私の神様(仮)
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「く」
「いやー!見捨てんといてー!」
「やだよ、俺様大嫌いだもん!」
「じゃあ私の為!私の為だと思ってさ!」
「もっとやだ」
「テラ悲しす!」
私の神様(仮)
涙が止まらないのはアンメルツ
私は襖を閉めて今にも立ち去ろうとする佐助を半ばやけくそで引き止めていた。
だ、だってもうそろそろ私の全身が麻痺し始めてるんだもの!
「ちょ、佐助!助けてよ!」
「しーっ!竜の旦那が起きちゃうでしょ!」
「う、」
佐助のしーっ!は萌えるなオイ!と、まぁそれは置いといて、私も絶対絶命の危機なんだ。
みすみす救世主を離す訳には行かない。
頼むから行くなよ、行ったら佐助の写真連写してばらまいてやる!
二度と忍べなくしてやるからなこのオカンがぁぁぁああ!
と殺意……げふっ、熱のこもった目で佐助を見ているとハァ、と溜息をついて、佐助が腰に手をやった。
「……仕方ないなぁ…右目の旦那を呼んできてあげるから。」
「こじゅを?!」
ぎゃぁあぁちょま、gあか、mj.だgwpj@んgpッ!!小十郎さんをッスか!?
っと!よく考えたら襖開けて触りそこねた!
じゃなくて、小十政!てか主従!主従!
「佐助GJ!」
「え?あ、よくわかんないけど呼んでくるからもう少し待ってて」
「ういーっす!」
佐助が襖の向こうに消える。
ぐ、ぐふふふ!伊達主従ktkr!
だだだだ、だってさ!あのお野菜の君ですよ!腰も砕ける低温ヴォイスでつお!?
初対面での印象は絶対に良い…
…『…誰だテメェ…』…。
……うん…。きっと…きっと良いよね…うん。
た、例え私がいきなり政宗が会議ほっぽり出した原因で も !
てか早く起きてくんないかな、それが本当は1番なんだけどね!
でも奥州から甲斐までって相当距離あるし(小田原から甲斐までですら2日だったんだもん)馬の乗りっぱなし&野宿はやっぱり疲れるよね…。
外だからおちおち熟睡なんかしてられないだろうし。
うーん…そう考えると起こしたら可哀相かも。
とかなんとか考えていると、凄まじい勢いでなんかが突進してくる音がして、これまた凄まじい勢いで襖がスパコンと良い音を立てて開いた。
お、この音は幸村かな?!また爆音を立てて学習しないな!!と思って振り返って幸村!!と声をかけようとして
「政宗さまぁぁぁああ!!」
「のぎぁぁぁぁッ!」
バゴォォォンッ
私にもたれて寝ていた政宗が刹那にして吹き飛んだ。
…本当に、吹き飛んだ。
「政宗様!いい加減ご自重してくだされ!我らの視察を聞いていきなり甲斐へ大して従者も連れず馬を走らせ前門を破壊して突撃しあらかじめ文は送ったのかと聞けば返事は否!こちらはハラハラさせられっぱなしで胃が…ッ!小十郎が胃を痛めながら会議を見ていれば今度は突然飛び出し逃走しなんとか同盟を結んだかと思えば今度は客間で女子ですか政宗様ッ!この小十郎…政宗様をそのような他人に迷惑をかけてのみの男に育てた覚えはありませぬ!」
……わーお。
ハイパーマシンガントークを繰り出した胃痛持ちの影…あぁいや我らがオトン片倉小十郎は言いたいことを全て言い切ったのか、若干笑みを浮かべて、つい、と私と目を合わせて来た。
「大丈夫か?」
「え、」
「猿飛から客間で政宗様が女を襲ってる、って聞いたからな。慌てて来たが…」
オイコラ佐助ェェエエエッ!!
多分天井裏で笑いを必死に堪えているだろう佐助を睨んだけれど、オカンの事だからきっと「俺様確かに呼んだもんね」とか言って笑うだろうからすぐ止めた。
「……本当に大丈夫か?」
「え、あ、うん…それより政宗…」
「大丈夫だ」
「…いや、あの、でも」
「大丈夫だ。」
「………」
本当に大丈夫なんか。だって小机にぶつかったよ?!
