界に映るのは明るい茶色の髪。
寝ぼけた頭で浮かんだ名前を呼んだけど、違うらしい。
じゃあ誰?
どうにかこうにか頭を働かせて目を開ける。何度も何度も瞬きをして、ようやく焦点があった先にいたのはやっぱり幸村……によく似た誰かだ。
「……」
思わず身構える。
するとその幸村に似た人は困ったように笑って、それからごめんごめん、と肩の力を抜いた。
「俺は真田源三郎信之。ユキ…シズカちゃんの知ってる幸村の兄だよ」
「……兄…?」
「そう。はじめまして」
「……」
突然現れた自称幸村のお兄ちゃん。
確かに顔は似てる…けど。
徐々に頭が覚醒していくのを感じながら、じっと顔を見つめる。
するとこの不審人物はまあそうだよね、と何かを納得した。
「俺は味方だよ」
「……」
「――可哀想に、手首…大丈夫かい?」
「ん…?」
言われて視線を落とすとそこには赤黒く痕が残っている。言わずもがな縛られてた時の痕だ。特に痛みがなかったから気が付かなかった。
思わずそのあとを手でこするけど、もちろん消えない。
その痕を触る私の手に、その自称幸村の兄ちゃんは手を重ねてきた。
「まったく、左近のやつ気づいてたろうに」
「……あの」
「ん?」
「本当に幸村の兄ちゃん…なの?」
「ああ。」
…幸村に兄がいるとか知らんけど?
そう思ったけど、よく考えたらこーちゃんだって政宗の弟だったわけだし、そりゃ幸村に兄がいたっておかしくはない…というか、確かに言われてみれば幸村って弟属性だよね…!?
兄弟そろってイケメンなの、まじで真田家ハイブリッド一家なのでは!
「ハイスペ男子…」
「はいすぺ?」
「ああいやこっちの話です!!」
「…はは、元気がいいね」
いいことだ、と幸村の兄ちゃん…改め信之兄ちゃんは口角を持ち上げた。
流れるような動きに思わず目を向けるけど、信之兄ちゃんは優雅に笑って肩をすくめるだけだ。
「あ、あの信之兄は…なんでここに?」
「…嬢ちゃんに現状をちゃんと教えた方がいいと思ってね」
「え?」
真剣な顔。
またキュと締まった空気に思わず体を引く。
「……ユキを知ってるってことは、甲斐にいたんだろう?」
「……うん」
「はあ…こりゃ誰も教えてなさそうだなあ」
まったくもう…と綺麗な顔からため息が出てくる。
あまりため息つくとハゲちゃうよ!と思ったけど、信之兄は幸村より短い襟足をくるりと指で遊んで、何かを考えこんでいたからやめた。
にしても現状…っていうと……
「げ、現状…というと私は豊臣に連れてこられて、んで同盟か何かを組んでるのかしらないけど何故か家康のお城にいて、んでんで、みんな微妙に怖いから滅茶苦茶テンサゲになってるってことはわかってます…」
「……あー、了解。」
そして私の目をまっすぐに見る。
「これから話すことは、全部嬢ちゃんのせいじゃないってことは覚えておいて」
ええ…?!
その切り出し方…なんかすごい嫌な話の時にしか聞かないんですけど!!
そう言えば信之兄は「まあある意味そうかも?でもそんなに悪くはないかも」と曖昧な返答をよこす。
「まずさ、嬢ちゃんが未来から来たって言うのは本当なんだよね?」
「!」
「あ、嬢ちゃんが秀吉公に話した時にいたから知ってるだけだよ」
「…なるほど」
ま、また知ってる人を増やしてしまったのかと思ったよ!
いよいよ政宗にシメられてこじゅの畑の肥料にでもされるかと…!!!
ちょっとホッとして息をつくと、信之兄は端正な顔を歪めて首を振る。
「まず、君が今この日ノ本中で話題になっていることを知った方がいい」
「………………え?」
日ノ本中で話題…!?
私そんななんか変なことしました?!
「た、たしかに『政宗を手なずけた』とかは何回か言われた気がするけど…」
そんな話題になるほど?だとしたら私もだけど、日本全国で暴れている制御不能なヤツ!って認識されてる政宗も大概なのでは!それにだいたい別に手なずけた訳でもないし!!
「そうじゃない」
「……」
「君が『武田と北条の同盟を実現させた』ことが問題なんだ」
ずっと真剣な信之兄。
奥まったところにあるこの部屋に、光はあまり差し込まなくて薄暗い。
その薄暗さからなのか、それとも気温が低いのか、冷たい空気がどこからともなく部屋に流れ込んでくる。
「いいかい。実感はないかもしれないけれど、北条と武田と言えば関東に莫大な影響を持つ2ヶ国だ。そんな2ヶ国が戦を始めるってことで、かの戦は日ノ本中が注目していた大戦だったんだ」
「……」
「けれどその衝突寸前、突然武田も北条も兵を引いた。そして、なんと同盟を組んだ」
「……」
「当然、その理由をどの国も調べる。結果、浮上したのは君だ。…理由はわからないが、少なくとも武田と北条が『手を取り合う』と決めた原因なのは明確だった。そして、その同盟に伊達まで取り込んだ。
これで、関東一帯…なんなら越後は完全包囲、うかつに手を出せない状況になったのはわかる?…それに逆を言えば、関西の武将たちは簡単に関東を攻められなくなった…ともいえる。」
関東の同盟との最前線になる三河が警戒して同盟を組むのもどうりだろう?と信之兄は淡々という。
えーっと…つまり…?