痛いよ、いくらなんでもアレは!
とかなんとか、スッキリしたような顔をした小十郎を見ていると、半分瓦礫の山と化した小机から政宗が這い起きた。
「い…っつー…」
「政宗様ッ!」
「げ…小十郎……」
政宗の前に腕を組んで仁王立ちする小十郎。
この場所からじゃ顔が見えないけど(ちょっぴり良かったとか思った)政宗の顔色が服の色と同じくらい青かったから元保護者として助けてあげた方が良いと思う。
「あの……」
「あ?ちょっと待ってろ。今説教しちまうからな」
「あ、いや、そうじゃなくて、勘弁してあげてもらえないですか」
「……ンだと?」
ひぃいい!怖い怖い怖い!小十郎に睨まれてるううう!
てか視界の片隅で政宗の目が輝いたぞ!
「う、あの、政宗だって、そりゃもちろん小十郎もだけど疲れてるだろうし、それに、政宗も今の今まで寝てたわけで、だから、」
ぶっちゃけ小十郎の視線が痛すぎて滑舌最悪なんだけど、無事?なんか言われるかと思って堪えていたら、なにも言葉が降ってこない。
不思議に思って小十郎を見てみればポカンと目を丸くしてる。
「……政宗様に襲われてたんじゃねェのか?」
「いやいや、ありえないありえない。」
「………。」
しばらく間があって、小十郎がさっきの政宗みたいに真っ青になった。かと思ったらいきなり土下座。政宗は大して気にしてなさそうな表情だ。
「もっ…申し訳ありません政宗様!!この小十郎…勘違いしておりました…ッ!」
「ah?別に構わねぇよ」
「しかし…!」
「それよりも、だ。小十郎に紹介しないといけないヤツがいるんだ」
「?」
「こいつだ」
政宗が指差した先を目で追うと襖。……の前にいる私。
「…ミー?」
「yes.」
なにモンだみたいな目で見てくる小十郎に視線をずらす。
土下座の体制で顔だけこっちをみてるからちょっと怖い。
「小十郎、こいつはシズカだ」
「シズカ…?シズカと申しますと……」
「あぁ、あの、シズカだ」
「はぁ…」
あの、ってなんですか。
私ってばやっぱり悪名高いんですか、
「…でだ。シズカコイツは…知ってるだろうが小十郎だ。」
「…あらためまして初めまして、小十郎…さん?」
ヘコリと頭を下げると小十郎は立ち上がって腰を折った。
う、うおう!45°!!なんだかデキる男や!
「先程は大変お騒がせしました、片倉小十郎と申す者です」
「け、敬語無しでお願いします!いまさらアレなんで!」
小十郎の敬語って結構萌えるんだけど、やたら萌えすぎていつか鼻血噴くかもしんないから今のうちに制しておかねば!
私の言葉に苦笑して、小十郎は口を開いた。
「あぁ、よろしくなシズカ。」
「えへへーよろしく小十郎!」
「シズカには昔、政宗様が世話になったらしいな、礼を言うぜ」
「いやいや、そんな礼を言われるほどの事じゃないよ!」
「政宗様からシズカの事は耳ダコになるくらい聞かされたからな」
「stop!小十郎!」
ほんのり顔を赤らめた政宗が小十郎を引き止めにかかった。
え、今何気にこじゅから恥ずかしいセリフが飛び出した気がするんだけど!
つかまず赤い顔の政宗萌え!大人の余裕で笑う小十郎が萌える!
「なんかもー愛だよ愛っ!」
「what?」
「なんでもないお!」
政宗に笑いかけて私は伊達主従を見た。
くそぅ、なんなんだこの身長差!可愛すぎるだろコレ!