今の勢力図で言うと、謙信さまたちのところ以外は団結してしまった、だから中部のあたりに領地を持っている武将たちも対抗する必要があって…だから秀吉たちはここに来たってことなのかな…??
というか小田原で謙信さまたちも見たし、私が知らないうちに武田と上杉も同盟を組んでてもおかしくないよね…
ってことは実質関東圏はいま一つの連盟になってるってことなのか
……そんなたいそうな事になってるなんて1ナノミクロンも知らなかったが!?
「そ、それは確かに…脅威かも」
BASARAの天下統一モードでもほっといた政宗軍がめっちゃ成長してて関東一帯飲み込んでた…みたいな感じだったし、そういう危機感みたいな感じなんだろうか。今回はそれが武田と北条の間で起きて、普通なら撃退されるはずの武将たちが次々と同盟関係になっている…っていう。
信之兄はここまで着いてこれてて偉い、と言わんばかりに私の頭をくしゃりと撫でた。
「秀吉公は、君の持ってる知識が欲しいんだ。あの武田と北条の同盟を実現したその知識が」
「……ええ…」
そんなこと言われたって、私は別に特別なことをしたわけじゃない。
ただ、私の知ってることを話しただけだ。
「もし本当にそうなんだとしたら完全にアテが外れてるよそれ…私だって本当に何もしてないんだもん」
「うん、嬢ちゃんがそんな大層な知恵者じゃないのはわかる」
「ひどい!」
知恵者…じゃないのは確かだし、実際そういって秀吉にキレたあとだから否定もできないんだけどそんなに言い切られるほど馬鹿でもないつもりですけど!!
どうしよう…と回らない頭をぐるぐる回して考えこんでいると、信之兄は私の様子を少し見たのち、長くてきれいなまつ毛を伏せた。
「だけど、実際知恵者じゃない…から秀吉公と半兵衛は君を利用しようとしている」
「それは……」
「今だって…俺の言ってることまるっと信じちゃってるでしょ?」
「!!」
「アハハうそうそ。今いったことはホント」
「わ、わからなくなること言うのやめてよ!!」
「ごめん、でもさ…とにかく、いいのか悪いのかはさておいて…嬢ちゃんが日ノ本を動かしたその渦中にいるのは間違いない。用心するに越したことはない…」
でしょ?そう明るい声で信之兄は笑う。
緩やかに髪が揺れて、信之兄がつけているのか甘い香りが鼻をつく。その眼を見ていた私に何も隠し持ってないよ!と言わんばかりに手を広げて笑ったあと、じっと私の顔を見返した。
「今日ノ本はとても不安定だ。だから、一つお願いがあって」
「…お願い?」
「そ。もし、この先この国がどうなっていこうと、ユキのこと…よろしくね」
「え?」
目を見返す。
信之兄は笑っているけれど、その言葉はとても真剣でふざけている様にはどうしたって聞こえない。
どういうこと、と思わず信之兄の着物の裾を握ったけれど、信之兄は優しくその手を外した。
「俺はユキに幸せになってもらいたいだけなんだよ」
「……でも、私、は」
「まっすぐなまま、疑うことも知らない…俺がもう持ってない、そういうまっすぐさをユキが失わないようにさ」
そういう信之兄の語り口は、まるでそこに幸村がいるみたいだ。
私じゃない誰かを見つめながら信之兄はフと息を吐き出して立ち上がった。淡い色をした着物が揺れて、また甘い香りが鼻をつく。
「急にきて…難しい話をしてごめんね。嬢ちゃんに何かを背負ってほしいわけじゃないんだ」
「……」
「たださ、俺にも未来に繋ぎたいものがあるから」
「信之兄…」
「あ、その呼び方いいね、俺これから皆にそう呼んでもらお」
一気にいろんな情報が来て頭がふわふわする。
信之兄は私に何をしてほしいのか、なんでこんなことを教えてくれたのか、それから私に伝えたかったことは何だろうか。
「本当は、ユキが、…真田家がどうなるのか教えてもらおうって思ったんだけど…やめとくよ。――きっと未来じゃこんな理も、…かけ問答も要らないんだろうなって君を見てるとわかるからね」
「……」
「また来るよ。」
そういうと信之兄は背を向けた。
私は信之兄に何か言わなきゃと思って口を開いたけれど、言葉が見つけられなくて閉口する。言葉が足りない私の気配を察したのか信之兄はもう一度笑みを浮かべて肩越しに振り替える。
「次はお団子食べながら話そう、おいしい甘味屋のお団子でも」
「!」
「ははは、楽しみにしてて」
ひらりと手を振って信之兄は部屋を出ていく。
静かに絞められた障子と、ぎぃぎぃ、と鳴く床の音が遠ざかっていって、やがて聞こえなくなった。
私はその音を最後まで聞いて、それから再び静まり返った部屋に転がる。
「わた、し」
知らないことだらけだ。
きっと政宗が私をあんなに怒ったのも、そう言う現状があるってわかってたからなんだ。
それに佐助が度々未来のこと、私のことを聞こうとしてきたのも。
松永が、私を捕まえたのも。
すべて自分たちの国が有利になるために情報を得ようとしてた。
「……まあ、そうだよ、ね」
私は、そんな悲劇のヒロインになるつもりもないし、悩める乙女なんて性格でもないし、そもそも信之兄や他の人たちが期待するような戦国乱世を左右するような器じゃない。
そもそもこのBASARAの世界に、実際の史実の情報がどれほど当てはまって、どれほど正確なのかなんて…私にだってわからない。この世界の延長に私のいた未来はないし、トリップっていうのはそういうものだ。
だから、そんな真剣に私の知っていることを知ったところで意味なんかないって思うのに。
「…なんか、泣きそう」
お館様や佐助、こじゅ、みんなどこかで打算的に私と話していたのだろうか。
あわよくばいい情報はないかと。
利用されてた、とか。そんな私はすごい人間じゃないのに。
「幸村のこと任されたって、…なんもできるわけないのにな」
皆、自称未来人を買いかぶりすぎだ。
ふたを開けたらただのオタクなだけなのに。
なんだかすごいまた気分が落ちてきたのを感じて私は顔をくしゃりと歪めた。
もー本当に豊臣来てから楽しいことが何もない!なんで!!
顔をぶんぶんと振って、それから深いため息をつく。
「ッはー!!それもこれも!こんな暗いところに押し込められてるから!!日光!日輪を浴びなくては!!」
ストレスには日光浴がいいってなんかの雑誌で見たよ!
あとナリちゃんもなんかそんなことを二次創作で言ってた気がするし!!立って歩け、立派な足がついてるじゃないか!!ってやつですよ!!
こうなったら日光をあびて!好きなことを考えよう!!
床がぎいぎい鳴ってバレる?知らん!!
私は拳を握り締めるとゆっくり障子を開けた。左右を見回したけど特段誰かが見張っているなんてこともなさそうだ。あれだけ脅せば部屋から出てこないだろうとか思ってるのかもしれないけど、そうは問屋が卸さないね!!
「日の光を!浴びる!!気が滅入る!!!」
もしかしたら屋根裏にいるかもしれない忍が「私が変な行動したら拘束しろ」とか指示を受けてるかもしれないので念には念を入れてわざと大きな声をだす。
ちょっと止まって、反応が特にないのを確認すると私は廊下に出た。
廊下はしん…と静まり返っていて、木造建築特有の少し湿った気の匂いが広がっている。
田舎のおばあちゃん家に泊まった時みたいなドキドキを感じながら、私はひとまず左近に連れられてきた方へと……
ドダダダ!!!
「うおおおおおコーナーで差をつける!疾風ダッシュ!!」
床を大きく踏み鳴らしながら私は廊下を走る。
途中で誰かに止められるかもと思ってドキドキしていたけど、すんなり走り抜けて私は庭に面した廊下に辿り着いた。
「……」
背後を振り返る。
そこには今し方走り抜けてきた廊下と、薄暗い影が広がっているけれど、誰かが追いかけてきたり、怒ってきたりすることはない。
「…ふぅ」
すんなり外に出た。
相変わらず日光は眩しくて目が眩むけど、陽射しの温かさが気持ちいい。
深く深く息をして、私は「よし!」と拳を握りしめた。
「いやぁ、太陽のありがたみを感じるよね!」
「そうさなぁ、今日はよく晴れておる」
「洗濯物がよく乾きそうなカラッと晴れた午後とか最高of最高ってかんじ!!」
「うむうむ。こんな日は川辺を歩くと心地よいよなぁ」
「わかるー!ちょっと食べ歩きとかして……って、ん?!」
私の独り言がラリーできてることに違和感を感じて、振り返るとそこにいたのは、バケツ。
学校の用具入れとかにありそうな灰色(銀?)のバケツに3分しか戦えないあのヒーローみたいな目、ついでにバケツのそこ…今この状態でいえば頭なんだけど、そこにモーグリの頭の赤いアレみたいななにかがくっついてる。
あまりに世界観の違う存在がそこにいて、私は思わず目を擦った。
「……幻?」
暗いとこに押し込められすぎて幻覚見ちゃったかー!これは本当に太陽浴びて元気出さなきゃネ!
ワッハッハ、と笑って高速で30回くらい瞬きしたけど目の前のバケツマンは消えない。それどころか一緒にワッハッハと笑ってすらいる。
ガチで何??