「ほのぼのしてる所ごめんねー」
律義に襖をノックして現れた武田のオカンフライングモンキー佐助さん。
胡散臭い貼付けた笑みを浮かべて伊達主従を見る。
「どったの?佐助、」
「んー?お二人さんを部屋に案内しないとってことで俺様が仰せつかったワケだから」
「なるほど」
そっか、会議終わってすぐ政宗は飛び出してきたのか。
お館様の客人ってことなんだろうしそりゃお互い気をつかうべきだろうし、揚句小十郎は胃痛持ちだった、と。
「おう、じゃまた後でな」
「邪魔したな、」
「お疲れ様ー。また後でー」
嵐のような出来事があった後、私はとりあえず部屋に来なかった主従の片割れ、真田幸村を探しに出掛けようと座布団を片付けて立ち上がった。
「さて、と」
障子を開ければ眩しい光が目をチカリと焼く。
ぐふ、目が痛い!
思わず目を押さえてム●カ様風に叫んでやろうかと思ったけど、焼ける視界の中に映った人物にそれを止めた。
「幸村…それに勘助兄ちゃん?」
「お、」
「シズカ!」
二人は庭に居た。幸村が2本の木刀、勘助兄ちゃんが千本を構えてる事から多分また鍛練してたんだろう。
この前あんなハードな練習をしておいてまだ足りないのかとか筋肉どうなってんだとかゲヘゲヘ組み手~…☆とかなんとか思ったけど、相手は幸村、鍛練甘味お館様で生きてるようなものだから口を閉じた。
「二人とも鍛練?」
「うむ!」
「伊達と同盟を結んだからな、いつでも伊達殿と手合わせできるからって空躍起になってるんだ」
「はぁ、幸村、たまには休暇しなよ?無理し過ぎると腕取れちゃうよ?」
私の言葉に幸村はうっすら目を伏せてフルフルと頭を横に振る。
「某は、まだまだ弱い。伊達と同盟を結んだ以上、失態を見せるわけには行かぬ。」
客間を見つめて、それから「それに、」と私を真っ直ぐ見つめた。
「友であるシズカに、もう負けを見せたくないのだ。…これは見栄でも空事でもなく、某の意地だ。」
「…ゆ…きむら……」
ヒュウ、と一塵の風邪が舞う。
幸村の長い後ろ髪と赤い鉢巻きが投げ出されたようにうねった。
とても真っ青な空に赤が混じる。
幸村の顔はとても真剣だった。
「見ていてくだされ!某シズカに恥ずかしくないぐらい強くなってみせるでござる!」
みなぎるぁぁああ!!と幸村は雄叫びを上げて二槍を空へ突き出すと、勘助兄ちゃんに向き直り「今一度お頼み申すでござる!」と叫んだ。
「あ、そうだシズカ」
「ん?」
「今晩宴をするようだから、それなりの心構えしとけよ?」
「?……あ。そっか。」
本業腐女子、兼業学生アンド歌姫だったの忘れてた!
思い出させてくれた勘助兄ちゃんに礼を言って私は幸村の鍛練をみて時間を潰した。
「Hey!真田幸村ァ!飲み比べといこうじゃねぇか!」
「何?!受けて立つでござる!」
「あーあ、竜の旦那ってば可哀相ー。」
「…おい猿飛…テメェそりゃあどういう意味だ…」
「えー?どういう意味…ってそのまんまだけど?」
「…政宗様をナメんじゃねぇぞ」
「じょーだん、右目の旦那も真田の若大将、甘く見ないほうがいいよ~?」
「………」
「………………」
「おっと、」
「ふふ、中々やりますね、」
「そういう信春も結構飲んでるだろ」
「相変わらず昌景は撃沈してますけどね、そろそろ慣れてくれないと全然私の相手になってもらえなくて。」
「…可哀相だからあまり虐めてやるなよ」
「お館様ー!」
「シズカ!」
「きゃはははっ」
げへぇへぇぇええ!お館様大好きだァァァァ!