全く隠す気なしで凝視すると、そのバケツマンは肩をすくめて「まぁこれも常事よなぁ」とバケツをカタカタと鳴らした。
「己は大谷吉継と申すものよ」
「……はぁ…」
吉継、と名乗った彼はバケツに声を反響させながら小さく頭を下げる。
「これが気になるか?」
「いや、まぁ、そりゃ」
気にならん人がこの世に居るんかこれは。まさかこの鉄仮面…というよりバケツはなんか意味があるんだろうか。首があるから中の人はいるんだろうけど…
「…秘密、だ」
ハハハ、と吉継が笑うたびにバケツがガタガタと音を立てる。
ついでに頭のモーグリアンテナもボヨンボヨン、ぬこが飛び付きそうなぐらい揺れる。
私はその揺れに揺れる赤い丸いものを見て、それからハッと我に返った。
「ハッ、私日差しを浴びにきただけで!逃げたとかじゃないからね?!!?」
言っとかなきゃ!と思って慌てて否定すると、バケツマン…もとい吉継は首を傾げて、それから「あぁ」と納得した声をあげる。
「知っておるよ。シズカだろう?秀吉公に啖呵を切っておった」
「……知ってるの?」
「あぁ。未来から来たと」
「……」
あの場にいたってことなんだろうけど、私こんなの見つけたら絶対そっちに気を取られてそれどころじゃなくなると思うんだけど……本当にいた?
こんな目立ちまくるビジュアル、絶対見逃さないと思うんだけど…と思ってあの時のことを一所懸命思い出してると、吉継は首を揺らした。
「どうだ、この時代は」
「……?」
「戦、戦の日々ばかりで壊れた時代よ」
「……」
一瞬さっき信之兄に言われたことが頭をよぎる。
この時代のことを少し考えてそれから首を左右に振った。
「ツーーーン!その話はしま!せん!!」
「おや?」
「豊臣軍の人たちって気が滅入る話しかしないんだもん!!それが嫌だから日差しを浴びに来たんですぅ」
「…これはこれは」
ちょいとばかし賢くなったようだなぁ、と馬鹿にしてんだか本気で感心してるんだかわからない声音で吉継はカラカラと笑う。
そうして「日光浴が目的なら、共にどうだ?」と縁側を指さした。
「ちょうど今茶請けと茶を…」
「あっっシズカ!!」
吉継の言葉を遮るように明るい声が被さってきた。
声がした方を見るとそこにはニコニコ笑顔のようぢょが嬉しそうに笑っていて、その後ろには驚いた顔の左近がいる。
手に持っていたお盆と急須を持ち直して、左近は私の顔をしげしげと見た後スッとまた興味なさそうな表情を浮かべた。
そんな左近の顔に気づいているやらいないやら、三成は駆け寄ってきて私の顔を覗き込んだ。
「具合はもういいのか?」
「ん?んーまぁ」
「籠の中って息詰まるよな!私ももう2度と乗りたくないからわかるよ」
「いや、それは…」
籠の中っつーかオタクのとこの秀吉さんとかそちらの左近さんとかが主な要因っつーか…
そう思って左近を見たけど、左近は知らん顔して三成の後頭部を見ている。……お、おまえもしかして三成以外どうでもいいタイプか?!
「三成、シズカもぜひ茶を飲みたいと」
「!そうか!丁度たくさん持ってきてるぞ!なぁ左近!」
「お嬢があれもこれもって選べないからでしょ」
「そうだけど、それのおかげで飛び入り参加もできるし良いことだろ」
「…まぁ、そーね」
なるほどね、ゲロ甘お兄ちゃんってわけね。
三成のためなら死ねる、三成なら目に入れても痛くない、俺の三成がこんなに可愛いわけがない、的なね?!じゃあもう私なんてそれを見守る壁でいいわ、と思ってほのぼの仲良し兄弟を眺める。
吉継はいつもの事なのか全く気にしたそぶりを見せずに、縁側へ腰掛けた。
そして私に座れと言わんばかりに隣を叩く。
「お言葉に甘えて」
「あっ、ズルい!じゃあシズカの隣はアタシだ!」
「じゃあ左近はワシの隣よな」
「……」
「不服そうな顔をするでない」
別にそんなんじゃないですけど、と唇を尖らせて左近は渋々吉継の隣に座った。
チュチュチュ、と小気味よいリズムで鳥が鳴いて、身体の力が抜けるのを感じる。私はホッと一息をついて肩をぐるりと回した。
「なぁなぁ、シズカ見てくれ、今日の茶菓子」
「ん?」
「三河といえば柿だろ?家康公が沢山くれたんだ!」
そう言って三成が引き寄せたお盆の上には干し柿が沢山並んでいる。大振りで、私が現代で見たことあるやつよりもしっかりしてそうに見える。
三成はその中でも1番上にあったやつを嬉しそうに手に取ると、迷わず齧り付く。そして美味しい!と足をパタパタとさせて頬を押さえた。
「うん!やっぱり美味しい!シズカも、ほら!」
「ありがとう!」
お盆ごと差し出されたから、私も1番上にあるやつを口に入れた。柿独特の甘味と食感が口の中に広がって、私も頷く。
左近が三成に淹れたお茶を出し、三成はそれを美味しそうに口にする。
「はぁ、ほらお前たちも!」
「ほほほ、では頂くとしよう」
「はいはい」
吉継と左近も柿を手に取り口に運ぶ。
…ハッ!吉継ってそれどうやって食べてるんだ?!見とけばよかった!!私の視線を受けた吉継はカラカラとバケツを震わせて笑うと、また目にも止まらない速さで柿を一つ食べてみせた。
速すぎて風が来たけど?!
「はっ、そうだこの柿、秀吉様も食べたかな?!」
三河についてからもお忙しそうだし…!と三成は立ちあがろうとする。それに苦笑した左近は「ちょっとは落ち着きなって」と三成を諫めた。
「大丈夫だって、秀吉様にはもっと良いものがお出しされてるに決まってる」
「そりゃそうだろう!けどこの柿の甘さを知ったらきっと驚くだろ?」
「まぁ、あの方は食べてくださるだろうな」
3人はそんな会話をしながらお茶を飲む。
秀吉がこのサイズの干し柿を食べてるイメージが全然湧かない。それどころか手のひら載せたら見えないんじゃない?首筋に触れた指先の大きさを思い出して、またほんのちょっと心臓がキュッとなる。
また気が滅入りそうな気配を感じて、私はわざと明るい声を出す。
「三成は秀吉…さんのこと大好きなんだね!」
「!あぁ!秀吉様が掴もうとしている理想は、私にとっての大義だからな」
目をキラキラさせて言う三成。
干し柿から出た粉が口の端についたままだけど、その目は怖いくらいに真っ直ぐだ。その既視感に瞬きをする私をフォローするように吉継が口?を開く。
「あの方の理想は眩しいからなぁ。直接見れる者は稀よ」
「半兵衛殿くらいじゃないですか?」
「ホホホ、そうやもしれぬなぁ」
ズズズ、また一瞬にしてお茶を口にする吉継。
3人の物言いになんか引っかかるものを感じて思わずまじまじと吉継と左近を見ると、ようやく左近とまともに目があった。そして、今度は逸らされなかった。
「信じるってのは才能だろ、…俺たち凡夫にお嬢の真似事はできないって。つくづく思うね」
「……なんだよ左近、馬鹿にしてるのか?」
「いやいや、褒めてるんだって。お嬢はすごいよねーってさ」
「当たり前だろ!」
エッヘン、と胸を張る三成。
そしてもう一つ柿を口に運んだ。
「まぁ、迷わぬということは、この柿の味も茶の苦味も味わえるということやもしれぬぞ」
なぁシズカ、吉継がそう言うから、私は思わず手に持ったお茶に視線を落とした。
濃い緑の液体に困惑した顔の私が写り込んでいる。私は少しその水面を見た後お茶を口にした。
「どうだ?」
「…苦い」
「そうかそうか。それは良い事だ」
ほほほ、と吉継はバケツの中に声を反響させながら笑う。
カラカラと音が鳴る。
左近はその吉継の横顔を見た後、三成をじっと見た。
「…お嬢、柿の粉ついてる」
「えっ?!」
「はー、お茶美味しかった」
「あぁ!」
それから私たちはたまに雑談をして、それに耳を貸したり口を挟んだりしながら柿を全て食べて、用意したお湯もすっかり冷え切ってしまった。
グッと立ち上がった三成を見ながら言えば、満点の笑顔が返ってくる。うお眩しい!!
左近はそんな三成を見て細く笑うと茶器をまたお盆の上に乗せた。さて私もだいぶ元気出てきたし、そろそろ部屋に戻ろうかな!!
「おや、脱走かい?」
「半兵衛!」
私もグッと体を伸ばしていると、廊下の向こうから細いシルエットが現れた。
半兵衛は相変わらずへし折れそうなほっそい身体でしっかりと歩いてきて、それから私たちを見た。一瞬目を丸くしたけど、すぐにいつもの嫌味を口にして私を見下ろした。
「脱走じゃありませーん日光浴でーす」
「なんだっていいさ。…それより、丁度君を探していたところでね。秀吉が呼んでいる。」
「!」
思わずギョッとして顔を向けると、半兵衛はいつものヒヤリとする笑顔を浮かべた。私が秀吉に完全にビビっているのをわかっているからか、態とらしく肩をすくめて見せる。
「なに、とって食うわけじゃない。ただ聞きたいことがあるだけさ」
「私はもう話さないからね!」
「好きにすれば良い。」
余裕な笑み。いずれ話したくなるだろうからね、と言いたげな顔をギギギと睨んでいると三成が「大丈夫!」とこれまた迷いない笑顔を浮かべた。
「秀吉様ならシズカを悪いようにはしないから大丈夫!」
「…いやぁごめんそれはちょっと怪しいと思う」
気に入らないとか邪魔だと思ったら容赦なく払いのけるよあの人多分。
首筋に冷たい温度を感じた気がして思わず頭を振る。一方の三成はわかっていないような表情を浮かべて首を傾げてみせた。その後ろで左近は苦笑しているけど別に三成を否定する感じじゃない。よかった!!左近はまだ感性一般ピープル寄りっぽくて!!(まぁ…ちょっと三成以外見えてないっぽいけど…)
「さぁ、秀吉をあまり待たせるわけにもいかない。いくよ」
「うううう」
「変な声をあげたって、気は変わらないよ」
あちこちをクネクネと曲がって階段を登って、それから薄暗い廊下を突っ切る。
障子を開けて、その奥の襖の前で半兵衛は足を止める。
「ここだ」
自分で入りな、という視線を受けて私は襖に手をかける。
背中をつっと汗が滲むのを感じて、一度チラリと半兵衛を見たけど、彼は涼しい顔をして私の様子を楽しんでいる。
くそ!ドSマスクめ!!