内なる思いを込めてお館様に突撃したらがっちり受け止めてくれた。
宴会が始まる事早30分、始まると同時に凄まじい勢いで空けられた酒は明らかにからっぽになっていく。
そして突然だったから種類があまり作れなくて困った、とあやめ姐さんが言ってたけれど卓上には色とりどりの料理があって、あらためて女中さんてスゲーって思った。
「えへへ、お館様大好きですよ本当!」
「わっはっは!」
で、私はさっきまで例の如く勘助兄ちゃんの横でもしょもしょと食べてたんだけど、マー君とノブさんがお酒を持って移動して来たからお館様の所へ来たわけで。
政宗のノリや空気が宴会の形式をあっという間に崩してくれたおかげで会場は凄いフリーダムになっている。
「私、甲斐に来てよかったです!」
胡座をかいたお館様の膝に収まりたい衝動にかられながら(見上げたらお館様とか素敵じゃないかぁぁぁッ!!)いうと、お館様はコテンと一度首を傾げてから歯を見せて笑った。
「うむ!それは良かったわい!」
「ふへへ!」
ニヤニヤしながらお館様に抱き着いていると不意に幸村と飲み比べをしている政宗と目が合って手招きされる。
お館様に失礼します、と声をかけてそちらへ向かった。
「どったの?」
「まぁとりあえず座れ、」
幸村と政宗の間にすっぽり収まる。
政宗が開けてくれた隙間なんだけど、私としては政宗と幸村が隣通しでイチャイチャして、それを傍観ーなノリを希望したい。
いや、もう切実に。
「俺と真田で飲み比べをしてるんだけどな」
「うん。」
「シズカにJudgeを頼みてェんだ」
「あー、そういう事ね。」
ジャッジね、りょーかい!
私が頷くとニヤリとあくどい笑みを浮かべて政宗はダンッと持っていた杯に酒を注いだ。
対する幸村はそりゃもう真剣な眼差しで政宗を見ていて、あいやこれまってやっぱり私の位置交換しませんか?!??腐女子たるもの間に入り込むなんて愚行あってはならないんですけど?!!!??
サッと立ちあがろうとした私の肩を左右から掴まれてそのまま元の位置に収められてしまう。
ちょっと?!?ゆ、ゆるして萌神さま!!!
もう既に何杯も飲んでんるだろう、積み重なったとっくりを更に積み上げて、グビグビと杯の中のお酒を味わう様に飲む政宗にイッキで酒を飲む幸村。
なんか体にとても悪そうなんですけど、とかぼんやり思いながらみんなに視線を移す。
佐助はニコニコしながら、小十郎は睨みながら互いに威嚇しあってるし(ザ・保護者組萌え!)勘助兄ちゃんとノブさんは幸村達と同じ様に飲み比べ(寧ろ無意識に飲んでる感じが)、お館様はそんなみんなを見てお父様な笑みを浮かべてる(パパン!)
「某むぁけはせぬどぅえござぶぅぁぁあるぁぁあ」
「ぎゃ?!」
突然右から叫ばれて私は政宗の方に思い切り体を引いた!ドン、と政宗の膝に腰をぶつけた。
「大丈夫か?シズカ、」
「うん、…てかどうしちゃったの幸村!」
「……ありゃー…旦那ってば酔っちゃったわけー?」
起立して槍を持ったみたいな姿で吠える幸村を見て佐助が溜息をついた。
「もーあんな勢いよく飲むからだよ旦那ー」
「さすくぇはいつのむぁに三つ子となったぬぉだぁ」
「あーハイハイ、酒臭い酒臭い。」
呂律が大変な事になっている幸村をめちゃくちゃ華麗にスルーして佐助は幸村の肩を押し付けて無理矢理座らせた。
そんな様子を見ていたら、グイ、と腕を引かれて半ば無理矢理政宗の膝の上に座らされる。
コアラ抱っことでも言うのか子供が思いきり反抗期のコアラ抱っこはさっき私がお館様にしたいと妄想していたそれで、案の定見上げれば政宗。
うはー!ここは是非とも私なんかではなく、いつきちゃんを抱きしめてやってください!
蘭いつ←政←幸とか萌え!
ニヤニヤしているのを隠さないで政宗を見上げていると、こてん、と右肩に政宗の頭が落ちて来た。
「……………政宗?」
「……………」
返事がない ただの しかばね ▼(以下省略
え、なんか嫌な予感しかしないんですけどー!
耳をすませてみれば微かに聞こえる定期的な呼吸、うっわ絶対寝てる!
同じく強制ログアウトした幸村の世話をする佐助をちらりと見て、積み上がったとっくりを見て、私は溜息をつく。
くそーっ!酒臭い筈なのに髪とかから超良いニオイがするんですけど!何コレ!
バーゲン中のデパートに行くとするオバサン達の香水だとかみたいな、取って付けた様な匂いじゃなくて、もっとほんのりとした、自然な感じの香り。甘いような、不思議な……むーん、これが噂の香り油ってやつか?!このこのっ色男!おしゃれ番長めっ!
とかなんとか考えてると幸村を強制ログアウトさせた張本人、猿飛佐助と目があった。
「…本当好かれてるねシズカちゃんてば」
「そりゃども、ヘルプミー佐助!」
「俺様南蛮語わっかんなーい」
「ガッデム!」
佐助コノヤロウ!と舌打ちのおまけ付きで見れば佐助は、アハー☆と爽やかに憎たらしく笑って幸村の肩をしょい込んだ。
「…よいしょっと、大将ー旦那運んできますね」
頷いたお館様を見て佐助は軽やかに宴の席から幸村共々居なくなる。
ぽつんと残された私と政宗。
「ほ…放置プレイとは中々やるではないか…!!」
政宗ってば前回もだけど今回も相変わらず動けない体制で寝るし!もう泣いていいかな私!
前回のヘルパー佐助が居なくなって途方にくれた私はもう正直どうでも良くなってきてる。
くそぅ、私もこのまま寝てやろうか。
ブツブツ呟きながら自分の足を睨んでいると、ふと影がさした。
顔を上げると苦笑した小十郎と目が合う。
ぎゃいやぁぁ小十郎顔近ァァァァ!!
「…また寝ちまったのか」
「でげふ…本日2回目だよ。私ってば枕?飛び付かれるは猫みたいにじゃれつかれるわ…」
私は枕ではありませんよ政宗君。
ちらりと肩の上の彼(ポ●ョみたいだ)を見れば相変わらず規則的な呼吸を繰り返している。
「……シズカには悪いがもう少しそうしてやっててくれねぇか?」
え、と顔を上げようとした私を制してヤンキー座りみたいにしゃがみ込んで、小十郎は笑う。
「……少しばかり昔話に付き合ってくれるか?」
「もちろん!!」
こじゅのお話なら喜んで!!
政宗を揺らさないように頷くと、小十郎は目を伏せながらゆったりと腰掛けた。
「…俺は昔から政宗様に仕えてきた。幼い頃の政宗様は……今じゃ想像もできないくらい大人しい子供でな。いつも怯えて…人を遠ざけるような人だったんだ。
だがある日…本当に突然人が変わったように明るくなった。外で遊び、修行に打ち込み……別人になったんじゃないかとか屋敷は大騒ぎだった」
そう言って細められた小十郎の目は本当の親みたいに優しくて温かくて、どこか幸せそうに見えた。
「理由を聞いたら『姉ができたんだ、絶対また逢うために強くなる』…と。見たことないぐらいの笑顔でそうおっしゃられた。……正直、少しだけ悔しかったのを覚えている。」
政宗様と、もっとも長く時間を共有したであろう自分ですら出来得なかった事をした『シズカ』と言う女。それだけでお前は変わった人間なんだろうというのは想像できた、と小十郎は笑って政宗の髪に軽く触れた。
「政宗様は…知ってるだろうが母方様から邪険にされててな」
「…うん」
「だから今はシズカが政宗様にとって母方様のように感じておられるのだと思う」
ゆるゆると政宗の頭を撫でて小十郎はフッ、と小さく息を吐き出した。
「だから、多少距離感を間違えたって…あんたが知ってる梵天丸じゃなくなってたって…悪く思ってやらねぇでくれねェか?」
真っすぐに私を見て小十郎は言う。
それは相手を心から思う人の顔なんだろう、とても優しかった。
「…大丈夫、私はどんな事があって、何をしていたとしても嫌いにはならないから。」
そう。彼はもう梵天丸じゃないし、一国を預かる領主だ。例えもう既に沢山の命を奪っていたとしても、私は、
小十郎を見てゆっくり笑えば小十郎は数回目をしばたかせて、それから口端を持ち上げて私の頭をぐりぐりと撫でる。
「…なるほど、やっと解ったぜ」
「え、何が?」
「政宗様が何故シズカを信頼してるかが、」
ふと、そこまで言って小十郎が言葉を切った。
「ねぇ、政宗様」
「は?」
政宗は寝てるんじゃね?と思って小十郎の顔を見返すと、突然政宗がどこぞの使徒みたいに、もぞりと動き出した。
「ahー…やっぱばれてたか」
「無論です。」
政宗様は酒に強いのですから、と笑って小十郎は言った。
よっしゃ何でも解るテラ萌え主従はわかったからツッコミ入れさせてくれ、
「寝たふりしてたんかい!」
「ふりっつーか…起きたんだ、」
なんだか気まずそうな顔をして政宗は私の裏手ツッコミを右から左、左から斜め下に受け流した。
「シズカはキモが座ってる、とは貴方の言葉ではありませぬか。」
小十郎君、貴方もちょっと前から気づいてたんじゃないですか!!