「来たか」
「あぁ。部屋から出ていたけど…今襖を開けるのを躊躇してるよ」
「ぜ、全部言うなし!!」
「間違ってはいないだろう?」
「ぐぬぬぬ」
半兵衛にもう一度促されて、私は仕方なしにゆっくりと襖をあけた。
そこにはズン、と秀吉が1人待ち構えている。
ここからそこそこ距離があるけど、それでも秀吉が放つ圧は相変わらず重たくて大きくて、面接官の如く苦しい。私はその秀吉の真正面に設けられた一枚の座布団の上にゆっくりと腰を下ろす。
半兵衛はそれを見届けると満足そうに秀吉の横に並んだ。そして、隅によけられていた机と、大きな紙を持ってくる。
そこに書かれていたのは、日本地図だ。
北海道も沖縄もない日本地図にあまり見覚えのない形で線が入っている。半兵衛はそこに、色のついた石を置いた。
「…君がいた小田原はここ。」
「……」
「ここが政宗君の治める奥州、…甲斐、越後、…三河はここだ。そして秀吉はここ、近江。」
それから半兵衛は前田、織田、島津、と聞いたことある名前ばかりを挙げて色や形の違う石を並べていく。意味がわからなくて、私はチラリと半兵衛の顔を見たけど、彼はやっぱりフフンと笑みを浮かべるだけだ。
やがて日本全国に石が並べられて、ようやく地図の意味がわかる。
「これが今の日ノ本を表す地図だ。勢力図と言っても良い。君が知っての通り、関東一帯は結束している。」
「……」
「だがここが磐石になるということは、逆に言えば動かなくなると言うことだ。この間の北条氏の動きを見てもまず間違いない。だから僕らが気にすべきは――…西さ」
「――織田が、瀬戸内へ向かっている」
瀬戸内、その言葉に思わず秀吉を見てしまった。
秀吉の視線が真っ直ぐ落ちてくる。
三成の純真な真っ直ぐさよりももっと、もっと巨大で堅牢な真っ直ぐさだ。私はその視線を全身で浴びて、ほんの少し息が詰まる。
「もう話さない――そう言っていたが、このままだと織田は毛利・長曽我部を手中に収めるだろう」
「……」
その言葉を聞いて私は地図へ視線を落とす。
毛利、長曽我部…ナリちゃんと海賊アニキなチカちゃんだ。梵ちゃんの件もあるし、ナリちゃんがあのしょーちゃんって可能性はとても高いと思う。
だったら私はナリちゃんに会いにいかなくちゃいけない。見つけるって、与一にも、みんなにも約束したから。
だけど。
もう一度チラリと半兵衛を見る。
表情はあまり変わってない……けど私の出方を伺っているような視線を感じる。言葉に、態度にしないけど、私がどの単語に反応して、何を考えているかを観察されている。うぎぎぎ!頭脳戦を仕掛けてくるのをおやめなさい!
「そんなこと言われたって私は何も話さないってば」
「じゃあ、君はどうしたいと思ったんだい?」
「……」
「シズカ。黙っていても何も変わらない事だけは伝えておくよ」
「ギギギギ」
半兵衛を睨んでみたけど、いつものようにどこ吹く風だ。空気はしんと静まり返って時間が止まったような感覚になる。小学校の頃…誰が隣のクラスの子の上履きを外に投げたのかって怒られてた…あの放課後みたいだ。
どうしよう、これは本当に話すまで終わらないやつだ。
「……」
「………」
「――お前のその沈黙は、雄弁だ」
秀吉の声が静かに響く。
「今や……何を言おうと嘘になり、言わぬならそこに一念あるということだ」
「…」
「織田か?瀬戸内か?少なくとも、お前がどちらかに関心を寄せている。」
「……っ」
「その沈黙に意味などない事くらいわかるだろう」
どうしよう、どうしよう
ぐるぐると頭を色んな言葉が出てきては消えて、怒りが滲んでは、こんなに詰められてることに泣きそうになる。
目の奥がぐっと熱をもつ。
今絶対顔を上げちゃいけないと思って、私はぐっと自分の膝を見た。
視界から秀吉も半兵衛も消えて、自分の手の親指が少し震えているのが見える。
「――それでもなお口を閉ざすか」
…だって、ここで変なこと言ったら、小田原を焼いたみたいに、…しょーちゃんや、梵ちゃんがここまで積み上げてきた色んなことが壊されてしまうかもしれない。やよっちゃんが恐れていた怖い世界が広がってしまうかもしれない。
馬鹿な奴だとか思われて使われてたんだとしても、友達だと言ってくれた幸村や佐助を、家族だと言った松永を、……優しくしてくれた人たちを酷い目に遭わせてしまうかもしれない。
それだけは絶対に嫌だと思った。
(そうだよ、私、)
未来とか、誰かの思惑とか、そんな小難しい何かじゃなくて皆を傷つけたくないんだ。
私はもう一度強く口を結んだ。
場が冷える。
どこからか隙間風が吹いて、私の肩を冷やしていく。
秀吉や半兵衛から冷たい視線が降り注いでくるのがわかるけど、絶対に顔もあげないし口も開かない。
そうしてしばらく沈黙がその場を包んで、不意に誰かが「ハ、」と息を漏らした。
「――それが、お前の《義》か」
「……」
「成程滑稽なものだ」
みしり、と木の床が軋む音がした。
そして私が顔を上げていなくても、その威圧感と気配でその音の主が秀吉なのだとわかる。
その巨大すぎる圧は、私の目の前まで緩慢な動きでやってくる。まるで自分の圧がどれほどかわかっていて、私を威嚇しているみたいに。グッと下を向いた私は、絶対顔を上げないともう一回強く思って抵抗した。
そんなささやかな抵抗をする私を静かに、秀吉は見下ろしている。気配も、空気も、とても重たくて押し潰されそうだ。
足先が冷えて喉が詰まる。
急に頭に何かが乗ってきた。
大きいなにか。
それは私の後ろ髪を少し掬う。その動きで乗せられたそれが手のひらだとわかるけれど、私の頭を締め上げるわけでも、撫でるわけでもない。ただ、重さだけがあった。
「道理も知らぬ小娘の夢よ。ただ目の前に怯え、呼吸を震わす。摘めば掌で消える小さな火種だ。」
「だが」
秀吉の足先が見えて、それから膝が見える。
膝を折って、私の顔を覗き込もうとしているのがわかって、私は急いで顔を下げる。
けれど頭の上にあった彼の手が突然にグッと髪を引いた。
私の必死の抵抗なんて意に介さないと言わんばかりの力技だったけど不思議と痛みはない。
痛みはない、けれど。目が合ってしまった。
赤くて淀みのない黒。
その両目が私を貫いている。
「そういう火種こそ、握りつぶすには惜しい。乱世の嵐で国を焼き尽くす火炎の渦となるやもしれん。――…ならば燃やしてみせろ、そして示しに来い」
その時その炎が潰えるならそれまで。
その言葉の意味が、深くは分からない。
秀吉が、私に何を押し付けたのか、あるいは見捨てたのか。
だけど私はその瞳をみて、ゲーム内で彼がなんと名乗っていたのかを思い出した。
(…覇王)
その言葉の圧も、体躯も、…それらすべてが私と住む世界が違うことを教えてくる。見えてる世界も、その覚悟も。自分から覇王を名乗るその気概は、本心だ。
深い色をした瞳が真っ直ぐに私をみていた。
見つめ返すしかできなくて、私は言葉を何度も繰り返す。その深い色をした目の中に困惑した私が写り込んでいる。自分自身の顔を見ていると、やがてほんの僅か、目が細められた。
この至近距離じゃなければ気づかなかっただろう、ほんの少しの笑み。
その笑顔の意味を、彼の難しい言葉の意味を、回らない頭でぐるぐる考えていると、頭にあった重みがなくなって、圧が離れていった。
止まっていた息を吐き出して、その後ろ姿を目で追いかける。
「……」
お互いもう何も言わない。
そして、長い間が空いた。
最初にその静寂を破ったのは半兵衛だった。
「わかったよ、秀吉。……キミも…部屋まで送ろう」
「……え」
「さぁ」
半兵衛の促しに言われるがまま立ち上がる。
足が痺れている。それによろめきながら振り返ると秀吉は静かに私を見ていた。
決して動かない。
まるでお寺の奥にある仏像とか、そういうずっしりとした存在感だけがある。だけどその目は離れていてもギラギラとした光を放ってコチラを見ていた。
《ならば燃やしてみせろ、そして示しに来い》
私はその真意を、言葉の意味を受け取れないまま半兵衛の背中を追いかけた。
きっきっ、高い音が鳴るのを聞きながら、私と半兵衛はくる時よりもゆっくりとした足取りで廊下を進む。
頭の中ではさっきの言葉を何度も繰り返していて、ぼんやりていた。半兵衛もなにか考え事をしているのか足取りは遅く、互いに何も言わない。
そうして何度目かの廊下を曲がったところで声をかけられた。
「竹中殿!」
「……おや、家康公」
「!!」
曇天を吹き飛ばす明るい声に思わず顔を上げると、そこにはニコニコ笑顔の家康と、すごいデカい鉄の塊……
「わわわわわ!!、っっっ?!」
そこには夕陽を受けて金色に輝く鉄の塊…もとい機動戦士ホンダム、もとい&もとい…本多忠勝がいた。
ど真面目なことを考えてたのに忠勝の姿を見た瞬間全てが吹き飛んで、思わず裸足のまま庭に飛び降りる。
ホンダム近くで見るとでっっか!!