半眼で小十郎を見てやるとグッと目を反らされる。
「狸寝入りはやっぱり成実のがslickだな」
「うは、成実!?」
出たよモ武将のくせにドリームやら漫画やらにやたら出没するなるみちゃん!普通は成実でしげざねなんて読まねェよ!って誰もが一度は思う成実ちゃんんん!
「すっごい会いたい!」
「は?」
「だだだだだって成実ったら普段はグダグタのていたらくなのに戦に出ると性格変わったみたいに強いっつーぶっちゃけ鬼畜攻め丸出し伊達軍一の鬼畜攻めの彼だろ?!見たいみたい!拝みたい!」
「…シズカ」
「ん?」
「成実と知り合いなのか…?」
「いんや、まったく☆」
「…………」
目をパチパチとしばたかせる小十郎に政宗は口端を持ち上げて笑いながら言う。
「言ったろ?シズカは不思議な奴だ、って」
それは良い意味ですか悪い意味ですか?!
そう聞いてやろうと思ったけれど、悪い意味だったら嫌だから聞くのは止めておく。
政宗はまだ全然酔いの残るとろんとした目で私をみて、それからお館様に視線を送った。お館様家臣さんと酌を交わしながら、フと政宗を見る。
「シズカが奥州にくるのは構わねぇ。俺としても…歓迎したいところだ。……シズカが甲斐にいるreasonも気に入らねぇからな」
「…ん?」
甲斐にいる理由?
お詫びで招待されただけだけど?
どゆこと?と思って政宗を見てお館様を見ると、お館様はいつも私に向けてくれる笑顔とは違う真剣な表情で政宗を見ている。
こっちが何を話してるかまでは、この喧騒だから聞こえないだろうけど海溝より思慮深くて海原より大きな器のお館様だし、何となく察していそうでもある。
一方ただの一般市民な私はそんなお館様の思慮をわかるわけでもないので「まぁええか」と忘れ去ることにした。
政宗がお館様と睨めっこしているのを眺めていたら音もなく迷彩ポンチョなオカン兼、真田忍隊隊長の佐助が現れた。
「やほーシズカちゃん、」
「あ、佐助ー」
「奥州行くの?」
「うん、」
頷いた私に佐助は口端をヒクリと持ち上げ、引き攣らせる。
「風魔とあの子はどーすんの?」
「あっ」
そ、そうだ与一!
「え、えとー…もう少し…お留守番…して…」
「シズカちゃん、俺様も風魔もだけど、忍ってばそんなにヒマじゃないんだよ?」
「う、」
ぬん、と腰に手を当てて説教オカンモードの佐助に声を詰まらせる。
て、てかなんでそんなに怒るのさ!
「なんか…機嫌…悪い?」
「べっつに」
「………………」
ちょ、その拗ねた顔萌え!にゅふ、にゅふふふ!
そんな顔するから小十郎に襲われちゃうんだよぉぉぉほほい!!
「あ゛はぁぁ~」
「ちょ、シズカちゃんどこぞの金髪自称王子みたいになってる!」
「へ、あ、サーセン」
佐助の裏手ツッコミでハッと我に帰った私はブンブンと小十佐を勿体ないが頭を振って追い出した。
ぁぁぁぁぁ今、調度濡れ場だったのにアヘヘ、心のよだれをじゅるりと啜って佐助を見たら若干嫌そうな顔して半歩下がってる。
「え、なにその顔」
「なんか…残念だよ、すごく」
「ほっとけ」
そんなあらためて残念とか言われると悲しくなってくるんですけど!
「…まぁ俺様も小田原に行かなきゃだし…いいよ。」
「え、本当?!」
「うん。シズカちゃんの頼みだしー?」
「きゃーベリーサンクス!大好き佐助!」
「はいはい、」
佐助の細い腰に飛び付くようにして抱き着けば佐助は抱き着いた私の頭を軽く撫でる。
一切の防具を外した佐助の腰はめちゃくちゃ細く、頭を撫でる手はとても大きかった。
「ぐふへへ、佐助の腰細ェ萌え!このほっそい腰を幸村は押さえていっつもヤっt「てないっつーの」…佐助ってばなんかだんだんツッコミ上手くなってきたね…」
「そぉ?」
うん、君のツッコミが微妙なタイミングで入ってくるんだよ、ツッコミウマーめ!
ブーと口を尖らせれば拗ねないのーと頭を撫でられた。
「猿、」
「…………なンすか?」
政宗の声に笑顔のまま固まる佐助。ウホ、今の後輩風の言い方萌えた!
「テメェ、真田はどうした」
「は?酒に潰れて寝てるけど」
「嘘つけ」
ケッと片膝を立てて杯の中の酒を飲み干す政宗。
「あいつがこんな量で潰れるタマかよ」
政宗が顎でしゃくった先には積み重なったとっくりの山。
私からすれば相当な量なんだけど。
こいつらの胃の中がどうなってるのか激しく気になる。特に幸村。
「真田のヤロー、気ィ使ったんじゃねぇのか」
「…………」
笑顔のままなにも言わない佐助。
そんな佐助にまだ中身の入っているとっくりをひとつ、無理矢理押し付ける。
「真田に伝えとけ、普段使わねェ気ィ使ってんじゃねぇ、勝手にescapeするのも認めねぇ」
挑戦的な笑みを浮かべて佐助を見上げた政宗に一瞬笑みを深くした佐助はとっくりを受け取るとまた音もなく姿を消した。
それに満足そうに笑った政宗は更に一口お酒を飲んで立ち上がる。
「じゃあ俺は行くぜ」
「はっ」
「小十郎、テメェは来なくてもいいぜ」
「……御意に」
頭を下げた小十郎に笑いかけて政宗は客間から居なくなった。
「…ふぅ、」
溜息とも呼べないものを吐き出して小十郎は政宗の回りにあったとっくりを一カ所に集める。
私もそれを手伝った。
「すまねぇな、シズカ」
「いやいや、気にしない気にしない。」
すべてのとっくりを集め終えて小十郎に杯を渡す。
「入れるよ?」
「…あぁ、頼む。」
とろとろと杯に酒を注ぐと杯の中にゆるりと濁ったお酒が流れた。
昔のお酒って濁ってるんだなーと思ってマジマジ見てると小十郎が苦笑する。
「…飲みてェのか?」
「ああいや、前科があるから酒はちょっと。」
やよっちゃんを襲いそうになったっていう前科がな!
目を遠くするとなんとなく小十郎も察してくれたのか「…あぁ」と声を漏らした。
そして一杯あおる。
「……じゃあよろしく頼むぜ」
「うぃーっす」
またお酒を注ぐ。
そして小十郎が漏らした「政宗様を、頼む」と言う言葉に私は小さく頷いた。
「…佐助よ」
「はっ」
「シズカは奥州へ?」
「はい。伊達とも旧知の仲…と」
「なるほどのう。やはりワシの目に狂いはなかったか」
「……伊達の執着を見るに、あまり刺激しない方が良いのでは?」
「いや。ここで引くのではない。動かざる事山の如し。……先手は打った、あとは成り行きを見守るまで」
「……承知」
囁き声は霧散する。
「…波乱の幕開けとなるな」
ずしりとした声もまた、鈴虫の声にかき消されて誰の耳にも届かなかった。