傷も凹みもあちこちにあるけど、ボディはぴかぴかで私の顔が映り込む。
すげー!!!と機械仕掛けのボディをあらゆる角度から眺めていたら、ポカンとした顔の家康が忠勝のボディ越しに見えた。
「あ」
「お主は?」
「あーーーーー……っと………」
思わず半兵衛を振り返ると、半兵衛はやれやれと言った風に肩をすくめて前髪をくるりと弄った。
「彼女は《戦利品》だよ」
「…なんと」
途端に神妙な声を上げたものだから思わず、忠勝の陰に隠れる。い、家康も…もしかして何がなんでも知りたいクチですか?!こんな可愛いくりくりな子犬みたいな眼をしているのに?!
じっと家康の顔を見ると、彼はあどけなさの残るくりくりとした眼を細めて丸い頬を持ち上げた。
「ワシは徳川家康!秀吉公とは同盟を結んでいる!そしてこいつはワシの相棒、本多忠勝だ!」
「……!!」
キュイイイイイン!!
忠勝は家康の声に合わせて挨拶を返してくれた。どこかよくわからないパーツを唸らせると、ギュイン!と目が光った。
「かっかっ、かっこよ!!!私はシズカ!よろしく家康、忠勝!!」
「!!」(ギュルルルル
「はっはっは!褒められたぞ、よかったな忠勝っ!」
わっはっは!と快晴のような笑い声を上げる家康。
どうやら私の素性だとか未来の話だとかそういったものは伝わってないのか興味がないのか、家康は一切触れる素振りもない。
私は内心ほっとすると改めて忠勝のボディを舐めるように見回した。
ほうほう!!ここはこんな感じに割ってあるわけですなぁ、こりゃ職人のワザが光ってますぞぉ〜!
そしていつも家康が登ってるのどこだろう!と思って後ろに回り込んで、そこにいた人物に足が止まる。
「しーっ」
「の、信之兄…」
身体を小さくしてホンダムの後ろに隠れるようにしているのは信之兄だ。チラリとホンダム越しに半兵衛を見ると、半兵衛は家康となにかを話していて、コチラを見ていない。私も忠勝を見てるふりをして信之兄を見返す。
「俺がここにいたのは秘密ね」
「え、な、なんで?」
「いいから。」
教えたでしょ、情報を甘く見ちゃだめだって。
あの時と似た言葉だけど、そう言う信之兄の声はいたずらをする子供みたいに嬉々としている。
そんなイケメンな顔でそんなこと言われたら頷くしかなくない?
私はわかった?と言う信之兄の言葉に激しく頷いた。
み、見てないフリ、とおもって忠勝を見上げる。
そういえばあんまりじっくり背中側を見たことないなぁと思って見上げると、なんか家康が登りやすそうな出っ張りが目につく。
わっわっ!!!絶対ここから足かけて登ってるじゃん!!
「忠勝、…あのちょっっっとだけでいいんだけど、肩に乗せてもらえませんか!!!!」
「……!!」(ギィーーンッッ
「えっいいの?!?ありがとう!!」
忠勝に許可をもらったので、私は家康が登れるように出っ張ってそうな部分に足をかける。アスレチック遊具を登るみたいに手をかけて足をかけて、力を入れて身体を押し上げた。
思ってたよりも身体がフィットする隙間があり、そこに身体を預けた。顔を上げるとすごい屋根の高さに目線が合う。
「わー!!高い!!」
「シズカそこに登れるとは…器用だな!」
「えへへ」
忠勝のボディのひんやり感とモーターの駆動音が聞こえる。それからちょっと目線を落とした先に家康がいて、呆れた顔の半兵衛と目があった。
「ほら、いつまでも乗ってないで。いくよ」
「はーい!忠勝、家康、ありがとう!!」
わっせわっせと忠勝の背中からしがみつきながら降りる。
半兵衛の元まで小走りで近づくと「足、」と怒られた。
あ、そうだ裸足だった
縁側に乗ってパパッと手で足を払うと信じられない物を見る顔をされたので、慌てて首を振る。
「手拭いで後で拭くってば!」
「………とても文明的とはいえないよ」
「いいじゃんだって忠勝かっこいいんだもん」
ハァ、聞こえるようなクソデカため息をつくと、くるりと半兵衛が踵を返した。
その背中をちょっと追いかけて慌てて振り返る。
「あ、家康!忠勝!またね!!」
「おう!!」
「…!!」(ドッドッドッ
家康は大きく手を振って挨拶をしてくれた。
ここからはやっぱり信之兄は見えないけど、内心こっそり手を振っておいた。
いやぁ〜〜忠勝めっちゃかっこよかったなぁ!
いつかぜひ空を飛んでみたいね!